シェルとフラット

YGIN

文字の大きさ
5 / 5

4話

しおりを挟む
「どれ、一体どのように壊れたというのだ……?」
 私は溜息混じりに仕方なく事情を尋ねる。
「突然画面が真っ暗になったかと思えば、そのまま電源が入らなくなったのでございます、フラット。もはやそれを私は、壊れたという他ないのでございます」
「はぁ……。では、コンセント等が抜けてしまったのではないか?」
 確認するがそのようなことはなく、黒いコードはプラグへとしっかり刺さっていた。
「そんな自分で何とかできるようなことであれば、あなたを呼ばないのでございます、フラット」
 確かにその通りではあるがいちいち癪に障る物言いだな……。
 一応はリモコンやテレビ付近の機器を抜き差しするなど、色々模索してみたが、しかしどうにも電源が入る様子はない。
「んー。これはもう本体が故障してしまったのではないか? 私にもさっぱりだ」
「いえ、それではだめですフラット、今すぐ直すのです!」
「そんな無茶な……」
「いえ、無茶ではありません、フラット。わたくし、先日雑誌を読んでいかにも賢そうな専門家の分析結果を発見したのでございます。なんとそこには『女性よりも男性の方が論理的思考能力が高く、機械類に強い』と明記されているではありませんか。即ち、フラット。貴方は私よりもテレビを直す能力に秀でているはずなのでございます。さぁ、早く直してください!」
「それは一般論というか統計学的な傾向に過ぎないというか……。必ずしも私に当てはまるというモノではないと思うが……」
「いえいえ何をご謙遜を。貴方はご立派なたくましい殿方ではないですか。私は常日頃、貴方のその男らしさに見惚れている次第なのでございます。あぁ、男前ですわぁ、フラット侯爵。何と男らしい。大して筋肉はないですけれど。ともかく、ですから、さぁ早く」
「根も葉もなく褒めちぎっても私の機械知識が向上することはないぞ……」
 と、TVを直したいことだけを盾にシェルが捲くし立ててくるので、とにかく私はもう一度念を入れてあれこれ四苦八苦弄ってはみた。が、結局のところ、どうにも埒が明かなかった。そもそも我々はこの電気というものがどういうカラクリでこの屋敷に入ってきているのかも知らないし、或いはどういうカラクリでこのTVが世界のありとあらゆるTV番組を電波受信しているのかも知らないのだから。もう何年前だったか、あるいは十何年前だったか定かではない時分に突如表れ、居間を占拠したこのTV。外の世界が進むにつれて勝手に姿形を変えて、今ではすごく横長の画面になっている。
「もう、また次に変身するのを待つしかないのではないか?」
 だがそう述べるとシェルがプンスカと怒った。
「はぁ? 諦めるというのですか貴方は。男の癖に何と軟弱で脆弱な精神構造なのでしょうか! あぁ、もういずれにせよ『撃滅船体スカルミニチュア』は時刻的にも終わってしまったようですわ。ああ、ああ。フラット。貴方様のその気合いの無さが私の一つの創造的世界への扉を閉ざしてしまったのですわ。ああ、ああ。嘆かわしい。私はそのようなあなたを育てた覚えはなくってよ」
 相変わらず朝っぱらから口の減らないシェル。
 しかし、突然黙りこくるパターンよりは幾らか気楽に受け止められるのだった。
「とにかく諦めろTVは。我々には幾らでも時間があるし、遊具など他に五万とあるではないか」
 私がそう述べると、シェルは流石に観念したようだった。
「まぁ、仕方ないですわね。では、フラット。どうぞ朝食の再開に勤しんでくださいまし。わたくしちょっと、台所の片付けに行って参ります」
「うむ」
 だが、そうして、シェルと私がTVの前から退散しようとした途端、今までウンともスンとも動かなかったTVが突然ひとりでに稼働し始めた。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...