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39話
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眩い光がサクラコの視界を支配した。
ゆっくり、ゆっくりと。長閑な池を小型のボートに乗り、オールを漕ぎながら少しずつ進んでて行くような感覚。
だがそんな心地の良い感覚も数刻の後には冷め、どこからともなく発光していた光はやがて消失した。
サクラコはまるで水面から陸上へ一気に引き上げられたかのような感覚を覚えたと同時、視界がようやく正常値を取り戻した。
「あら……」
しかしサクラコの目が映したのは先程と何ら変わり映えのない風景だった。
ここはフリージアの薦めで皆で行くこととなった山のキャンプ場。その敷地の中でも天体観測には絶好とされ観光スポットとしてそこそこ知名度のある丘。即ち、つい今しがたまで非常に熾烈な諍いが起こっていた場所。
だとしたら一体何だったのだろうか、今の感覚は。
現実のあまりの凄惨さに自己の脳がバグを引き起こしてしまったとでも言うのか。
だがサクラコは今一度眼前の光景を確認すると、その考えを撤回した。
眼前に見える登場人物達が先程と異なっていた。
アロエ、ギボウシ、カモミール、アベリア、アズサ、ガーベラ。
彼らは全員意識を回復させており、外傷も特に見えなかった。
そしてなぜだか皆丘の丁度中央付近に一か所に固まっており、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回している。
また、地面に転がっていたはずのハスとリナリア、そしてただのギャラリーと化していたラナンキャラスとナノハの姿は消えていた。いくらか居たはずの観光客さえ居なくなっていた。
つまり今この場にはチームAのメンバーしかいなかった。
ん? チームAだけ……? フリージアは!?
ハッとサクラコは強い焦燥感に駆られながらフリージアの姿を目で追った。
居ない。居ない!
しかし周囲を見渡してもその姿を見つけることが出来ない。
「うぅ……」
と、ふと呻き声のようなものが自身の足元から聞こえてきた。
サクラコはすぐ自分の足元へ視線を落とす。
するとそこには金色の髪色をし、紺色のTシャツにグレーの綿のズボンを履いた美青年が、地面に仰向けに倒れ顔を引き攣らせていた。
誰?
サクラコは初見でそれが誰なのか判然としなかった。このような顔立ちが洗練された青年と出会った記憶など一度もなかった。だが、その表情に誰かの面影を感じないでもなかった。そして何より彼が身に着けるその服装にははっきりとした見覚えがあった。そう、その格好はフリージアが身に着けていたものと全く同一であった。ギボウシとアズサがたまたま似たような黒色のシャツを着ていたとかそのような次元ではない、全くの瓜二つだ。
そして彼が辛そうに呻いているすぐ側で、当の本人フリージアが横たわっているのも発見した。彼女も同じく紺色のTシャツに、グレーの綿のズボンを身に着けていた。
だが、サクラコはその姿を見て目を丸くした。
先程まで短髪であったはずの髪は、元通りの艶やかなロングヘア―に戻っており、ボロボロであったはずの衣服は、破れている箇所など一切なく、まるで新品をあしらえたかのように綺麗になっていたのである。また、体のあちこちに見えた傷跡も嘘のように消えていた。
まるで、時間をそのまま巻き戻したかのような異常な回復ぶりにサクラコは強い疑問を抱いた。
と、急に何の前触れもなく、空から水滴が落ちてきた。
雨だ。
山の天気は崩れやすいというが、本当に脈絡もなく雨は一気に本降りとなり、この場にいた全員を濡らした。
だがサクラコはそれにも疑問を感じた。
はて。先程まで空には満天の星空が犇めいていたはずである。雲など一切懸かっていなかったはずだ。
いくら山中とはいえ、こんなにも急速に雨雲が頭上を覆いつくすものだろうか。
サクラコはまだ事態の整理が追い付かず、雨に濡れる程度の事を気にしている場合でもなかったので周囲を注意深く観察する。
と、そんな暇も与えないとばかりに雨足が急速に強まり、まるで滝のような豪雨となった。
これは……。
サクラコが何か呟こうとしたその時、数度の雷鳴が轟き、漆黒の空に稲妻が走った。
「うわああああああああああ!」とガーベラがわざとらしい叫び声をあげて、カモミールにしがみついている。
そして、およそ自然現象では考えられないほどの頻度で、けたたましい爆音が刹那の内に何度も鳴り響いた。
たまらずサクラコは耳を両手で塞いだが、とても手で塞ぎ切れるようなデシベルではなかった。
サクラコのすぐ足元にいる金髪の青年も驚愕の表情で耳を手で覆っていた。
だがこれだけの現象にもかかわらずフリージアは目を覚ます気配がなかった。
尚も雷鳴は鳴り止むことを知らず、鼓膜が破れそうになるぐらいの轟音を秒単位で鳴らし続ける。
空では縦横無尽に稲妻が疾走していた。周囲は稲光に依る眩しすぎる光景と、夜の山の暗闇とが、互いに一歩も譲らず先手と後手を繰り返すかのように、絶え間なく明滅を繰り返す。
そして遂に、サクラコとガーベラら、互いの視線の先。その丁度中央付近。
そこに一匹の稲妻が、空から地面へと真っ逆さまに落下し、ぶち当たった。
同時に被雷地から突風が発生し、サクラコは大きく身体を後退させた。
そして数刻の後、思わず顔を覆っていた右腕を解いて目を開くと、その視線の先には、空の星々にまで届いてしまいそうな程に長身の男が、酷く無感情な調子で佇んでいた。
ゆっくり、ゆっくりと。長閑な池を小型のボートに乗り、オールを漕ぎながら少しずつ進んでて行くような感覚。
だがそんな心地の良い感覚も数刻の後には冷め、どこからともなく発光していた光はやがて消失した。
サクラコはまるで水面から陸上へ一気に引き上げられたかのような感覚を覚えたと同時、視界がようやく正常値を取り戻した。
「あら……」
しかしサクラコの目が映したのは先程と何ら変わり映えのない風景だった。
ここはフリージアの薦めで皆で行くこととなった山のキャンプ場。その敷地の中でも天体観測には絶好とされ観光スポットとしてそこそこ知名度のある丘。即ち、つい今しがたまで非常に熾烈な諍いが起こっていた場所。
だとしたら一体何だったのだろうか、今の感覚は。
現実のあまりの凄惨さに自己の脳がバグを引き起こしてしまったとでも言うのか。
だがサクラコは今一度眼前の光景を確認すると、その考えを撤回した。
眼前に見える登場人物達が先程と異なっていた。
アロエ、ギボウシ、カモミール、アベリア、アズサ、ガーベラ。
彼らは全員意識を回復させており、外傷も特に見えなかった。
そしてなぜだか皆丘の丁度中央付近に一か所に固まっており、不思議そうに辺りをキョロキョロと見回している。
また、地面に転がっていたはずのハスとリナリア、そしてただのギャラリーと化していたラナンキャラスとナノハの姿は消えていた。いくらか居たはずの観光客さえ居なくなっていた。
つまり今この場にはチームAのメンバーしかいなかった。
ん? チームAだけ……? フリージアは!?
ハッとサクラコは強い焦燥感に駆られながらフリージアの姿を目で追った。
居ない。居ない!
しかし周囲を見渡してもその姿を見つけることが出来ない。
「うぅ……」
と、ふと呻き声のようなものが自身の足元から聞こえてきた。
サクラコはすぐ自分の足元へ視線を落とす。
するとそこには金色の髪色をし、紺色のTシャツにグレーの綿のズボンを履いた美青年が、地面に仰向けに倒れ顔を引き攣らせていた。
誰?
サクラコは初見でそれが誰なのか判然としなかった。このような顔立ちが洗練された青年と出会った記憶など一度もなかった。だが、その表情に誰かの面影を感じないでもなかった。そして何より彼が身に着けるその服装にははっきりとした見覚えがあった。そう、その格好はフリージアが身に着けていたものと全く同一であった。ギボウシとアズサがたまたま似たような黒色のシャツを着ていたとかそのような次元ではない、全くの瓜二つだ。
そして彼が辛そうに呻いているすぐ側で、当の本人フリージアが横たわっているのも発見した。彼女も同じく紺色のTシャツに、グレーの綿のズボンを身に着けていた。
だが、サクラコはその姿を見て目を丸くした。
先程まで短髪であったはずの髪は、元通りの艶やかなロングヘア―に戻っており、ボロボロであったはずの衣服は、破れている箇所など一切なく、まるで新品をあしらえたかのように綺麗になっていたのである。また、体のあちこちに見えた傷跡も嘘のように消えていた。
まるで、時間をそのまま巻き戻したかのような異常な回復ぶりにサクラコは強い疑問を抱いた。
と、急に何の前触れもなく、空から水滴が落ちてきた。
雨だ。
山の天気は崩れやすいというが、本当に脈絡もなく雨は一気に本降りとなり、この場にいた全員を濡らした。
だがサクラコはそれにも疑問を感じた。
はて。先程まで空には満天の星空が犇めいていたはずである。雲など一切懸かっていなかったはずだ。
いくら山中とはいえ、こんなにも急速に雨雲が頭上を覆いつくすものだろうか。
サクラコはまだ事態の整理が追い付かず、雨に濡れる程度の事を気にしている場合でもなかったので周囲を注意深く観察する。
と、そんな暇も与えないとばかりに雨足が急速に強まり、まるで滝のような豪雨となった。
これは……。
サクラコが何か呟こうとしたその時、数度の雷鳴が轟き、漆黒の空に稲妻が走った。
「うわああああああああああ!」とガーベラがわざとらしい叫び声をあげて、カモミールにしがみついている。
そして、およそ自然現象では考えられないほどの頻度で、けたたましい爆音が刹那の内に何度も鳴り響いた。
たまらずサクラコは耳を両手で塞いだが、とても手で塞ぎ切れるようなデシベルではなかった。
サクラコのすぐ足元にいる金髪の青年も驚愕の表情で耳を手で覆っていた。
だがこれだけの現象にもかかわらずフリージアは目を覚ます気配がなかった。
尚も雷鳴は鳴り止むことを知らず、鼓膜が破れそうになるぐらいの轟音を秒単位で鳴らし続ける。
空では縦横無尽に稲妻が疾走していた。周囲は稲光に依る眩しすぎる光景と、夜の山の暗闇とが、互いに一歩も譲らず先手と後手を繰り返すかのように、絶え間なく明滅を繰り返す。
そして遂に、サクラコとガーベラら、互いの視線の先。その丁度中央付近。
そこに一匹の稲妻が、空から地面へと真っ逆さまに落下し、ぶち当たった。
同時に被雷地から突風が発生し、サクラコは大きく身体を後退させた。
そして数刻の後、思わず顔を覆っていた右腕を解いて目を開くと、その視線の先には、空の星々にまで届いてしまいそうな程に長身の男が、酷く無感情な調子で佇んでいた。
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