暗殺者の快楽

YGIN

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暗殺者の快楽

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真紅に染め上げられるベッドシーツ。
 臓器が潰れるグシュリブチュリという不協和音。

 飛散する血が高級かつ一級品の家具らに付着する。
 呼応するかのように開かれた窓からヒンヤリとした風が流れてきた。

 ああ。

 気持ち良い。

 なんと爽快で尊大で壮大な気持ちになれることだろう。

 王家と繋がっている農家や、小汚い小銭稼ぎに走った商人など、何人殺っても満たされはしなかったのに。

 今宵この時の何と心躍ることだろう。

 やはりこれだ。この瞬間。

 天下の大悪党。首。王座。頂点。ドス黒く輝く一等星。

 これをぐちゃぐちゃに。
 しかも、最もプライベートで油断しきっている、夜、女と催した後、寝静まるその瞬間を突くとは。
 ああ。
 ただただ自分が誇らしい。ただただ自分が優越だ。

 ありがとうありがとう。
 僕にこんな素晴らしい瞬間をくれてありがとう。


 その日暗殺者は朝から、個人団体を含めて十数人の悪人を亡骸に変え、さらに常闇の時間には諸悪の根源であった王家の首謀者を葬った。
 この一連の所業について、当然のことながら民衆は殺人という重罪などそっちのけで、悪をくじいた名もなきその者を英雄として称えた。

 英雄として持て囃された男は暗殺家業を継ぐ者であったので、ついぞ世間に顔が割れることはなかった。
 だがそれもあってか、それから暫くの月日が経過した後、彼は酷く飢えていた。
 自分という英雄の影を恐れて、人々が悪事をパタリと辞めたからである。

 そして血の渇きが止まらなかった暗殺者は、
 ある時、およそ数十にも渡る罪のない人々を惨殺し、自ら罪を告白し、牢獄された。

 ある日獄中で彼は鉄格子の前に立つ門兵に言った。
「これほどに忌まわしい殺人鬼はまたと居ないだろう。ならば、この悪、絶たねばならない。間もなく執行されるギロチンで? いやいや馬鹿を言ってはいけない。これを葬ることの幸福が君にわかるかい?」
 門兵はこれまで特に口を開いたこともなかった男が突如、まるで悪魔の様な顔をしながら嬉々として語るので恐怖で恐れ慄き、手にしていた槍を鉄格子の前にいる男へ向ける。
「キ、貴様何をするつもりだぁ!」
 だが、男は既にそんな門兵への興味は失っているようであった。
 男は既に凶器も全て身体検査で取り上げられているはずなのに、その時四から五本ものナイフをジャグリングしていた。
「お、おい、やめろ!」
 門兵がそう叫び、増援を呼ぶ間もなく、男は合図とともに自分を殺し始めた。
「滅してくれ。どこまでも残忍な殺人鬼よ。あぁ、あぁ、そして僕はどこまでも気持ち良くなる。どれほどの至福を得られるのだろう」
 そうして、男は自分自身をめった刺しにし、最後は自分の臓器を自らの手で手繰り寄せて表へ出し、握り潰して遊んでいた。
 そして門兵が嘔吐する他所で、最後に一突き、自分の胸元を目掛けてナイフを突き刺した。
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