全無生物を魔法化する力で異世界を蹂躙する

とりっぷましーん

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風変りな勇者召喚編

008 赤ん坊のレベルは1、俺3

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 歩は魔法書に歩み寄っていく途中、俺にチラリと目線を向け、そして軽く深呼吸をした。
 確か地球で『僕が主人公になる』とかどうのこうのと言っていたのを思い出す。

 ということは……、もしかすると自分が秘めたる力を持つという確信でもあるのだろうか?

 だが、現状それに値したのは新垣と江原。ある意味では対極とも言える二人。
 いじめを助けるために存在しているようなイケメン王子と、まるでいじめられっ子を虐めるために存在しているようなオールバック不良。

 歩は助けられるか、いじめられるか、又はその両方に属するような気弱そうな少年。
 ぶっちゃけ言えば、秘めたる力よりも、むしろ力なき者と評価されたほうが余程納得する。

 見た目もそう。
 歩は正直、中世的な顔つきをしていて身なりを整えれば、巷で流行りの可愛い系とかいう奴になり、悪くなさそうな気はする。
 けれど――、

――如何せん、そのキノコヘアーはあんまりだ!

 今では友達だからあまり言いたくはないが、真っ黒キノコは下手をしたらあれにしか見えないのだ。

――そう。アレにしかな……。

 なんて事を思ってるとは悟られないように、俺は歩に向けて手を振った。微笑む歩の顔が俺の胸をチクリと刺す。
 その時俺は、歩の髪形を変えてやることを決意した。
 ま、それでいいだろ――、
 と、思っていると歩が魔法書に手を当てるのが見える。

 しかし……、手を当てた時の反応は予想外……、いや、ある意味では予想通りと言えるもの。
 球体は白、円錐は目盛り一個分、ウニ蔵君は当然のようにピクリともしない。
 今まで以上のざわめきが周りから起き、俺の不快感を掻き立てる。

「おいおい、まじかよ。あの年齢で白?」「魔力量200だと?」「嘘だろ……、あれは本当に勇者なのか?」

 明らかに侮蔑の感情と嘲笑交じりの言葉。
 王様は無言で目を瞑っているだけだが、兵士たちのその言葉を止めようとはしない。
 結局この世界でもいじめられる対象になってしまうのか……?と思いながら、俺は歩の元に駆け寄っていく。

「だ、大丈夫か……? ちょ、ちょっとステータス見せてくんね?」

 だが、意外にも歩は平気そうな顔をしており「うん、いいよ」とだけ言って、小さく笑った。


『名称』        『進藤歩』
『レベル』       『3』
『現魔力量/総魔力量』 『200/200』
『固有能力』      
  『鑑定、意思疎通、時計、方位磁針、収納庫、ステータス』
『潜在魔法能力』    『なし』


 俺はあまりに酷い評価に絶句した。いや、本当は突っ込みたい。物凄く突っ込みたい。


――レベル3て! 生まれたての赤子と大してかわんねーじゃん!


 と。

 けれど、そんなことは言えるわけがない。何とか慰めようと必死に声を絞り出す。
 つもりだったが――、

「お、おやまぁ……。これ……酷いな。でも、歩、あんまり悲観した顔してないな?」

 歩の顔からは本当に落ち込んだ様子なんて、微塵も感じることが出来なかったのだ。

「いや、最初はびっくりしたけどさ。これ――」

 と、歩が言いかけたところで、先ほど江原とやりあった大臣が大声を上げた。

「追い出せえええ! そやつは勇者ではない! 使い物にならん奴はいらん! 早く追い出すのだあああ?」

 脂ぎった顔から脂ぎった汗を垂らした男の、脂ののった怒声が謁見の間に響き渡る。
 それを合図にか、どよどよと悪態を口にしていた兵士たちが、ガシャリと音を立て一歩踏み出したところで――王女様が声を上げた。

「皆様、静粛にしてください! まだステータス解放の儀も終わっていないのです。粛々と執り行い、最後の一人である兵藤君の結果を待ちましょう!」

 その言葉でピシャリと謁見の間は静寂を取り戻し、兵士たちは元の場所へと一歩引いた。
 誰も、何も反論などしない。大臣も定位置へと戻り、すました顔で俺と歩の事を見つめている。

 一体なんなんだというのだろうか?

 王様はずっと黙ったままだし、会長も空気を読んでるのか視線だけは向けてきているが、言葉は発しない。
 莉緒も僅かに眉根を寄せて、心配そうな面持ちで視線を向けてきている――ので、俺は小さく親指を立ててみせた。
 そのまま、次は俺の番と思い、魔法書へと歩み寄り手を当ててみる。

――と、球体は歩と同様に白く光り、円錐は目盛り一個分、ウニ蔵君は微動だにすることはなかった。

 俺の口の端から「はは」と乾いた笑いが漏れる。首筋にじわりと汗が浮き、口の中が乾いていく。
 精神の喪失によるものか僅かに体内に浮遊感を覚え、そして聞こえてくる罵詈雑言。

「ふ、二人もくずがいるのか?」「二人の英雄と二人のくずでバランスとれてるんじゃないか?」「見てるだけでむかつくな、今まで何して生きてきたんだ?」

 歩の時との相乗効果によるものか、より一層強まった侮蔑と悪態。
 呆然自失でその言葉を躱し、思わずステータスを開き、歩と全く同じ結果を見て俺も内心で突っ込むことになる。


――俺は一体何して生きてきたんだっ? RPGの勇者かよ!

 と……。

 いやいや、だが待てよ。

 こんな生まれたての赤子と大して変わらないレベルであるけれど、俺は学校の体育で新垣や江原に明らかに劣っている、といったことはなかった。
 勉強もそう。江原なんて問題にもならないほどの試験の結果は修めている。
 決して優秀じゃない。優秀じゃないけれど、新垣と同じ中の上くらいではあると自負していた。

 それが何だこりゃ……。

 この世界の赤子は、俺や歩以上のスーパー赤ちゃんなのか……?
 いやいや、なわけはない。知らんけど、そんなわけがあるはずがない。もし、そうならステータスも開けるはずだからな。

 それか、あの二人が実力をひた隠しにしていたか。
 それはあるかもしれない。本当に能力のある奴らなら実力を隠しててもおかしくはない。

 勿論、この世界に来て自身の運動能力や思考力が下がった感覚もない。
 聞いてはいないが、おそらくそれは歩も同じだろう。

 そんなことを考え、莉緒と歩が俺に寄ってこようとしているのが見えた所で、大臣がまた大声を上げた。

「あ、ありえん! ど、どうしてこんなゴミが二人もおるんだ? 殺せとは言わん。言わんが、さっさと城から叩き出せぇ?」

 殺せという言葉を聞き、俺の背筋をヒヤリと冷たいものが撫でる。視界が僅かに揺れ、ガシャリガシャリと鎧の近付く音が耳に届く。
 俺と歩が共に三人の兵士に後ろ手に押さえられたところで、王女が声を上げるのが聞こえた。

「待ってください! 確かに二人は無能なのかもしれません! けれど、呼んだのは私達です。横暴はしないでください!」

 無能て……。庇ってくれているのは分かる、分かるけれど。

――む・の・う。

 この三文字は、兵士たちのどんな悪態よりも俺の心を深くえぐった。
 王女さんは深い意味で言ってないんだろうけど……。無能って響きはえぐいんだよ。何となく。
 兵士たちに拘束された腕の痛みより、精神をえぐられた傷で若干項垂れていると、大臣が大きく唾を飲み込みのが見え、王女に恐る恐るといった様子で言葉を返した。

「で、ですが、アレスディア様……。いつ――」

「――大臣! 確かにアレスディアの言う通りなのだ。さっきも言ったが儂らが呼んだのは事実であろう? だがな、アレスディアよ」

 大臣に言葉を被せる王様。しばらくぶりに聞くその声は低音でよく響き、何だか心が落ち着くような気がした。

「はい、お父様?」

「う、うむ。だが、この国に力なき者に支援する程の余裕はないというのもまた事実。出来れば二人には自力で頑張るか……自由に生きて貰えば良いと思うんだが」

「それで構いません。それよりいつまでお二人を拘束しているのですか? 早く、離すべきでしょう?」

「あ、は、はっ! 申し訳ありません、アレスディア様!」

 王女が俺たちに目を向けながらの言葉にホッとする。
 もしかしたら殺されたり、地下牢にでもぶち込まれたりするんじゃないかという程の緊迫感。
 それが緩み、俺も歩もギリリと締め上げられていた腕が解放された。

 そのまま定位置へと戻っていく兵士たちに、これまで見たことのない氷のような眼差しを向ける王女さん。
 俺は隣で俯いていた歩の肩に手を乗せ――ると、小さく震えていたので思わず声を掛け――

「歩……わ、笑っているのか……?」

――ようとした時、くつくつと小さく聞こえてくる、声を押し殺した笑い声。
 も、もしかして恐怖で頭がおかしくなってしまったんじゃないかと思い、俺は思わず歩の背中を擦ってやる。

「あ、兵輔。大丈夫だよ。僕は大丈夫。けど……兵輔もそうだとは思わなかったな」

 ああ、俺も自分が無能だとは思ってなかった、と頭を過った瞬間かけつけてくる会長と莉緒。

「驚きました、すみません、反応できませんでした。腕は大丈夫でしたか?」

「兵輔も歩君もびっくりしたよ! 私、鉄の鎧を拳で貫けるか計算しちゃったじゃない」

 二人の同時の言葉に俺は聖徳太子じゃないんだよ、と言いたかったが、流石に今の空気で言うわけにはいかない。
 俺は歩と顔を合わせると小さく笑って声を出す。

「はは、大丈夫です。腕は大丈夫です。で、流石に莉緒でも鉄の鎧は貫けないと思うぞ? 足蹴りなら通用しそうだけどな?」

 と、俺が言うとシュパッと右手を水平に振ってみせる。は、はえぇ……。

「鉄は試したことがないから分からないけど、ガラス瓶くらいなら切り飛ばせるわよ?」


――やっぱり出来るんかい!


 だが、俺達がこれ以上親睦を深める暇もなく、王様が声を上げる。

「盛り上がっとるとこ悪いんだがな、儀式は終わった、結果は分かった。なら、すぐにでも動いて欲しいのだ。時間は無限にあるという訳ではないからな」

 俺と莉緒と歩は会長と顔を見合わせ頷き合い、会長を代表として言葉を返してもらうことにした。

「具体的にどのようなご予定を立てているのですか?」

「うむ。新垣殿と高嶋殿には北、江原殿と夢町殿には西、そして天ヶ崎殿と浅草寺殿には東を担当していただき、支援を惜しむことはない。
 兵藤殿と進藤殿には……出来れば南を。上手くいけば褒美を取らせようと思う」

――褒美を取らせる。

 よく聞く言葉であるが、自分が言われてみると非常に上から目線で腹が立つ。
 おそらく王様にそんなつもりはないのだろう。だが、それが余計に俺の神経を逆撫でするような気がした。

 でも、まあいいか。見下されても仕方がない。
 だって俺と歩は――


――生まれたての赤子に毛が生えた程度のレベル!


――んなわけあるかい!
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