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風変りな勇者召喚編
013 ひょうすけのかっこいいとこみてたよ
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街の外壁の外――堀のようなものが掘られ跳ね橋がかけられているのを、チラと見てから歩へと顔を向ける。
「そういやさ、金の延べ棒出してって頼んだじゃん? けど、ゴールドバーみたいなのを描いたのは、重いの知ってたからなん?」
「ん、そうだよ。金って比重が大きいから凄く重いって見たことあったんだ」
なるほどなー。確かにスゲー重かった。
ゲームって金貨とか使ってるような気がしたけど……んーあれは混ぜ物でもされてんのかもな。
それよりちょっと釘を刺しとかないといけないか。
「あんさ? 俺が頼んだんだけどさ、今後はお金とか金とかはなるべく出さないようにしろよ?」
その言葉に歩は驚いたような顔をし、
「え? そんなの当たり前じゃん。消えないならまだしも消える物で人を釣ってたら、いつかしっぺ返しくらっちゃうよ」
と言った言葉に、ああ、分かってんだなと頷いた。
日本で偽札を作り出す人間はすべからく処罰される。
それは異世界に来たからといって変わりはしない。
なんでもやってしまえば、その人間は当然人として地に落ちる。バレなきゃ良いってものではないのだ。
――ウ〇ジマ君のとこに連れてっちまうぞ!
我ながらキレが今いちだなと思いつつ、闇金の利用は計画的にしないとな……と、内心で心を震え上がらせる。
「ま、分かってんならいいんだよ。宝飾品とか金ってのは人を狂わせるからな」
「そーだね。金塊見た兵士の人、明らかに目の色が変わってた。正直、僕も生であんなの見たことなかったけど、凄いもんだね」
「確かになぁ。塊の金って物の破壊力は予想以上にでかい。……もしかして、さっきの物影の音は……見られてたか……?」
金塊を放った時、カランカランとわりと大きな音が鳴った。その時は、人がいないと思っていたが、見られていた可能性は否定できない気がする。
「どうだろ? でも、それは気にしても仕方なくない?
それよりさ、さっき兵輔って何やったの? 空中で石が破裂したように見えたけど」
「ん? その通りだよ。石を魔法化したら直線的に飛ばす魔法だったから、投擲ベクトルを調整してくっ付けた状態で空中で砕いてみたんだ。
いや、石が砕けず弾く可能性もあったんだけどさ、まぁそれでも大きな音は鳴ってたはず……ってのが作戦だな」
「へぇ凄いねぇ……。いや、浅草寺さんの上段回し蹴りも凄まじいと思ったけど」
と、歩が言ったところで俺は思い出す。頬をつねってやることにしたんだと!
「あふぁっ? な、なにふんのさ!」
「歩、お前莉緒のパンツ見ただろ! だから俺はつねってやると決めてたんだ!」
「ええ、いや、見てないし……。って、何? 兵輔はパンツ見てたわけ?」
――自爆したっ?
「い、いや、ちがくてさ! 歩が見たんじゃないかなーって……うん、あ! そうだ!」
「何?」
ジト目の歩が怖い。莉緒にバラされたら俺の肝臓は……
――今度こそ命日を迎える!
「いや、兜がパカって割れただろ? あれ、持ってくればよかったなぁって……な?」
「持ってきても割れてるんだから使えないでしょ。あ、いや、そっか。兵輔なら魔法化出来ちゃうのか……。どんな魔法になるんだろうね」
よっしゃ、話逸らせた!と内心でガッツポーズをかまし、
「うーん、汗臭い男の兜だろ? 悪臭を周囲にばらまいて攻撃する。とかなんじゃね?」
「いやいや、それ汗しか魔法になってないし。それより、兜がぱっくり割れた時思ったんだけど……」
やばい!これブーメランのように戻ってくるパターンか?と思いつつ恐る恐る尋ねかける。
「思ったんだけど……?」
「あ、うん。いや、浅草寺さんが空手の中学チャンピオンってのは知ってるけどさ。それでも、兜は割れないでしょ、普通。
だから、ステータス解放して強くなったんじゃないのかなって思ってね」
ああ、確かに……ビンタが地球の時より強かったのはそういうことかな。
でもガラス瓶を手刀で落とせるって言ってたし――って、いや待てよ。
そういや、あの時の手刀打ち、気持ち悪いくらい速かったっけ……。あれも、そういうことなのかな。
やっぱ莉緒はあんま怒らせないようにしないとだな……。
そんな話をしてるうちに莉緒と会長の姿が目に映った。楽しく笑いながら話しているようで、ほんと仲良くなったもんだなと思う。
「兵輔ー、買ってきたわよー」
手を大きく振りながら歩みを早めるのに心が揺れる。ほんと、女ってのはよく分からん!
「いや、ほんとすまないな。会長さんもありがとうございました」
「いえいえ、良いのですよー。それより、別に敬語じゃなくてもいいですよ。気楽に話しかけてください、もしよかったら怜奈と呼んでいただいても構いませんよ?」
――ほんとに女ってのはよく分からん!
「いや、流石にそれは……。まぁ、ほんとありがとうでした。なんか変わったこととかあったりしました?」
俺の微妙な砕け言葉に二人は仲良く首を振った。
さっきの物音は二人を追ったって訳でもなかったという事か。
とするとやはり……。
思ってると莉緒が収納庫から、カバンと剣と大き目の袋を取り出して渡してくる。
「変わったことはなかったし、お金も調べてきたよ。えっとね、怜奈、さっき話したので合ってるんだよね?」
「ええ、多分合ってると思いますよー。赤が一万、青が千、水色が百円くらいの価値っぽいですね。
さらにお釣りとしてガラスみたいなコインも貰いましたが、こちらは十円ってところになりますかー」
ということは、俺は11万1000円分をくそ兵士に渡してしまったという事。物価はよく分からんけど、俺の小遣いから考えると安くはない。畜生、泥棒め!
「これらはどうやら魔力の結晶のようなものらしいのですよ。モンスターを倒せば得られるとお店の方は言っていました」
やはりモンスターいるのね……と思いつつ口を開く。
「ゲームのモンスターがお金を持ってるってのがおかしいと思ってましたけど、魔力の結晶がお金になるなら何となく納得できます」
「そうですね。単位はエネラって言うらしいです。あとは――地図はありませんでしたが、街道に沿って行けば良いようです」
なるほどなぁ……と思いつつ南方面に目を向ける。見てもよく分からんけど。
「あ、そういや、お金。どうすればいい?」
と、莉緒に向かって尋ねかけると莉緒は俺の目の前までやってきた。
「出してあげようかと思ったけど、やっぱり貸しにしとく。分かった? 貸したからね? 絶対返すんだよ?」
俺の顔をじっと見つめるその双眸は、真剣さで溢れていて……、さっき考えた闇金の事が脳裏を過り、反射するように俺は大きく頷いた。
莉緒の追い込みは、別の意味で死ぬほど危険だと思われるからな。
「ああ。勿論だよ。金は返すのが当たり前。いや、借りたものは返すのが人間としての常識だ!」
チラリと、燃え盛る鉄板の上で、涙を流しながら土下座をしている債務者の姿が頭を過ったが、目の前の光景を見てすぐ消えていった。
俺の言葉になぜか莉緒が――いや、歩と話していた会長も、肩を竦めて大きく首を横に振ったのだ。なんぞ?
「ちがくてさ……。まぁいいわ」
と、大きく息をつきながら莉緒は髪留めを外しだす。と、同時にハーフアップにしていた髪が下りてきて、ふわりと良い香りが俺の鼻に届く。
若干癖のついた黒髪ボブになってしまったけど、それが凄く可愛くて……、ってなんなんだろ?
まだ返済期限過ぎてないからね……?
莉緒は髪留めを指でつまんだまま腕を組み、ぶっきらぼうに口を開く。
「円環作って収納庫出してよ」
頭に『?』を浮かべながら言われた通りにやってみる。
――と、莉緒は俺が両手で作ったエメラルドグリーンの泉の中に、薄黄色で天使の羽のようなモノを象どった髪留めを放り込んだ。
俺の泉は放り込んでも金の髪留めには変わりませんよ……?
「これも貸しだからね? あっちから持ち込んだ貴重な物なんだから。もし、死んじゃったりしたら取り出せなくなるんだからね? 絶対返してね」
そう言って離れていった。うん、よく分からんけど返すけどさ……。
俺、死ぬと思われてんのかな……ちょいショック。
それに、金を返させるために大切な物を預けるって――あれ、それ逆じゃね?
死んだら両方なくなっちまうもんな。絶対生きて返しに来いってことかな?
なんだかよく分からないが、死んでしまえばもう莉緒とは会えない。それだけは避けたいと思い口を開く。
「うん、俺頑張るからさ。莉緒……と、会長も頑張ってください。で、また必ず再会しましょう」
莉緒に声を掛けた後、会長に顔を向けると会長が口の端を上げた。
「あらあら、なんだか私はついでみたいなのですよー。ま、いいです。兵輔君、歩君をお願いしますね」
「い、いや、そういうわけじゃ……。歩は大丈夫ですよ。俺より余程しっかりしてますから」
「ふふ、そうですか? じゃ、歩君、兵輔君をお願いするのですよー」
と言いながら歩と話し出したので、俺は莉緒の前まで歩み寄り。髪の毛をくしゃっとしてやった。
「な、何するのよ! 髪留めしてないから乱れちゃうじゃない!」
「はは、いやな。俺頑張るからさ、莉緒も絶対死んだりとかすんなよな? 莉緒が死んだら俺も死ぬからな!――――なんてなっ」
半分冗談。最後に一発くらい殴られてもいいかなと、思って言ったけれど……意外にも頬を染めていて、瞳を僅かに潤ませていて――
「ばっか! 私は大丈夫に決まってんじゃない! 兵輔はさっきだっ――いえ、まぁいいことにするわ。私兵輔が言ったこと覚えてるからね!」
俺がさっきだ……っ? 殺気立つ? いや、そんな事実は微塵もないんだけど。それよりも……
「覚えてる……? 覚えとくじゃなくて……?」
「そうよ。あなた、私の旦那になるって言ったのよ? 忘れてるとでも思った?」
「へ……あれは冗……いや、そうだな。言った、確かに言った。ま、とにかく、次再会する時まで頑張ろうぜ?」
言いながら手を差し出した。莉緒は顔を僅かに赤らめ、掌を服で拭ってから俺の手を握る。
やはりというかその手は、女の子の物とは思えないごつごつした掌。
けれど、その感触と力強さが俺に勇気と安心感を与えてくれて、この先の旅路に希望を見いだせるような気がした。
「ここで熱いヴェーゼでもしてくれたら、もっと頑張っちゃうんだけどな!」
「な、何言ってんのよ! 私達は……そんな関係じゃないでしょ! 馬鹿言ってないでさっさと行きなさいよ!」
言いながら手を離し、俺を突き飛ばすように両手で肩を押し出してくる。
そんなの前に何か言葉を言ったような気がしたが、聞き取ることは出来なかった。それより、失敗しちまったかな、トホホ。
ドラマとかだと、ほっぺにチューくらいはありそうなもんなのに……。ドラマの嘘つき!
そこで、俺達に向けて会長が微笑んでるのが目に入る。隣では歩がニヤニヤと笑っているのも目に入る。あいつめ……!
「さて、お別れは終わりましたか? 中々ドラマみたいで面白かったのですよー」
「そーですか! なんだかコメディみたいになっちゃいましたけどね! それより、会長も握手しときますか?」
俺の提案に会長は首を横に振った。
「その発言は悪手なのですよー。はい、兵輔君もご一緒に!」
――握手だけにな!
「はっ?」
「ふふ、それではしばしの間お別れです。とはいえ、またすぐに連絡するので楽しみに待っててくださいね」
それを最後に俺は歩と共に二人に背中を向けた。振り返れば手を振ってくれていて……、やっぱり女の子に見送られるのは嬉しいもの。
しっかし会長はすげぇなと思う。俺が考えてること見透かされてんじゃないだろうか……。
会長に対して若干おののき、八つ当たりのように雑草を踏みしめて、歩と何気ない話をしながら外壁を迂回していく。
そうして南門から伸びる街道に辿りついた時、よく分からないが歩が首の後ろを擦った。
「ん、なんか首にピリって……来たような……。何もないけど」
「ピリ……? 会長が言ってたメッセージってやつなんじゃね?」
俺の言葉に「ああ、そうかも! でも、どうすればいいんだろ」と言いながらステータスを開きだす。
「あ、見てよ。これだよね?」
と、見せてきたステータスにはメッセージ有りとの文字。まるでメールのようだが……気にしたら負けなんだろう。
歩がタップすると円環の中に現れる文字――って読み辛っ!
『てすとです。れべるがひくいため、ひらがなでしかおくることができません』
『ぶじ、みなみもんまで、たどりつきましたか?』
『へんじは、このぶんしょうにゆびをふれると、へんしんがめんがひらきます』
『ゆびをあてて、あたまのなかでかんがえればかけるので、ためしてみてください』
いつの時代のゲームだよってレベルだな……。
「なんて返事するんだ? つか、中々書き辛そうだな」
親指と中指で円環を作り、人差し指で文字をなぞる。円環がぐにゃりと歪み凄まじく書き辛そうだ。
「え、うーん、どうしよ。てか、ほんと凄く書き辛い」
「んー円環の作り方が悪いんかな。例えば、右手は親指と小指にするとか……」
言いながら自分で試してみると、若干ましになるような気はした。ま、やってみないとわからんけど。
「えー今更……。これ、円環崩すと多分消えちゃうよね……。ちょっと兵輔代わりに書いてよ」
ほほう。俺に書いてと申しましたか! メールを他人に書かせることの怖さ、たっぷり教えてやらねばな!
「なんて書くんだ?」
と、聞きながら俺の頭の中で文章を構築していく。よし。
――作戦は完璧だ!
同時に歩が俺の顔を見ながら口を開く。
「そうだね。こんな感じで送ってよ」
『こちらもてすとです。ぶじに、みなみもんへとたどりつきました』
『ぼくたちはがんばっていこうとおもいます』
『かいちょうさんと、せんそうじさんもおからだにきをつけて、がんばってください』
ふぅんと右耳から左耳へと抜けていく言葉を聞き流し、俺の文章を歩の手の中で作成する。
文字は書かれた場所に触れると消えるという事を確認してから……。
『かいちょうの、からだつき、すてきです』
『どうか、わたしに、ひとなつのけいけんをさせてくださいよ』
歩はこれを見た瞬間目を見開いて、大慌てで俺に手を付きつけてくる。
「ちょ、ちょっとまって! なにやってんの! ば、ばか! はやくけしてよ!」
「あーあーあー、ゆらすなよー。変になっちゃう――って、あー!」
俺は文字を消しながら、おそらく送信ボタンであるだろうと思っていたボタンを押した。
完璧、完璧だ!
「す、すまん……。冗談のつもりで全部消すつもりだったんだけど……」
「これ……絶対わざとでしょ? 兵輔のばか?」
送られた内容はこうだ。
『かいちょう す きです』
『 か わ い いよ』
――おっしゃ完璧、きたこれ!
という感情をおくびにも出さないように、申し訳ないという気持ちいっぱいの声色を奏でる――つもり。
「いや、わざとじゃないんだ。たまたまなんだよ」
「へぇ? じゃぁなんでそんな笑いをこらえたような顔してんのさ! もう! 嫌われちゃったらどうすんのさ!」
「いやいや、最初のだったら流石にやばかっただろう。けれど、二つ目のはどうだ? 可愛いって褒めてるんだぞ?
相手に好きと伝えてから意識させる、という高等テクをやってやったんだよ!」
俺の言葉に歩は口元を引き結び、びしっと裏拳を肩口にあててくる。ツッコミの要領だが普通に痛い。
「それって全て計算尽くってことじゃんか! 何が冗談でたまたまだよ。完全にわざとじゃん!」
頬を膨らませる歩を見て、ちょっとやりすぎたかなと反省する。
自分がされて嫌なことは人にしてはいけない。
――良い子は真似しないようにっ!
なんて思ってる場合じゃない。どうするか……と、思ってると再度歩が首筋を触った。
「うわぁ、メッセージ来ちゃったよ! これ、こっちから送れないから今の時間、胃がきりきりした」
言いながら、さっき俺が提案したように、小指を利用した円環を作りながら差し向けてくる。
「怖いから兵輔見てよ……。返信はしなくていいからね」
どれどれ……、と思いながら目を向ける。
『だいすきってことばなら、わたしもかんがえましたー。けれど、あゆむくん』
『が、つかったことばは、ただのすきということば』
『これはいったいぜんたい、なんのじょうだんなのですかー?』
『とりあえず、いまは、そんなじょうきょうではありません。でも』
『わたしには、かれしもすきなひともいませんので、あゆむくんが、がんば』
『るなら、かんがえてあげるかもしれないのですよー』
ええっと……、どう考えればいいんだろ。
冗談と見透かされているのか、脈ありなのか、遠回しに断っているのか。
「う~ん。自分で見てみろよ? 絶望的なほど拒絶されてるってわけじゃねーと思うぞ」
「な、何その言い方……。 分かった、見てみるよ」
そう言って歩は円環の中を熟読。短い文章だが、真剣な顔をして何度も読み返している様子だ。
しっかし、今の文章さっきとは違って作りが変だったよな……。へんなとこで文節が切れてたし。
と、考えると俺の脳裏に嫌な予感が走る。
まさか……たてよ……
「なぁ、もっかい今の見せてくんね?」
「え、うん……。いいよ? 確かに最後の二行見ちゃうと希望あるのかなって思っちゃうな」
俺は再度円環の中を覗いてみる。
だ が こ と わ る
――言えないっ!
こんな残酷な言葉が隠されているだなんて、歩にはとても言えない!
そう思いながら俺はおもむろにエメラルドグリーンの表面に触れ、強制的に返信画面に切り替えた。
「ああっ! なにすんの!」
「い、いや、うん。早く返信しないと会長も待ってるかなと思ってさ。女を待たす男にはなっちゃいけないぞ、うん」
歩は「ええ~! でも確かにそうだね」と言いつつ、文章を作成しだす――と、ここで俺の首筋にピリリと電気が走ったような感覚。
首筋を擦りながら、これがさっき歩の言ってたやつか……?と考え、恐る恐るステータスを開き確認してみる。
『りおです。れいなにたのんで、おくらせてもらっています』
『さっき、あゆむくんからきたのって、ひょうすけがやったんでしょ?』
『あんなことしちゃだめだよ。かわいそうじゃない!』
『でも、れいなはあゆむくん、けっこうかわいいっていってて』
『ほんとうにがんばるなら、ほんとうにかんがえるかもっていってました』
『つたえるのもつたえないのも、ひょうすけがきめればいいけど』
『あゆむくんがおちこむようなら、つたえてあげてください』
『 』
『あとね、わたし』
ここまで読んで、俺の首筋に再度ピリリとした感覚が走り、思わず円環を崩してしまう。
「あああ! やっちまった!」
「ど、どうしたの? 突然大きな声を上げて?」
「い、いや、なんでもない。すまんな、驚かせて。会長に返信してあげてくれ」
訝しむように眉根を寄せつつも、大切に円環を守る歩に、流石だな……と、思いながら俺は自分の失態を悔いる。
最後、なんて書かれてたのか気になる! すごく気になる! いや、それとも何も書かれてなかったのかもしれない。
けど、そうすると文章が変なところで終わってしまう。
葛藤し身悶えしそうになっていると、この状況を何が作り出したかという事に到達する。
それは、ピリリとした感覚。
つまり――別のメッセージ様の来訪。
俺はステータス画面を開き、確認するとメッセージ有りとの文字。
だが、それは新しいものだけであって、やはりスマホのように過去の文章を見ることは出来ない。
溜息をつきたい気持ちを押し殺し、文章を開いてみる。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
どういうことだ……?
何が何だか……、と思いながら頭を回す。
まさか? さっきの兵士との戦いを見てたってことなのか……?
確かにあれは上手くいきすぎるほど上手くいった。我ながらかっこよかったとも思う。
それを莉緒に見せれなくて、残念だと思ってた気持ちも正直ある。
――それを莉緒が見ていた……?
動悸が高速反復横跳びのように跳ね上がり、体が浮遊感に包まれ、体が自然と震えてしまう。
けれど、その感覚全てが心地よい。手放したくない。
別に告白が成功したわけでもない。告白されたわけでもない。
ただ、ひらがなで書かれた文章が俺に届いただけ。そう思いながら再度目を向ける。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
うはぁ! まじか!
ということは、さっきの文章はあれで終わっていたという事かな……?
いやいや、間に何が書かれていたとしてもどうでもいい。
俺の分身さんが反応するのも、心臓さんが心不全起こしそうになるのも、気にせず再度目を向ける。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
――うはぁ!
「そういやさ、金の延べ棒出してって頼んだじゃん? けど、ゴールドバーみたいなのを描いたのは、重いの知ってたからなん?」
「ん、そうだよ。金って比重が大きいから凄く重いって見たことあったんだ」
なるほどなー。確かにスゲー重かった。
ゲームって金貨とか使ってるような気がしたけど……んーあれは混ぜ物でもされてんのかもな。
それよりちょっと釘を刺しとかないといけないか。
「あんさ? 俺が頼んだんだけどさ、今後はお金とか金とかはなるべく出さないようにしろよ?」
その言葉に歩は驚いたような顔をし、
「え? そんなの当たり前じゃん。消えないならまだしも消える物で人を釣ってたら、いつかしっぺ返しくらっちゃうよ」
と言った言葉に、ああ、分かってんだなと頷いた。
日本で偽札を作り出す人間はすべからく処罰される。
それは異世界に来たからといって変わりはしない。
なんでもやってしまえば、その人間は当然人として地に落ちる。バレなきゃ良いってものではないのだ。
――ウ〇ジマ君のとこに連れてっちまうぞ!
我ながらキレが今いちだなと思いつつ、闇金の利用は計画的にしないとな……と、内心で心を震え上がらせる。
「ま、分かってんならいいんだよ。宝飾品とか金ってのは人を狂わせるからな」
「そーだね。金塊見た兵士の人、明らかに目の色が変わってた。正直、僕も生であんなの見たことなかったけど、凄いもんだね」
「確かになぁ。塊の金って物の破壊力は予想以上にでかい。……もしかして、さっきの物影の音は……見られてたか……?」
金塊を放った時、カランカランとわりと大きな音が鳴った。その時は、人がいないと思っていたが、見られていた可能性は否定できない気がする。
「どうだろ? でも、それは気にしても仕方なくない?
それよりさ、さっき兵輔って何やったの? 空中で石が破裂したように見えたけど」
「ん? その通りだよ。石を魔法化したら直線的に飛ばす魔法だったから、投擲ベクトルを調整してくっ付けた状態で空中で砕いてみたんだ。
いや、石が砕けず弾く可能性もあったんだけどさ、まぁそれでも大きな音は鳴ってたはず……ってのが作戦だな」
「へぇ凄いねぇ……。いや、浅草寺さんの上段回し蹴りも凄まじいと思ったけど」
と、歩が言ったところで俺は思い出す。頬をつねってやることにしたんだと!
「あふぁっ? な、なにふんのさ!」
「歩、お前莉緒のパンツ見ただろ! だから俺はつねってやると決めてたんだ!」
「ええ、いや、見てないし……。って、何? 兵輔はパンツ見てたわけ?」
――自爆したっ?
「い、いや、ちがくてさ! 歩が見たんじゃないかなーって……うん、あ! そうだ!」
「何?」
ジト目の歩が怖い。莉緒にバラされたら俺の肝臓は……
――今度こそ命日を迎える!
「いや、兜がパカって割れただろ? あれ、持ってくればよかったなぁって……な?」
「持ってきても割れてるんだから使えないでしょ。あ、いや、そっか。兵輔なら魔法化出来ちゃうのか……。どんな魔法になるんだろうね」
よっしゃ、話逸らせた!と内心でガッツポーズをかまし、
「うーん、汗臭い男の兜だろ? 悪臭を周囲にばらまいて攻撃する。とかなんじゃね?」
「いやいや、それ汗しか魔法になってないし。それより、兜がぱっくり割れた時思ったんだけど……」
やばい!これブーメランのように戻ってくるパターンか?と思いつつ恐る恐る尋ねかける。
「思ったんだけど……?」
「あ、うん。いや、浅草寺さんが空手の中学チャンピオンってのは知ってるけどさ。それでも、兜は割れないでしょ、普通。
だから、ステータス解放して強くなったんじゃないのかなって思ってね」
ああ、確かに……ビンタが地球の時より強かったのはそういうことかな。
でもガラス瓶を手刀で落とせるって言ってたし――って、いや待てよ。
そういや、あの時の手刀打ち、気持ち悪いくらい速かったっけ……。あれも、そういうことなのかな。
やっぱ莉緒はあんま怒らせないようにしないとだな……。
そんな話をしてるうちに莉緒と会長の姿が目に映った。楽しく笑いながら話しているようで、ほんと仲良くなったもんだなと思う。
「兵輔ー、買ってきたわよー」
手を大きく振りながら歩みを早めるのに心が揺れる。ほんと、女ってのはよく分からん!
「いや、ほんとすまないな。会長さんもありがとうございました」
「いえいえ、良いのですよー。それより、別に敬語じゃなくてもいいですよ。気楽に話しかけてください、もしよかったら怜奈と呼んでいただいても構いませんよ?」
――ほんとに女ってのはよく分からん!
「いや、流石にそれは……。まぁ、ほんとありがとうでした。なんか変わったこととかあったりしました?」
俺の微妙な砕け言葉に二人は仲良く首を振った。
さっきの物音は二人を追ったって訳でもなかったという事か。
とするとやはり……。
思ってると莉緒が収納庫から、カバンと剣と大き目の袋を取り出して渡してくる。
「変わったことはなかったし、お金も調べてきたよ。えっとね、怜奈、さっき話したので合ってるんだよね?」
「ええ、多分合ってると思いますよー。赤が一万、青が千、水色が百円くらいの価値っぽいですね。
さらにお釣りとしてガラスみたいなコインも貰いましたが、こちらは十円ってところになりますかー」
ということは、俺は11万1000円分をくそ兵士に渡してしまったという事。物価はよく分からんけど、俺の小遣いから考えると安くはない。畜生、泥棒め!
「これらはどうやら魔力の結晶のようなものらしいのですよ。モンスターを倒せば得られるとお店の方は言っていました」
やはりモンスターいるのね……と思いつつ口を開く。
「ゲームのモンスターがお金を持ってるってのがおかしいと思ってましたけど、魔力の結晶がお金になるなら何となく納得できます」
「そうですね。単位はエネラって言うらしいです。あとは――地図はありませんでしたが、街道に沿って行けば良いようです」
なるほどなぁ……と思いつつ南方面に目を向ける。見てもよく分からんけど。
「あ、そういや、お金。どうすればいい?」
と、莉緒に向かって尋ねかけると莉緒は俺の目の前までやってきた。
「出してあげようかと思ったけど、やっぱり貸しにしとく。分かった? 貸したからね? 絶対返すんだよ?」
俺の顔をじっと見つめるその双眸は、真剣さで溢れていて……、さっき考えた闇金の事が脳裏を過り、反射するように俺は大きく頷いた。
莉緒の追い込みは、別の意味で死ぬほど危険だと思われるからな。
「ああ。勿論だよ。金は返すのが当たり前。いや、借りたものは返すのが人間としての常識だ!」
チラリと、燃え盛る鉄板の上で、涙を流しながら土下座をしている債務者の姿が頭を過ったが、目の前の光景を見てすぐ消えていった。
俺の言葉になぜか莉緒が――いや、歩と話していた会長も、肩を竦めて大きく首を横に振ったのだ。なんぞ?
「ちがくてさ……。まぁいいわ」
と、大きく息をつきながら莉緒は髪留めを外しだす。と、同時にハーフアップにしていた髪が下りてきて、ふわりと良い香りが俺の鼻に届く。
若干癖のついた黒髪ボブになってしまったけど、それが凄く可愛くて……、ってなんなんだろ?
まだ返済期限過ぎてないからね……?
莉緒は髪留めを指でつまんだまま腕を組み、ぶっきらぼうに口を開く。
「円環作って収納庫出してよ」
頭に『?』を浮かべながら言われた通りにやってみる。
――と、莉緒は俺が両手で作ったエメラルドグリーンの泉の中に、薄黄色で天使の羽のようなモノを象どった髪留めを放り込んだ。
俺の泉は放り込んでも金の髪留めには変わりませんよ……?
「これも貸しだからね? あっちから持ち込んだ貴重な物なんだから。もし、死んじゃったりしたら取り出せなくなるんだからね? 絶対返してね」
そう言って離れていった。うん、よく分からんけど返すけどさ……。
俺、死ぬと思われてんのかな……ちょいショック。
それに、金を返させるために大切な物を預けるって――あれ、それ逆じゃね?
死んだら両方なくなっちまうもんな。絶対生きて返しに来いってことかな?
なんだかよく分からないが、死んでしまえばもう莉緒とは会えない。それだけは避けたいと思い口を開く。
「うん、俺頑張るからさ。莉緒……と、会長も頑張ってください。で、また必ず再会しましょう」
莉緒に声を掛けた後、会長に顔を向けると会長が口の端を上げた。
「あらあら、なんだか私はついでみたいなのですよー。ま、いいです。兵輔君、歩君をお願いしますね」
「い、いや、そういうわけじゃ……。歩は大丈夫ですよ。俺より余程しっかりしてますから」
「ふふ、そうですか? じゃ、歩君、兵輔君をお願いするのですよー」
と言いながら歩と話し出したので、俺は莉緒の前まで歩み寄り。髪の毛をくしゃっとしてやった。
「な、何するのよ! 髪留めしてないから乱れちゃうじゃない!」
「はは、いやな。俺頑張るからさ、莉緒も絶対死んだりとかすんなよな? 莉緒が死んだら俺も死ぬからな!――――なんてなっ」
半分冗談。最後に一発くらい殴られてもいいかなと、思って言ったけれど……意外にも頬を染めていて、瞳を僅かに潤ませていて――
「ばっか! 私は大丈夫に決まってんじゃない! 兵輔はさっきだっ――いえ、まぁいいことにするわ。私兵輔が言ったこと覚えてるからね!」
俺がさっきだ……っ? 殺気立つ? いや、そんな事実は微塵もないんだけど。それよりも……
「覚えてる……? 覚えとくじゃなくて……?」
「そうよ。あなた、私の旦那になるって言ったのよ? 忘れてるとでも思った?」
「へ……あれは冗……いや、そうだな。言った、確かに言った。ま、とにかく、次再会する時まで頑張ろうぜ?」
言いながら手を差し出した。莉緒は顔を僅かに赤らめ、掌を服で拭ってから俺の手を握る。
やはりというかその手は、女の子の物とは思えないごつごつした掌。
けれど、その感触と力強さが俺に勇気と安心感を与えてくれて、この先の旅路に希望を見いだせるような気がした。
「ここで熱いヴェーゼでもしてくれたら、もっと頑張っちゃうんだけどな!」
「な、何言ってんのよ! 私達は……そんな関係じゃないでしょ! 馬鹿言ってないでさっさと行きなさいよ!」
言いながら手を離し、俺を突き飛ばすように両手で肩を押し出してくる。
そんなの前に何か言葉を言ったような気がしたが、聞き取ることは出来なかった。それより、失敗しちまったかな、トホホ。
ドラマとかだと、ほっぺにチューくらいはありそうなもんなのに……。ドラマの嘘つき!
そこで、俺達に向けて会長が微笑んでるのが目に入る。隣では歩がニヤニヤと笑っているのも目に入る。あいつめ……!
「さて、お別れは終わりましたか? 中々ドラマみたいで面白かったのですよー」
「そーですか! なんだかコメディみたいになっちゃいましたけどね! それより、会長も握手しときますか?」
俺の提案に会長は首を横に振った。
「その発言は悪手なのですよー。はい、兵輔君もご一緒に!」
――握手だけにな!
「はっ?」
「ふふ、それではしばしの間お別れです。とはいえ、またすぐに連絡するので楽しみに待っててくださいね」
それを最後に俺は歩と共に二人に背中を向けた。振り返れば手を振ってくれていて……、やっぱり女の子に見送られるのは嬉しいもの。
しっかし会長はすげぇなと思う。俺が考えてること見透かされてんじゃないだろうか……。
会長に対して若干おののき、八つ当たりのように雑草を踏みしめて、歩と何気ない話をしながら外壁を迂回していく。
そうして南門から伸びる街道に辿りついた時、よく分からないが歩が首の後ろを擦った。
「ん、なんか首にピリって……来たような……。何もないけど」
「ピリ……? 会長が言ってたメッセージってやつなんじゃね?」
俺の言葉に「ああ、そうかも! でも、どうすればいいんだろ」と言いながらステータスを開きだす。
「あ、見てよ。これだよね?」
と、見せてきたステータスにはメッセージ有りとの文字。まるでメールのようだが……気にしたら負けなんだろう。
歩がタップすると円環の中に現れる文字――って読み辛っ!
『てすとです。れべるがひくいため、ひらがなでしかおくることができません』
『ぶじ、みなみもんまで、たどりつきましたか?』
『へんじは、このぶんしょうにゆびをふれると、へんしんがめんがひらきます』
『ゆびをあてて、あたまのなかでかんがえればかけるので、ためしてみてください』
いつの時代のゲームだよってレベルだな……。
「なんて返事するんだ? つか、中々書き辛そうだな」
親指と中指で円環を作り、人差し指で文字をなぞる。円環がぐにゃりと歪み凄まじく書き辛そうだ。
「え、うーん、どうしよ。てか、ほんと凄く書き辛い」
「んー円環の作り方が悪いんかな。例えば、右手は親指と小指にするとか……」
言いながら自分で試してみると、若干ましになるような気はした。ま、やってみないとわからんけど。
「えー今更……。これ、円環崩すと多分消えちゃうよね……。ちょっと兵輔代わりに書いてよ」
ほほう。俺に書いてと申しましたか! メールを他人に書かせることの怖さ、たっぷり教えてやらねばな!
「なんて書くんだ?」
と、聞きながら俺の頭の中で文章を構築していく。よし。
――作戦は完璧だ!
同時に歩が俺の顔を見ながら口を開く。
「そうだね。こんな感じで送ってよ」
『こちらもてすとです。ぶじに、みなみもんへとたどりつきました』
『ぼくたちはがんばっていこうとおもいます』
『かいちょうさんと、せんそうじさんもおからだにきをつけて、がんばってください』
ふぅんと右耳から左耳へと抜けていく言葉を聞き流し、俺の文章を歩の手の中で作成する。
文字は書かれた場所に触れると消えるという事を確認してから……。
『かいちょうの、からだつき、すてきです』
『どうか、わたしに、ひとなつのけいけんをさせてくださいよ』
歩はこれを見た瞬間目を見開いて、大慌てで俺に手を付きつけてくる。
「ちょ、ちょっとまって! なにやってんの! ば、ばか! はやくけしてよ!」
「あーあーあー、ゆらすなよー。変になっちゃう――って、あー!」
俺は文字を消しながら、おそらく送信ボタンであるだろうと思っていたボタンを押した。
完璧、完璧だ!
「す、すまん……。冗談のつもりで全部消すつもりだったんだけど……」
「これ……絶対わざとでしょ? 兵輔のばか?」
送られた内容はこうだ。
『かいちょう す きです』
『 か わ い いよ』
――おっしゃ完璧、きたこれ!
という感情をおくびにも出さないように、申し訳ないという気持ちいっぱいの声色を奏でる――つもり。
「いや、わざとじゃないんだ。たまたまなんだよ」
「へぇ? じゃぁなんでそんな笑いをこらえたような顔してんのさ! もう! 嫌われちゃったらどうすんのさ!」
「いやいや、最初のだったら流石にやばかっただろう。けれど、二つ目のはどうだ? 可愛いって褒めてるんだぞ?
相手に好きと伝えてから意識させる、という高等テクをやってやったんだよ!」
俺の言葉に歩は口元を引き結び、びしっと裏拳を肩口にあててくる。ツッコミの要領だが普通に痛い。
「それって全て計算尽くってことじゃんか! 何が冗談でたまたまだよ。完全にわざとじゃん!」
頬を膨らませる歩を見て、ちょっとやりすぎたかなと反省する。
自分がされて嫌なことは人にしてはいけない。
――良い子は真似しないようにっ!
なんて思ってる場合じゃない。どうするか……と、思ってると再度歩が首筋を触った。
「うわぁ、メッセージ来ちゃったよ! これ、こっちから送れないから今の時間、胃がきりきりした」
言いながら、さっき俺が提案したように、小指を利用した円環を作りながら差し向けてくる。
「怖いから兵輔見てよ……。返信はしなくていいからね」
どれどれ……、と思いながら目を向ける。
『だいすきってことばなら、わたしもかんがえましたー。けれど、あゆむくん』
『が、つかったことばは、ただのすきということば』
『これはいったいぜんたい、なんのじょうだんなのですかー?』
『とりあえず、いまは、そんなじょうきょうではありません。でも』
『わたしには、かれしもすきなひともいませんので、あゆむくんが、がんば』
『るなら、かんがえてあげるかもしれないのですよー』
ええっと……、どう考えればいいんだろ。
冗談と見透かされているのか、脈ありなのか、遠回しに断っているのか。
「う~ん。自分で見てみろよ? 絶望的なほど拒絶されてるってわけじゃねーと思うぞ」
「な、何その言い方……。 分かった、見てみるよ」
そう言って歩は円環の中を熟読。短い文章だが、真剣な顔をして何度も読み返している様子だ。
しっかし、今の文章さっきとは違って作りが変だったよな……。へんなとこで文節が切れてたし。
と、考えると俺の脳裏に嫌な予感が走る。
まさか……たてよ……
「なぁ、もっかい今の見せてくんね?」
「え、うん……。いいよ? 確かに最後の二行見ちゃうと希望あるのかなって思っちゃうな」
俺は再度円環の中を覗いてみる。
だ が こ と わ る
――言えないっ!
こんな残酷な言葉が隠されているだなんて、歩にはとても言えない!
そう思いながら俺はおもむろにエメラルドグリーンの表面に触れ、強制的に返信画面に切り替えた。
「ああっ! なにすんの!」
「い、いや、うん。早く返信しないと会長も待ってるかなと思ってさ。女を待たす男にはなっちゃいけないぞ、うん」
歩は「ええ~! でも確かにそうだね」と言いつつ、文章を作成しだす――と、ここで俺の首筋にピリリと電気が走ったような感覚。
首筋を擦りながら、これがさっき歩の言ってたやつか……?と考え、恐る恐るステータスを開き確認してみる。
『りおです。れいなにたのんで、おくらせてもらっています』
『さっき、あゆむくんからきたのって、ひょうすけがやったんでしょ?』
『あんなことしちゃだめだよ。かわいそうじゃない!』
『でも、れいなはあゆむくん、けっこうかわいいっていってて』
『ほんとうにがんばるなら、ほんとうにかんがえるかもっていってました』
『つたえるのもつたえないのも、ひょうすけがきめればいいけど』
『あゆむくんがおちこむようなら、つたえてあげてください』
『 』
『あとね、わたし』
ここまで読んで、俺の首筋に再度ピリリとした感覚が走り、思わず円環を崩してしまう。
「あああ! やっちまった!」
「ど、どうしたの? 突然大きな声を上げて?」
「い、いや、なんでもない。すまんな、驚かせて。会長に返信してあげてくれ」
訝しむように眉根を寄せつつも、大切に円環を守る歩に、流石だな……と、思いながら俺は自分の失態を悔いる。
最後、なんて書かれてたのか気になる! すごく気になる! いや、それとも何も書かれてなかったのかもしれない。
けど、そうすると文章が変なところで終わってしまう。
葛藤し身悶えしそうになっていると、この状況を何が作り出したかという事に到達する。
それは、ピリリとした感覚。
つまり――別のメッセージ様の来訪。
俺はステータス画面を開き、確認するとメッセージ有りとの文字。
だが、それは新しいものだけであって、やはりスマホのように過去の文章を見ることは出来ない。
溜息をつきたい気持ちを押し殺し、文章を開いてみる。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
どういうことだ……?
何が何だか……、と思いながら頭を回す。
まさか? さっきの兵士との戦いを見てたってことなのか……?
確かにあれは上手くいきすぎるほど上手くいった。我ながらかっこよかったとも思う。
それを莉緒に見せれなくて、残念だと思ってた気持ちも正直ある。
――それを莉緒が見ていた……?
動悸が高速反復横跳びのように跳ね上がり、体が浮遊感に包まれ、体が自然と震えてしまう。
けれど、その感覚全てが心地よい。手放したくない。
別に告白が成功したわけでもない。告白されたわけでもない。
ただ、ひらがなで書かれた文章が俺に届いただけ。そう思いながら再度目を向ける。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
うはぁ! まじか!
ということは、さっきの文章はあれで終わっていたという事かな……?
いやいや、間に何が書かれていたとしてもどうでもいい。
俺の分身さんが反応するのも、心臓さんが心不全起こしそうになるのも、気にせず再度目を向ける。
『ひょうすけのかっこいいとこみてたよ』
――うはぁ!
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