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風変りな勇者召喚編
015 おかしな三人組が現れた!
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人生初、リアル『モンスターをやっつけた』を経験した俺たちは、血で汚れた草原を見て見ぬふりして、森へ向かって街道を歩いていた。
レベルが上がったためか、嬉しそうな顔をしながらステータスを眺めている歩に、最も強く感じていた疑問を口にする。
「つーかさぁ、初モンスターって、〇ライムって決まってないの? 小説では」
俺のゲーム脳の中では初めて相対するモンスターは、ス〇イムタイプか新しい系だと猪タイプ。
いきなり尻尾にナイフを生やした犬っころが出てきては、レベル1の勇者は何度復活の呪文のお世話になるか分からないだろう。
幾百と死に戻りを繰り返し、お城の引きこもりとなって埃を被ること請け合いだ。
それが3体。
最初はスラ〇ム1匹から始めてくれよ……。〇パスさんもいないんだし。
「小説だとスライム系か、ゴブリンってモンスターが出てくることが多いね。後は狼とか」
「ゴブリン? ゴブリンって〇ァイナルファンタ〇ーに出てくるあのアレ? 緑色とかしたくっそきもいやつ?」
先ほどの犬っころは瞳が濁っている――なんてことはなく、クリッとした黒目のどっちかというと可愛らしい感じだった。
だから、罪悪感湧いたんだけど……それで躊躇って、こっちが殺されてたら意味ないからな。正当防衛、正当防衛。
俺のゴブリンというモンスターの知識は子鬼。緑色をして気持ちの悪い得体のしれない生き物。
つか、何でそれが弱いんだろ?
鬼って付いてる時点でスゲー強そうなんだけどな……。
そんなことを考えていると、歩は嬉しそうに笑い――
「そうだよ。まずゴブリンの集落とかを一蹴して、俺tueeeeeってやるの!」
その言葉を聞き俺は思わず声を荒げる。
「いやいや、待てよ! 待てって! ゴブリンが強いか弱いかは知らんよ? 善悪も知らん。 けどさ、歩の話ではいじめられっ子が主人公になるんだろ?」
俺の言葉にキョトンとした顔をしながら首を捻る。
「全部が全部そうってわけじゃないけど、いじめられっ子が主人公ってのは多いよ。でも、どうしたの?」
「つーことはだ! モンスターが何かは知らんが、それを一蹴して喜んでる。つまり、いじめられっ子は本当はいじめっ子になりたいと思ってるわけ?」
歩は俺の言葉を聞き顔を驚愕に染め、項垂れる様に肩を落とした。
――だってそうだろ?
いじめられてた相手に仕返ししたい、復讐したい。まぁこれは分かるよ。分かるし理解も出来るし、自殺すんなら復讐しろくらいに思う。
――勿論、良い子は真似しないように!
けれど、それを八つ当たりするがごとく他の人間――いや、生物に向けてたらそれはただの犯罪者。
――処罰の対象だ!
夕刊の一面に悪事が掲載されて、刑務所へ入ることになるだろう。
小説やゲームの中でヒーローになりたいのは分かるけどさ、そこには意味が必要だと思うんだよなぁ。
ま、俺はいじめられたことがないから、いじめられっ子の本当の気持ちは分かんねぇ。相当に辛いんだろうってのは分かるけど……。
そんなことを考えると、俺も若干しんみりするな……と、思い歩いていると歩がポツポツと言葉を口にしだした。
「言われるまで気付かなかった。弱いと奪われる……って話あったよね? それで、僕、ユニーク魔法があって、やっぱり自分が当たり側なんだって思った。
その時、もう奪われる側じゃなくて、奪う側に回れるんだって思ってた。そう思うと、何だか情けなく思えてきちゃって……」
そうだなぁ……と、聞きながら頭に浮かぶのは、江原に頭を踏みつけられて泣いていた歩の姿。
泥と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、渡す金がなくなる程に奪われたあの姿。
あんな経験はしたことがないし、当然したくもない。
そう思えば、自分で情けないと考えれた歩はすげぇなって思う。
いや、ほんと奪う側に回るのが当たり前!とか言う奴じゃなくて良かった。
もし、歩がそんなクズ野郎だったら――
――す巻きにして川に放り込んでるところだ!
ま、そうすると俺が夕刊の一面を飾っちゃうんだけどな。てへぺろ。
「な、何気持ち悪い顔――」
「シャラーーーップ!」
鼻をひくつかせながら俺の顔を見つめてきていた歩の言葉に、顔の前に手を付きつけながら制止をかけた。
今、俺に触れるな!
相手は死ぬ。
ま、そんな阿呆な考えはどうでも良いとして、歩に声をかけてやらねばならぬ。
「奪う側に回れる力を持って、奪われる側を守ってやる。それがいいんじゃね? 勿論、正当防衛は俺はいいと思う。やられる前にやれ!くらいに思ってる」
「そーだね! 何だか兵輔といると僕の考えが変わっていくような気がするよ」
「はは、そうか? 俺は直前に頑張る組だからな。小説を読んでたらまた考えが変わってたかもしれんけど」
俺の言葉に「うーん」と唸り声を上げながら腕を組んでみせる。
「どーなんだろ? 兵輔の考えでは勧善懲悪が良くないっていう事なんでしょ? ちょっと違うかな……?」
勧善懲悪ってのは、善い行いをして、悪い事は罰しなさいって事だったっけな。
俺も歩のように腕を組んでしばし黙考。そして、口を開く。
「完全懲悪ならいいよ。完全ってのはパーフェクトの完全な? でもさ、善悪って結局誰が決めるわけ?」
「誰が……。何だか哲学的だね? 難しいなぁ……、兵輔ってお調子者系なのに……」
し、失礼な奴だな……と、俺は唇がプルプルと震えるのを感じながら口を開く。
「ふ、ふふ。お、お調子者ですか……? まぁいいや。俺の考えでは世の中の善悪は多数決で決まる、はいおわり」
「ええっ? 何その単純な結論……。多数決……、じゃあ例えば人を殺しても良いと思ってる人が、半数を超えたらそれが善いことになるわけ?」
「そういうことになるな。けどな、それはあくまで『世の中の』理屈だ。俺が言いたいのはそういう事じゃない」
俺の疑問に再度コテンと首を傾げて見せる。
「結局何が言いたいの?」
「俺が言いたいのは世の中の善悪じゃなくて、俺達の善悪を貫こうって事。
日本で現代人として誇りを持って生きてきただろ? なら、異世界に来たとしても、その誇りは失わないようにしようぜってな」
「なるほどね! 分かったよ。いやいや、目から鱗というかなんというか……」
「ま、そうは言っても、俺はなるべく来て欲しくはないと思っているが、来る時が来たら人を殺す覚悟もしてる。
言ったろ? 郷に入っては郷に従えって。仕方ない……の言葉で済ませたくはないが、大切なモノを守る為なら力と覚悟が必要なんだよ」
自分で言ってて矛盾してるかな……と、思いつつ、これが俺自身の考えなんだよなぁと考える。
現代と異世界では、おそらく文化から考え方まで何から何まで違うはず。
現代人の誇りを保ちつつも、それに順応出来なければ、ただ骸となって打ち捨てられてしまうだけだろう。
これで大体話は終わったかな……と、思って歩いていると、後方からガサっと大きな音が耳に届く。
話が終わるの待っててくれてたんですか? ご都合主義な世界ですねぇ……と思いつつ、歩に向かって口を開く。
「聞こえたか? 一応武器を描けるようにしとけ、んで振り返るぞ」
「うん、分かった」
魔力はレベルアップで微妙に回復したが、それでも現在魔力量は150程。歩もほとんど魔力はないだろう。
俺は剣の柄に手を当てつつ、落ちていた石ころを3個ほど拾い上げ振り返る。
けれど木の幹が立ち並ぶだけで――って、いやいや、全然隠れられてねーし!
という感じで、木の幹の倍程の体躯の男が、必死に隠れようとしているのが目に映る。
「おい! 俺達を尾けてんのか? ぜんっぜん隠れられてねーぞ!」
コメディかよ……と思いつつ見ていると、予想外に木の幹から出てきたのは三人。大男を除けば、変な女と小さな男。しかも、全員同じ幹……。
そのまま女と男にその大男は殴られて地面に転がると、ゲシゲシと足蹴にされる。なんだこれ。
「だぁから、痩せなさいって、いつも言ってんでしょーがぁ!」
「ほんとですよ。私とレミュエラ姉さんだけなら、見つかることもなかったのですよ」
「ご、ごめぇん。兄ちゃんと姉ちゃぁん。謝ってるんだから蹴らないでくれよぉ」
いや、同じ木に隠れてたら、大男がいなくてもいずれ見つかるだろ……と思いつつ三人の姿を観察する。
まるで仮面舞踏会のような変なマスクを付けた――細身のくせにナイスバディで露出度の髙い、赤と黒の軽装鎧のようなものをつけている女……は、レミュエラ姉さん?
ウェーブがかったド派手なピンク色の髪をして、マスクから覗く瞳は青色に輝いている。変な蠅叩きのようなものを持っていて、まるでどこぞのSM女王。
次は俺よりも身長がかなり低い男。おそらく160センチないくらいだろう。顔立ちは整っているが、目にクマがあり若干不健康に見える
カールした金髪が特徴的だが、服装は俺たちと似たような服装で、腰にはおそらくレイピアとかいう剣の鞘を差している。
そして、その二人に足蹴りを食らっているのが、太さ50センチ程の木の幹に全く隠れられない大男。
黒髪に無精ひげが目立ち、鎧を着こんだ割と強面の男だが、二人に蹴られて涙を流している様子。は背中に大きな斧を携えている。こえぇな。
俺も歩もその様子を見て呆然。何が目的なのかも、どうしたらいいのかも分からない。
逃げてもいいけど、そうすれば追ってくるだろう。そうだとするなら撃退しておきたい。
しっかし、気になるところとツッコミどころが多すぎて、逆にツッコム気にもなれないんだが……。
「ど、どうする……歩?」
「どうしようね……、様子見てからと思ってまだ武器は描いてないけど。敵……なのかな?」
「だからさっき言ったじゃん? それは自分で感じて判断するしかねーって。見た目は確かに面白軍団だけど、それで判断するなよ」
と、俺が言った瞬間、三人の双眸が俺たちに向き交錯した。
「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」
「一気に喋んな! うぜぇ! 聞き取れねぇ!」
俺の言葉に三人は顔を見合わせて、うんうんと頷き合う。
まるで意思疎通のジェスチャー。そのまま三人で息を吸い込み――
「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」
「だから、何なんだよ! 鬱陶しいぞ!」
今度はぼそぼそと三人で話し合いを始め、三回目が来んのか……? と思っていると女が声を上げた。
「オォーホッホッホッホ。まんまと私たちの作戦、多重層声域に惑わされたわねぇ!」
「いや、つーか! こねーのかよ! もっかい来ると思ってたよ! やり直しっ!」
女は俺の言葉にポカンと真っ赤な唇を開けると、再度三人は口を近付けぼそぼそと話を始める。
そして大きく息を吸い込み――
「だ――」
「だ――」
「お――」
「――もういいわ?」
つって、言いかけた瞬間俺が大声を被せて止める。
ふっ、勝ったな。多重層声域とか訳わからんことぬかして勝ち誇るからだ!
「――もしろ軍団なんかじゃぁないんだぞぉ」
っと、一人止まらなかったようだが……まぁ良しとしよう。またゲシゲシ蹴られてるし。
そんな時、俺の服が引っ張られ、歩が小声で不安そうに声を掛けてくる。
「だ、大丈夫? そんな無茶苦茶やって。あの斧持ってる人、怒らせたらやばい気がするよ?」
刀身本体が直径50センチはありそうかという斧。おそらく重さも相当なものだろう。
確かにあれを振り回されると危険。おそらく俺達で対応できるとは思えない。
「いや、ついな……。俺、変な奴にはちょっかい出したくなるんだよ……」
けど、なんとなく大丈夫なような気がしていた。なぜなら、緊迫感が一ミリも湧いてこないから。
もしこれが作戦なら俺達の首は胴体と離れて、落ち葉の上に転がるだろう。けれど、こいつらのは天然ものな気がする……。
そう思っているとチラチラと俺達の事を見ながらの、三人の会話が耳に届いてくる。特に隠そうとしてない様子の会話が。
「あいつらやるわね」「はい、驚きましたよ」「蹴らないでくれよぉ」
「でも、あの二人で間違いないんでしょ?」「ええ、今朝しっかりとこの目で見ましたから」「そろそろお腹空いたよぉ」
「せ、背の高いほうは、け、結構好みよ」「ま、またいつもの癖ですか?」「ねぇちゃん惚れ性過ぎるぞぉ」
うーん。会話からするに朝の物陰の音が、この背の小さい奴だったってことだろうか。
しっかし、女は俺に気があるってことかな……? 歩より俺の方が明らかに背が高いもんな、うん。
そう思いながら念のため後ろを振り向いてみたが、誰もいたりはしなかった。
う、うん、いや、莉緒が一番好きだけどさ、どんな変な女の子にでも、好意を持たれたら嬉しいもんだよな、うん。
そ、それもかなりのナイスバディ―だしな……。変なマスク付けて敵であほっぽいけど……。う、うん。
若干の嬉しさで心拍が高鳴るのを感じつつ、最大の疑問を尋ねてみることにした。
「つーか、結局お前らは誰で、何の目的で尾けてきてたんだよ?」
レベルが上がったためか、嬉しそうな顔をしながらステータスを眺めている歩に、最も強く感じていた疑問を口にする。
「つーかさぁ、初モンスターって、〇ライムって決まってないの? 小説では」
俺のゲーム脳の中では初めて相対するモンスターは、ス〇イムタイプか新しい系だと猪タイプ。
いきなり尻尾にナイフを生やした犬っころが出てきては、レベル1の勇者は何度復活の呪文のお世話になるか分からないだろう。
幾百と死に戻りを繰り返し、お城の引きこもりとなって埃を被ること請け合いだ。
それが3体。
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「ゴブリン? ゴブリンって〇ァイナルファンタ〇ーに出てくるあのアレ? 緑色とかしたくっそきもいやつ?」
先ほどの犬っころは瞳が濁っている――なんてことはなく、クリッとした黒目のどっちかというと可愛らしい感じだった。
だから、罪悪感湧いたんだけど……それで躊躇って、こっちが殺されてたら意味ないからな。正当防衛、正当防衛。
俺のゴブリンというモンスターの知識は子鬼。緑色をして気持ちの悪い得体のしれない生き物。
つか、何でそれが弱いんだろ?
鬼って付いてる時点でスゲー強そうなんだけどな……。
そんなことを考えていると、歩は嬉しそうに笑い――
「そうだよ。まずゴブリンの集落とかを一蹴して、俺tueeeeeってやるの!」
その言葉を聞き俺は思わず声を荒げる。
「いやいや、待てよ! 待てって! ゴブリンが強いか弱いかは知らんよ? 善悪も知らん。 けどさ、歩の話ではいじめられっ子が主人公になるんだろ?」
俺の言葉にキョトンとした顔をしながら首を捻る。
「全部が全部そうってわけじゃないけど、いじめられっ子が主人公ってのは多いよ。でも、どうしたの?」
「つーことはだ! モンスターが何かは知らんが、それを一蹴して喜んでる。つまり、いじめられっ子は本当はいじめっ子になりたいと思ってるわけ?」
歩は俺の言葉を聞き顔を驚愕に染め、項垂れる様に肩を落とした。
――だってそうだろ?
いじめられてた相手に仕返ししたい、復讐したい。まぁこれは分かるよ。分かるし理解も出来るし、自殺すんなら復讐しろくらいに思う。
――勿論、良い子は真似しないように!
けれど、それを八つ当たりするがごとく他の人間――いや、生物に向けてたらそれはただの犯罪者。
――処罰の対象だ!
夕刊の一面に悪事が掲載されて、刑務所へ入ることになるだろう。
小説やゲームの中でヒーローになりたいのは分かるけどさ、そこには意味が必要だと思うんだよなぁ。
ま、俺はいじめられたことがないから、いじめられっ子の本当の気持ちは分かんねぇ。相当に辛いんだろうってのは分かるけど……。
そんなことを考えると、俺も若干しんみりするな……と、思い歩いていると歩がポツポツと言葉を口にしだした。
「言われるまで気付かなかった。弱いと奪われる……って話あったよね? それで、僕、ユニーク魔法があって、やっぱり自分が当たり側なんだって思った。
その時、もう奪われる側じゃなくて、奪う側に回れるんだって思ってた。そう思うと、何だか情けなく思えてきちゃって……」
そうだなぁ……と、聞きながら頭に浮かぶのは、江原に頭を踏みつけられて泣いていた歩の姿。
泥と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、渡す金がなくなる程に奪われたあの姿。
あんな経験はしたことがないし、当然したくもない。
そう思えば、自分で情けないと考えれた歩はすげぇなって思う。
いや、ほんと奪う側に回るのが当たり前!とか言う奴じゃなくて良かった。
もし、歩がそんなクズ野郎だったら――
――す巻きにして川に放り込んでるところだ!
ま、そうすると俺が夕刊の一面を飾っちゃうんだけどな。てへぺろ。
「な、何気持ち悪い顔――」
「シャラーーーップ!」
鼻をひくつかせながら俺の顔を見つめてきていた歩の言葉に、顔の前に手を付きつけながら制止をかけた。
今、俺に触れるな!
相手は死ぬ。
ま、そんな阿呆な考えはどうでも良いとして、歩に声をかけてやらねばならぬ。
「奪う側に回れる力を持って、奪われる側を守ってやる。それがいいんじゃね? 勿論、正当防衛は俺はいいと思う。やられる前にやれ!くらいに思ってる」
「そーだね! 何だか兵輔といると僕の考えが変わっていくような気がするよ」
「はは、そうか? 俺は直前に頑張る組だからな。小説を読んでたらまた考えが変わってたかもしれんけど」
俺の言葉に「うーん」と唸り声を上げながら腕を組んでみせる。
「どーなんだろ? 兵輔の考えでは勧善懲悪が良くないっていう事なんでしょ? ちょっと違うかな……?」
勧善懲悪ってのは、善い行いをして、悪い事は罰しなさいって事だったっけな。
俺も歩のように腕を組んでしばし黙考。そして、口を開く。
「完全懲悪ならいいよ。完全ってのはパーフェクトの完全な? でもさ、善悪って結局誰が決めるわけ?」
「誰が……。何だか哲学的だね? 難しいなぁ……、兵輔ってお調子者系なのに……」
し、失礼な奴だな……と、俺は唇がプルプルと震えるのを感じながら口を開く。
「ふ、ふふ。お、お調子者ですか……? まぁいいや。俺の考えでは世の中の善悪は多数決で決まる、はいおわり」
「ええっ? 何その単純な結論……。多数決……、じゃあ例えば人を殺しても良いと思ってる人が、半数を超えたらそれが善いことになるわけ?」
「そういうことになるな。けどな、それはあくまで『世の中の』理屈だ。俺が言いたいのはそういう事じゃない」
俺の疑問に再度コテンと首を傾げて見せる。
「結局何が言いたいの?」
「俺が言いたいのは世の中の善悪じゃなくて、俺達の善悪を貫こうって事。
日本で現代人として誇りを持って生きてきただろ? なら、異世界に来たとしても、その誇りは失わないようにしようぜってな」
「なるほどね! 分かったよ。いやいや、目から鱗というかなんというか……」
「ま、そうは言っても、俺はなるべく来て欲しくはないと思っているが、来る時が来たら人を殺す覚悟もしてる。
言ったろ? 郷に入っては郷に従えって。仕方ない……の言葉で済ませたくはないが、大切なモノを守る為なら力と覚悟が必要なんだよ」
自分で言ってて矛盾してるかな……と、思いつつ、これが俺自身の考えなんだよなぁと考える。
現代と異世界では、おそらく文化から考え方まで何から何まで違うはず。
現代人の誇りを保ちつつも、それに順応出来なければ、ただ骸となって打ち捨てられてしまうだけだろう。
これで大体話は終わったかな……と、思って歩いていると、後方からガサっと大きな音が耳に届く。
話が終わるの待っててくれてたんですか? ご都合主義な世界ですねぇ……と思いつつ、歩に向かって口を開く。
「聞こえたか? 一応武器を描けるようにしとけ、んで振り返るぞ」
「うん、分かった」
魔力はレベルアップで微妙に回復したが、それでも現在魔力量は150程。歩もほとんど魔力はないだろう。
俺は剣の柄に手を当てつつ、落ちていた石ころを3個ほど拾い上げ振り返る。
けれど木の幹が立ち並ぶだけで――って、いやいや、全然隠れられてねーし!
という感じで、木の幹の倍程の体躯の男が、必死に隠れようとしているのが目に映る。
「おい! 俺達を尾けてんのか? ぜんっぜん隠れられてねーぞ!」
コメディかよ……と思いつつ見ていると、予想外に木の幹から出てきたのは三人。大男を除けば、変な女と小さな男。しかも、全員同じ幹……。
そのまま女と男にその大男は殴られて地面に転がると、ゲシゲシと足蹴にされる。なんだこれ。
「だぁから、痩せなさいって、いつも言ってんでしょーがぁ!」
「ほんとですよ。私とレミュエラ姉さんだけなら、見つかることもなかったのですよ」
「ご、ごめぇん。兄ちゃんと姉ちゃぁん。謝ってるんだから蹴らないでくれよぉ」
いや、同じ木に隠れてたら、大男がいなくてもいずれ見つかるだろ……と思いつつ三人の姿を観察する。
まるで仮面舞踏会のような変なマスクを付けた――細身のくせにナイスバディで露出度の髙い、赤と黒の軽装鎧のようなものをつけている女……は、レミュエラ姉さん?
ウェーブがかったド派手なピンク色の髪をして、マスクから覗く瞳は青色に輝いている。変な蠅叩きのようなものを持っていて、まるでどこぞのSM女王。
次は俺よりも身長がかなり低い男。おそらく160センチないくらいだろう。顔立ちは整っているが、目にクマがあり若干不健康に見える
カールした金髪が特徴的だが、服装は俺たちと似たような服装で、腰にはおそらくレイピアとかいう剣の鞘を差している。
そして、その二人に足蹴りを食らっているのが、太さ50センチ程の木の幹に全く隠れられない大男。
黒髪に無精ひげが目立ち、鎧を着こんだ割と強面の男だが、二人に蹴られて涙を流している様子。は背中に大きな斧を携えている。こえぇな。
俺も歩もその様子を見て呆然。何が目的なのかも、どうしたらいいのかも分からない。
逃げてもいいけど、そうすれば追ってくるだろう。そうだとするなら撃退しておきたい。
しっかし、気になるところとツッコミどころが多すぎて、逆にツッコム気にもなれないんだが……。
「ど、どうする……歩?」
「どうしようね……、様子見てからと思ってまだ武器は描いてないけど。敵……なのかな?」
「だからさっき言ったじゃん? それは自分で感じて判断するしかねーって。見た目は確かに面白軍団だけど、それで判断するなよ」
と、俺が言った瞬間、三人の双眸が俺たちに向き交錯した。
「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」
「一気に喋んな! うぜぇ! 聞き取れねぇ!」
俺の言葉に三人は顔を見合わせて、うんうんと頷き合う。
まるで意思疎通のジェスチャー。そのまま三人で息を吸い込み――
「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」
「だから、何なんだよ! 鬱陶しいぞ!」
今度はぼそぼそと三人で話し合いを始め、三回目が来んのか……? と思っていると女が声を上げた。
「オォーホッホッホッホ。まんまと私たちの作戦、多重層声域に惑わされたわねぇ!」
「いや、つーか! こねーのかよ! もっかい来ると思ってたよ! やり直しっ!」
女は俺の言葉にポカンと真っ赤な唇を開けると、再度三人は口を近付けぼそぼそと話を始める。
そして大きく息を吸い込み――
「だ――」
「だ――」
「お――」
「――もういいわ?」
つって、言いかけた瞬間俺が大声を被せて止める。
ふっ、勝ったな。多重層声域とか訳わからんことぬかして勝ち誇るからだ!
「――もしろ軍団なんかじゃぁないんだぞぉ」
っと、一人止まらなかったようだが……まぁ良しとしよう。またゲシゲシ蹴られてるし。
そんな時、俺の服が引っ張られ、歩が小声で不安そうに声を掛けてくる。
「だ、大丈夫? そんな無茶苦茶やって。あの斧持ってる人、怒らせたらやばい気がするよ?」
刀身本体が直径50センチはありそうかという斧。おそらく重さも相当なものだろう。
確かにあれを振り回されると危険。おそらく俺達で対応できるとは思えない。
「いや、ついな……。俺、変な奴にはちょっかい出したくなるんだよ……」
けど、なんとなく大丈夫なような気がしていた。なぜなら、緊迫感が一ミリも湧いてこないから。
もしこれが作戦なら俺達の首は胴体と離れて、落ち葉の上に転がるだろう。けれど、こいつらのは天然ものな気がする……。
そう思っているとチラチラと俺達の事を見ながらの、三人の会話が耳に届いてくる。特に隠そうとしてない様子の会話が。
「あいつらやるわね」「はい、驚きましたよ」「蹴らないでくれよぉ」
「でも、あの二人で間違いないんでしょ?」「ええ、今朝しっかりとこの目で見ましたから」「そろそろお腹空いたよぉ」
「せ、背の高いほうは、け、結構好みよ」「ま、またいつもの癖ですか?」「ねぇちゃん惚れ性過ぎるぞぉ」
うーん。会話からするに朝の物陰の音が、この背の小さい奴だったってことだろうか。
しっかし、女は俺に気があるってことかな……? 歩より俺の方が明らかに背が高いもんな、うん。
そう思いながら念のため後ろを振り向いてみたが、誰もいたりはしなかった。
う、うん、いや、莉緒が一番好きだけどさ、どんな変な女の子にでも、好意を持たれたら嬉しいもんだよな、うん。
そ、それもかなりのナイスバディ―だしな……。変なマスク付けて敵であほっぽいけど……。う、うん。
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