手紙

ドラマチカ

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3話

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 楽しい時間は早いもので、出店を回って食べて飲んで――もちろんソフトドリンクだが――射的などのゲームもした。そうして遊んでいるうちに、いつの間にか陽は沈み暗い空を月が照らしている。出店の明かりや公園の街灯が煌々と辺りを照らし、月明かりも相まって夜とはいっても暗くはない。
 益子は郡山に買ってもらったアメリカンドッグを頬張りながらチラリ、と郡山を盗み見た。
 実は、陽が落ちる前から飲食していても祭りでしか楽しめないゲームをしている時も、郡山は女子に声を掛けられていた。隣に益子がいても女子の視線は郡山にくぎ付けで、いたたまれない気持ちになることが何度もあった。ナンパというものは男子だけがするものではないのだと益子は学んだ。
 休みに入る前から約束していたとはいえ、本当は女子とデートをしたかったのではないか、と思ってしまう。声を掛けてきた女子に、好みの子がいたのではないか。郡山は優しいから、先約である俺を優先しているだけなのではないか。俺のせいで、郡山の出会いを台無しにしているのではないか。益子の心にあった小さな不安が少しずつ大きくなっていく。笑顔で丁寧に誘いを断る郡山を見るたびに心がチクチクと痛み、一緒にいてはいけないのではないかという気持ちになる。この胸の痛みは声を掛けられる女子たちへの嫉妬なのか、それとも郡山に迷惑をかけてしまっているのではないかという罪悪感からなのか。今の益子には分らない。ただただ痛くて苦しい。そんな益子の気持ちが表情に出ていたのだろうか、気が付くと郡山が心配そうに益子を見つめていた。
「……どうした? 気分悪い?」
 郡山は益子に近付き、近かった距離がさらに近くなる。光を集めて輝く郡山の黒い瞳に自分が映っているのが、嬉しい。俺だけに優しければいいのに。その綺麗な瞳に、俺だけを映してくれたらいいのに。益子の脳裏によぎった自分の無意識の恐ろしい本音にゾクリ、と悪寒がして身震いする。こんな気持ちは知られてはいけない。自分への嫌悪感を必死に隠して、益子は郡山に笑顔を向けた。
「何でもない。ちょっと人が多くて酔ったみたいだ」
 正直言って、誤魔化せたかどうかは分からない。実際ちゃんと笑えていた自信もない。そして郡山は勘がいい。特にこういう、あまりいい状況――益子にとって――ではない場面では。しかし、勘付いたからと言って無理に聞き出したりしないのも郡山のいいところで好きなところのひとつだな、と思う。
「……そうか。どんどん人が増えてるもんな。はぐれないように手、繋ごうか?」
 そう言いながら郡山は安心させるように、しかし冗談交じりに笑って益子の手をそっと握った。嬉しい。手を握るだけで高揚する。しかし、そんなことをされては益子の心臓は落ち着かない。ドクンドクンと脈打つ音が大きくなった気がする。繋いだ手から鼓動が伝わるのではないかと有り得ないことを真剣に考える。頬はじんわり熱くなり、汗が滲んでくる。こんな状態で手汗なんてかこうものなら恥ずかしくて顔を合わせることもできなくなってしまう。益子は名残惜しいと思いながら、郡山の手を解いた。
「暑いし、もっと何か食べたいから」
 言い訳をして、屋台の方に向かって歩き出す。郡山の益子への気持ちを少しは理解しているつもりだ。だが、それは自分の恋心とは少し違う気がする。毎日郡山を求める夢をみる自分の穢れた感情とは違う。郡山のそれは、少し過剰な親友への想いであって自分の郡山への想いとは違う。期待するな。益子は自分にそう言い聞かせる。傷つきたくない。郡山とのこの関係を壊したくない。嫌われたくない。益子は期待しそうになる気持ちを振り切るように首を横に振って、ひとつ息を吐くと屋台のお兄さんに声を掛けた。
「りんご飴ふたつ!」
 お兄さんは、はいよ、と言ってりんご飴を二本益子に渡した。益子は振り返り、ちゃんと着いてきていた郡山にお金を払ってもらうとニカッと笑って一本を郡山に渡す。
「へへ。俺、実はりんご飴食べるの初めて」
 不安も、期待しそうになる気持ちも心の奥底に隠して、親友としての顔で郡山に笑いかける。益子には、それが精一杯だった。


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