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第四章 告白編
告白編 6
しおりを挟む「最初は何なのか分からなかったんですけど」
優しい柊一郎は、いつも分かりやすく話してくれるのに、今日は何だかよく分からない。悠介は困惑しつつも、それでもちゃんと聞いて考えて理解しなきゃ、と気合を入れる。柊一郎はそんな悠介に優しい眼差しを向けた。
「家に帰っていつもどおりに過ごして、ようやく合点がいったというか……」
「……なにが、どういう風に……?」
悠介は、詳しく、とでも言うように真剣な表情で問いかける。
「まず、どうやって家に帰ったか覚えてませんでした。気が付いたら、部屋にいたんです」
そんなことあるんですか、と驚いた悠介に柊一郎は笑った。
少しだけ鼓動が早くなてきたような気がするが、気付かなかったことにして先を続ける。
「シャワーを浴びても、食事をしても、好きなゲームをしても読書をしても……頭の中は一つだけでした」
聞き逃すまいと真剣に聞く悠介は、本人だけが気付いていないであろう美しい顔をしていて、柊一郎の胸は切なく疼く。話しながら、出会ってからこれまでのことが頭の中を駆け巡った。
「俺は、思ったんです。どうしてこんなにも頭の中を埋め尽くして、胸が高鳴るんだろう……って」
「……分かります……俺も、そういう風に……なったこと、あります……」
悠介は確信はなくとも、薄っすらと思い当たることがあるのだろう。そう思うと、柊一郎は微かな緊張を感じて息を吐いた。焦るな、と自分に言い聞かせる。
「今まで彼女がいて、振り回されることにウンザリして。一人が楽だと思ったし、付き合っても同じことの繰り返しなら、一人の方がいいと、今でも思っています」
「ウンザリとかではないですけど……俺も、一人の方がいいと思っています……ニャーがいてくれれば……」
柊一郎は悠介の言葉に小さく頷いて、ニャーの小さな手を優しく撫でる。すべてはここにいるニャーから始まったのだ。
「ニャーと出会って、世界が変わって。本当に、心の底からニャーと出会えてよかったって思いました」
「分かります! ニャーは本当に、あ……す、すみません……また、やってしまいました……」
「ふふ。仕方ないですよ。ニャーは本当に最高の猫ですから」
柊一郎は思わず笑う。ニャーの尻尾が、左右に揺れる。
「ニャーに会いに来ている間も、一応気にはしてたんです。店主に挨拶くらいしないといけないのにって」
一息吐いて、今度はニャーの頭をそっと撫でる。相変わらず手触りがいい。いつまでも撫でていたくなる。
「そ、そうだったんですか……なんか、すみません……」
「いえ、俺の方こそ。挨拶もしないで」
「いいんです。急に来られても、俺逃げちゃいます……」
素直な悠介に、柊一郎はまた笑ってしまう。緊張はどんどん大きくなっていくが、それでも悠介の穏やかさが心地いい。
「ニャーと出会えただけでも、俺にとっては相当に幸せなことでした。でも……」
笑顔だった柊一郎の表情が、一気に真剣なものに変わった。悠介は、ドキリ、として小さな唇をキュ、と結んで柊一郎を見つめる。
柊一郎は深く息を吸い、そして長く吐く。それから意を決した様子でニャーの背中に置いてある悠介の手に、自分の手を重ねて、これまでにないほどに真剣な目を悠介に向けた。
「ただ一人の事が頭の中を埋め尽くして、胸が高鳴って。すぐに思い至ったんです」
「……」
柊一郎は言葉を区切る。これで、今まで築いてきた関係は終わるかもしれない。
それでも。
今日の事で、このままでは無理だと思った。ただ、見ているだけだなんて。傍にいても、守れないなんて。
柊一郎は真っ直ぐに悠介を見つめて、ゆっくりと口を開いた。
「犬山さん……俺は、あなたのことが……好きなんだ、と」
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