すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ

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第四章 告白編

告白編 10

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「だから……ごめんなさい……」
 悠介がそう言うと、柊一郎は唇を噛みながら立ち上がった。
 悠介は驚いたが、柊一郎はとうとう諦めて、呆れて出て行ってしまうのだろうと思った。悲しくて寂しい。柊一郎と過ごした日々が脳裏に浮かぶ。だが、これは自分が望んだ結果なのだ。悠介は視線を落として柊一郎の足元を見つめる。しかし。柊一郎は悠介が予想だにしない行動に出た。
 悠介の手を握ったまま、悠介の正面まで移動するとそこへ膝をついて顔を上げた。悠介を見つめる瞳は潤んでいて、悠介の胸を締め付ける。

「無理です……」
「……え?」
「犬山さんを、諦めるなんて……無理です!」 
 柊一郎は、生まれてこのかた一度も必死に何かを訴えたことなどなかった。だから、この気持ちをどうやって伝えればいいのか分からない。それでも、このまま引き下がるわけにはいかない。自分の全てをさらけ出して見せることができたらいいのに、と思う。
「っ、そんな……こと……っ」
 柊一郎の言動に困惑しながらも、手を振り払い出て行ってほしいなどと、言うことはできない。大好きな人に、そんなことできるわけがない。悠介は何も言えなくなってしまう。
「お願いです……俺を信じてください……っ」
「……っ」
「大切にします。絶対に、傷つけたりしませんっ」
 手を握られて、涙の滲む瞳で見つめられ、心の奥底から吐き出すような切羽詰まった柊一郎の声に何か言わなければと思うが、口がパクパクとするだけで言葉が出てこない。
「今までの人と……同じにしないで、ください……っ、俺は……犬山さんの傍にいたい……っ」
 柊一郎の瞳から零れ落ちそうなほど涙が溢れて、悠介の瞳にも涙が浮かぶ。こんなに想いをぶつけられたことなどない。悠介の中で、湧き上がる恐怖と今度こそ上手くいくのではないかという期待がない交ぜになる。それでも、前向きな返事は出てこない。
「好き、なんです……本当に、心の底から……っ」
 柊一郎は、気持ちを見せることができないのなら伝え続けるしかないと必死になる。こんな気持ちは初めてで。好きな気持ちも、楽しい嬉しいという気持ちも、切ない気持ちも幸せな気持ちも全部、あなたが教えてくれたのだ、と伝えたい。分かってほしい。この気持ちが過去の恋人たちのように真逆に変わるなんて有り得ない。自分の気持ちは自分にしか分からないのだ。だから、伝えるしか術がない。
「犬山さんを笑顔にしたい……俺の手で、幸せにしたい……笑って、幸せだと……言ってほしい……っ」
 片膝をついたまま悠介の手に顔を寄せる。そっと唇を押し付けて、すぐに離す。そしてまた悠介を見つめた。
「他の誰にも、犬山さんを渡したくない……犬山さんを好きだと思うだけで、涙が出るくらい……本当に、好きなんです……っ」
「しゅ、いちろう……さん……」
「離れるなんて……無理です……好きで好きで好きで……好きで……っ、好きでたまらないんですっ」
 自分の中の悠介への気持ちを吐き出していく。まだまだ出し切っていない。これくらいで、出し切ってしまうほど軽い気持ちではない。
「お願いします……チャンスをくださいっ、悲しませないと、証明して見せますからっ」
 柊一郎が涙ながらに訴える。
 そして今まで大人しく聞いていたニャーが立ち上がった。

 
 
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