10 / 19
十話
しおりを挟む
学年全体が進路について真剣に悩み始める頃、私は早々にとにかく親元を離れて一人暮らししようと決めていた。
進学か就職かを決める前にそれ自体が決定事項だったので、むしろ暮らす場所を決めてから進路を決めようとすら考えていたほどだ。
「へえ、面白い決め方だね」
普通友だちがこんな決め方をしていたら止めるものではないだろうか。
将来のことをもっとちゃんと考えろとかなんとか。余計なお世話という感じだけど。
だから冬真が面白いなどと言うものだから私の方が驚いてしまった。
誠はいつも通りだ。ふーんと言っただけで止めようともしない。
「二人はどうするの?」
学校から帰る道すがら、落ちている小石を足先で蹴り合いながら私は問いかけた。
私から誠に、誠から冬真に渡った小石は冬真が蹴り方を間違えて道の端の溝へと落ちてしまった。
全然決めてない、と冬真が笑いながら首を振る。
もう笑って答えているような場合ではないと思うのだけど。
「美羽が方針ははっきり決めてるんだから、それがちゃんと決まらないと俺たちも決められないだろ」
「……ん? 誠、それどういう意味?」
「は? 普通にそのままの意味だろ。必要以上に離れたら頻繁に会えなくなるし、大人になったから仕方ないとか、俺そういうの一番嫌い。近くにいる方が合理的だろ」
つまり私が行くところに付いてくる、ということだろうか。
それって責任重大ではないか。身軽に一人暮らしとか言ってられない。
「俺たちも家出て一緒に暮らすつもりだし」
誠がしれりと言うので、ああそうですか仲のいいことで何よりですという感想しか出ない。
誠と冬真の関係は、今の今まで特に大きな喧嘩もなく続いているのだから、私たちの年頃にしては大したものだろう。
最も未だに冬真はいつまで続くかなんて分かんないしね、などと平然と言うのでむしろ慣れてしまった誠より私の方がそれはどうなのかと心配してしまう。
冬真ジョークということにしておこう。いや冬真ジョークってなんだという話なのだけど。
「同棲ってやつ?」
「あー、なるほど。そういう風に言うのか。俺たちは同居とかルームシェアって言ってた」
夢もロマンもないだろそれ、と思ったのだがこの二人にそんなものを求めるのも間違いな気がする。
なにしろ二人でデートとかしなくていいのかと尋ねても、私が他に用事がないのに私を呼ばない理由はなんだと言われた。
どちらかというと私の方がおかしなことを言っているかのように目を丸くされたので、それはこっちがしたいことだと思った。
それ以来余計なことは言わないようにしてる。
今は携帯電話という文明の利器もあることだし、どうにかしてるんでしょう、多分。私が首を突っ込むことではない。
「むしろ美羽も気が向けばルームシェアどうだと誘うつもりだったけど、一人暮らしがしたいなら仕方ない」
「いや、それ家族に言えないし猛反対されるやつだから嫌だよ。するとしたら社会人になってだいぶ経ってからだよ」
ここでそれはちょっと、と言わない私も私なのだと理解している。
だってそれだいぶ楽しそうだ。
あと色々と楽だと思う。生活の面でも、お金の面でも、心の面でも。
「美羽はなんで家出たいの?やっぱり家族関係?」
「まあそんな感じ。父親はまあ我関せずだけど、母親がね。いい年頃の娘が彼氏ができないのはまだいいとして、異性に興味の欠片も持たないことを不審に思って何かしら言って来るのが面倒くさくて仕方ない。いや、前から勘付かれていたんだけど」
取り繕おうとしないから尚更だろう。
冬真と誠のことはまあ中学から一緒なのでなんとなく知られているらしいのだが、むしろ何もないらしいのでそれはそれで如何なものかうちの娘は恋をしないのではないかと心配らしい。
間違ってもいないので放っておいてもらいたいし、結婚も孫の顔も諦めてほしい。
「くだらねえ。泥沼だろ、それ。一旦離れろ、それがいい」
「うん。そこそこ離れた場所選ぶつもり。やっぱり就職になるかな。給料いいとこがいいなぁ」
それから冬真と誠もやっぱり就職か、いやうちの親は金は出してくれるから進学しておくか、などと騒がしい相談となったので、私の進路というより私たちの進路という感じになり、世間からしたらそんな決め方をするなんてと思われるかもしれないけど、やっぱりとても楽しかったのだ。
進学か就職かを決める前にそれ自体が決定事項だったので、むしろ暮らす場所を決めてから進路を決めようとすら考えていたほどだ。
「へえ、面白い決め方だね」
普通友だちがこんな決め方をしていたら止めるものではないだろうか。
将来のことをもっとちゃんと考えろとかなんとか。余計なお世話という感じだけど。
だから冬真が面白いなどと言うものだから私の方が驚いてしまった。
誠はいつも通りだ。ふーんと言っただけで止めようともしない。
「二人はどうするの?」
学校から帰る道すがら、落ちている小石を足先で蹴り合いながら私は問いかけた。
私から誠に、誠から冬真に渡った小石は冬真が蹴り方を間違えて道の端の溝へと落ちてしまった。
全然決めてない、と冬真が笑いながら首を振る。
もう笑って答えているような場合ではないと思うのだけど。
「美羽が方針ははっきり決めてるんだから、それがちゃんと決まらないと俺たちも決められないだろ」
「……ん? 誠、それどういう意味?」
「は? 普通にそのままの意味だろ。必要以上に離れたら頻繁に会えなくなるし、大人になったから仕方ないとか、俺そういうの一番嫌い。近くにいる方が合理的だろ」
つまり私が行くところに付いてくる、ということだろうか。
それって責任重大ではないか。身軽に一人暮らしとか言ってられない。
「俺たちも家出て一緒に暮らすつもりだし」
誠がしれりと言うので、ああそうですか仲のいいことで何よりですという感想しか出ない。
誠と冬真の関係は、今の今まで特に大きな喧嘩もなく続いているのだから、私たちの年頃にしては大したものだろう。
最も未だに冬真はいつまで続くかなんて分かんないしね、などと平然と言うのでむしろ慣れてしまった誠より私の方がそれはどうなのかと心配してしまう。
冬真ジョークということにしておこう。いや冬真ジョークってなんだという話なのだけど。
「同棲ってやつ?」
「あー、なるほど。そういう風に言うのか。俺たちは同居とかルームシェアって言ってた」
夢もロマンもないだろそれ、と思ったのだがこの二人にそんなものを求めるのも間違いな気がする。
なにしろ二人でデートとかしなくていいのかと尋ねても、私が他に用事がないのに私を呼ばない理由はなんだと言われた。
どちらかというと私の方がおかしなことを言っているかのように目を丸くされたので、それはこっちがしたいことだと思った。
それ以来余計なことは言わないようにしてる。
今は携帯電話という文明の利器もあることだし、どうにかしてるんでしょう、多分。私が首を突っ込むことではない。
「むしろ美羽も気が向けばルームシェアどうだと誘うつもりだったけど、一人暮らしがしたいなら仕方ない」
「いや、それ家族に言えないし猛反対されるやつだから嫌だよ。するとしたら社会人になってだいぶ経ってからだよ」
ここでそれはちょっと、と言わない私も私なのだと理解している。
だってそれだいぶ楽しそうだ。
あと色々と楽だと思う。生活の面でも、お金の面でも、心の面でも。
「美羽はなんで家出たいの?やっぱり家族関係?」
「まあそんな感じ。父親はまあ我関せずだけど、母親がね。いい年頃の娘が彼氏ができないのはまだいいとして、異性に興味の欠片も持たないことを不審に思って何かしら言って来るのが面倒くさくて仕方ない。いや、前から勘付かれていたんだけど」
取り繕おうとしないから尚更だろう。
冬真と誠のことはまあ中学から一緒なのでなんとなく知られているらしいのだが、むしろ何もないらしいのでそれはそれで如何なものかうちの娘は恋をしないのではないかと心配らしい。
間違ってもいないので放っておいてもらいたいし、結婚も孫の顔も諦めてほしい。
「くだらねえ。泥沼だろ、それ。一旦離れろ、それがいい」
「うん。そこそこ離れた場所選ぶつもり。やっぱり就職になるかな。給料いいとこがいいなぁ」
それから冬真と誠もやっぱり就職か、いやうちの親は金は出してくれるから進学しておくか、などと騒がしい相談となったので、私の進路というより私たちの進路という感じになり、世間からしたらそんな決め方をするなんてと思われるかもしれないけど、やっぱりとても楽しかったのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる