SとHの日記録〜化け狸ですが、小説のモデルにされてます〜

蒼キるり

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1.僕は化け狸です。

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 僕は生まれた時から化け狸だ。
 とはいえ、うちの両親は至って普通の人間である。
 生まれてから一週間ほどした時、物音に驚いた赤ん坊の僕から飛び出した狸の耳と尻尾に、両親は僕以上に驚いたそうだ。
 まあ、当然の反応だと思う。
 それでも、僕を気味悪がったり病院に連れて行ったりしなかったのは、ひとえに母が昔からこんなことを聞いて育っていたからだろう。


『うちの遠い先祖は化け狸だった』


 曽祖母から祖母に、祖母から母に、受け継がれてきた話を、母は半分作り話しだと思って聞いていたらしい。
 でも生まれた僕を見て本当のことだったのかと納得したという。


「こういうのを先祖返りって言うのかしらねぇ」


 自分は狸らしいとこなんて一つもないからそうなんだろうと、ころころ愉快そうに母は笑っていた。
 こんなこともあるんだなぁ、と父もしみじみ言っていた。
 言ってしまえばお気楽そのものの両親の存在に、僕が助けられたのも事実だ。

 両親が幾ら僕を可愛がってくれようと、流石に僕が化け狸なことを大っぴらにするわけにもいかなかった。
 気が動転すると耳と尻尾が飛び出すから、小学校はあまり通っていなかったし、そんなことをしていたら中学校でも馴染めなかった。

 だから、僕は高校に入ったら、目立たずひっそりと人並みの生活をしようと決めていた。
 まあ、そんな願いは木っ端微塵に打ち砕かれたわけだけど。



***



 窓の外から見える外はぽかぽかと暖かそうで、こんな日は日向ぼっこでもしたくなる。
 それなのにどうして僕は薄暗いじめじめとした空き教室、もとい文芸部の部室で、自分が今までどうやって生きてきたかなんて説明しているのだろうか。


「なるほど。平川くんはそういう人生を歩んできたんだね」

「人生って……半生くらいにしといてよ」


 ふむふむと頷きながらメモを取っている隣のクラスの佐原さんに、僕は控えめに反論した。
 ああ、隣のクラスとか言っていたら、また佐原さんに怒られてしまう。
 僕は佐原さんに促されるがままに文芸部に入ってしまったから、今や部員同士なのだから。


「面白いね。私、化け狸に会ったの初めてだから、聞きたいことがいっぱいだよ」

 机を挟んで向かい側に座る佐原さんの目がキラリと輝いて見えた。
 そりゃあ、滅多にいるものじゃないと思う。僕だって自分以外の化け狸に会ったことはないし。
 でもうきうきとした様子の佐原さんを見ていたら、そんな風に言うのは躊躇われる。
 僕はなんとか笑いながら、良かったねと言うしかなかった。


「きっといい小説にするからね!」


 にこにこと告げられ、僕は思ってもいないのに、楽しみだね、と言う羽目になった。
 佐原さんは化け狸をテーマにした小説を書くためには、リアリティーのある描写が必要なのだと僕に熱弁するような人だ。
 悪い人ではないのはわかるけど、ちょっと周りが見えなくなるのは玉に瑕だと思う。


「……僕のことを書いてるってバレないようにしてね」


 今のところ佐原さんにしかバレてないし、佐原さんも誰にも話さないと言ってくれているから、小説でバレたら本末転倒なのだ。
 大丈夫だと大きく頷く佐原さんに少々の不安を募らせながら、僕は引き続き佐原さんの聞きたがる話を続けた。


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