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トオルとアイリス
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朝早く、公園でトオルは一人、目を開けた。
今日も一日、仕事を頑張ろうとトオルが思ったところで、ふとベンチに人形が置かれていることに気がついた。
辺りをキョロキョロと見渡しても持ち主はいないようで、トオルは人形に近づいて話しかけることにした。
「こんにちは。君の持ち主はどうしたのかな。君を忘れて帰っちゃったの?」
『……わからない』
「わからない? 眠ってる間に置いていかれたのかな? 持ち主はどんな子?」
動くことのないうつむいた人形にトオルは当然のように問いかける。
『どうして、わたしの声が、聞こえるの?』
「それは僕がロボットだからだよ。君と同じ人間に作られたものだから、お話ができるんだよ」
『あなたは人間に見える』
人形は表情を変えないけれど、トオルは全てお見通しだというように力強く頷いた。
「作った人がそう見えるようにしたからね。この公園に遊びに来る子どもたちと遊ぶのが僕の仕事さ」
ふふん、と胸を張るトオルの姿は人間の子どもにしか見えないけれど、でも小さく聞こえる機械音に、本当のことなのだと薄く汚れてしまった人形は驚いた。
「君の持ち主もきっと今日、遊びに来るよ。そしたら連れて帰ってもらえる。もう心配いらないよ」
励まされた古い人形はなんて答えていいのかわからないようにうつむいたままだ。
「そうだ。君の名前は?」
『……アイリス』
「アイリス! 僕はトオルっていうんだよ。少し間、よろしくね」
トオルは宣言通りアイリスを抱き上げて遊びに来た子どもたち一人一人にアイリスの持ち主かと尋ねた。
けれど、みんなの答えは「知らない」「そんな古い人形見たことない」というもので、トオルは焦っていた。
「大丈夫だよ。きっと迎えに来てくれるよ」
トオルは何度も声をかける。アイリスの表情はもちろん変わらないが、それでも落ち込んでいるであろうことがトオルにはわかった。
「そうだ。アイリスと持ち主の子のお話を聞かせてよ。聞きたいなぁ」
元気付けるために言ったトオルの言葉は想像以上にアイリスを元気にしたようで、次々に話し始めた。
一緒に遊びに行ったこと。どこでも連れて行ってくれたこと。髪をとかしてくれたこと。ベッドで共に眠ったこと。
それから遠い田舎に行った時、素晴らしい星を眺めて二人で願い事を言ったこと。
『また見たいなぁ』
「きっと見られるよ」
その日の夜、週に一度公園に来てトオルのメンテナンスをする人が来た。
そしてアイリスを見て顔をしかめる。
「トオル、それは明日には処分するから、もう持っていなくていいんだよ」
「え、でも、この子は持ち主が……」
「その人形は捨てられたんだよ。わからないのか? 最新式のロボットっていっても、この辺はやっぱり難しいのかな」
上手くいってると思ったのに、と残念そうに言ってその人は公園を出て行った。
『わたし、やっぱり捨てられたんだ』
アイリスは全てわかっていたという風に言う。なにもかも受け入れてしまっているようだった。
トオルはその言葉を遮るように言う。
「アイリス、遠くへ行こう。綺麗な星を一緒に見よう。この公園を出よう」
『でも、そんなことしたら、トオルは……』
「うん。ここを出ることは許されてないから、見つかったら僕は処分されてしまう。朝になればみんな気づく。でも、それは君も同じ。一緒ならそれでもいいと思って」
そう言ってトオルはアイリスを抱いたまま公園を飛び出した。都会の街はキラキラと夜でも光っていて、星は見えそうもない。
「どうしてかな。こんなことしようと思ったことないのに。あの公園だけが僕の世界だったのに、君の話を聞いて、世界はもっと広いんだって思えたんだ」
トオルはひたすらに足を動かした。自分がロボットだと道行く人に気づかれないうちにどこまでも遠くへ行きたかった。
『見て、トオル。少し、星が見え気がする』
「ほんとだ。なんてお願いする?」
『……どうか一秒でも長く、トオルと一緒にいられますように、かな』
うんと大きくトオルは頷いた。二人はどこまでもどこまでも遠くへ遠くへと走って行った。
今日も一日、仕事を頑張ろうとトオルが思ったところで、ふとベンチに人形が置かれていることに気がついた。
辺りをキョロキョロと見渡しても持ち主はいないようで、トオルは人形に近づいて話しかけることにした。
「こんにちは。君の持ち主はどうしたのかな。君を忘れて帰っちゃったの?」
『……わからない』
「わからない? 眠ってる間に置いていかれたのかな? 持ち主はどんな子?」
動くことのないうつむいた人形にトオルは当然のように問いかける。
『どうして、わたしの声が、聞こえるの?』
「それは僕がロボットだからだよ。君と同じ人間に作られたものだから、お話ができるんだよ」
『あなたは人間に見える』
人形は表情を変えないけれど、トオルは全てお見通しだというように力強く頷いた。
「作った人がそう見えるようにしたからね。この公園に遊びに来る子どもたちと遊ぶのが僕の仕事さ」
ふふん、と胸を張るトオルの姿は人間の子どもにしか見えないけれど、でも小さく聞こえる機械音に、本当のことなのだと薄く汚れてしまった人形は驚いた。
「君の持ち主もきっと今日、遊びに来るよ。そしたら連れて帰ってもらえる。もう心配いらないよ」
励まされた古い人形はなんて答えていいのかわからないようにうつむいたままだ。
「そうだ。君の名前は?」
『……アイリス』
「アイリス! 僕はトオルっていうんだよ。少し間、よろしくね」
トオルは宣言通りアイリスを抱き上げて遊びに来た子どもたち一人一人にアイリスの持ち主かと尋ねた。
けれど、みんなの答えは「知らない」「そんな古い人形見たことない」というもので、トオルは焦っていた。
「大丈夫だよ。きっと迎えに来てくれるよ」
トオルは何度も声をかける。アイリスの表情はもちろん変わらないが、それでも落ち込んでいるであろうことがトオルにはわかった。
「そうだ。アイリスと持ち主の子のお話を聞かせてよ。聞きたいなぁ」
元気付けるために言ったトオルの言葉は想像以上にアイリスを元気にしたようで、次々に話し始めた。
一緒に遊びに行ったこと。どこでも連れて行ってくれたこと。髪をとかしてくれたこと。ベッドで共に眠ったこと。
それから遠い田舎に行った時、素晴らしい星を眺めて二人で願い事を言ったこと。
『また見たいなぁ』
「きっと見られるよ」
その日の夜、週に一度公園に来てトオルのメンテナンスをする人が来た。
そしてアイリスを見て顔をしかめる。
「トオル、それは明日には処分するから、もう持っていなくていいんだよ」
「え、でも、この子は持ち主が……」
「その人形は捨てられたんだよ。わからないのか? 最新式のロボットっていっても、この辺はやっぱり難しいのかな」
上手くいってると思ったのに、と残念そうに言ってその人は公園を出て行った。
『わたし、やっぱり捨てられたんだ』
アイリスは全てわかっていたという風に言う。なにもかも受け入れてしまっているようだった。
トオルはその言葉を遮るように言う。
「アイリス、遠くへ行こう。綺麗な星を一緒に見よう。この公園を出よう」
『でも、そんなことしたら、トオルは……』
「うん。ここを出ることは許されてないから、見つかったら僕は処分されてしまう。朝になればみんな気づく。でも、それは君も同じ。一緒ならそれでもいいと思って」
そう言ってトオルはアイリスを抱いたまま公園を飛び出した。都会の街はキラキラと夜でも光っていて、星は見えそうもない。
「どうしてかな。こんなことしようと思ったことないのに。あの公園だけが僕の世界だったのに、君の話を聞いて、世界はもっと広いんだって思えたんだ」
トオルはひたすらに足を動かした。自分がロボットだと道行く人に気づかれないうちにどこまでも遠くへ行きたかった。
『見て、トオル。少し、星が見え気がする』
「ほんとだ。なんてお願いする?」
『……どうか一秒でも長く、トオルと一緒にいられますように、かな』
うんと大きくトオルは頷いた。二人はどこまでもどこまでも遠くへ遠くへと走って行った。
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