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13.ワームワームワーム
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ワームワームワーム、とずっと黙っていたのに、唐突なその明瞭な響きに俺は意図を把握し損ねた。
三回、三回はなんだ、決めていない。
「なんて言ったんだ。なあ、なんて。いま、なんて、どんな意味で」
その優しい響きで俺に何を伝えようとした?
優しい感触が動いて身体全部に触れられた。頭から足の先まで全部を抱きしめられているみたいだ。
そんなことをしてもらったことが俺にはなかった。
「あああああ」
喉から迸る絶叫に耳が痛かった。ぼたぼたと何か温かい液体が頬を伝う。
「俺はどんな大人にも等身大の俺を愛してはもらえない。だって俺が愛してないから。本当はそれが欲しかったんじゃないんだ。愛がなくてもいいよ、心なんて見えないから、ただ優しくされたかったんだよ。それってそんなにだめなことか。俺が愛せないから悪いのか。愛せたらこんなことにはなってないのか。それは俺が悪いのか。愛をもらえてないのは俺が悪いのか。あの人に愛されてたら、俺は!」
叫びながら泣いているのだと随分長い間気づかなかった。
「もしあの人に愛されてても愛せない人間だったらと思うと、それが一番怖いんだ」
昔、あの人と同じ画面を覗き込んだことがあったことを思い出す。あの人のお腹がもう随分と大きくなっていて、外出しなくなった頃だ。
暇になったあの人と一緒にラマーズ法について調べていた。難しそうだけど楽しそうと笑ったあの人が俺の腹を指先で撫でたのだ。ここに集中するんだって、と。
それからあの人は億劫そうな顔で珍しく俺の顔をしげしげと見つめていた。なに、と素っ気なく問いながらも俺はこの時間が永遠に続けばいいのにと思った。
あの人はふっと笑って「もしあんたを自分で産んでたらどんな感じだったのかな」と言ったのだ。
心底産んでもらえるお腹の中のあいつが羨ましかった。俺はあの人に抱きしめてもらいたかった。
「お前、俺に優しくしてくれてるのか」
不意にその事実に気がついた。いま、俺は、ずっと欲しくて欲しくて仕方なかったものを貰っているのではないだろうか。
「温かいな。柔らかいな。お前はどうしてこんなに人を泣かせるような優しさを持っているんだろうな。きっと誰もお前を愛していないだろうに」
この広い宇宙の片隅で誰もいない星の上でたった一人生きていただろうに、お前はどうしてそんなに優しい?
「ワームワームワーム」
涙と一緒にそんな言葉が零れた。
「三回は良いでも悪いでもない。なんて言葉にしたらいいかわからない時に言おう。俺はお前に向ける気持ちがなんなのかわからない」
何かはわからないけど、それでも伝えたい何かがあることはわかるよ。
「愛ならいいのに。愛だと言い切れる心が俺にあればよかったのに」
抱きしめてくれるその人を抱き返した。ずっと欲しかったものが腕の中にあるのかもしれない。
「俺がお前を愛せたらいいのに」
そうすれば幸せになれるかもしれないのに、これもきっと愛ではないのだろう。
「なあ、愛がない人間でも生きていていいか?」
ワーム、と力強く返ってきた返事に涙がぼろぼろと溢れた。息をするのも苦しいほどの涙に、俺も案外泣くのが下手なのかもしれないと思った。
ああ、当たり前だと、どんな人間だろうと生きていてもいいのだと、許された気がした。それが全て俺の思い込みだったとしても、構わなかった。
俺はこの星で生きてみたかったから。
三回、三回はなんだ、決めていない。
「なんて言ったんだ。なあ、なんて。いま、なんて、どんな意味で」
その優しい響きで俺に何を伝えようとした?
優しい感触が動いて身体全部に触れられた。頭から足の先まで全部を抱きしめられているみたいだ。
そんなことをしてもらったことが俺にはなかった。
「あああああ」
喉から迸る絶叫に耳が痛かった。ぼたぼたと何か温かい液体が頬を伝う。
「俺はどんな大人にも等身大の俺を愛してはもらえない。だって俺が愛してないから。本当はそれが欲しかったんじゃないんだ。愛がなくてもいいよ、心なんて見えないから、ただ優しくされたかったんだよ。それってそんなにだめなことか。俺が愛せないから悪いのか。愛せたらこんなことにはなってないのか。それは俺が悪いのか。愛をもらえてないのは俺が悪いのか。あの人に愛されてたら、俺は!」
叫びながら泣いているのだと随分長い間気づかなかった。
「もしあの人に愛されてても愛せない人間だったらと思うと、それが一番怖いんだ」
昔、あの人と同じ画面を覗き込んだことがあったことを思い出す。あの人のお腹がもう随分と大きくなっていて、外出しなくなった頃だ。
暇になったあの人と一緒にラマーズ法について調べていた。難しそうだけど楽しそうと笑ったあの人が俺の腹を指先で撫でたのだ。ここに集中するんだって、と。
それからあの人は億劫そうな顔で珍しく俺の顔をしげしげと見つめていた。なに、と素っ気なく問いながらも俺はこの時間が永遠に続けばいいのにと思った。
あの人はふっと笑って「もしあんたを自分で産んでたらどんな感じだったのかな」と言ったのだ。
心底産んでもらえるお腹の中のあいつが羨ましかった。俺はあの人に抱きしめてもらいたかった。
「お前、俺に優しくしてくれてるのか」
不意にその事実に気がついた。いま、俺は、ずっと欲しくて欲しくて仕方なかったものを貰っているのではないだろうか。
「温かいな。柔らかいな。お前はどうしてこんなに人を泣かせるような優しさを持っているんだろうな。きっと誰もお前を愛していないだろうに」
この広い宇宙の片隅で誰もいない星の上でたった一人生きていただろうに、お前はどうしてそんなに優しい?
「ワームワームワーム」
涙と一緒にそんな言葉が零れた。
「三回は良いでも悪いでもない。なんて言葉にしたらいいかわからない時に言おう。俺はお前に向ける気持ちがなんなのかわからない」
何かはわからないけど、それでも伝えたい何かがあることはわかるよ。
「愛ならいいのに。愛だと言い切れる心が俺にあればよかったのに」
抱きしめてくれるその人を抱き返した。ずっと欲しかったものが腕の中にあるのかもしれない。
「俺がお前を愛せたらいいのに」
そうすれば幸せになれるかもしれないのに、これもきっと愛ではないのだろう。
「なあ、愛がない人間でも生きていていいか?」
ワーム、と力強く返ってきた返事に涙がぼろぼろと溢れた。息をするのも苦しいほどの涙に、俺も案外泣くのが下手なのかもしれないと思った。
ああ、当たり前だと、どんな人間だろうと生きていてもいいのだと、許された気がした。それが全て俺の思い込みだったとしても、構わなかった。
俺はこの星で生きてみたかったから。
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