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3.心と約束
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バーの中には聴いたことのないお洒落な音楽が流れていた。
それが初めて会った私たちの会話を後押しをしてくれていた。
とはいっても、ずっと絶えず話をしていたわけではない。
向こうもお喋りな人ではないようで、お酒を飲む合間にぽつぽつと私たちは言葉を交わした。
それがひどく自然で、心地よくて、大人みたいだ、なんて馬鹿なことを思った。
とっくに大人なのに。
「なんだか、初めて会った気がしないな。すごく楽しいんだ」
彼の言葉に楽しいのは私だけではないのだと、ひどく高揚した。
私も、と頷くだけで心が躍った。
胸が高鳴って、心臓が胸の奥に収まっているのが不思議なくらいだった。
「なんて、ありきたり過ぎる言い方かな」
彼がそんな風に言って笑うから、そんなことないと私は首を振った。
「ありきたりでも、なんでもいい。あなたの言葉なら、なんでも嬉しいもの」
ぱちぱち、と彼が驚いたように瞬きを繰り返す。
少しの隙もないようだった彼が、幼いとすら見える顔をするのが面白くて、つい小さく笑ってしまった。
彼もつられたようにふっと、花がほころぶみたいに笑ってくれた。
作ったものではない自然な笑みに見えた。
「そう言ってくれたら、嬉しいけど」
ちょっと首をすくめて、彼がグラスに手を伸ばした。
ぴんと伸ばされた指がグラスの縁をなぞる姿は相変わらずうっとりするほど綺麗だったけど、少しだけぎこちなく見えた。
もしかして照れ隠しだろうか、なんて自分の都合の良い方向に考える。
きっと、私に嫌な感情は抱かれてないと思う。だから少しくらい良い方向に物事を考えても許されるはずだ。多分。
時間が飛ぶように過ぎるという体験を、私は初めてしたように思う。
気がついたら、もう帰らなければいけない時間だった。
「もう帰るの?」
その問いかけが少し寂しげに聞こえたのは、やっぱり私の都合のいい方向に考え過ぎだろうか。
でも彼の少し下がった眉や、名残惜しいと言わんばかりの口角に、いま都合よく考えなくていつ考えるというのだろう。
もうしばらくは好きな人とか恋人とかそんなのうんざりだと思っていたのが嘘みたいだ。
だって仕方ないじゃないか。私の心はいつだって正直なのだから。
いま心のままに動かなければ、きっと後悔する。
「また会えない?」
私の問いかけに彼は待っていた、とばかりに目を細めた。
私がそう言うのを待っていたみたいだった。
「来週、またここで会う?」
それに頷かないでいられるわけがなくて、絶対に来るからと場違いなほどの声で宣言をしてしまった。
それが初めて会った私たちの会話を後押しをしてくれていた。
とはいっても、ずっと絶えず話をしていたわけではない。
向こうもお喋りな人ではないようで、お酒を飲む合間にぽつぽつと私たちは言葉を交わした。
それがひどく自然で、心地よくて、大人みたいだ、なんて馬鹿なことを思った。
とっくに大人なのに。
「なんだか、初めて会った気がしないな。すごく楽しいんだ」
彼の言葉に楽しいのは私だけではないのだと、ひどく高揚した。
私も、と頷くだけで心が躍った。
胸が高鳴って、心臓が胸の奥に収まっているのが不思議なくらいだった。
「なんて、ありきたり過ぎる言い方かな」
彼がそんな風に言って笑うから、そんなことないと私は首を振った。
「ありきたりでも、なんでもいい。あなたの言葉なら、なんでも嬉しいもの」
ぱちぱち、と彼が驚いたように瞬きを繰り返す。
少しの隙もないようだった彼が、幼いとすら見える顔をするのが面白くて、つい小さく笑ってしまった。
彼もつられたようにふっと、花がほころぶみたいに笑ってくれた。
作ったものではない自然な笑みに見えた。
「そう言ってくれたら、嬉しいけど」
ちょっと首をすくめて、彼がグラスに手を伸ばした。
ぴんと伸ばされた指がグラスの縁をなぞる姿は相変わらずうっとりするほど綺麗だったけど、少しだけぎこちなく見えた。
もしかして照れ隠しだろうか、なんて自分の都合の良い方向に考える。
きっと、私に嫌な感情は抱かれてないと思う。だから少しくらい良い方向に物事を考えても許されるはずだ。多分。
時間が飛ぶように過ぎるという体験を、私は初めてしたように思う。
気がついたら、もう帰らなければいけない時間だった。
「もう帰るの?」
その問いかけが少し寂しげに聞こえたのは、やっぱり私の都合のいい方向に考え過ぎだろうか。
でも彼の少し下がった眉や、名残惜しいと言わんばかりの口角に、いま都合よく考えなくていつ考えるというのだろう。
もうしばらくは好きな人とか恋人とかそんなのうんざりだと思っていたのが嘘みたいだ。
だって仕方ないじゃないか。私の心はいつだって正直なのだから。
いま心のままに動かなければ、きっと後悔する。
「また会えない?」
私の問いかけに彼は待っていた、とばかりに目を細めた。
私がそう言うのを待っていたみたいだった。
「来週、またここで会う?」
それに頷かないでいられるわけがなくて、絶対に来るからと場違いなほどの声で宣言をしてしまった。
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