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10.経験とシンデレラ
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それは今まで経験したことのない、満ち足りた時間だった。
一度知ってしまったら、もう逃れられないのではないかと思うほどに。
少し意外なことに彼は本当に最後まではしなかった。
もちろん最初からそう言っていたけれど、例えば触ってとかそういうことくらいは言われるものだと思っていた。
彼は一度も自分の欲望を私に突き付けようとはしなかった。
それをただ気持ちよくなれて良かったじゃないかと喜べばいいのか、私では抱きたくならないのだろうかと悩めばいいのかは、分からなかった。
「ごめんね、用事があるから朝になる前に帰らなきゃいけないんだ」
行為が終わった後にしばらくベッドの中でとろとろと微睡んでいると、そんなことを言われた。
驚くほどにパッと目が覚めた。彼が宥めるみたいに私の手を少しだけ撫でた。
なんだかシンデレラみたい。引き止めたってきっと帰ってしまうのだ。
そんなことを、ふと心の中で思った。もちろん言葉にはしなかったけど。
「また会える?」
「会いたいって思ってくれるの?」
「もちろん」
むしろ私より彼が会いたいと思ってくれるかどうかが不安だった。だって彼にメリットがあるとは思えない。
それとも本当に触ることだけしたいタイプの人なのだろうか。それなら最後までしてほしいと頼まない人なら都合が良いと思ってもらえるだろうか。
最初に一夜だけでもいいと思っていたのが嘘みたいだった。だってこんなにも素敵な夜が待っているだなんて思わなかった。
いつまでも人に触れていたいと思ったのは初めてだ。
別に今も恋人になりたいとか、そんな風には思わないのだけど、これきりになってしまうのは嫌だった。
「気が向いたら連絡して」
彼はそう言って、さらさらとメモにメールアドレスを書いてくれた。
まさか連絡先を教えてくれるとは思わなかった。私が驚いている間に彼はいなくなってしまった。
こんなことがあった後だから、もうあのバーでも会えないかもしれないと思っていた。だけど、少しくらいは期待してもいいのだろうか。
それでも電話番号は教えてくれなかったし、私のメールアドレスを聞こうとはしなかった。
だから、私からメールを送った時も返信はないかもしれないと思っていた。期待なんてしたら返信が無かった時が辛い。
あれはだった一度の良い思い出にしておくべきことなのかもしれない。だってあんな素敵な人が私に触れてくれたことが奇跡なのだから。
そう思っていた。いやそう思って諦めようとしていたのかもしれない。
あそこには行きにくいから、またオススメのバーを教えてと友人に頼もうかと考えていた時、彼からメールが来た。
一度知ってしまったら、もう逃れられないのではないかと思うほどに。
少し意外なことに彼は本当に最後まではしなかった。
もちろん最初からそう言っていたけれど、例えば触ってとかそういうことくらいは言われるものだと思っていた。
彼は一度も自分の欲望を私に突き付けようとはしなかった。
それをただ気持ちよくなれて良かったじゃないかと喜べばいいのか、私では抱きたくならないのだろうかと悩めばいいのかは、分からなかった。
「ごめんね、用事があるから朝になる前に帰らなきゃいけないんだ」
行為が終わった後にしばらくベッドの中でとろとろと微睡んでいると、そんなことを言われた。
驚くほどにパッと目が覚めた。彼が宥めるみたいに私の手を少しだけ撫でた。
なんだかシンデレラみたい。引き止めたってきっと帰ってしまうのだ。
そんなことを、ふと心の中で思った。もちろん言葉にはしなかったけど。
「また会える?」
「会いたいって思ってくれるの?」
「もちろん」
むしろ私より彼が会いたいと思ってくれるかどうかが不安だった。だって彼にメリットがあるとは思えない。
それとも本当に触ることだけしたいタイプの人なのだろうか。それなら最後までしてほしいと頼まない人なら都合が良いと思ってもらえるだろうか。
最初に一夜だけでもいいと思っていたのが嘘みたいだった。だってこんなにも素敵な夜が待っているだなんて思わなかった。
いつまでも人に触れていたいと思ったのは初めてだ。
別に今も恋人になりたいとか、そんな風には思わないのだけど、これきりになってしまうのは嫌だった。
「気が向いたら連絡して」
彼はそう言って、さらさらとメモにメールアドレスを書いてくれた。
まさか連絡先を教えてくれるとは思わなかった。私が驚いている間に彼はいなくなってしまった。
こんなことがあった後だから、もうあのバーでも会えないかもしれないと思っていた。だけど、少しくらいは期待してもいいのだろうか。
それでも電話番号は教えてくれなかったし、私のメールアドレスを聞こうとはしなかった。
だから、私からメールを送った時も返信はないかもしれないと思っていた。期待なんてしたら返信が無かった時が辛い。
あれはだった一度の良い思い出にしておくべきことなのかもしれない。だってあんな素敵な人が私に触れてくれたことが奇跡なのだから。
そう思っていた。いやそう思って諦めようとしていたのかもしれない。
あそこには行きにくいから、またオススメのバーを教えてと友人に頼もうかと考えていた時、彼からメールが来た。
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