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第4章
永遠に交わらない平行線3
家畜馬小屋に行った俺は唇を引き結び、目を閉じた。そういうことかよ、クソが……! と心の中で悪態をつく。
おそらく俺が女と結婚し、カイトが聖職者となって神に仕える道を選べば、ことはすべて丸く収まると俺たちの関係を知っているやつにカイトは指摘されたんだ。だから急にあんな冷たい態度をとって突き放すようなもの言いをしてきた。
俺が女と結婚して、ガキができれば幸せになると本気で思っているのだろうか? カイトを思う気持ちは若気の至りなんかじゃない。人生をともにしたいと思ったからキスをして、抱きしめ、抱きあった。
拳を握り、目を凝らして、夕食である草や野菜の残りを食べたり、眠りについている動物たちの姿を眺める。
「何をしてる? 飯の時間だぞ」
父親の淡々とした声が背後から聞こえてくる。でも俺は、あえて振り向かないでいた。
「母ちゃんと言い合いをしたんだろ? 夜風にあたって少し頭を冷やせ。ちゃんと謝らないと夕食にありつけないぞ」
あくまで平静をよそおう父ちゃんの態度がおかしくて、腹を抱えたままゲラゲラと笑ってしまう。
「何がおかしい?」
怪訝な顔つきをし、険のある言い方をしてくる。
笑うのをやめた俺は身体の向きを変えた。木の柵に背をもたらせた状態で話しかける。
「……父ちゃんなんだろ。カイトや母ちゃんに、あれこれ言いつけたのは」
「なぜ、そう思ったんだ」
「消去法だよ。村の連中はカイトを毛嫌いしてる。富農で村長や領主様から信頼されていうちのことを妬んだり逆恨みしている連中もな。もし、やつらが俺とカイトの関係を知ったら、すぐに村長や領主様に告げ口するはずだ。村長や領主様だったら、すぐに村中の人間を呼んで俺とカイトはを尋問する。
かといって教会の人たちはカイトを自分たちと同じ聖職者にしようと考え、追い出そうとは毛頭思ってない。孤児である子どもたちも、いつも通りに俺やカイトに接してきた。その上でカイトに身を引くよう説得し、息子である俺を諭すよう母ちゃんに言える人間は、あんたしかいないだろ」
てっきり「何を言ってるんだ」とはぐらかされると思っていたが、父ちゃんは「そうだ、その通りだ」とあっさり認めた。彼は俺の隣までやってくると木の柵を掴み、動物たちに目を向けたまま唇を開いた。
「周りの連中があの子のことを、とやかく言っても、おれが口を出さなかったのは、あの子がとてもいい子だからだ。生まれ育った国や親子兄弟の記憶をなくした状態でも、この村を守るために身体を張って獣たちや魔族と戦ってきた。礼儀正しく性格もいい。
おまえの弟分として、そばにいるのなら何も言わなかったさ。おまえたちが、じいさんになるまで仲がよければ、おれや母ちゃんが死んだ後も安心できる。――それなのに、おまえたちは、おれや母ちゃんを裏切った」
「勝手なことを言うなよ……!」
頭に血が上り、かっとなった俺は飛び上がるようにして、前のめりの格好になる。もしも相手がじつの父親でなく赤の他人だったら、胸ぐらを掴んでいただろう。
薄暗い小屋の中で父ちゃんが、こちらへ目線をやった。
父親である男は嫌悪感をあらわにした面持ちで、息子である俺を睨んだ。
どんなときも穏やかな性格をしていて、酒を飲んで酔っぱらっても暴言を吐いたり、人に殴りかかったりしない。誰にでも平等に接する父親が、憎悪を剥き出しにした表情を浮かべているのを、生まれ初めて目にした。
「仕事をまじめにがんばる息子を持てて誇りに思うよ。だが、おまえは結婚前にもかかわらず、ふしだらな真似をした。湖のほとりで、恋人である女の子ではなく同性である男と快楽を味わうために、たわむれていたんだ」
「ふざけんな! 俺はカイトをもてあそんでるわけじゃねえ。真剣にあいつのことを思って……」
「だったら、なおのこと悪いな」と、ゆるくかぶりを振って、ため息をついた。「一時の遊びや気の迷いなら許せたが本気なら許せん。おまえたちを地獄行きにし、失うのはごめんだ」
「俺は地獄に落ちたって構わない。あいつの心が手に入るなら、カイトと一緒にいられるなら悪魔に魂を売ったっていい」
「おれがおまえたちを何年自由にさせ、かばってきたと思っている」と父ちゃんが、とげとげしい口調で責めてくる。「おまえとカイトの関係に目をつむり、村のやつらが勘づきそうになるたびに助けてきた。ここ最近は神父様や一部の女たちが、おまえらを怪しんでいる。聖職者になろうと思っている若者の未来を閉ざし、大切な息子を先に死なせ、親であるおれと母ちゃんは一生涯、後ろ指を指される。そんな人生は、ごめんだ」
反論の余地などない。
唇を強く噛みしめて顔をうつむかせていると俺の肩を、大きなゴツゴツした手で軽く叩いてくる。
顔をそろそろ上げると、そこには恐ろしい形相をして俺を侮蔑する男ではなく、子どもの頃からいつか追い越したいと憧れていた「父ちゃん」がいた。
「大丈夫だ。俺も母ちゃんと結婚する前に好きな女がいた。ほかの女にふらつきそうになったこともな。だけど、あいつのよき夫であり、おまえたちのよき父親として、ここにいる。ほかの女とは縁がなかったし、己の本文を忘れなかったからだ」
おそらく俺が女と結婚し、カイトが聖職者となって神に仕える道を選べば、ことはすべて丸く収まると俺たちの関係を知っているやつにカイトは指摘されたんだ。だから急にあんな冷たい態度をとって突き放すようなもの言いをしてきた。
俺が女と結婚して、ガキができれば幸せになると本気で思っているのだろうか? カイトを思う気持ちは若気の至りなんかじゃない。人生をともにしたいと思ったからキスをして、抱きしめ、抱きあった。
拳を握り、目を凝らして、夕食である草や野菜の残りを食べたり、眠りについている動物たちの姿を眺める。
「何をしてる? 飯の時間だぞ」
父親の淡々とした声が背後から聞こえてくる。でも俺は、あえて振り向かないでいた。
「母ちゃんと言い合いをしたんだろ? 夜風にあたって少し頭を冷やせ。ちゃんと謝らないと夕食にありつけないぞ」
あくまで平静をよそおう父ちゃんの態度がおかしくて、腹を抱えたままゲラゲラと笑ってしまう。
「何がおかしい?」
怪訝な顔つきをし、険のある言い方をしてくる。
笑うのをやめた俺は身体の向きを変えた。木の柵に背をもたらせた状態で話しかける。
「……父ちゃんなんだろ。カイトや母ちゃんに、あれこれ言いつけたのは」
「なぜ、そう思ったんだ」
「消去法だよ。村の連中はカイトを毛嫌いしてる。富農で村長や領主様から信頼されていうちのことを妬んだり逆恨みしている連中もな。もし、やつらが俺とカイトの関係を知ったら、すぐに村長や領主様に告げ口するはずだ。村長や領主様だったら、すぐに村中の人間を呼んで俺とカイトはを尋問する。
かといって教会の人たちはカイトを自分たちと同じ聖職者にしようと考え、追い出そうとは毛頭思ってない。孤児である子どもたちも、いつも通りに俺やカイトに接してきた。その上でカイトに身を引くよう説得し、息子である俺を諭すよう母ちゃんに言える人間は、あんたしかいないだろ」
てっきり「何を言ってるんだ」とはぐらかされると思っていたが、父ちゃんは「そうだ、その通りだ」とあっさり認めた。彼は俺の隣までやってくると木の柵を掴み、動物たちに目を向けたまま唇を開いた。
「周りの連中があの子のことを、とやかく言っても、おれが口を出さなかったのは、あの子がとてもいい子だからだ。生まれ育った国や親子兄弟の記憶をなくした状態でも、この村を守るために身体を張って獣たちや魔族と戦ってきた。礼儀正しく性格もいい。
おまえの弟分として、そばにいるのなら何も言わなかったさ。おまえたちが、じいさんになるまで仲がよければ、おれや母ちゃんが死んだ後も安心できる。――それなのに、おまえたちは、おれや母ちゃんを裏切った」
「勝手なことを言うなよ……!」
頭に血が上り、かっとなった俺は飛び上がるようにして、前のめりの格好になる。もしも相手がじつの父親でなく赤の他人だったら、胸ぐらを掴んでいただろう。
薄暗い小屋の中で父ちゃんが、こちらへ目線をやった。
父親である男は嫌悪感をあらわにした面持ちで、息子である俺を睨んだ。
どんなときも穏やかな性格をしていて、酒を飲んで酔っぱらっても暴言を吐いたり、人に殴りかかったりしない。誰にでも平等に接する父親が、憎悪を剥き出しにした表情を浮かべているのを、生まれ初めて目にした。
「仕事をまじめにがんばる息子を持てて誇りに思うよ。だが、おまえは結婚前にもかかわらず、ふしだらな真似をした。湖のほとりで、恋人である女の子ではなく同性である男と快楽を味わうために、たわむれていたんだ」
「ふざけんな! 俺はカイトをもてあそんでるわけじゃねえ。真剣にあいつのことを思って……」
「だったら、なおのこと悪いな」と、ゆるくかぶりを振って、ため息をついた。「一時の遊びや気の迷いなら許せたが本気なら許せん。おまえたちを地獄行きにし、失うのはごめんだ」
「俺は地獄に落ちたって構わない。あいつの心が手に入るなら、カイトと一緒にいられるなら悪魔に魂を売ったっていい」
「おれがおまえたちを何年自由にさせ、かばってきたと思っている」と父ちゃんが、とげとげしい口調で責めてくる。「おまえとカイトの関係に目をつむり、村のやつらが勘づきそうになるたびに助けてきた。ここ最近は神父様や一部の女たちが、おまえらを怪しんでいる。聖職者になろうと思っている若者の未来を閉ざし、大切な息子を先に死なせ、親であるおれと母ちゃんは一生涯、後ろ指を指される。そんな人生は、ごめんだ」
反論の余地などない。
唇を強く噛みしめて顔をうつむかせていると俺の肩を、大きなゴツゴツした手で軽く叩いてくる。
顔をそろそろ上げると、そこには恐ろしい形相をして俺を侮蔑する男ではなく、子どもの頃からいつか追い越したいと憧れていた「父ちゃん」がいた。
「大丈夫だ。俺も母ちゃんと結婚する前に好きな女がいた。ほかの女にふらつきそうになったこともな。だけど、あいつのよき夫であり、おまえたちのよき父親として、ここにいる。ほかの女とは縁がなかったし、己の本文を忘れなかったからだ」
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