最愛の人のため勇者になった俺と、魔族の両親のため魔王になったあいつ

鶴機 亀輔

文字の大きさ
17 / 32
第4章

永遠に交わらない平行線3

 家畜馬小屋に行った俺は唇を引き結び、目を閉じた。そういうことかよ、クソが……! と心の中で悪態をつく。

 おそらく俺が女と結婚し、カイトが聖職者となって神に仕える道を選べば、ことはすべて丸く収まると俺たちの関係を知っているやつにカイトは指摘されたんだ。だから急にあんな冷たい態度をとって突き放すようなもの言いをしてきた。

 俺が女と結婚して、ガキができれば幸せになると本気で思っているのだろうか? カイトを思う気持ちは若気の至りなんかじゃない。人生をともにしたいと思ったからキスをして、抱きしめ、抱きあった。

 拳を握り、目を凝らして、夕食である草や野菜の残りを食べたり、眠りについている動物たちの姿を眺める。

「何をしてる? めしの時間だぞ」

 父親の淡々とした声が背後から聞こえてくる。でも俺は、あえて振り向かないでいた。

「母ちゃんと言い合いをしたんだろ? 夜風にあたって少し頭を冷やせ。ちゃんと謝らないと夕食にありつけないぞ」

 あくまで平静をよそおう父ちゃんの態度がおかしくて、腹を抱えたままゲラゲラと笑ってしまう。

「何がおかしい?」

 怪訝な顔つきをし、険のある言い方をしてくる。

 笑うのをやめた俺は身体の向きを変えた。木の柵に背をもたらせた状態で話しかける。

「……父ちゃんなんだろ。カイトや母ちゃんに、あれこれ言いつけたのは」

「なぜ、そう思ったんだ」

「消去法だよ。村の連中はカイトを毛嫌いしてる。富農で村長や領主様から信頼されていうちのことを妬んだり逆恨みしている連中もな。もし、やつらが俺とカイトの関係を知ったら、すぐに村長や領主様に告げ口するはずだ。村長や領主様だったら、すぐに村中の人間を呼んで俺とカイトはを尋問する。

 かといって教会の人たちはカイトを自分たちと同じ聖職者にしようと考え、追い出そうとは毛頭思ってない。孤児である子どもたちも、いつも通りに俺やカイトに接してきた。その上でカイトに身を引くよう説得し、息子である俺を諭すよう母ちゃんに言える人間は、あんたしかいないだろ」

 てっきり「何を言ってるんだ」とはぐらかされると思っていたが、父ちゃんは「そうだ、その通りだ」とあっさり認めた。彼は俺の隣までやってくると木の柵を掴み、動物たちに目を向けたまま唇を開いた。

「周りの連中があの子のことを、とやかく言っても、おれが口を出さなかったのは、あの子がとてもいい子だからだ。生まれ育った国や親子兄弟の記憶をなくした状態でも、この村を守るために身体を張って獣たちや魔族と戦ってきた。礼儀正しく性格もいい。

 おまえの弟分として、そばにいるのなら何も言わなかったさ。おまえたちが、じいさんになるまで仲がよければ、おれや母ちゃんが死んだ後も安心できる。――それなのに、おまえたちは、おれや母ちゃんを裏切った」

「勝手なことを言うなよ……!」

 頭に血が上り、かっとなった俺は飛び上がるようにして、前のめりの格好になる。もしも相手がじつの父親でなく赤の他人だったら、胸ぐらを掴んでいただろう。

 薄暗い小屋の中で父ちゃんが、こちらへ目線をやった。

 父親である男は嫌悪感をあらわにした面持ちで、息子である俺をにらんだ。

 どんなときも穏やかな性格をしていて、酒を飲んで酔っぱらっても暴言を吐いたり、人に殴りかかったりしない。誰にでも平等に接する父親が、憎悪を剥き出しにした表情を浮かべているのを、生まれ初めて目にした。

「仕事をまじめにがんばる息子を持てて誇りに思うよ。だが、おまえは結婚前にもかかわらず、ふしだらな真似をした。湖のほとりで、恋人である女の子ではなく同性である男と快楽を味わうために、たわむれていたんだ」

「ふざけんな! 俺はカイトをもてあそんでるわけじゃねえ。真剣にあいつのことを思って……」

「だったら、なおのこと悪いな」と、ゆるくかぶりを振って、ため息をついた。「一時の遊びや気の迷いなら許せたが本気なら許せん。おまえたちを地獄行きにし、失うのはごめんだ」

「俺は地獄に落ちたって構わない。あいつの心が手に入るなら、カイトと一緒にいられるなら悪魔に魂を売ったっていい」

「おれがおまえたちを何年自由にさせ、かばってきたと思っている」と父ちゃんが、とげとげしい口調で責めてくる。「おまえとカイトの関係に目をつむり、村のやつらが勘づきそうになるたびに助けてきた。ここ最近は神父様や一部の女たちが、おまえらを怪しんでいる。聖職者になろうと思っている若者の未来を閉ざし、大切な息子を先に死なせ、親であるおれと母ちゃんは一生涯、後ろ指を指される。そんな人生は、ごめんだ」

 反論の余地などない。

 唇を強く噛みしめて顔をうつむかせていると俺の肩を、大きなゴツゴツした手で軽く叩いてくる。

 顔をそろそろ上げると、そこには恐ろしい形相をして俺を侮蔑する男ではなく、子どもの頃からいつか追い越したいと憧れていた「父ちゃん」がいた。

「大丈夫だ。俺も母ちゃんと結婚する前に好きな女がいた。ほかの女にふらつきそうになったこともな。だけど、あいつのよき夫であり、おまえたちのよき父親として、ここにいる。ほかの女とは縁がなかったし、己の本文を忘れなかったからだ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

俺の名前を呼んでください

東院さち
BL
双子の妹ローレッタの代わりに王妃様のお話相手になるべく王宮にでかけたルーファスは、王太子様に庭に置き去りにされ風邪をひいてしまう。看病をされていたはずなんだけど、大人の嗜みを教わることになって……。「え、そんなことを皆やってるの?」大人の世界って怖い。 他サイト様で投稿済み。同人誌も出してます。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【本編完結:改稿中】水曜日の迷いごと

咲月千日月
BL
人知れず…心に抱えているもの、ありますか? 【 准教授(弁護士) × 法科大学院生 】 純粋で不器用なゆえに生き辛さを感じている二人の、主人公目線からの等身大ピュア系ラブストーリーです。  *現代が舞台ですが、もちろんフィクションです。  *性的表現過多の回には※マークがついています。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。