最愛の人のため勇者になった俺と、魔族の両親のため魔王になったあいつ

鶴機 亀輔

文字の大きさ
1 / 32
Prologue

白と黒で二分された世界

 禍々しいオーラを放つ黒い扉――その前におれたちは立っていた。

 体力回復のポーション、魔力回復のエリクサーをありったけ使って、傷ひとつない姿になる。

 魔王討伐のために選んだ最高級の武器や防具を確認し、どんなふうに戦うかの作戦を確認する。

 仲間の剣闘士が「腕が鳴るぜ」とこぶしたたいた。

「いよいよですね。万が一のときはテレポートで魔王の城を脱出しましょう」

 盗賊が短剣の切れ味を見て、さやに収める。

 魔法使いが長いワンピースのすそについたほこりを払い、つえを握る。

「みんな、後方支援は任せてね」

「ああ……」

 五年間、魔王を倒すための旅をしてきた。

 苦楽をともにした三人の仲間たちと顔を見合わせる。

 神官や星見のから「勇者となる星に生まれた」と告げられた。

 小さな村の農民だった俺が、人類を救う勇者となり、魔王を倒す使命を負うなんて今でも信じられない。

 だが、これが現実だ。

 魔族は俺の生まれ故郷である村を襲って火の海にし、――命に変えても守りたい、大切な人を奪った。勇者として村を出るとき、この世から魔族を一掃し、あいつのかたきを討つと誓った。

 魔族の親玉である魔王を倒せば、みんなが安心して暮らせる平和な世界が訪れて、あの世にいるあいつも浮かばれ、安らかな眠りにつけるだろう。

「行くぜ、おまえら。必ずこの戦いに勝って魔族の時代を終わらせよう。死ぬことは絶対に許さない。俺たちの帰りを待っている家族や友だち、愛する人たちのところへ帰ろう!」

 そうして俺と剣闘士は重い鉄の扉を押し開けた。

 てっきり魔王の間は、魔族が今まで殺してきた人間たちのがいこつや首、骨をあたり一面に飾っている、おぞましいところだと想像していた。

 教会のようにせいひつな空気が漂い、荘厳な雰囲気のある場所で驚かされる。

 教会は白を基調としているが、魔王の間は黒を基調とし、青いステンドグラスが月の光を受けて輝いている。玉座の置かれた壁には銀でできた逆十字が飾られていた。黒バラと白百合、なんてんの白い花と赤い実をつけた枝が青い花瓶に生けられ、しょくだいの明かりがくらやみをほのかに照らす。

 紺色のじゅうたんが引かれた先には小さな黒い祭壇があった。

 その前に黒いマントを羽織った人物が床にひざまずき、祈りをささげている。後ろには魔族の騎士隊長が控えていた。

「勇者一行ですね」

 魔王は、淡々とした口調で話しかけてきた。

「そうだ! 俺たちは人間を襲い、殺してきた魔族を倒す星のもとに集いし者」

 すると魔王はささやくように「星、ですか……」とつぶやき、立ち上がる。身体を向けた魔王は右半分は黒、左半分は白の仮面をかぶっていた。

「道中大変だったでしょうに、よくぞここまで来ました。その気概を褒めて差し上げます」

 剣闘士と盗賊、魔法使いが戦闘態勢になる。

「てめえを倒せば、すべての魔族が消滅する。てめえら魔族に苦しめられ、殺されてきた人間の恨み、思い知るがいい」

「あんたのような邪悪な存在は、この世に生きていてはいけないんですよ。ここで会ったが百年目。今日が、あんたの命日です!」

「これ以上、みんなを不幸にはさせないわ。魔法は人を幸せにするもの。人を殺す道具として使うなんて許さない……!」

 伝説の剣を構え、魔王の出方をうかがう。

 仮面をつけているから、やつが今、どんな表情をしているのか読み取れない。

 魔王の前に二匹の悪魔が現れ、背後には魔王のけんぞくであるこくりゅうが召喚された。

「あなた方の言い分はわかりました。あなたたちは、あくまで魔族と戦うつもりなのですね」

「当たり前だ。魔族と人間は相容れない関係だ」

 先制攻撃と剣を振るう。

 しかし魔族の騎士隊長が前に出て俺の攻撃を盾で受け止めた。

「どけよ、てめえ!」

「小僧、おまえ……あのときの……」

「五年前のこと、忘れたとは言わせねえぜ。村を襲い、大切な人を奪ったことをなあ!」

 俺が戦い始めると、ほかの三人も応戦した。

 魔王はただ、俺たちの戦いを眺めるばかりで手出ししない。

「魔王様、ここは我々が引き受けます」

「どうか、安全な場所へお逃げください……!」

 悪魔二匹が叫んだ。

 即座に、騎士隊長に時間停止の魔法をかけ、足止めを食らわす。

「魔王様!」

きょうもの、ひとりで逃げようとしてんじゃねえ! でりゃあああっ!」

 剣を遠くから振るえば、剣圧によって魔王のつけている仮面が真っぷたつになる。床に落ち、カランと音を立てた。

 これで最後と、魔王の息の根を止めるために全速力で走り、飛びかかる。

 魔王は攻撃をするそぶりも見せず、無抵抗のまま、押し倒された。

 剣を振りかぶった俺が目にしたのは――ぞういろの肌に漆黒の髪、黒水晶のようなひとみをした男だ。

 伝説の剣を持つ手が震える。

 これは魔王が見せる幻術か、それとも現実か?

「何やってんだよ、ヒロ!? さっさと魔王をれ……!」

「ヒロさん、危ないです!」

「ヒロ様、早く魔王を……」

 仲間たちは俺が魔王にとどめを刺さないことに卒倒する。

 黒龍はチャンスだとばかりに地獄の黒い炎を吐いて主人を守ろうと行動に出た。魔王の腹心たちも俺の仲間に斬りかかったり、攻撃魔法をしかけていく。

 魔王を倒せば世界は救われる。両手で握っているこの剣を振り落ろせば、すべての魔族が消滅し、世界に平和が訪れるんだ。

 だけど俺は――目の前の人物に剣を振り下ろすことは、できなかった。

「何をしているんですか。早く僕を殺してくださいよ、勇者様」

 聞き覚えのある低い声は、どこまでも冷ややかなものだった。

 最後に姿を見たときよりも美しく、大人びた姿をしている。

 ……ずっと会いたかった。

 会って言いたいことがあった。

 でも、その言葉を伝える前に、大好きな人は魔族の騎士隊長にさらわれたのだ。そうじゃなければ神官や星見の巫女に「勇者になれ」と勧められても、あっさり「なります」なんて了承しなかった。

 死と隣り合わせの過酷な旅をせずに、愛する人と手を取り合って村を出ていたはずだ。

「僕との約束を破るつもりなの? ヒロ」

 自分の命を取られるかもしれない非常事態なのに、どうして、そんないだ海みたいな目つきをしていられる?

 目の前の男の微笑する姿を目にして頭も、心もグチャグチャになる。

「なんでだよ……なんで、おまえがここにいる? どういうことか、説明しろよ!? ――カイト!」



 魔王は、五年前に魔族に誘拐された幼なじみで、俺の思い人であるカイトだったのだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

「溺愛ビギナー」◆幼馴染みで相方。ずっと片想いしてたのに――まさかの溺愛宣言!◆

星井 悠里
BL
幼稚園からの幼馴染みで、今は二人組アーティストとして活躍する蒼紫と涼。 女の子にモテまくる完璧イケメン・蒼紫。 涼の秘密は――蒼紫が初恋で、今もずっと好きだということ。 仕事は順調。友情も壊したくない。 だから涼はこの気持ちを胸にしまい込んで、「いつか忘れる」って思っていた。 でも、本番前の楽屋で二人きり。あることをきっかけに急接近。 蒼紫の真顔、低い声、近づいてくる気配。 「涼、オレ……」 蒼紫から飛び出したのは、涼が夢にも思わなかった、びっくり大告白♥だった✨

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【本編完結:改稿中】水曜日の迷いごと

咲月千日月
BL
人知れず…心に抱えているもの、ありますか? 【 准教授(弁護士) × 法科大学院生 】 純粋で不器用なゆえに生き辛さを感じている二人の、主人公目線からの等身大ピュア系ラブストーリーです。  *現代が舞台ですが、もちろんフィクションです。  *性的表現過多の回には※マークがついています。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

夜のカフェで君を待つ

みんと
BL
社会人4年目21歳の湊は夜カフェマロンに行く。 そこで働く凛に一目惚れ。 5歳年上の彼に会うため、毎週2時間もかけてカフェに通い徐々に仲良くなっていくが… 年下攻め ハッピーエンド

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。