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Prologue
白と黒で二分された世界
禍々しいオーラを放つ黒い扉――その前に俺たちは立っていた。
体力回復のポーション、魔力回復のエリクサーをありったけ使って、傷ひとつない姿になる。
魔王討伐のために選んだ最高級の武器や防具を確認し、どんなふうに戦うかの作戦を確認する。
仲間の剣闘士が「腕が鳴るぜ」と拳を叩いた。
「いよいよですね。万が一のときはテレポートで魔王の城を脱出しましょう」
盗賊が短剣の切れ味を見て、さやに収める。
魔法使いが長いワンピースのすそについたほこりを払い、杖を握る。
「みんな、後方支援は任せてね」
「ああ……」
五年間、魔王を倒すための旅をしてきた。
苦楽をともにした三人の仲間たちと顔を見合わせる。
神官や星見の巫女から「勇者となる星に生まれた」と告げられた。
小さな村の農民だった俺が、人類を救う勇者となり、魔王を倒す使命を負うなんて今でも信じられない。
だが、これが現実だ。
魔族は俺の生まれ故郷である村を襲って火の海にし、――命に変えても守りたい、大切な人を奪った。勇者として村を出るとき、この世から魔族を一掃し、あいつのかたきを討つと誓った。
魔族の親玉である魔王を倒せば、みんなが安心して暮らせる平和な世界が訪れて、あの世にいるあいつも浮かばれ、安らかな眠りにつけるだろう。
「行くぜ、おまえら。必ずこの戦いに勝って魔族の時代を終わらせよう。死ぬことは絶対に許さない。俺たちの帰りを待っている家族や友だち、愛する人たちのところへ帰ろう!」
そうして俺と剣闘士は重い鉄の扉を押し開けた。
てっきり魔王の間は、魔族が今まで殺してきた人間たちの頭蓋骨や首、骨をあたり一面に飾っている、おぞましいところだと想像していた。
教会のように静謐な空気が漂い、荘厳な雰囲気のある場所で驚かされる。
教会は白を基調としているが、魔王の間は黒を基調とし、青いステンドグラスが月の光を受けて輝いている。玉座の置かれた壁には銀でできた逆十字が飾られていた。黒バラと白百合、南天の白い花と赤い実をつけた枝が青い花瓶に生けられ、燭台の明かりが暗闇をほのかに照らす。
紺色の絨毯が引かれた先には小さな黒い祭壇があった。
その前に黒いマントを羽織った人物が床にひざまずき、祈りを捧げている。後ろには魔族の騎士隊長が控えていた。
「勇者一行ですね」
魔王は、淡々とした口調で話しかけてきた。
「そうだ! 俺たちは人間を襲い、殺してきた魔族を倒す星のもとに集いし者」
すると魔王は囁くように「星、ですか……」とつぶやき、立ち上がる。身体を向けた魔王は右半分は黒、左半分は白の仮面をかぶっていた。
「道中大変だったでしょうに、よくぞここまで来ました。その気概を褒めて差し上げます」
剣闘士と盗賊、魔法使いが戦闘態勢になる。
「てめえを倒せば、すべての魔族が消滅する。てめえら魔族に苦しめられ、殺されてきた人間の恨み、思い知るがいい」
「あんたのような邪悪な存在は、この世に生きていてはいけないんですよ。ここで会ったが百年目。今日が、あんたの命日です!」
「これ以上、みんなを不幸にはさせないわ。魔法は人を幸せにするもの。人を殺す道具として使うなんて許さない……!」
伝説の剣を構え、魔王の出方をうかがう。
仮面をつけているから、やつが今、どんな表情をしているのか読み取れない。
魔王の前に二匹の悪魔が現れ、背後には魔王の眷属である黒龍が召喚された。
「あなた方の言い分はわかりました。あなたたちは、あくまで魔族と戦うつもりなのですね」
「当たり前だ。魔族と人間は相容れない関係だ」
先制攻撃と剣を振るう。
しかし魔族の騎士隊長が前に出て俺の攻撃を盾で受け止めた。
「どけよ、てめえ!」
「小僧、おまえ……あのときの……」
「五年前のこと、忘れたとは言わせねえぜ。村を襲い、大切な人を奪ったことをなあ!」
俺が戦い始めると、ほかの三人も応戦した。
魔王はただ、俺たちの戦いを眺めるばかりで手出ししない。
「魔王様、ここは我々が引き受けます」
「どうか、安全な場所へお逃げください……!」
悪魔二匹が叫んだ。
即座に、騎士隊長に時間停止の魔法をかけ、足止めを食らわす。
「魔王様!」
「卑怯者、ひとりで逃げようとしてんじゃねえ! でりゃあああっ!」
剣を遠くから振るえば、剣圧によって魔王のつけている仮面が真っぷたつになる。床に落ち、カランと音を立てた。
これで最後と、魔王の息の根を止めるために全速力で走り、飛びかかる。
魔王は攻撃をするそぶりも見せず、無抵抗のまま、押し倒された。
剣を振りかぶった俺が目にしたのは――象牙色の肌に漆黒の髪、黒水晶のような瞳をした男だ。
伝説の剣を持つ手が震える。
これは魔王が見せる幻術か、それとも現実か?
「何やってんだよ、ヒロ!? さっさと魔王を斬れ……!」
「ヒロさん、危ないです!」
「ヒロ様、早く魔王を……」
仲間たちは俺が魔王にとどめを刺さないことに卒倒する。
黒龍はチャンスだとばかりに地獄の黒い炎を吐いて主人を守ろうと行動に出た。魔王の腹心たちも俺の仲間に斬りかかったり、攻撃魔法をしかけていく。
魔王を倒せば世界は救われる。両手で握っているこの剣を振り落ろせば、すべての魔族が消滅し、世界に平和が訪れるんだ。
だけど俺は――目の前の人物に剣を振り下ろすことは、できなかった。
「何をしているんですか。早く僕を殺してくださいよ、勇者様」
聞き覚えのある低い声は、どこまでも冷ややかなものだった。
最後に姿を見たときよりも美しく、大人びた姿をしている。
……ずっと会いたかった。
会って言いたいことがあった。
でも、その言葉を伝える前に、大好きな人は魔族の騎士隊長にさらわれたのだ。そうじゃなければ神官や星見の巫女に「勇者になれ」と勧められても、あっさり「なります」なんて了承しなかった。
死と隣り合わせの過酷な旅をせずに、愛する人と手を取り合って村を出ていたはずだ。
「僕との約束を破るつもりなの? ヒロ」
自分の命を取られるかもしれない非常事態なのに、どうして、そんな凪いだ海みたいな目つきをしていられる?
目の前の男の微笑する姿を目にして頭も、心もグチャグチャになる。
「なんでだよ……なんで、おまえがここにいる? どういうことか、説明しろよ!? ――カイト!」
魔王は、五年前に魔族に誘拐された幼なじみで、俺の思い人であるカイトだったのだ。
体力回復のポーション、魔力回復のエリクサーをありったけ使って、傷ひとつない姿になる。
魔王討伐のために選んだ最高級の武器や防具を確認し、どんなふうに戦うかの作戦を確認する。
仲間の剣闘士が「腕が鳴るぜ」と拳を叩いた。
「いよいよですね。万が一のときはテレポートで魔王の城を脱出しましょう」
盗賊が短剣の切れ味を見て、さやに収める。
魔法使いが長いワンピースのすそについたほこりを払い、杖を握る。
「みんな、後方支援は任せてね」
「ああ……」
五年間、魔王を倒すための旅をしてきた。
苦楽をともにした三人の仲間たちと顔を見合わせる。
神官や星見の巫女から「勇者となる星に生まれた」と告げられた。
小さな村の農民だった俺が、人類を救う勇者となり、魔王を倒す使命を負うなんて今でも信じられない。
だが、これが現実だ。
魔族は俺の生まれ故郷である村を襲って火の海にし、――命に変えても守りたい、大切な人を奪った。勇者として村を出るとき、この世から魔族を一掃し、あいつのかたきを討つと誓った。
魔族の親玉である魔王を倒せば、みんなが安心して暮らせる平和な世界が訪れて、あの世にいるあいつも浮かばれ、安らかな眠りにつけるだろう。
「行くぜ、おまえら。必ずこの戦いに勝って魔族の時代を終わらせよう。死ぬことは絶対に許さない。俺たちの帰りを待っている家族や友だち、愛する人たちのところへ帰ろう!」
そうして俺と剣闘士は重い鉄の扉を押し開けた。
てっきり魔王の間は、魔族が今まで殺してきた人間たちの頭蓋骨や首、骨をあたり一面に飾っている、おぞましいところだと想像していた。
教会のように静謐な空気が漂い、荘厳な雰囲気のある場所で驚かされる。
教会は白を基調としているが、魔王の間は黒を基調とし、青いステンドグラスが月の光を受けて輝いている。玉座の置かれた壁には銀でできた逆十字が飾られていた。黒バラと白百合、南天の白い花と赤い実をつけた枝が青い花瓶に生けられ、燭台の明かりが暗闇をほのかに照らす。
紺色の絨毯が引かれた先には小さな黒い祭壇があった。
その前に黒いマントを羽織った人物が床にひざまずき、祈りを捧げている。後ろには魔族の騎士隊長が控えていた。
「勇者一行ですね」
魔王は、淡々とした口調で話しかけてきた。
「そうだ! 俺たちは人間を襲い、殺してきた魔族を倒す星のもとに集いし者」
すると魔王は囁くように「星、ですか……」とつぶやき、立ち上がる。身体を向けた魔王は右半分は黒、左半分は白の仮面をかぶっていた。
「道中大変だったでしょうに、よくぞここまで来ました。その気概を褒めて差し上げます」
剣闘士と盗賊、魔法使いが戦闘態勢になる。
「てめえを倒せば、すべての魔族が消滅する。てめえら魔族に苦しめられ、殺されてきた人間の恨み、思い知るがいい」
「あんたのような邪悪な存在は、この世に生きていてはいけないんですよ。ここで会ったが百年目。今日が、あんたの命日です!」
「これ以上、みんなを不幸にはさせないわ。魔法は人を幸せにするもの。人を殺す道具として使うなんて許さない……!」
伝説の剣を構え、魔王の出方をうかがう。
仮面をつけているから、やつが今、どんな表情をしているのか読み取れない。
魔王の前に二匹の悪魔が現れ、背後には魔王の眷属である黒龍が召喚された。
「あなた方の言い分はわかりました。あなたたちは、あくまで魔族と戦うつもりなのですね」
「当たり前だ。魔族と人間は相容れない関係だ」
先制攻撃と剣を振るう。
しかし魔族の騎士隊長が前に出て俺の攻撃を盾で受け止めた。
「どけよ、てめえ!」
「小僧、おまえ……あのときの……」
「五年前のこと、忘れたとは言わせねえぜ。村を襲い、大切な人を奪ったことをなあ!」
俺が戦い始めると、ほかの三人も応戦した。
魔王はただ、俺たちの戦いを眺めるばかりで手出ししない。
「魔王様、ここは我々が引き受けます」
「どうか、安全な場所へお逃げください……!」
悪魔二匹が叫んだ。
即座に、騎士隊長に時間停止の魔法をかけ、足止めを食らわす。
「魔王様!」
「卑怯者、ひとりで逃げようとしてんじゃねえ! でりゃあああっ!」
剣を遠くから振るえば、剣圧によって魔王のつけている仮面が真っぷたつになる。床に落ち、カランと音を立てた。
これで最後と、魔王の息の根を止めるために全速力で走り、飛びかかる。
魔王は攻撃をするそぶりも見せず、無抵抗のまま、押し倒された。
剣を振りかぶった俺が目にしたのは――象牙色の肌に漆黒の髪、黒水晶のような瞳をした男だ。
伝説の剣を持つ手が震える。
これは魔王が見せる幻術か、それとも現実か?
「何やってんだよ、ヒロ!? さっさと魔王を斬れ……!」
「ヒロさん、危ないです!」
「ヒロ様、早く魔王を……」
仲間たちは俺が魔王にとどめを刺さないことに卒倒する。
黒龍はチャンスだとばかりに地獄の黒い炎を吐いて主人を守ろうと行動に出た。魔王の腹心たちも俺の仲間に斬りかかったり、攻撃魔法をしかけていく。
魔王を倒せば世界は救われる。両手で握っているこの剣を振り落ろせば、すべての魔族が消滅し、世界に平和が訪れるんだ。
だけど俺は――目の前の人物に剣を振り下ろすことは、できなかった。
「何をしているんですか。早く僕を殺してくださいよ、勇者様」
聞き覚えのある低い声は、どこまでも冷ややかなものだった。
最後に姿を見たときよりも美しく、大人びた姿をしている。
……ずっと会いたかった。
会って言いたいことがあった。
でも、その言葉を伝える前に、大好きな人は魔族の騎士隊長にさらわれたのだ。そうじゃなければ神官や星見の巫女に「勇者になれ」と勧められても、あっさり「なります」なんて了承しなかった。
死と隣り合わせの過酷な旅をせずに、愛する人と手を取り合って村を出ていたはずだ。
「僕との約束を破るつもりなの? ヒロ」
自分の命を取られるかもしれない非常事態なのに、どうして、そんな凪いだ海みたいな目つきをしていられる?
目の前の男の微笑する姿を目にして頭も、心もグチャグチャになる。
「なんでだよ……なんで、おまえがここにいる? どういうことか、説明しろよ!? ――カイト!」
魔王は、五年前に魔族に誘拐された幼なじみで、俺の思い人であるカイトだったのだ。
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