リスタート―三度目の正直―

鶴機 亀輔

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第7章

転機3

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 そんなことを思っていれば、男性はクリーム色のルパカーにつばを顔に吹きかけられ、呆然とした。何が起きたのかと混乱しているうちに、ルパカーの後ろ足で蹴り上げられ、空中に飛んでいってしまった。

 ルパカーのつばに殺傷力はないものの大変臭く、戦意喪失効果があり、人や魔物の体力を徐々に奪う特性がある。おまけにルパカーの蹴りは、弱い魔物や人間の子供を一発で殺してしまうほどの威力があるのだ。

 重力に従って男性の体が地面に落ち、細かい石が混ざった土の上に、めり込んでしまう。

 僕は急いで杖を出して浮遊の魔法と治癒の魔法を彼にかけた。

 苦しそうにうめいている彼に、さらに水の魔法をかけてルパカーのつばや土埃を洗い流し、風の魔法で彼が頭や顔に巻いている布を乾かす。

 地面に膝をつき、彼の顔を覗き込む。

「大丈夫ですか……?」

 やっぱりきれいな目をしているなと、つい不躾にも異国の男性の瞳を見つめてしまう。

 男性はしばらくの間、無言で瞬きを繰り返していたが「ああ、大丈夫だ。ありがとう」と起き上がった。

「よかった」

 胸を撫で下ろし、旅人が乗っていたルパカーにそっと触れる。

 ルパカーは鼻息を荒くして、不満そうにブルブルと鳴いた。ルパカーを落ち着かせるためにフワフワとした毛を撫で、目を閉じる。

(あいつ、ぼくを乱暴に扱いやがって……! 長旅に付き合ったのにご飯や水チップをくれない! お駄賃だって五百ルーベルなのに、三百ルーベルしか払ってないよ。なのに。ぜんぜん気づかない!)

「ダメですよ、旅の方。ルパカーに硬貨をちゃんと渡してないし、チップもやってない。だから怒ってるんですよ」

「チップ? 余分の金ってことか」

「違います。ルパカーを長距離で乗車したときは、返す前に新鮮な草ときれいな水をお腹いっぱいになるまで、あげることになってるんです」

 僕は二百ルーベル硬貨を出し、ルパカーが首にかけているお財布に入れてた。ついでに魔法で草と水桶を出してやる。

 ルパカーはクルクル喉を鳴らすと冷たい水をガバガバ飲んで、黄緑色の草を美味しそうに頬張った。

「そうだったのか……悪い、知らなかったんだ」

「今後は気をつけてください。ルパカーはいい子ですが、怒らせると怖い魔獣に変貌します。それでは失礼します」

 僕はフロレンスに乗って、彼女の手綱を握る。

「待ってくれ! オレ、あんたに礼をしてねえ……」

「申し訳ありません、急いでいるので。フロレンス、行こう!」

 ヒヒーンといななき、フロレンスが大地を駆ける。

 僕は、彼女とともにここから一番近いギルドへと向かった。



   *



 フロレンスから下りて木製の建物の前に立つ。

 扉のほうへ歩いていくと怖そうな顔つきをした男性陣がゾロゾロと扉から出てくる。まるで魔物や魔獣を見かけたような目つきで、こちらをジロリと見た。

 ついで女性陣が出てくる。彼女たちは、王宮に出仕している令嬢や女官たち、クライン家で働いてるメイドたちのように足元まである長いドレスやスカートを履いていなかった。裸体に近い軽装をしている。騎士のように甲冑を身に纏っている人も露出度が高く、動きやすそうな格好をしている。

「あら、見て」

「貴族のお坊ちゃまかしら? ギルドでも事務員だか、受付を募集していたものね」

「あんなウブっぽい子が入るなら、あたし、仕事に性が出るわ!」

 僕は彼女の噂話に顔が熱くなるのを感じながら、簡素な扉を押し開ける。

 来客を知らせるベルが鳴ると右目に眼帯をつけたガタイのいい坊主頭のおじさんが、ぶっきらぼうな口調で「いらっしゃい」と挨拶をした。

 彼も昔はギルドをして魔物や悪魔と戦っていたのかな? と思いながら挨拶をする。

 受付のおじさんは椅子に座り直すと机の上に置いてあった新聞を開き、キセルを口に加えた。

「兄ちゃん、悪いね。面接なら、ギルドの本部でやってるよ。場所を知らないんなら地図を……」

「いえ、違います。ギルドのメンバーに登録をしたいんです」

 片眉を上げて、おじさんがキセルを手にして、白い煙を口から吐き出す。

「あんたがギルドに登録?」

「左様でございます。突然連絡もせずに来訪した無礼をお許しください。僕は、フェアリーランド王国で文官を務めていたルキウス・クラインと申します。ギルドとして働きたいので手続きをさせていただけないでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします」

「帰れ」

 おじさんが、新聞を机に叩きつけた。

「ここは貴族の坊っちゃんが遊ぶところじゃねえんだよ!」

 鬼のような形相をして、おじさんが声を荒げた。

「誤解しないでください。僕は冷やかしに来たわけではありません」

「だったら、よけいに困るんですよ」と彼は鋭い目つきで僕のことを睨んだ。「ギルドは命懸けの仕事だ。戦場を駆けた騎士様や、戦争の恐ろしさを知っている兵士ならいざ知らず、温室育ちの貴族の坊っちゃんは戦いの怖さなんざ知らないだろう!」

 僕は返す言葉もなくて口を閉ざした。

「第一、貴族はギルドに加入してもほかのメンバーの足を引っ張ったり、長続きしないケースが多い。だからうちでは雇わないことにしてるんだ。悪いが――帰ってもらおうか」
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