リスタート―三度目の正直―

鶴機 亀輔

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第15章

愛慕2

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「嘘です。そんなの……信じられません!」

 僕は目線を下にやり、館のほうへ帰ろうとする。が、手首をマックスさんに掴まれてしまった。

「嘘じゃねえよ。旦那様も言ってただろう――『悪魔』って。オレはこの国でも、他国でも嫌われてきた。それはギルドになってからも大差ねえ。でも、おまえは最初からオレに親切にしてくれて普通に接してくれた。

 それが泣きたくなるくらいに嬉しかったんだよ。イワーク洞窟で再会できたときは、天の神々心からに感謝した。『大切な人たちを守るために戦う』と断言したおまえの凛とした姿に、目が離せなくなったんだ」

 マックスさんは僕よりも背が高いし、自分の身長以上もある大剣を振り回して、暗殺部隊や魔族をどんどん蹴散らしていく。

 本気を出せば、僕のように筋肉もついていない男の細腕の一本や二本は、簡単に折ることができるだろう。なのに彼は、僕が力を加えなくてもすぐに振り解けてしまうくらいに弱々しい力で、僕の手首を掴んでいた。

「庶民で一介の剣士でしかない俺は、金銀財宝なんか持ってない。貴族や騎士、金持ちの商人のように高価なものをたやすくプレゼントする財力はない。それでも、どうにかして、おまえの力になりたかった。ギルドのマックスであるオレにできるのは、おまえをギルドに推薦すること。

 だけど――結局おまえはオレの手助けなんかなくても、ビックゴブリンを思いも寄らない形で倒した。その姿に、ますます心を奪われたんだ。おまえが偽の神子に傷つけられたときは、怖かった。失うことが人生だと思っていたのに、おまえを失いたくないと思ってしまったんだ」

「……何かの錯覚です。あなたは、きっと悪い魔女や悪魔の呪いにかかっているから、僕に恋をしてると思い込んでいるだけですよ! そうやって、いつもいろんな人を船に乗せて、口説いているんですか?」

「違う!」

 大声でマックスさんは叫び、僕と向き合う形にして両手を握った。

「確かに、あの魔法の船に乗せた人間は大勢いる。だけどオレの部屋へ通したのも、客室のベッドを使ったのも、お前ひとりだけなんだ……!」

「そんなの……」

「なのに、おまえは熱を出して苦しんで、どうしたらいいか右も左もわからなかった。先生や奥様に手紙であれこれ聞き出して、薬を初めて煎じたり、病人のための食事を作った。一日でも早くよくなって早く目を覚ましてほしい……オレの名前を呼んでくれって、らしくもないことまで考えちまった」

 鼻の奥がツンとして、胸がひどくざわつき、ひどく息苦しくなる。

「恋なんて一生しないと思ってたんだ。奴隷へと身を落とし、人間を嫌いになった。人間なんて全員死んで、この世から消え去ればいいと願い続けていたんだよ。俺を奴隷にした神々を呪い、俺や母を捨てた父のことをひどく憎んだ。エリザたちと出会ってからも距離を置き、壁を作っていた。

 それなのに、ある日突然オレの世界に、ポンとおまえが急に現れた。出会ってから何年も、何十年も経ってないのに、オレの心を掴んで離さない。エドワード王子の心を奪った偽の神子のことを憎み、殺そうとした話を聞いてもおまえのことを嫌いになれない、ならないよ。むしろ、よかったって思う」

「何をですか?」

 顔を上げれば、いつだって自信満々なマックスさんが、今にも泣いてしまいそうな顔をしているのが目に飛び込んだ。

「おまえが今もエドワード王子の恋人だったら、俺は気が狂ってた。触れることも、思いを告げることも叶わず、どんなに恋焦がれても手の届かない存在。夜も眠れなくなって、死ぬほど苦しい思いをしたはずだ。けど、おまえはエドワード王子とすでに別れていた。だったらオレにもチャンスがあるって舞い上がったんだ。それで……おまえの反応が悪くないって思い込んで、いやなことをしちまった。悪かった……もう二度としないと誓うから安心してくれ」

 ――ダメだ。完敗だよ。

 自分の思いに蓋をすることができない。この人の悲しむ顔を見たくない。

 僕の手を握っていたマックスさんの手が離れてしまう。苦笑したかと思うと彼は僕に背を向ける。

「……今のは忘れろ。上司として新人の特訓は、ちゃんと最後までやる。だけど、少しの間でいい。気持ちの整理をする時間をくれねえか」

 僕は、彼の手を慌てて握った。

「いやな思いなんかしてません。忘れることなんてできないです」

「ルキウス、頼む。やめてくれ。勘違いをするから……」

「勘違いなんかじゃないです!」

 マックスさんがビクリと方を揺らした。

「……僕も、あなたに惹かれています。エドワードさまと別れたばかりなのに、あなたのことを好きになってしまって……戸惑うばかりです。どうしたらいいか、わからない……」

 ゆっくりとマックスさんが振り向く。困惑した顔のまま、もう一度僕の両手をそっと握ってくれた。

「じゃあ……オレはおまえを好きでいてもいいのか? ……諦めなくて、いい?」

 まるで幼い子供が親に怒っていないかと尋ねるように、おずおずしながらマックスさんが質問した。

「はい、もちろんです。僕のことを好きでいてください。嫌わないでください」

「ならない! なるわけがない!」
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