69 / 195
第15章
愛慕2
しおりを挟む
「嘘です。そんなの……信じられません!」
僕は目線を下にやり、館のほうへ帰ろうとする。が、手首をマックスさんに掴まれてしまった。
「嘘じゃねえよ。旦那様も言ってただろう――『悪魔』って。オレはこの国でも、他国でも嫌われてきた。それはギルドになってからも大差ねえ。でも、おまえは最初からオレに親切にしてくれて普通に接してくれた。
それが泣きたくなるくらいに嬉しかったんだよ。イワーク洞窟で再会できたときは、天の神々心からに感謝した。『大切な人たちを守るために戦う』と断言したおまえの凛とした姿に、目が離せなくなったんだ」
マックスさんは僕よりも背が高いし、自分の身長以上もある大剣を振り回して、暗殺部隊や魔族をどんどん蹴散らしていく。
本気を出せば、僕のように筋肉もついていない男の細腕の一本や二本は、簡単に折ることができるだろう。なのに彼は、僕が力を加えなくてもすぐに振り解けてしまうくらいに弱々しい力で、僕の手首を掴んでいた。
「庶民で一介の剣士でしかない俺は、金銀財宝なんか持ってない。貴族や騎士、金持ちの商人のように高価なものをたやすくプレゼントする財力はない。それでも、どうにかして、おまえの力になりたかった。ギルドのマックスであるオレにできるのは、おまえをギルドに推薦すること。
だけど――結局おまえはオレの手助けなんかなくても、ビックゴブリンを思いも寄らない形で倒した。その姿に、ますます心を奪われたんだ。おまえが偽の神子に傷つけられたときは、怖かった。失うことが人生だと思っていたのに、おまえを失いたくないと思ってしまったんだ」
「……何かの錯覚です。あなたは、きっと悪い魔女や悪魔の呪いにかかっているから、僕に恋をしてると思い込んでいるだけですよ! そうやって、いつもいろんな人を船に乗せて、口説いているんですか?」
「違う!」
大声でマックスさんは叫び、僕と向き合う形にして両手を握った。
「確かに、あの魔法の船に乗せた人間は大勢いる。だけどオレの部屋へ通したのも、客室のベッドを使ったのも、お前ひとりだけなんだ……!」
「そんなの……」
「なのに、おまえは熱を出して苦しんで、どうしたらいいか右も左もわからなかった。先生や奥様に手紙であれこれ聞き出して、薬を初めて煎じたり、病人のための食事を作った。一日でも早くよくなって早く目を覚ましてほしい……オレの名前を呼んでくれって、らしくもないことまで考えちまった」
鼻の奥がツンとして、胸がひどくざわつき、ひどく息苦しくなる。
「恋なんて一生しないと思ってたんだ。奴隷へと身を落とし、人間を嫌いになった。人間なんて全員死んで、この世から消え去ればいいと願い続けていたんだよ。俺を奴隷にした神々を呪い、俺や母を捨てた父のことをひどく憎んだ。エリザたちと出会ってからも距離を置き、壁を作っていた。
それなのに、ある日突然オレの世界に、ポンとおまえが急に現れた。出会ってから何年も、何十年も経ってないのに、オレの心を掴んで離さない。エドワード王子の心を奪った偽の神子のことを憎み、殺そうとした話を聞いてもおまえのことを嫌いになれない、ならないよ。むしろ、よかったって思う」
「何をですか?」
顔を上げれば、いつだって自信満々なマックスさんが、今にも泣いてしまいそうな顔をしているのが目に飛び込んだ。
「おまえが今もエドワード王子の恋人だったら、俺は気が狂ってた。触れることも、思いを告げることも叶わず、どんなに恋焦がれても手の届かない存在。夜も眠れなくなって、死ぬほど苦しい思いをしたはずだ。けど、おまえはエドワード王子とすでに別れていた。だったらオレにもチャンスがあるって舞い上がったんだ。それで……おまえの反応が悪くないって思い込んで、いやなことをしちまった。悪かった……もう二度としないと誓うから安心してくれ」
――ダメだ。完敗だよ。
自分の思いに蓋をすることができない。この人の悲しむ顔を見たくない。
僕の手を握っていたマックスさんの手が離れてしまう。苦笑したかと思うと彼は僕に背を向ける。
「……今のは忘れろ。上司として新人の特訓は、ちゃんと最後までやる。だけど、少しの間でいい。気持ちの整理をする時間をくれねえか」
僕は、彼の手を慌てて握った。
「いやな思いなんかしてません。忘れることなんてできないです」
「ルキウス、頼む。やめてくれ。勘違いをするから……」
「勘違いなんかじゃないです!」
マックスさんがビクリと方を揺らした。
「……僕も、あなたに惹かれています。エドワードさまと別れたばかりなのに、あなたのことを好きになってしまって……戸惑うばかりです。どうしたらいいか、わからない……」
ゆっくりとマックスさんが振り向く。困惑した顔のまま、もう一度僕の両手をそっと握ってくれた。
「じゃあ……オレはおまえを好きでいてもいいのか? ……諦めなくて、いい?」
まるで幼い子供が親に怒っていないかと尋ねるように、おずおずしながらマックスさんが質問した。
「はい、もちろんです。僕のことを好きでいてください。嫌わないでください」
「ならない! なるわけがない!」
僕は目線を下にやり、館のほうへ帰ろうとする。が、手首をマックスさんに掴まれてしまった。
「嘘じゃねえよ。旦那様も言ってただろう――『悪魔』って。オレはこの国でも、他国でも嫌われてきた。それはギルドになってからも大差ねえ。でも、おまえは最初からオレに親切にしてくれて普通に接してくれた。
それが泣きたくなるくらいに嬉しかったんだよ。イワーク洞窟で再会できたときは、天の神々心からに感謝した。『大切な人たちを守るために戦う』と断言したおまえの凛とした姿に、目が離せなくなったんだ」
マックスさんは僕よりも背が高いし、自分の身長以上もある大剣を振り回して、暗殺部隊や魔族をどんどん蹴散らしていく。
本気を出せば、僕のように筋肉もついていない男の細腕の一本や二本は、簡単に折ることができるだろう。なのに彼は、僕が力を加えなくてもすぐに振り解けてしまうくらいに弱々しい力で、僕の手首を掴んでいた。
「庶民で一介の剣士でしかない俺は、金銀財宝なんか持ってない。貴族や騎士、金持ちの商人のように高価なものをたやすくプレゼントする財力はない。それでも、どうにかして、おまえの力になりたかった。ギルドのマックスであるオレにできるのは、おまえをギルドに推薦すること。
だけど――結局おまえはオレの手助けなんかなくても、ビックゴブリンを思いも寄らない形で倒した。その姿に、ますます心を奪われたんだ。おまえが偽の神子に傷つけられたときは、怖かった。失うことが人生だと思っていたのに、おまえを失いたくないと思ってしまったんだ」
「……何かの錯覚です。あなたは、きっと悪い魔女や悪魔の呪いにかかっているから、僕に恋をしてると思い込んでいるだけですよ! そうやって、いつもいろんな人を船に乗せて、口説いているんですか?」
「違う!」
大声でマックスさんは叫び、僕と向き合う形にして両手を握った。
「確かに、あの魔法の船に乗せた人間は大勢いる。だけどオレの部屋へ通したのも、客室のベッドを使ったのも、お前ひとりだけなんだ……!」
「そんなの……」
「なのに、おまえは熱を出して苦しんで、どうしたらいいか右も左もわからなかった。先生や奥様に手紙であれこれ聞き出して、薬を初めて煎じたり、病人のための食事を作った。一日でも早くよくなって早く目を覚ましてほしい……オレの名前を呼んでくれって、らしくもないことまで考えちまった」
鼻の奥がツンとして、胸がひどくざわつき、ひどく息苦しくなる。
「恋なんて一生しないと思ってたんだ。奴隷へと身を落とし、人間を嫌いになった。人間なんて全員死んで、この世から消え去ればいいと願い続けていたんだよ。俺を奴隷にした神々を呪い、俺や母を捨てた父のことをひどく憎んだ。エリザたちと出会ってからも距離を置き、壁を作っていた。
それなのに、ある日突然オレの世界に、ポンとおまえが急に現れた。出会ってから何年も、何十年も経ってないのに、オレの心を掴んで離さない。エドワード王子の心を奪った偽の神子のことを憎み、殺そうとした話を聞いてもおまえのことを嫌いになれない、ならないよ。むしろ、よかったって思う」
「何をですか?」
顔を上げれば、いつだって自信満々なマックスさんが、今にも泣いてしまいそうな顔をしているのが目に飛び込んだ。
「おまえが今もエドワード王子の恋人だったら、俺は気が狂ってた。触れることも、思いを告げることも叶わず、どんなに恋焦がれても手の届かない存在。夜も眠れなくなって、死ぬほど苦しい思いをしたはずだ。けど、おまえはエドワード王子とすでに別れていた。だったらオレにもチャンスがあるって舞い上がったんだ。それで……おまえの反応が悪くないって思い込んで、いやなことをしちまった。悪かった……もう二度としないと誓うから安心してくれ」
――ダメだ。完敗だよ。
自分の思いに蓋をすることができない。この人の悲しむ顔を見たくない。
僕の手を握っていたマックスさんの手が離れてしまう。苦笑したかと思うと彼は僕に背を向ける。
「……今のは忘れろ。上司として新人の特訓は、ちゃんと最後までやる。だけど、少しの間でいい。気持ちの整理をする時間をくれねえか」
僕は、彼の手を慌てて握った。
「いやな思いなんかしてません。忘れることなんてできないです」
「ルキウス、頼む。やめてくれ。勘違いをするから……」
「勘違いなんかじゃないです!」
マックスさんがビクリと方を揺らした。
「……僕も、あなたに惹かれています。エドワードさまと別れたばかりなのに、あなたのことを好きになってしまって……戸惑うばかりです。どうしたらいいか、わからない……」
ゆっくりとマックスさんが振り向く。困惑した顔のまま、もう一度僕の両手をそっと握ってくれた。
「じゃあ……オレはおまえを好きでいてもいいのか? ……諦めなくて、いい?」
まるで幼い子供が親に怒っていないかと尋ねるように、おずおずしながらマックスさんが質問した。
「はい、もちろんです。僕のことを好きでいてください。嫌わないでください」
「ならない! なるわけがない!」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる