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第18章
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「しょうがないわね、世間知らずのお坊ちゃまの補佐役を務め上げるわ。了解したわよ、リーダー」
そうして会話をしていると偵察部隊の人たちが「後、六時間もしないうちに魔族が到着するぞ!」と報告をしに帰ってきた。
いよいよ戦争突入という状態になり、緊張が走る。
それぞれの持ち場へ行くために移動したり、戦の準備のため防具や武具の確認をしたり、作戦のおさらいをしたりと辺りは慌ただしい。クロウリー先生も作戦の最終確認をしに行ってしまった。
しおらしい様子となったエリザさんがメリーさんの名前をつぶやき、彼にひしと抱きついた。
「エリザ!」とメリーさんが取り乱す。
ふたりが婚約しているのは知っているけど職場の人たちのそういった姿は、なんだか目にすると気まずい気分になる。家族がハグをしているのを目撃したときとは、またちょっと違う心境だ。
目のやり場に困ったぼくは両手で顔を隠した。でも、つい好奇心がムクムクと湧き、指の隙間からふたりの様子を窺ってしまう。
「怪我はしてもいい。でも死ぬのだけは絶対に許さないんだから。生きて……帰ってきてよね」
「しかしエリザ。そんなことは私にだってわからない。死ぬ可能性はゼロでは……」
「バカ言わないでよ!? 嘘でもいいから、そこは『必ずきみのもとに帰る』って言うところでしょ! メリーのバカ……」
そうして、うなだれるエリザさんの背にメリーさんが腕を回し、抱きしめた。
「すまない、気の利かない男で」
「そんなの……ずっと昔からわかってるわよ」
「きみのもとへ必ず帰ると約束する。だから、そのように悲しそうな顔をしないでくれ」
「……うん」
ふたりのやりとりを見ていて痛感させられる。
――これは、お芝居で見る古代の戦闘シーンでなければ、勇者と魔王の戦いでもない。
嘘みたいな話だけど、本当にこれから、命をかけた戦いが始まるんだ。
辺りを見回せば、みんな見知ったものや友達、上司、恋人と神妙な顔つきをして話している。そうでない者も両手を組んで神々へ祈りを捧げたり、遠方にいる家族や恋人について思いを馳せている。中には馬やペガサス、ロバなんかに話しかけ、自分を鼓舞している者たちの姿もあった。
僕は急に不安に襲われ、マックスさんに話しかけようとする。だけど、いつの間にか彼は姿を消していた。辺りを見回りに行ってしまったのか、まったく姿が見えない。
彼を探しながら、ピーターと兄様の姿はないかと歩を進める。このまま顔を合わせることができず、会話できなかったら、どうしようとため息をつく。
ピーターと兄様の姿を探しながら子供のときにおばあ様が話してくれた“おはなし”を思い出す。
「昔々、あるところに勇者様がいました。勇者様は信頼できる仲間を集め、悪い魔王と魔族を倒しに行きました。勇者様は仲間たちとともに悪い魔族を倒し、魔王を封印しました。そして世界に平和が訪れたのです。めでたしめでたし」
いじめられっこの僕は悪者をやっつける勇者様に憧れた。僕にも勇者様のような人がいれば、つらい思いをしないのになと憧れたんだ。
――だけど、そのおはなしの背景には描かれていない現実があるんだ。おまけにその戦いは百年単位で続いた。どれほどの生き物が犠牲となったのだろう?
そして、その現実がふたたびこの世で起こる。魔族も人間も敵味方関係なく大量に死ぬ。後、六時間もしないうちに戦いの火蓋が切られる。
胸がザワザワして落ち着かない。手が震えて、不安が全身を渦巻いて、頭がおかしくなりそうだ。
早くマックスさんに会いたい。ピーターや兄様はどこにいるんだろう……。人に聞いたほうが早いかな?
悩んでいればグイと腕を掴まれる。
「ルカ! おまえ、こんなところで一体何をしてるんだよ!?」
「ピーター!」
噂をすればなんとやらだ。
持ち場へ移動中のピーターに声を掛けられる。その隣には兄様の姿もあった。
よかった、ふたりに会えたとほっと胸を撫で下ろす。
同時に、ふたりがここで死んでしまったら、もう二度と会えなくなってしまうことに気づかされる。どうしよう、そんな未来はいやだ……訪れてほしくない。だけど、僕はもう時間を巻き戻すチャンスはない。
ふたりを失うかもしれないと思っただけで心臓がバクバク鳴り、頭がガンガンする。
「っ……それはこっちの台詞だよ。ピーター、兄様!」
「何言ってるんだよ。俺は騎兵隊長。ピーターは槍兵部隊だ。戦争になったら駆り出されるのは当然だろ」
「それは――」
だって、僕の知っている記憶では魔族と戦うことなんて一度もなかった。
兄様は一度目の世界で貴族の身分と資産を剥奪されても軟禁されただけだし、ピーターは庶民を守って華々しく命を散らしたんだ。二度目の世界ではエドワードさまと偽の神子たちの手により、処刑されてしまった。
それでも『過去』の女神様に時間を巻き戻してもらって、元気な姿で笑っているふたりに会えたのに……こんなのって、あんまりだよ。
「おまえ、ギルドになったんだってな。父上から聞いたよ。単身でビックゴブリンとかいう悪いゴブリンの親玉を倒したんだって?」
そうして会話をしていると偵察部隊の人たちが「後、六時間もしないうちに魔族が到着するぞ!」と報告をしに帰ってきた。
いよいよ戦争突入という状態になり、緊張が走る。
それぞれの持ち場へ行くために移動したり、戦の準備のため防具や武具の確認をしたり、作戦のおさらいをしたりと辺りは慌ただしい。クロウリー先生も作戦の最終確認をしに行ってしまった。
しおらしい様子となったエリザさんがメリーさんの名前をつぶやき、彼にひしと抱きついた。
「エリザ!」とメリーさんが取り乱す。
ふたりが婚約しているのは知っているけど職場の人たちのそういった姿は、なんだか目にすると気まずい気分になる。家族がハグをしているのを目撃したときとは、またちょっと違う心境だ。
目のやり場に困ったぼくは両手で顔を隠した。でも、つい好奇心がムクムクと湧き、指の隙間からふたりの様子を窺ってしまう。
「怪我はしてもいい。でも死ぬのだけは絶対に許さないんだから。生きて……帰ってきてよね」
「しかしエリザ。そんなことは私にだってわからない。死ぬ可能性はゼロでは……」
「バカ言わないでよ!? 嘘でもいいから、そこは『必ずきみのもとに帰る』って言うところでしょ! メリーのバカ……」
そうして、うなだれるエリザさんの背にメリーさんが腕を回し、抱きしめた。
「すまない、気の利かない男で」
「そんなの……ずっと昔からわかってるわよ」
「きみのもとへ必ず帰ると約束する。だから、そのように悲しそうな顔をしないでくれ」
「……うん」
ふたりのやりとりを見ていて痛感させられる。
――これは、お芝居で見る古代の戦闘シーンでなければ、勇者と魔王の戦いでもない。
嘘みたいな話だけど、本当にこれから、命をかけた戦いが始まるんだ。
辺りを見回せば、みんな見知ったものや友達、上司、恋人と神妙な顔つきをして話している。そうでない者も両手を組んで神々へ祈りを捧げたり、遠方にいる家族や恋人について思いを馳せている。中には馬やペガサス、ロバなんかに話しかけ、自分を鼓舞している者たちの姿もあった。
僕は急に不安に襲われ、マックスさんに話しかけようとする。だけど、いつの間にか彼は姿を消していた。辺りを見回りに行ってしまったのか、まったく姿が見えない。
彼を探しながら、ピーターと兄様の姿はないかと歩を進める。このまま顔を合わせることができず、会話できなかったら、どうしようとため息をつく。
ピーターと兄様の姿を探しながら子供のときにおばあ様が話してくれた“おはなし”を思い出す。
「昔々、あるところに勇者様がいました。勇者様は信頼できる仲間を集め、悪い魔王と魔族を倒しに行きました。勇者様は仲間たちとともに悪い魔族を倒し、魔王を封印しました。そして世界に平和が訪れたのです。めでたしめでたし」
いじめられっこの僕は悪者をやっつける勇者様に憧れた。僕にも勇者様のような人がいれば、つらい思いをしないのになと憧れたんだ。
――だけど、そのおはなしの背景には描かれていない現実があるんだ。おまけにその戦いは百年単位で続いた。どれほどの生き物が犠牲となったのだろう?
そして、その現実がふたたびこの世で起こる。魔族も人間も敵味方関係なく大量に死ぬ。後、六時間もしないうちに戦いの火蓋が切られる。
胸がザワザワして落ち着かない。手が震えて、不安が全身を渦巻いて、頭がおかしくなりそうだ。
早くマックスさんに会いたい。ピーターや兄様はどこにいるんだろう……。人に聞いたほうが早いかな?
悩んでいればグイと腕を掴まれる。
「ルカ! おまえ、こんなところで一体何をしてるんだよ!?」
「ピーター!」
噂をすればなんとやらだ。
持ち場へ移動中のピーターに声を掛けられる。その隣には兄様の姿もあった。
よかった、ふたりに会えたとほっと胸を撫で下ろす。
同時に、ふたりがここで死んでしまったら、もう二度と会えなくなってしまうことに気づかされる。どうしよう、そんな未来はいやだ……訪れてほしくない。だけど、僕はもう時間を巻き戻すチャンスはない。
ふたりを失うかもしれないと思っただけで心臓がバクバク鳴り、頭がガンガンする。
「っ……それはこっちの台詞だよ。ピーター、兄様!」
「何言ってるんだよ。俺は騎兵隊長。ピーターは槍兵部隊だ。戦争になったら駆り出されるのは当然だろ」
「それは――」
だって、僕の知っている記憶では魔族と戦うことなんて一度もなかった。
兄様は一度目の世界で貴族の身分と資産を剥奪されても軟禁されただけだし、ピーターは庶民を守って華々しく命を散らしたんだ。二度目の世界ではエドワードさまと偽の神子たちの手により、処刑されてしまった。
それでも『過去』の女神様に時間を巻き戻してもらって、元気な姿で笑っているふたりに会えたのに……こんなのって、あんまりだよ。
「おまえ、ギルドになったんだってな。父上から聞いたよ。単身でビックゴブリンとかいう悪いゴブリンの親玉を倒したんだって?」
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