今宵、百合の庭園で……

鶴機 亀輔

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第7章

懐古1

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「アホなこと言ってねえで離れろっつーの!」

 そうして唇を尖らせ、顔を近づけてくる尊の顔を押しのけようとしていれば……「あ、槙野くんに尊ちゃんだ!」

 聞き覚えのある声がした方へ顔を向ける。そこには見知った人物がいた。

「えっ、委員長。それに西屋まで」

 住んでいる地区が同じで小・中と一緒。そのまま高校も同じところに通っていると西屋だ(ちなみに委員長は小・中・高と学級委員長や風紀委員長をしていた)。

「あ、あ、あ、あけましておめでとうございます。槙野くん、平田くん」

 西屋は、いつもの調子でオドオドしながら新年の挨拶をした。

 俺は尊の腕の中から抜け出し、こっそり耳元で内緒話をする。

「おう、おめでとう。何、おまえ、委員長とデート?」

 すると西屋は頬を染め、メガネを真っ白に曇らせた。

「うん、そうなんだ。パパとママや、おじさん、おばさんと家族ぐるみでね」

「おお、いいな。賑やかで」

「そうなんだ!」と委員長は西屋の腕に抱きつき、ピースサインをした。「あけましておめでとう、ふたりのほうこそ朝からラブラブだねー」

 委員長にからかわれて俺は「そんなんじゃねええよ」と悪態をつく。が、「そうなんだよ、さつきー」と尊が満面の笑みを浮かべる。

「昨日の夜は、ふたりで料理したり、バスケしたり、こたつでみかんを食べたりして、まったりとした時間を過ごせて最高だったんだ」

「よかったね、尊ちゃん。年末年始も槙野くんとバスケするなんて、ほんとに好きだね」

「うん、だって葵の好きなスポーツだもん。カッコいいとこ、見せられるし?」

 ……なんてウィンクをして歯を見せ、笑う。

 すっごくキザだなって思うけど、胸がキュンしてしまうのだから俺の心臓も、心も、頭も全部重症だ。

「学校は一緒だけどクラスが違うから、ふたりと話すの新鮮かも。ねっ、西屋くん!」

「そ、そうだね。小学生だった頃を思いだすよ。あの頃から、平田くんはすごくきれいだったし、槙野くんはカッコよかったよね。ぼくは今より冴えない、いじめられっ子だったなあ……」

 頭の後ろを掻きながら西屋が苦笑する。

「いつも三木ちゃんに『しっかりしなさいよ、泣き虫』って怒られてたのが懐かしいよ」としみじみとした様子で答える。

「そうね、あの頃の西屋くんは弱気なオタクって感じで、いじめられてなくても平坦な道でコケたり、ものに頭をぶつけたりするから心配だったわ」

「で、一緒にいるうちに今みたいな仲になったんだろ?」と俺が言えば、ふたりは恥ずかしそうに顔を赤らめ、微笑んだ。

 朝からお腹いっぱいだな、なんて思ってれば、委員長が「あっ……そういえば知ってる?」と眉を八の字にする。

「何が?」

「新年でめでたいときに口にするのは、はばかられるんだけど……」

 彼女は目線をさまよわせてから小声で俺たちにだけわかるように話した。

「なんでも赤松くんが大晦日の夜に亡くなったみたいなのよ」

「ええっ、あのいじめっ子の赤松が!?」

 思わず俺は大声で叫んでしまった。

 委員長が口元で人さし指を立てる。

「うちのお母さん、今でも小学校のときの子たちのお母さんと電話するんだ。それで、わかった話なんだけどね」

 憎らしい男の顔が浮かんでくる。

 まだ二十歳前なのに死んだなんて信じられない。

「……何、高校に入っても、いじめやってて恨まれて背中刺されたとか? それとも無免許の飲酒運転でもして事故った?」

「ううん、高校には行ってなかったんだって。中卒で土木建築関係の仕事をやってたらしいんだけど事故死だったんだって」

「事故死?」と俺は顔を歪ませずにはいられなかった。

「そう、それが変なんだよ。なんでも赤松くん、ここ最近ずっと『悪魔』が出てくる夢にうなされてて、ろくに寝れてなかったんだって」

「悪魔? 悪夢じゃなくて」と尊がヘラヘラしながら委員長に訊き返す。

「うん、悪魔の悪夢? みたいな。詳しくはわからないんだけどね。それで夢と現実がわからなくなって先輩たちの顔が悪魔に見えて、現場で逃げ回っているうちに穴に落っこちてたんだって。打ちどころが悪かったのか病院のベッドでウンウンうなってるうちに亡くなったみたい」

 なんじゃそりゃと思いながら、やつがいなくなった事実にほっとしてしまう。これで成人式や同窓会で顔を合わせて、いやな思いをすることもない。

 そんなふうに人の死を喜んでしまう自分を現金なやつだなと思っていれば、西屋がボソッと「吉野さん、どうしてるかな……」と口にする。

「美和子ちゃん、あいつに、めちゃくちゃいじめられてたからね。動物殺すとかヤバ過ぎ。なんでも他県の中学・高校に行ったって話だよ」

「うー……一歩、間違っていれば僕も、同じ目にあってたのかも……」

「大丈夫、西屋くんがそういう目にあっていたら私が喝を入れて助けたから」

 しゅんとしている西屋を元気づける委員長を見ていたら、ふと弘樹のことが頭をよぎった。

「な、なあ!」

「何、槙野くん?」と委員長が口元に笑みを浮かべる。

「あー……その、真島は……真島弘樹は、どうしてるか知ってるか?」
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