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第8章
菫7
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そうしてメッセージの「送信」ボタンをタップした。
さっきまで即レスだったのに、北野さんからの返事が来なくなってしまった。
相手は社会人だ。仕事の話を上司としてるかもしれないし、お客様から依頼の電話やメールが入ったのかもしれない。
それでメッセージを送るのが遅くなっているのかもと思いたい気持ちと、もしかして最初のメッセージでデートもまだしていない段階なのに、二回目以降のデートを連想させるような内容を書いたりしたから嫌がられたのかな? とか「なんだ、こいつ」と思われて引かれちゃったのかな? なんて不安な気持ちが胸の中でグルグルする。
ため息をつき、イヤホンを外して電車を降りる準備をする。
いつも通りに改札を下りて駅前のスーパーで夕食の食材を調達し、アパートに向かって歩く。
アパートに着いたらカバンを置いてエプロンを身に着け、キッチンに立つ。夕飯のメニューはご飯と肉じゃがと、ほうれん草のおひたし、それから豆腐とねぎの味噌汁だ。エリナと康成から教わったレシピをもとに作り始める。
落し蓋をして、肉じゃがの材料を鍋に入れて煮込み始める。タイマーをセットして、少し課題をやろうと思い、キッチンから自室に移る。机の上に置いてあるスマホを一瞥してからカバンの中に入れてあった参考書とノートを出した。ノートハ机の脇に置いて、参考書を持ってキッチンヘ行く。コトコトと鍋で具材を煮込むのをチラチラ確認しながら参考書の目次や索引なんかを眺める。
ピピピと目覚ましのようにタイマーが鳴り、参考書を洗濯機の上に置く。そのまま風味をつけるための醤油とテリを出すためのみりんを入れて、少し煮れば完成だ。
夕食をとるには、まだ時間が早いから、ノートに内容をまとめようと参考書を持って自室へ行く。
まるでタイミングを狙ったかのようにピコンと通知の入った音がして、ぼくは慌ててスマホのケースを開き、画面を食い入るように見つめた。
北野さんからのメッセージだった。画面をタップしてメッセージの内容を確認する。
『その……おれも、もしも二回目とか三回目のデートを村山さんとできたら、車を運転したいなって思います。それで、海でデートできたら嬉しいです。
といっても、まだ一回目のデートもしていないので村山さんに気に入っていただけるかわからねえんですがね! 楽しいデートにできたらいいなって思います』
彼がぼくの言葉を嫌がっていたり、引いていないことにほっとした。何より、彼もぼくと同じように思ってくれていることに、安心感を覚えた。
『後、もしよかったらなんですが、デートの前に電話とかしてみませんか? そうすれば最初のデートのときも異常に緊張することもないし、どういう話し方をするとか、メッセージのやりとりだけじゃわからないこととかもお互い理解できるようになるんじゃないかなって思うんですが……どうでしょう?』
「電話……」
そういえば有島さんが通話機能やオフラインでのやりとりもできるなんて言ってたことを思い出す。
『いいですね、電話してみたいです。ぼくから掛けても大丈夫ですか? この後、時間は?』
『大丈夫です。明日は栃木で仕事ですから深夜でなければ平気です。では、待ってます』
通話機能をさっそく使ってみる。スマホをスタンドに置き、スピーカー機能にして、コール音がするのをドキドキしながら待った。
『はい、北野です』
どこか緊張して声色が強張っている北野さんの声がする。
「村山です、こんばんは」
『こんばんは。電話、ありがとうございます。すぐ掛けてくれて嬉しいです』
「いえ、そんなお礼を言われるようなことはしてませんよ。ただ、メッセージのやりとりをするだけじゃなくて、ぼくも北野さんの声を聞きたいと思ったんで、すぐ掛けました」
『よかった。……相手が村山さんで』
「えっ? どういうことですか?」と反射的に訊き返した。
『いや、おれ、仕事ばかりで、まったく出会いがなくて。高校とか、専門のダチなんかと話しても、そういうのないし。みんな結婚してたり、彼女いたりって感じなんですよね。遊びとか駆け引きとかじゃなく、家族とか伴侶になって、そばにいてれくれる人がほしくて、けど、なかなか見つからなくって。……で、マッチングアプリがいいって話をお客様のご家族がしてるのを聞いて始めたんです。でも、デートをしてみても、企業を立ち上げるのを手伝ってほしいとか、ご利益があるからみたいな話になってフェードアウトしちゃうんですよね』
「同じです!」とつい前のめりになって答える。「ぼくもガニュメデスに登録してから、まともにデートができなかったりして二回目に進めなかったんです。それで提携してる結婚相談所にも手伝ってもらうことにしたんです。そうしたら、担当の人から北野さんはどうですか? って勧めてもらいました」
『はい。担当のコンサルタントから村山さんが俺と――って話をいただいたとき、すっごく驚きました。まず、おれから相手にメッセージを送ろうとするところで撃沈するパターンが多いから』
さっきまで即レスだったのに、北野さんからの返事が来なくなってしまった。
相手は社会人だ。仕事の話を上司としてるかもしれないし、お客様から依頼の電話やメールが入ったのかもしれない。
それでメッセージを送るのが遅くなっているのかもと思いたい気持ちと、もしかして最初のメッセージでデートもまだしていない段階なのに、二回目以降のデートを連想させるような内容を書いたりしたから嫌がられたのかな? とか「なんだ、こいつ」と思われて引かれちゃったのかな? なんて不安な気持ちが胸の中でグルグルする。
ため息をつき、イヤホンを外して電車を降りる準備をする。
いつも通りに改札を下りて駅前のスーパーで夕食の食材を調達し、アパートに向かって歩く。
アパートに着いたらカバンを置いてエプロンを身に着け、キッチンに立つ。夕飯のメニューはご飯と肉じゃがと、ほうれん草のおひたし、それから豆腐とねぎの味噌汁だ。エリナと康成から教わったレシピをもとに作り始める。
落し蓋をして、肉じゃがの材料を鍋に入れて煮込み始める。タイマーをセットして、少し課題をやろうと思い、キッチンから自室に移る。机の上に置いてあるスマホを一瞥してからカバンの中に入れてあった参考書とノートを出した。ノートハ机の脇に置いて、参考書を持ってキッチンヘ行く。コトコトと鍋で具材を煮込むのをチラチラ確認しながら参考書の目次や索引なんかを眺める。
ピピピと目覚ましのようにタイマーが鳴り、参考書を洗濯機の上に置く。そのまま風味をつけるための醤油とテリを出すためのみりんを入れて、少し煮れば完成だ。
夕食をとるには、まだ時間が早いから、ノートに内容をまとめようと参考書を持って自室へ行く。
まるでタイミングを狙ったかのようにピコンと通知の入った音がして、ぼくは慌ててスマホのケースを開き、画面を食い入るように見つめた。
北野さんからのメッセージだった。画面をタップしてメッセージの内容を確認する。
『その……おれも、もしも二回目とか三回目のデートを村山さんとできたら、車を運転したいなって思います。それで、海でデートできたら嬉しいです。
といっても、まだ一回目のデートもしていないので村山さんに気に入っていただけるかわからねえんですがね! 楽しいデートにできたらいいなって思います』
彼がぼくの言葉を嫌がっていたり、引いていないことにほっとした。何より、彼もぼくと同じように思ってくれていることに、安心感を覚えた。
『後、もしよかったらなんですが、デートの前に電話とかしてみませんか? そうすれば最初のデートのときも異常に緊張することもないし、どういう話し方をするとか、メッセージのやりとりだけじゃわからないこととかもお互い理解できるようになるんじゃないかなって思うんですが……どうでしょう?』
「電話……」
そういえば有島さんが通話機能やオフラインでのやりとりもできるなんて言ってたことを思い出す。
『いいですね、電話してみたいです。ぼくから掛けても大丈夫ですか? この後、時間は?』
『大丈夫です。明日は栃木で仕事ですから深夜でなければ平気です。では、待ってます』
通話機能をさっそく使ってみる。スマホをスタンドに置き、スピーカー機能にして、コール音がするのをドキドキしながら待った。
『はい、北野です』
どこか緊張して声色が強張っている北野さんの声がする。
「村山です、こんばんは」
『こんばんは。電話、ありがとうございます。すぐ掛けてくれて嬉しいです』
「いえ、そんなお礼を言われるようなことはしてませんよ。ただ、メッセージのやりとりをするだけじゃなくて、ぼくも北野さんの声を聞きたいと思ったんで、すぐ掛けました」
『よかった。……相手が村山さんで』
「えっ? どういうことですか?」と反射的に訊き返した。
『いや、おれ、仕事ばかりで、まったく出会いがなくて。高校とか、専門のダチなんかと話しても、そういうのないし。みんな結婚してたり、彼女いたりって感じなんですよね。遊びとか駆け引きとかじゃなく、家族とか伴侶になって、そばにいてれくれる人がほしくて、けど、なかなか見つからなくって。……で、マッチングアプリがいいって話をお客様のご家族がしてるのを聞いて始めたんです。でも、デートをしてみても、企業を立ち上げるのを手伝ってほしいとか、ご利益があるからみたいな話になってフェードアウトしちゃうんですよね』
「同じです!」とつい前のめりになって答える。「ぼくもガニュメデスに登録してから、まともにデートができなかったりして二回目に進めなかったんです。それで提携してる結婚相談所にも手伝ってもらうことにしたんです。そうしたら、担当の人から北野さんはどうですか? って勧めてもらいました」
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