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第4章
タイムリミット2
「べつにオレとしてはいいんだよ。迷惑だなんて、ぜんぜん思ってない。下世話な話だが、患者が入れば病院は儲かる。そして、そこに勤務している医者や看護師、医療事務なんかは、患者さんが出してくれたお金をもらって生活ができるんだ。きみがから来てくれたら、うれしいし、全力で治療するのは医者として当たり前のことだ」
「確かに。そうですよね」とぼくは、なるほどと手を打つ。
そうは言っても金儲け主義の病院だってあるし、まともに患者を見ない医者や看護師だっている。
やっぱり城之内先生ってカッコいい! こういう大人の男にぼくもなりたいなと尊敬の眼差しで見つめる。
「もしきみがさっきの言葉を掛けるなら、ご両親や渡辺先生に言わなきゃだよ」
「あー……ですよね」
なんだか気まずい思いになり、返事をする。
城之内先生は白衣のポケットに両手を突っ込んで、困ったように微笑んだ。
「片思いをしている相手とはうまくいってないのかい?」
「……はい」
「確か、幼馴染だよね。獣医目指してる同い年の子。告白はまだ?」
「えっと……その……」
真っ白でシミひとつない、消毒液のにおいがするシーツを汗ばんだ両手で掴んだ。
素直に「まだです」と言えばいい。
今までだって城之内先生に恋愛相談をしてきた。隼人のバイクを運転する姿が男らしくてカッコいいとか、意地悪や皮肉を言ってくるけど案外いいやつで面倒見がいいところが好きとか、動物を目にして笑ったときにつり目がふにゃっと下がってエクボが出るのが可愛いとか……。
それなのに、どうしてこんなに胸がザワザワするんだろう。
「そっか、まだかー」
残念そうな顔をした城之内先生が目をつぶり、息を整えた。目を開けた先生は、ぼくの目をまっすぐ見て、いつも以上に真剣な顔つきをして口を開いた。
「はっきり言うとね、その幼馴染のことを諦めたほうがきみのためだと思う」
「えっ? どういうことですか……?」
ぼくは城之内先生の言っていることがわからなくて戸惑いを覚える。
「血液検査の結果だけど非常に危ない数値になってるんだ。急激に悪くなってる。このままじゃ犬伏くん、きみはポメラニアンになって、一生人間に戻れなくなってしまうよ」
「あっ……アハハ! そっか、やっぱり、そういう結果になっちゃいましたか。やだなー、もう」
空笑いをして頭の後ろを掻いていれば、「笑いごとじゃないよ」とツッコミを入れられてしまった。
「きみは確かに犬に変態するヒューマン・トランスフォーマーの子孫だ。でもお母さんのお腹の中で人間として育ち、人間として生まれてきた。二本足で歩き、手を使い、人間の言葉を喋っている。ひどい病気にかからず、大きな怪我もしなければ七十から八十歳前後まで生きられる。それなのにポメラニアンになって人としての記憶や感情も失い、言葉も忘れて十五から二十年前後で死に、人生の幕を下ろすつもりなのかい?」
「それは……」
図星を突かれてしまい、答えに窮する。何も言えないでいると城之内先生が「『好きな人に見てもらえるためなら犬になってもいい』って考えているんだろ?」と考えを当てられてしまう。
「違います。そんなんじゃないです! ただ、ただ……好きなだけじゃ仕事がうまくいかないっていう現実がつらいんです。父も人間関係で苦労して仕事に行くのもつらそうで、力になりたいと思います。でも子どもだから、能力や才能がないし、声優をやっている人はたくさんいるからって、お金をもらえなくて力になれないのがもどかしかったりするんです。何より犬になるたびに母が悲しそうな顔をするし、守護者である渡辺先生に頼りっぱなしで申し訳ないと思ってます。それにヒューマン・トランスフォーマーだから友だちも少ないし……」
「そうだね。それもストレスの一因だ。そのせいもあって犬になってる時間が長くなっているんだろうね。だけど、一番は大好きな人と仲よくなりたいのになれなくて、犬になれば愛してもらえるっていう欲が原因じゃないかな?」
「城之内先生は……ぼくに、どうしろって言うんですか? 隼人を諦めるなんて、そんな。そんなこと……」
「一日も早く、その子に告白をするか、それができないなら頭を切り替えてマスターやパートナーと契約を結んだり、候補生と新しい恋を始めるんだ」
「ええっ……」
わけがわからなくて頭が混乱する。城之内先生が何を考えているのかわからない。目線をウロウロさせていれば先生が「これはきみの人生に関わってくる話だから、よく聞いて」と真面目な声で言う。
「告白をして振られれば片思いにも、けじめをつけられる。時間はかかるけど、その子との恋は叶わないとわかって、『犬になろう』っていう意識も薄まっていくはずだ。逆に両思いになれば渉くんは人間として隼人くんに愛してもらえるから犬になる考えもなくなるだろう。それに獣医になろうと思っているような子だから、本当に渉くんのことを好きなら時間をかけてヒューマン・トランスフォーマーのことも、きっと理解してくれるよ」
「だったら、どうしてマスターやパートナーの話をするんですか?」
「確かに。そうですよね」とぼくは、なるほどと手を打つ。
そうは言っても金儲け主義の病院だってあるし、まともに患者を見ない医者や看護師だっている。
やっぱり城之内先生ってカッコいい! こういう大人の男にぼくもなりたいなと尊敬の眼差しで見つめる。
「もしきみがさっきの言葉を掛けるなら、ご両親や渡辺先生に言わなきゃだよ」
「あー……ですよね」
なんだか気まずい思いになり、返事をする。
城之内先生は白衣のポケットに両手を突っ込んで、困ったように微笑んだ。
「片思いをしている相手とはうまくいってないのかい?」
「……はい」
「確か、幼馴染だよね。獣医目指してる同い年の子。告白はまだ?」
「えっと……その……」
真っ白でシミひとつない、消毒液のにおいがするシーツを汗ばんだ両手で掴んだ。
素直に「まだです」と言えばいい。
今までだって城之内先生に恋愛相談をしてきた。隼人のバイクを運転する姿が男らしくてカッコいいとか、意地悪や皮肉を言ってくるけど案外いいやつで面倒見がいいところが好きとか、動物を目にして笑ったときにつり目がふにゃっと下がってエクボが出るのが可愛いとか……。
それなのに、どうしてこんなに胸がザワザワするんだろう。
「そっか、まだかー」
残念そうな顔をした城之内先生が目をつぶり、息を整えた。目を開けた先生は、ぼくの目をまっすぐ見て、いつも以上に真剣な顔つきをして口を開いた。
「はっきり言うとね、その幼馴染のことを諦めたほうがきみのためだと思う」
「えっ? どういうことですか……?」
ぼくは城之内先生の言っていることがわからなくて戸惑いを覚える。
「血液検査の結果だけど非常に危ない数値になってるんだ。急激に悪くなってる。このままじゃ犬伏くん、きみはポメラニアンになって、一生人間に戻れなくなってしまうよ」
「あっ……アハハ! そっか、やっぱり、そういう結果になっちゃいましたか。やだなー、もう」
空笑いをして頭の後ろを掻いていれば、「笑いごとじゃないよ」とツッコミを入れられてしまった。
「きみは確かに犬に変態するヒューマン・トランスフォーマーの子孫だ。でもお母さんのお腹の中で人間として育ち、人間として生まれてきた。二本足で歩き、手を使い、人間の言葉を喋っている。ひどい病気にかからず、大きな怪我もしなければ七十から八十歳前後まで生きられる。それなのにポメラニアンになって人としての記憶や感情も失い、言葉も忘れて十五から二十年前後で死に、人生の幕を下ろすつもりなのかい?」
「それは……」
図星を突かれてしまい、答えに窮する。何も言えないでいると城之内先生が「『好きな人に見てもらえるためなら犬になってもいい』って考えているんだろ?」と考えを当てられてしまう。
「違います。そんなんじゃないです! ただ、ただ……好きなだけじゃ仕事がうまくいかないっていう現実がつらいんです。父も人間関係で苦労して仕事に行くのもつらそうで、力になりたいと思います。でも子どもだから、能力や才能がないし、声優をやっている人はたくさんいるからって、お金をもらえなくて力になれないのがもどかしかったりするんです。何より犬になるたびに母が悲しそうな顔をするし、守護者である渡辺先生に頼りっぱなしで申し訳ないと思ってます。それにヒューマン・トランスフォーマーだから友だちも少ないし……」
「そうだね。それもストレスの一因だ。そのせいもあって犬になってる時間が長くなっているんだろうね。だけど、一番は大好きな人と仲よくなりたいのになれなくて、犬になれば愛してもらえるっていう欲が原因じゃないかな?」
「城之内先生は……ぼくに、どうしろって言うんですか? 隼人を諦めるなんて、そんな。そんなこと……」
「一日も早く、その子に告白をするか、それができないなら頭を切り替えてマスターやパートナーと契約を結んだり、候補生と新しい恋を始めるんだ」
「ええっ……」
わけがわからなくて頭が混乱する。城之内先生が何を考えているのかわからない。目線をウロウロさせていれば先生が「これはきみの人生に関わってくる話だから、よく聞いて」と真面目な声で言う。
「告白をして振られれば片思いにも、けじめをつけられる。時間はかかるけど、その子との恋は叶わないとわかって、『犬になろう』っていう意識も薄まっていくはずだ。逆に両思いになれば渉くんは人間として隼人くんに愛してもらえるから犬になる考えもなくなるだろう。それに獣医になろうと思っているような子だから、本当に渉くんのことを好きなら時間をかけてヒューマン・トランスフォーマーのことも、きっと理解してくれるよ」
「だったら、どうしてマスターやパートナーの話をするんですか?」
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