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第5章
「好き」だけじゃ難しいこと2
「マネージャーもさ、もっと渉に仕事を回すって意気込んでたから。これからも精一杯頑張れよ」
「はい、ありがとうございます!」
そうしてエレベーターを降りて外へ出れば、聡太さんが、にっと歯を見せて快活に笑う。
「よーし、その意気だ! 景気づけに、どっかで酒……と行きたいところだが、まだ高校生だもんな。ファミレスか牛丼屋で、飯でも食おうぜ」
「あー……その、聡太さんとご飯を一緒に食べれるのは、すごくうれしいんです」
「でも?」と聡太さんが首をかしげた。
「今月は金欠でして……」
聡太さん以外の大御所の方々や先輩に誘われたときは、心証が悪くなってしまうかも……という思いもあって、少し無理をしてしまう。
だけど事務所の先輩であり、ヒューマン・トランスフォーマーのマスターをやっていて、うちの事情もよくわかっている聡太さんには本音で話せるんだ。
「あー……おじさんがストレスマッハで、犬にばっかなってて金銭的に難しいのか?」と周りに人がいない状況か確認した彼が、小声で訊いてくる。
「……その通りです」
困ったように聡太さんが頬をかいている。その姿に申し訳ないなと思いつつも、本当のことだから、どうしようもない。
「一応、父もヒューマン・トランスフォーマーに理解ある社長のもとで働いているんですよ。守護者の方もいますし。でも転職してきた方と、どうもうまくいかないみたいで……悩んでいます」
「まあ、それは人間でもよくある話だからな。俺の同級生が公務員として働いてたり、企業勤めしてるけど人間関係で悩んで、うつ病になったり、メンタル病んだって話もよく聞くぞ。それで転職くり返したり、フリーランスとか、企業するやつもいるくらいだからな」
その話を聞いていたら、なんだか悲しくなってきた。
ぼくも、隼人もいじめにあったことがない。でも高校のクラスメートの中には、幼稚園や保育園、小・中でいじめられた経験がある・いじめを目撃したことがあると言ってる子も多いのが実情だ。なんだか世知辛い世の中だなと、気持ちが沈む。
「そうなんですか……どこの世界でも、そういう話ってあるんですね」
「まあ、こればっかりはな。育ってきた環境も、価値観も違えば、意見が衝突したり、うまくいかなくないこともあるからな」と聡太さんが、ため息をついてからスマホの画面へと目をやる。「渉さえよければ、うちで食ってかないか? うちの嫁さんが鍋を作ってくれてるって」
「えっ、でも、お邪魔になっちゃうんじゃありませんか……」
胸の前で両手を振っていれば、お腹が盛大にグー! と鳴る。スピーカーを使って音を拾っているかのような大音量に顔が熱くなり、ぼくは体を硬直させる。
道行く人が、こちらをチラッと見る。
「ママー、今のってお腹の音?」
有名私立幼稚園の制服を着た女の子が、手をつないでいるパンツスーツ姿のお母さんを見上げる。
「そうだねー。お兄さんたちもお仕事をしてきて、お腹がペコペコなんだよ」
「そっか! 早く、おうちに帰って、お夕飯食べよう!」
「ええ、パパがお夕飯を作って待ってるわよ」
そうして仲のよさそうな親子は、その場を去っていった。
ぶほっと聡太さんが吹き出し、肩を小刻みに震わせてクククと笑っている。
なんだろう、すっごく恥ずかしい……。穴があったら入りたいって、こういう感覚なのかな? と思いながら、ぼくは夏場でもないのに汗をダラダラかいて、涙目のまま熱くなっている体を震わせた。
「ほら、な。腹の虫が、めちゃくちゃ元気に鳴いてる。『夕食を食べさせろ!』って」
「聡太さん、それ、言わないでくださいよ……これじゃ、ぼくが食いしん坊みたいじゃないですか」
「とにかくさ、嫁さんも渉のことを気に入ってるし、前回はオレたちが渉んちのおじさん・おばさんに焼肉をおごってもらったんだ。おまえが犬になってばかりいるって話もマネージャーから聞いたし、うちで少し愚痴ってけよ」
「聡太さん……」
「じゃあ、まずは、おばさんに連絡入れとけよ」
「は、はい!」
ぼくもスマホを取り出して、お母さんへ送るLINEのメッセージを作るために、画面をタップする。
優しい先輩の言葉に胸が、じーんと熱くなる。こんなにもいい先輩にめぐりあえて本当によかった。
まったく隼人にも聡太さんの爪の垢を煎じて飲んでもらいたいくらいだよと思っていれば、「いってらっしゃい」と柴犬がしっぽを振っているスタンプが送られてくる。
「聡太さん、大丈夫です。母からの許可が取れました」と報告をすれば、聡太さんに、あごの下を撫でられる。
「よし、いい子だな」
「ちょ、ちょっと聡太さん!? 今は外にいるんですから、そんなことしないでくださいよ!」
「お、おお、そうだな。悪かった!」
ぼくの中のポメラニアンが「もっと撫でてー」とねだっているけど、今は東京の町中。人目が多くある。
私服に着替えたから、聡太さんが見回りをしている警察の人に職務質問をされることはないと思う。
だけど……同業者から変なふうに邪推されるかもしれない。そんなことになったら既婚者である聡太さんの名誉に関わる。
「はい、ありがとうございます!」
そうしてエレベーターを降りて外へ出れば、聡太さんが、にっと歯を見せて快活に笑う。
「よーし、その意気だ! 景気づけに、どっかで酒……と行きたいところだが、まだ高校生だもんな。ファミレスか牛丼屋で、飯でも食おうぜ」
「あー……その、聡太さんとご飯を一緒に食べれるのは、すごくうれしいんです」
「でも?」と聡太さんが首をかしげた。
「今月は金欠でして……」
聡太さん以外の大御所の方々や先輩に誘われたときは、心証が悪くなってしまうかも……という思いもあって、少し無理をしてしまう。
だけど事務所の先輩であり、ヒューマン・トランスフォーマーのマスターをやっていて、うちの事情もよくわかっている聡太さんには本音で話せるんだ。
「あー……おじさんがストレスマッハで、犬にばっかなってて金銭的に難しいのか?」と周りに人がいない状況か確認した彼が、小声で訊いてくる。
「……その通りです」
困ったように聡太さんが頬をかいている。その姿に申し訳ないなと思いつつも、本当のことだから、どうしようもない。
「一応、父もヒューマン・トランスフォーマーに理解ある社長のもとで働いているんですよ。守護者の方もいますし。でも転職してきた方と、どうもうまくいかないみたいで……悩んでいます」
「まあ、それは人間でもよくある話だからな。俺の同級生が公務員として働いてたり、企業勤めしてるけど人間関係で悩んで、うつ病になったり、メンタル病んだって話もよく聞くぞ。それで転職くり返したり、フリーランスとか、企業するやつもいるくらいだからな」
その話を聞いていたら、なんだか悲しくなってきた。
ぼくも、隼人もいじめにあったことがない。でも高校のクラスメートの中には、幼稚園や保育園、小・中でいじめられた経験がある・いじめを目撃したことがあると言ってる子も多いのが実情だ。なんだか世知辛い世の中だなと、気持ちが沈む。
「そうなんですか……どこの世界でも、そういう話ってあるんですね」
「まあ、こればっかりはな。育ってきた環境も、価値観も違えば、意見が衝突したり、うまくいかなくないこともあるからな」と聡太さんが、ため息をついてからスマホの画面へと目をやる。「渉さえよければ、うちで食ってかないか? うちの嫁さんが鍋を作ってくれてるって」
「えっ、でも、お邪魔になっちゃうんじゃありませんか……」
胸の前で両手を振っていれば、お腹が盛大にグー! と鳴る。スピーカーを使って音を拾っているかのような大音量に顔が熱くなり、ぼくは体を硬直させる。
道行く人が、こちらをチラッと見る。
「ママー、今のってお腹の音?」
有名私立幼稚園の制服を着た女の子が、手をつないでいるパンツスーツ姿のお母さんを見上げる。
「そうだねー。お兄さんたちもお仕事をしてきて、お腹がペコペコなんだよ」
「そっか! 早く、おうちに帰って、お夕飯食べよう!」
「ええ、パパがお夕飯を作って待ってるわよ」
そうして仲のよさそうな親子は、その場を去っていった。
ぶほっと聡太さんが吹き出し、肩を小刻みに震わせてクククと笑っている。
なんだろう、すっごく恥ずかしい……。穴があったら入りたいって、こういう感覚なのかな? と思いながら、ぼくは夏場でもないのに汗をダラダラかいて、涙目のまま熱くなっている体を震わせた。
「ほら、な。腹の虫が、めちゃくちゃ元気に鳴いてる。『夕食を食べさせろ!』って」
「聡太さん、それ、言わないでくださいよ……これじゃ、ぼくが食いしん坊みたいじゃないですか」
「とにかくさ、嫁さんも渉のことを気に入ってるし、前回はオレたちが渉んちのおじさん・おばさんに焼肉をおごってもらったんだ。おまえが犬になってばかりいるって話もマネージャーから聞いたし、うちで少し愚痴ってけよ」
「聡太さん……」
「じゃあ、まずは、おばさんに連絡入れとけよ」
「は、はい!」
ぼくもスマホを取り出して、お母さんへ送るLINEのメッセージを作るために、画面をタップする。
優しい先輩の言葉に胸が、じーんと熱くなる。こんなにもいい先輩にめぐりあえて本当によかった。
まったく隼人にも聡太さんの爪の垢を煎じて飲んでもらいたいくらいだよと思っていれば、「いってらっしゃい」と柴犬がしっぽを振っているスタンプが送られてくる。
「聡太さん、大丈夫です。母からの許可が取れました」と報告をすれば、聡太さんに、あごの下を撫でられる。
「よし、いい子だな」
「ちょ、ちょっと聡太さん!? 今は外にいるんですから、そんなことしないでくださいよ!」
「お、おお、そうだな。悪かった!」
ぼくの中のポメラニアンが「もっと撫でてー」とねだっているけど、今は東京の町中。人目が多くある。
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