『デジデリオ・ディ・モルテ』(アルファポリス版)

玄道

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焼け野が原──山下英士

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 □□□
 これを見つけた方へ。
 
 この文章は、私、山下由美子(十七)の遺書です。
 
 初めに、私はいじめや成績不振、肉体の健康上の問題は抱えていないことをここに明記します。
 
 私は、作家魅加島ヒロト(高槻宏)氏に自殺幇助を依頼しました。
 
 彼は、この依頼を執筆依頼のみと誤解し、犯罪行為を行わないことを私に通告しました。
 
 よって、今回の件についての責任は完全に私、山下由美子にあり、高槻氏には何らの責任も生じない事を明記します。
 
 私の精神的問題については、誤解を招く可能性を鑑み、自らの尊厳に基づいてここには記しません。ただ、夏季休暇中の所謂『9月1日問題』に類するものとは無関係であることはご理解ください。

 その上で、私が身勝手な理由で"終焉"を求めざるを得なかったことは皆様の意識の片隅に置いていただければ幸いです。

 最後に、私の個人的問題により、貴重な資料と設備を損傷させたことを、R市立図書館職員の皆様にお詫び申し上げます。
 
 令和×年 八月十一日 山下由美子
 □□□
 
 ──由美子、お前……。

 俺──山下英士は、開いたバックパックと共に、青木ケ原樹海に佇んでいた。

 中には数冊の本、教科書、女物の衣類等が詰められている。そこに妹の遺書を放り込む。それは、R市立図書館の蔵書、『聖女か悪女』に挟まれていた。

 灯油をかけ、ライターで妹を焼く。

 彼女の美しい声が奏でる、断末魔が脳内に響き渡る。

 ──こうして欲しかったんだろ? なら早く言いなよ。兄妹だろ? 俺がお前の趣味、一度だって否定したか?

 燃え盛る彼女を見つめ、空腹の頭で物思いに耽る。樹海に入って、二度の夜を越えている。もう出るものも出ない。

 ──由美子、俺はお前に、生きて欲しかったよ。

 涙が溢れてきた。

 俺は、若くして自らを終わらせた妹の記憶を、荼毘に伏しているのだろう。何かで観た気もするが、もう頭が回らない。

 ──なぁ、お前は……どんな"地獄"を観測したんだ?

 炎は草木に引火し、樹海を呑み込んでいく。

 そして……とうとう、幻覚が見え始めた。 

 遂に、俺も"地獄"を観測してしまった。

 それは、無数の人面疽を持った──一羽の白鳥だった。そいつは、炎の中で産まれた。

 白鳥は、古代ギリシャ・ローマで、今際の際に美しい声で唄うとされ、音楽を象徴したと言う。

 白鳥の化け物は数を増やし、聴くに堪えないノイズを撒き散らす。

 まるで、この樹海で命を絶った者たちの怨嗟の唄のように。 

 そして、何処へともなく散り散りに飛び去っていく。

 ──終わるんだな、俺も、世界も……全てが。白鳥の群れこいつらが終わらせるんだ。

 ──史彦、依子。俺たちが、一体何をした。

 ──お前らの考えた地獄、俺たちが現実に持ち込んで、世界を終わらせちまうんだぜ?

 涙は止まらず、笑いすら込み上げてきた。

 ──どうせ誰もいねえ。

「ふ、ふは、はははははは!! 畜生!!  糞!! あははははは!! ははははは!!」

 俺の耳が、世界中の断末魔の叫びを、確かに観測した。

 ──死ね。

 ──燃えてしまえ、どいつもこいつも。

 ──全て、灰になってしまえ。


 <了>

 参考図書
『聖女か悪女』真梨幸子(著) 小学館
『虐殺器官』伊藤計劃(著) 早川書房
『空の境界 上』奈須きのこ(著) 講談社『オジサンはなぜカン違いするのか』香山リカ(著) 廣済堂出版
『「聖書」と「神話」の象徴図鑑 オールカラー 西洋美術のシンボルを読み解く』岡田温司(監修)ナツメ社
 
 
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