沈黙(アルファポリス版)

玄道

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エピローグ

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「もう一年になるに……」
「事件のショックやけん……むげねえのおかわいそうに
私の里親である有坂ありさか夫妻の話し合いが壁の向こうから聞こえる。

私は有坂未来。
今は九州で暮らしている。
清潔なベッド、温かい食事。
虐待に理解ある、綺麗事を言わない新しい両親。

もう誰も私を『姫』などと呼びはしない。
ちゃんと産まれて二年も存在が外に知られなかった被虐待児として扱ってくれる。

市内のクリニックでカウンセリングを受けながら通信制高校を利用して勉強している。
事件以来声が出せない上に引きこもりがちになってしまったため、こういう事になった。


長崎にある眞衣の墓には、一度だけ、両親に連れて行ってもらった。
五月の九州自動車道を走るカーラジオから、『リフレインが叫んでる』が流れていた。

無宗教ではあるが、墓前に手を合わせる。こんなに近くに眠っているとは。下手な小説のようだと思った。
墓は放置され、蔦が絡み付いていた。
墓前には、何も供えられていなかった。
墓を掃除しながら止めどなく涙が溢れた。

──可哀想な眞衣。
私なんかを守ろうとして、ひとりぼっちでこんな所で眠らなければならないなんて。

眞衣の葬儀は、彼女の兄によって、火葬のみの直葬で営まれ、戒名は最も安い値で依頼したものだと言う。
更に、兄妹の両親は、二人が幼い頃、交通事故で亡くなったのだと、その兄が病床から書いた手紙で教えてくれた。
兄の佐藤勇一ゆういち氏は現在、末期の大腸がんである。

──私達は何故出逢ったのだろう。カーラジオから流れていた曲が頭の中でリフレインしていた。

神などいない、そうずっと感じていたが改めてそう確信した。
人を救うのは神ではない、人は人同士で救い合うしかない。

墓が、故人の高潔な精神のように美しくなったのを確認し、白いカーネーションを供えて、帰ろうとしたその時、鐘が鳴った。

その鐘のは、今も私の耳に焼き付いている。

神がいるなら無慈悲な沈黙を破って欲しかった。
せめて、これから産まれる人の子らの人生に、無意味な悲劇が起きないことを祈って、墓地を後にした。

────その祈りこそが無駄だと、それはどこにも、何者にも届きはしないのだと、私は知っている。
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