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しおりを挟む旧運河沿い、石畳の倉庫街は黎明前の闇に沈み、その静寂を切り裂くように近衛誓騎士団の黒鎧列が進軍してきた。第三皇子ルキウス=アスベルは白馬を下り、集結地点の桟橋に立つ。背後には冥界毒ガトリング砲〈セイレーン零式〉四基、輜重兵が藍瓶カートリッジを積んだ木箱を列に並べている。甲冑の胸を飾る三つの誓紋が、火灯の赤に冷たく光る。
「下層掃討を開始する。黒煙に染まりし者は“浄化対象”と見做せ――」
ルキウスの号令に、隊列は槍を一斉に鳴らした。だが刹那、列の中ほどで鎧の足音が乱れる。副長ガブリエル=サイラスが部下二十名を連れ、列を横切るように歩み出た。彼は胸甲を拳で打ち、深く礼を取る。
「殿下。三誓第一条――『無辜(むこ)の民を守護する』。黒煙を振りかざし民草を撃つは、誓いに違います」
ルキウスの群青の瞳が怒りで震えた。「誓いは秩序のためにある! 従わぬは反逆と知れ」
しかしガブリエルの声は澄んでいた。「三誓に背く命令こそ反逆と心得ます」
運河の冷気が二人を隔て、騎士たちの列にざわめきが走る。幼馴染にして戦友の説得に、左翼中隊が盾を下ろし、後衛の射手が矢筒へ手を伸ばすのをためらった。列が二つへ割れていく光景に、ルキウスの握る光刃が白く歪む。刃身は蒼白だが、誓鎖が微弱に震え、彼自身の魂色が冥示で淡銀に揺れている――赦しを求める光。
それでも命令は下った。「零式、起動──第一噴射、低出力照準!」
砲身が赤熱し、藍瓶装填口が開く。ガブリエルは半身を返し、結界を秘めた白鎖を展開して部下を庇う構えを取る。「殿下、恐怖に刃を振るう背に、未来は立てません!」
ルキウスの肩が震え、光刃が半歩下がる。だが砲手の手は止まらない。カミラは物陰から冥示を凝らし、その銀色の揺らぎに小さく息を呑んだ。敵ではなく、迷える刃。救うべきは民だけではない。
砲身から黒い蒸気が漏れ始める。運河の水面が藍に染まりゆく中、彼女は写本を開き、次の結界式を思考した。恐怖から義憤へ、義憤から覚悟へ。背後の民の影が震えながら光を求める――夜明けは刃の上で揺れていた。
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