「お先に地獄へどうぞ」と言った悪役令嬢ですが、道連れにされそうなのですけれど

藤咲エミ

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 黒檀荘園・東塔書庫。夜香木の梯子を上り詰めた最奥の読書台に、母エリザの〈魂律写本〉最後の切り置き頁があった。これまで読めなかった薄金の書き込みに、護誓結界 Ver.Ⅱ の虹光が届いた瞬間、譜面のような線刻が浮き上がる。リュシアーナは息をのんでその旋律を読み取り、震える声で賛歌へ変換した――。

 歌声が天井を震わせ、頁が白炎を放つ。炎は映像呪符に姿を変え、書庫を包む壁を巨大な水鏡に換えた。そこに映ったのは五年前の王立学苑舞踏会。カミラが婚約破棄を宣告された夜の裏側だ。皇子ルキウスの背後で、宰相ロベルタスが影紋札を割り、紫黒の霧で彼の魂鎖に“恐怖”を植え付ける光景――冥示者を貶め、冥界軍計画へ皇族を従わせる最初の鎖だった。

 映像の終焉、ルキウス本人が書庫へ歩み入っていた。映像が消えると同時に膝を折り、血の滲む胸印に額を押し当てる。  
 「カミラ……私は操られ、君を地獄へ突き落とした。すべての剣を賭けて償う」  
 彼の声は擦れ、騎士たちも目を伏せた。カミラは写本を閉じ、深紅の外套越しに右手を差し出す。  
 「ならば刃を契約でなく、真実の光のために」  
 ルキウスはその手を取り立ち上がり、報道塔へ向かう魔導疾風車へ乗った。

 ◇

 帝都報道塔・蒼晶スクリーン前。クラウスが台帳原版を掲げ、リュシアーナが賛歌の旋律を再び奏でる。映像呪符が都市上空へ投影され、五年前の裏切りと宰相の影紋操作が帝都全域へ流れた。魔導放送は干渉を受けず、塔下の群衆が凍りついたように見上げる。そして画面が切れ、鎧の胸を抱えてルキウスが告悔声明を読み上げた。

 「学苑生よ、市民よ、冥示者を“地獄送り”と呼んだその刃は、私の手だった。誓って償い、宰相を討つ先陣に立つ」  

 涙を噛み殺すその姿に、広場から抑えきれぬ拍手が湧く。学苑生の代表が「冤罪撤回!」と声を張り、群衆は「真実!」と唱和。金の誓鎖を掲げる者、香符を燃やす者――怒号は鎖を解き怒りの炎と化した。

 スクリーンは最後に、ロベルタスの冥界軍計画書へ写本が突きつけた改竄印を映し出す。「王冠の影」を証明する決定的な一頁。都心から外縁へ、報道塔受信鏡が一斉に光を返し、映像は全州網へ転送された。宰相府の窓に黒旗がたなびく。

 緊張は解放へ、解放は涙の感謝へ、だが涙の奥には燃え上がる怒りの火。街路で誓鎖を掲げた市民たちが黒鎖部隊の陣を押し返し始める。カミラは写本を胸に抱え、冥示の瞳を細めた。冤罪は解かれた――残るは王冠の影を地獄へ送り返す最終決戦だけだ。
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