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しおりを挟む夜の鉄路に光の弧が浮かぶ。 修復を終えた第一空中鉄道〈アバドン改〉は、黒檀荘園を離れ帝都へ向け高度二百メートルを滑走していた。車体外殻には黄金糸の〈新三誓旗〉──責任・守護・真実──が翻り、結界灯で描く虹軌道が雲を裂く。窓越しに見える森の闇は静かで、旅情めいたざわめきが市民義勇兵の間に広がっていた。
だが旅情は長く続かない。南西の尾翼付近で閃光、次いで衝撃音。ロベルタス派の狙撃手が飛行滑走路橋脚から冥界毒弾を放ったのだ。弾丸は結晶化した黒煙を尾に、客車窓を突き破る。瞬時に車内へ噴きこむ紫黒の霧──魂蚀を孕む死の雲。
「〈護誓結界・グランバスティオン〉展開!」
ガブリエルが号令と同時に車両通路へ剣を突き立てる。白銀鎖の結界が列車丸ごとを球殻で包み込み、霧は鎖面で白蒸気となって消散。狙撃弾そのものも鎖環に捕らわれ、石のように鈍色へ変わった。客車の市民義勇兵から息を呑むほどの歓声が上がり、即興の誓曲が合唱となって天井を揺らす。士気は爆発的に跳ね上がった。
狙撃手達は二射三射を試みるが、白鎖に弾かれ毒霧は拡散せず、自らが撒いた黒煙で視界を失い撤退。列車は速力を落とさぬまま夜空の虹軌条を伸ばし続ける。防衛は成功、敵の前線はまたひとつ削がれた。
その頃、車内前方の契約室。カミラは写本・原版・改竄ログを机へ並べ、塔から得た通信記録を照合していた。水晶タブレットの端末に映る改竄時刻は皇帝不在日の正午──「光暦一八八四年霜月二十七日」。塔に残る皇帝日誌ではその時刻、レオグリフは北辺視察で王冠を離している。皇帝印を乗っ取ったロベルタスの唯一の空白時間。決定的日時が確定した。
窓外に帝都中央区の灯が滲む。列車は午前零時、中央駅高架へ静かに滑り込んだ。車輪が鳴り止む前に、客車ドアへ義勇兵が整列し、騎士旗と聖侍旗が夜気を切る。車外にはクラウス率いる迎えの衛士隊。そして遠く宮殿尖塔には依然、黒旗が揺れる。
旅情は襲撃へ、襲撃は防衛へ、防衛は結束へ。 誓光列車は無傷で最終決戦の舞台へ到達した。カミラは防湿筒を抱き、深紅の瞳に冥示の光を宿す――「王冠の影よ、証拠は揃った。今度は法廷で闇を裂く番」。
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