「お先に地獄へどうぞ」と言った悪役令嬢ですが、道連れにされそうなのですけれど

藤咲エミ

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 帝都王宮前広場。 まだ朝靄が消えきらぬ石畳で、白鎧の列が二つに割れていた。  
 右はガブリエル=サイラス率いる「光誓派」。左は騎士団長ユリウスを頭に戴く「宰相派」の残存――冥界毒を鍍金した黒刃を佩く反乱隊だ。王冠の影を選んだ同胞の顔は兜で隠れ、魂鎖は紫黒に濁る。  

 ユリウスが一歩進み、毒剣を大振りに構えた。  
 「誓いを塗り替えるたび、騎士はただの傀儡と成り下がる!」  
 ガブリエルは剣を抜かず、白手袋の指で胸の三誓紋を叩くだけだった。  
 「護誓は刃を選ばない。だが刃は誓いを選ぶ――〈護誓結界・ヴェローナ〉」  

 彼の気息が触れた瞬間、結界鎖が剣の形に展開し蒼白の光を纏う。ユリウスが突撃、毒刃と光刃が交差した。冥界毒が噴き、しかし白鎖の内で接触するたび黒煙は無色の蒸気に還元した。契約無力化。三合を交えた後、光刃が毒の刃元を斬鉄し黒金の破片が弾けた。毒剣が粉塵となると同時にユリウスの兜が割れ、銀髪があらわになる。  

 「……誓いを、失っていたのは私の方か」  
 膝を折る団長を見て、宰相派の騎士たちは次々に剣を伏せた。ガブリエルは血すら流さず立ち、結界を収めて右手を差し伸べる。  
 「王を守るより先に、民の誓いを守る。それが〈新三誓〉――責任・守護・真実だ」  

 広場の中央、黄金旗竿へ黒檀荘園の使者が登り、新三誓旗を掲げる。騎士たちが胸で拳を重ね、ユリウスが最初の忠誠文を朗読した。  

 その頃、王宮正門前の外郭では黒鎖部隊が最後の抵抗線を敷いていた。が、背後からバルドー率いる“転向組”が奇襲。  
 「裏切りの主に従うより、新しい誓約に賭ける方が面白ぇ!」  
 寝返った銃隊が銃床を地へ突き、抵抗線は呆気なく崩壊。黒鎖兵は武装解除され誓鎖を封じられた。  

 白鎧列が正門を取り囲むと、王宮は一夜で失った静けさを取り戻した。瓦礫を踏む音さえ鳩の羽音ほどに軽い。東天が薄紅に染まり、尖塔の影で夜明けの風が新三誓旗を揺らす。  

 ガブリエルは剣を鞘へ収め、遠く報道塔を指さす。  
 「皇帝を解放し、法廷を安全に開く道は整った。あとは――真実を読み上げるだけだ」  

 凱歌は上がらない。まだ鐘は鳴っていない。  
 けれど沈黙の中で白鎧が一斉に剣を掲げ、金属音が朝の空気に交わった。静けさは決戦の合図に似て、帝都全域へ新しい光を送り始めた。
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