48 / 48
48
しおりを挟む
白銀の光柱が奈落から舞い戻ったのは、傍聴席が恐怖の悲鳴で揺れた直後だった。円形天蓋を貫いた光は結界と石塵を浄化し、宰相ロベルタスを縛り上げた黒鎖を引きずりながら証言台の真上へ吊す。群衆は息をのむ。影紋甲冑は砕け、彼の魂鎖は紫黒から泥灰へ崩れている。
ベルナール審問官は震える声で宣告した。
「虚誓確定──宰相ロベルタス・ヴァレンティヌスによる千三十二件の改竄を認定、魂拘束刑の濫用は無効!」
水晶槌が打たれ、法廷壁の可視結界が赤線を白へ塗り替える。歓声が一拍遅れて爆発した。嘘が砕ける音が胸骨を揺らし、傍聴席は涙の拍手で震えた。
法廷外、皇帝バルコニー。白衣と黄金鎧を重ねたクラウスは印璽を高く掲げる。
「恐怖の鎖を絶ち、魂拘束刑を此刻より廃す! 新三誓を帝国の旗とする!」
広場に集う十万の魂鎖が白銀へ輝き、旗と旗の間で嗚咽が合唱に変わる。
石段の陰でカミラは力尽き倒れ、胸に抱えた写本から淡い光が漏れる。ガブリエルが駆け寄り抱き上げた。頬を撫でると熱が抜け、寿命の火は確かに小さく揺れている――しかし、まだ消えていない。
「勝ったのよ、お嬢」
カミラは微笑み、瞳に写る白光の柱を見守った。
◇
宰相ロベルタスは鎖に絡め取られながらも影紋符を掌に残していた。断末の咆哮と共に符が爆ぜる――深淵監最下層に埋めた冥界兵器〈鎖核〉が最終暴走を始める。帝国全土の契約網が闇色へ染まり、魂鎖が粘着質の黒へ引っ張られる感覚が大気を震わせた。
カミラはふらつく足取りで法廷中央へ進み、写本を開いて床に置く。余白はもう無い。血涙で歪む視界の中、最後の文字を刻んだ。
「責任は光、恐怖を赦さず――〈終誓・全域書換〉」
大誓符が白炎となって膨張、レギストラムと帝都塔網、そして可視結界を貫く光の神経網が帝国全域へ走った。契約ノードが一つずつ白く染まり、黒鎖は礫のように崩落。深淵監の鎖核は核晶を失い灰と化す。夜空に散った白光は星座のように結び、静止した時間が一拍置いて流れ出す。
法廷ではロベルタスの鎖が切れ、身体は深淵へ吸われたまま跡形なく消失した。光が収束する頃、カミラは膝を折り、穏やかな息だけを残して昏倒。写本は虹色に脈を保ち、掌の下で微かな鼓動を続けた。世界は一瞬、音を忘れ、そして静寂が勝利を告げた。
◇
東天が白金に染まる頃、皇宮陽光テラスに民衆と諸侯が集った。新三誓旗は透明・責任・連帯の三色を夜風にたなびかせる。クラウス皇帝は黄金印璽を広場へ掲げ、朗々と宣言した。
「地獄は不要。帝国は責任ある自由を掲げ、新誓約を公布する!」
白鎧の近衛が剣を納め、聖侍が香炉を振り、平民が誓鎖を空へ掲げる。拍手とすすり泣きが交わる中、担架に乗せられたカミラが静かに目を開いた。白銀の魂色が朝光を映し、肺から細い息が漏れる。医療侍は首を横に振るが、彼女は微笑みを崩さない。
「余命は僅かでも……私は自由よ」
ガブリエルが膝をつき、騎士の手袋を外してカミラの手を取った。
「君と共に未来を誓う。命尽きるまで、あるいは尽きた先でも」
黒檀と夜香木の香が穏やかに流れ、カミラは目尻に残る一粒の涙を拭い、そっと頷く。
テラスの向こう、黒檀林に新誓旗が翻る。夜香木の梢が風に揺れ、朝陽がそのすべてを白金に染め上げた。責任という名の光は、恐怖で塗られた地獄を透かし、未来という書架へ新たな頁を差し込む。
物語は静かに、しかし確かに幕を閉じた。
彼らの誓いが続く限り、闇は二度と契約を嘘で覆うことはない。
ベルナール審問官は震える声で宣告した。
「虚誓確定──宰相ロベルタス・ヴァレンティヌスによる千三十二件の改竄を認定、魂拘束刑の濫用は無効!」
水晶槌が打たれ、法廷壁の可視結界が赤線を白へ塗り替える。歓声が一拍遅れて爆発した。嘘が砕ける音が胸骨を揺らし、傍聴席は涙の拍手で震えた。
法廷外、皇帝バルコニー。白衣と黄金鎧を重ねたクラウスは印璽を高く掲げる。
「恐怖の鎖を絶ち、魂拘束刑を此刻より廃す! 新三誓を帝国の旗とする!」
広場に集う十万の魂鎖が白銀へ輝き、旗と旗の間で嗚咽が合唱に変わる。
石段の陰でカミラは力尽き倒れ、胸に抱えた写本から淡い光が漏れる。ガブリエルが駆け寄り抱き上げた。頬を撫でると熱が抜け、寿命の火は確かに小さく揺れている――しかし、まだ消えていない。
「勝ったのよ、お嬢」
カミラは微笑み、瞳に写る白光の柱を見守った。
◇
宰相ロベルタスは鎖に絡め取られながらも影紋符を掌に残していた。断末の咆哮と共に符が爆ぜる――深淵監最下層に埋めた冥界兵器〈鎖核〉が最終暴走を始める。帝国全土の契約網が闇色へ染まり、魂鎖が粘着質の黒へ引っ張られる感覚が大気を震わせた。
カミラはふらつく足取りで法廷中央へ進み、写本を開いて床に置く。余白はもう無い。血涙で歪む視界の中、最後の文字を刻んだ。
「責任は光、恐怖を赦さず――〈終誓・全域書換〉」
大誓符が白炎となって膨張、レギストラムと帝都塔網、そして可視結界を貫く光の神経網が帝国全域へ走った。契約ノードが一つずつ白く染まり、黒鎖は礫のように崩落。深淵監の鎖核は核晶を失い灰と化す。夜空に散った白光は星座のように結び、静止した時間が一拍置いて流れ出す。
法廷ではロベルタスの鎖が切れ、身体は深淵へ吸われたまま跡形なく消失した。光が収束する頃、カミラは膝を折り、穏やかな息だけを残して昏倒。写本は虹色に脈を保ち、掌の下で微かな鼓動を続けた。世界は一瞬、音を忘れ、そして静寂が勝利を告げた。
◇
東天が白金に染まる頃、皇宮陽光テラスに民衆と諸侯が集った。新三誓旗は透明・責任・連帯の三色を夜風にたなびかせる。クラウス皇帝は黄金印璽を広場へ掲げ、朗々と宣言した。
「地獄は不要。帝国は責任ある自由を掲げ、新誓約を公布する!」
白鎧の近衛が剣を納め、聖侍が香炉を振り、平民が誓鎖を空へ掲げる。拍手とすすり泣きが交わる中、担架に乗せられたカミラが静かに目を開いた。白銀の魂色が朝光を映し、肺から細い息が漏れる。医療侍は首を横に振るが、彼女は微笑みを崩さない。
「余命は僅かでも……私は自由よ」
ガブリエルが膝をつき、騎士の手袋を外してカミラの手を取った。
「君と共に未来を誓う。命尽きるまで、あるいは尽きた先でも」
黒檀と夜香木の香が穏やかに流れ、カミラは目尻に残る一粒の涙を拭い、そっと頷く。
テラスの向こう、黒檀林に新誓旗が翻る。夜香木の梢が風に揺れ、朝陽がそのすべてを白金に染め上げた。責任という名の光は、恐怖で塗られた地獄を透かし、未来という書架へ新たな頁を差し込む。
物語は静かに、しかし確かに幕を閉じた。
彼らの誓いが続く限り、闇は二度と契約を嘘で覆うことはない。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。
〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた
桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、
婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が
部屋に閉じこもってしまう話からです。
自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。
※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!
ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。
陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!?
「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」
貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。
貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く!
そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――?
「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」
ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。
令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる