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12、リリア
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散歩をやめ、公務以外は引きこもっていたリリアを王宮魔術師が訪ねてきた。
「殿下の元気がないと女官たちが心配していますよ」
「……彼、婚約者いないそうよ」
王宮魔術師はけらけらと笑った。
「謀ったわね」
「とんでもない。どうせお二人のことですからチューリップとかてんとう虫とかの話ばかりしてるのだろうと思いまして。進展しました?」
「始まる前に終わったわ」
リリアは天を仰いだ。
「あら、そうですか。でもきちんとお話できていないのではありません? 優秀な氷の騎士様ですもの、分かってくださるかもしれませんよ」
「彼は私のことを詐欺師だと思ってると思うけど」
体調のためにお食事はしっかりとってくださいね、と告げ、王宮魔術師はふらりと部屋を出て行った。
確かに謝罪は必要だろう。今後も近衛騎士と王族として接点はあるし、詐欺師として認識されてしまったとしても、好きな人に対して最後は誠実でありたい。
♢
次の日、リリアは変装することなく庭園へ向かった。ノアでいる時とは違い、すれ違う人々が皆立ち止まり頭を下げてくる。リリアは目礼を返し、足早に庭園を目指した。
四阿にはすでにロバートがおり、本を読んでいた。ロバートはリリアに気付くと本から顔を上げ、にやりと笑った。
「やあ、殿下。サシェは作ってきてくださいましたか?」
リリアは、ふっと肩の力が抜けた。そうだ、彼のこんな飄々としたところが好きなのだ。昔はずっと彼のこんな雰囲気に助けられてきた。
リリアはドレスの裾を持ち、ゆっくり丁寧にお辞儀をした。
「ラドクリフ様、ずっと嘘をついていて申し訳ございませんでした。昔を思い出して、お話できるのがただ嬉しく、楽しかったのです。騙していたつもりではありませんでした。お許し頂けるとは思っておりませんが――」
「知っていましたよ」
遮られた言葉に驚いて顔を上げた。
「ノア殿が殿下であること、知っていました。なんだか昔、殿下と過ごしていた時の雰囲気と似ているなあと思っていたのです。確証が持てたのは指輪を見てしまった時ですけどね。あの、うたた寝なさっていた時に」
社交シーズン中に一度会った時のことだろうか。
気付かれていたなんて。
「調べたらノアという女官もいなかったので、殿下が遊んでいらっしゃるのかなと」
ロバートはふふ、と笑うとリリアの手を取った。
「殿下が気を張って忙しい公務をこなしていることを知っています。だから息抜きに心がほぐれる場所を作るのは必要なことです。騙されたなんて思っていません。ましてや殿下の休憩場所を邪魔してしまったのは私の方ですからね」
自分の目に涙が滲んでくるのをリリアは感じ、何度か瞬きをした。
「殿下でもノア殿でもどちらでも構いませんが、できれば今後もあなたと同じ時間を過ごしたいと思っています。逃げられてしまいましたが、先日私の気持ちはお伝えしました。殿下は私をどうお思いですか?」
耐えきれず、リリアの目から涙が一粒こぼれた。
そんなリリアをロバートは優しく見つめてくる。自分の冷たい指先に、ロバートの温かい手から熱が移っていた。
「……私も、ずっと昔からお慕いしていました。これからも一緒に過ごしたいし、もっとあなたのことを知りたいです」
ロバートは、良かったと嬉しそうに笑うとリリアを抱きしめた。
「殿下、いずれ完璧なエスコートで夜会から連れ出してもらうのを楽しみにしていますね」
ロバートは昔と同じことを言う。過去一緒に過ごした時間を、彼も覚えているのだ。
嬉しくなったリリアは、ロバートの腕の中でくすくすと笑った。
《 おしまい 》
「殿下の元気がないと女官たちが心配していますよ」
「……彼、婚約者いないそうよ」
王宮魔術師はけらけらと笑った。
「謀ったわね」
「とんでもない。どうせお二人のことですからチューリップとかてんとう虫とかの話ばかりしてるのだろうと思いまして。進展しました?」
「始まる前に終わったわ」
リリアは天を仰いだ。
「あら、そうですか。でもきちんとお話できていないのではありません? 優秀な氷の騎士様ですもの、分かってくださるかもしれませんよ」
「彼は私のことを詐欺師だと思ってると思うけど」
体調のためにお食事はしっかりとってくださいね、と告げ、王宮魔術師はふらりと部屋を出て行った。
確かに謝罪は必要だろう。今後も近衛騎士と王族として接点はあるし、詐欺師として認識されてしまったとしても、好きな人に対して最後は誠実でありたい。
♢
次の日、リリアは変装することなく庭園へ向かった。ノアでいる時とは違い、すれ違う人々が皆立ち止まり頭を下げてくる。リリアは目礼を返し、足早に庭園を目指した。
四阿にはすでにロバートがおり、本を読んでいた。ロバートはリリアに気付くと本から顔を上げ、にやりと笑った。
「やあ、殿下。サシェは作ってきてくださいましたか?」
リリアは、ふっと肩の力が抜けた。そうだ、彼のこんな飄々としたところが好きなのだ。昔はずっと彼のこんな雰囲気に助けられてきた。
リリアはドレスの裾を持ち、ゆっくり丁寧にお辞儀をした。
「ラドクリフ様、ずっと嘘をついていて申し訳ございませんでした。昔を思い出して、お話できるのがただ嬉しく、楽しかったのです。騙していたつもりではありませんでした。お許し頂けるとは思っておりませんが――」
「知っていましたよ」
遮られた言葉に驚いて顔を上げた。
「ノア殿が殿下であること、知っていました。なんだか昔、殿下と過ごしていた時の雰囲気と似ているなあと思っていたのです。確証が持てたのは指輪を見てしまった時ですけどね。あの、うたた寝なさっていた時に」
社交シーズン中に一度会った時のことだろうか。
気付かれていたなんて。
「調べたらノアという女官もいなかったので、殿下が遊んでいらっしゃるのかなと」
ロバートはふふ、と笑うとリリアの手を取った。
「殿下が気を張って忙しい公務をこなしていることを知っています。だから息抜きに心がほぐれる場所を作るのは必要なことです。騙されたなんて思っていません。ましてや殿下の休憩場所を邪魔してしまったのは私の方ですからね」
自分の目に涙が滲んでくるのをリリアは感じ、何度か瞬きをした。
「殿下でもノア殿でもどちらでも構いませんが、できれば今後もあなたと同じ時間を過ごしたいと思っています。逃げられてしまいましたが、先日私の気持ちはお伝えしました。殿下は私をどうお思いですか?」
耐えきれず、リリアの目から涙が一粒こぼれた。
そんなリリアをロバートは優しく見つめてくる。自分の冷たい指先に、ロバートの温かい手から熱が移っていた。
「……私も、ずっと昔からお慕いしていました。これからも一緒に過ごしたいし、もっとあなたのことを知りたいです」
ロバートは、良かったと嬉しそうに笑うとリリアを抱きしめた。
「殿下、いずれ完璧なエスコートで夜会から連れ出してもらうのを楽しみにしていますね」
ロバートは昔と同じことを言う。過去一緒に過ごした時間を、彼も覚えているのだ。
嬉しくなったリリアは、ロバートの腕の中でくすくすと笑った。
《 おしまい 》
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