台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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プロローグ:魔女は夜空であやしい実験をする

「……せ、先輩。本当にいいんですか……?」

 モチコはまだ悩んでいた。
 ミライア先輩が、また変なことを要求してきたからだ。

 魔女のミライアは、ホウキに乗って夜空を飛んでいる。
 モチコは、そのホウキの後ろに二人乗りをしていた。
 目の前にあるミライアの背中をどんなにジッと見つめても、この変な先輩が何を考えているかは、全く読み取れない。

「問題ないよ。早く実験しよう」

 ミライアの答えに、小さくため息をついたモチコは、仕方なく『実験』を始めることにした。
 
 まずは、途中でメガネが飛んでいかないように、黒ぶちメガネを両手でしっかりとかけなおす。
 そのあと、前にいるミライアの背中に後ろから抱きつくようにして、身体をぴったりと密着させた。
 緊張で冷たくなった手を、スカートの上でこすって温かくする。

 すう、と息を吸った。
 意を決して、小さく深呼吸する。
 モチコは前に出した両手を、ミライアの制服の上着の裾から、ゆっくりと制服の内側へすべり込ませていった。

 モチコの手が、ミライアのお腹のあたりの肌に触れる。
 そこはあたたかくて、なめらかだった。

「……こ、こんな感じで、どうでしょうか?」

 おそるおそる触れた手を少し動かすと、ミライアがふいにビクッと身体をこわばらせる。

「モチコ、触り方がいやらしい」
「せっ、先輩が変なことをさせるからじゃないですか!」

 必死の弁解をするモチコに、ミライアはいつもと変わらない様子で言う。

「もっとしっかり触っていいよ。優しくされると、くすぐったい」
「わ……わかりました」

 今度は、もう少し力を込めて触れていく。
 人の肌にこんなふうに触れたことなんてないので、加減がよく分からない。

「……これならどうですか?」
「ん。いい感じ。もっと上も触って」

 ミライアの要望に応じて、モチコは手を少しずつ上へ移動させていく。
 手のひらにおへそのへこみを感じた。
 さらに上へ進むと、そこから身体が丘のように盛り上がっていく。
 ……これより上は気まずい。

 そう考えたとき、ふと違和感に気づく。

「先輩……し、下着はどうしたんですか……?」
「ん? 洗濯が間に合わなかったから、着けてない」
「えっ!?」
「気にしないで、触っていいよ」
「な、なに言ってるんですか! 触りませんよ!!」

 この変な魔女は、いったい何を考えているんだろうか。
 本当に困った先輩だ。
 モチコの動揺をよそに、ミライアは『実験』を続ける。

「じゃあ、そのまま触ってて。始めるよ」

 ミライアはそう言うと、魔力を練り始めた。
 黄金色こがねいろのオーラがミライアの身体を包む。
 次の瞬間、ホウキは猛スピードで前に飛び始めた。

 闇夜を切り裂くように飛ぶホウキが、黄金色の尾を引きながら空を翔けていく。
 スピードが最高潮に達し、しばらく飛んだあとで、ホウキは元の速さに戻った。

「うーん、あんまり変わらないかな。オーラを直で肌に当てれば、もっと速く飛べるかと思ったんだけど」

 ミライアが『実験』の結果をそう分析する。
 モチコも、ミライアの制服の中に入れていた手を外へ出した。

「先輩、今回も失敗ですね」
「実験に失敗はつきものさ。次に活かそう。うーん……やはり、肌が接する面積が関係するのか……?」

 先輩がまた、なんだか怪しいことをつぶやいている。
 変なことを言い出さなければいいのだが……。

「モチコ、次は裸で抱き合ってみようか」
「……ダメです!! こんなところで裸になったら、ただの変態です!」

 やっぱり先輩はろくなことを言い出さなかった。

「こんなところじゃダメなら、モチコの家のベッドならいいの?」
「いっ、いいわけないでしょがー! 先輩のヘンタイ!!」
「いや実験だし。ヘンタイと思う方が変態だと思うけど」

 モチコはミライアの背中をグーで殴っておいた。
 ホウキはあーだこーだ言うふたりを乗せて、真夏の夜空を翔けていく。


 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べないメガネの後輩。
 ふたりの『実験』はこうして続いていく。
 
 まずは少し時間を戻して、ふたりの出会いから話していこう。
 先輩は出会った初日から、本当に困った先輩だったのだ――。
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