台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
3 / 50
第1章

ホウキの上の柔らかな衝突(前編)

しおりを挟む
「――台風は灯台タワーから南、30パーセントの位置。やや速い速度で北上中」

 ミライアの背中に必死でしがみついていたモチコの耳に、透き通った声が飛び込んできた。
 明らかにミライアとは違う声だ。
 近くを他の魔女が飛んでいるのかと思い、まわりを見回してみる。
 だが、日が沈んですっかり藍色になった夜空には、ミライアとモチコのほかに誰もいなかった。

「現時点でのシグナルは4。今回は市街地に直撃コースだから、2か3まで弱めたいところだけど……ミライア、いけそう?」

 ふたたび、透き通った声がミライアに問いかける。
 モチコは、その声がミライアの耳元から聞こえることに気づいた。

 ミライアの左耳に光るイヤリング。
 三日月形のチャームが付いていて、ちょうど月が欠けている部分に、真珠のような丸い宝石が光っている。
 そこから声が出ているようだ。
 おそらく、街にある魔導拡声器スピーカーと同じような魔法が使われているのだろう。

「ギリギリまで近づいて撃てばいけそうだ。やってみよう」

 ミライアがイヤリングの声に答えた。
 どうやらイヤリングを通して、会話をすることも出来るらしい。


 ホウキの速度が少し上がったのが分かった。
 モチコは振り落とされないように、ミライアの腰に回した手に力を込める。
 最初こそスピードの速さに驚いたものの、慣れてくるにつれて、モチコの気持ちは高揚してきた。

 自分の魔法では無いが、夢だった空を飛んでいる。
 遠くに流れていく街の灯り、ホウキが空気を切り裂いて飛ぶ音、夜風が前髪をはためかせておでこに当たる感触。
 そのどれもが、モチコに生きている実感を運んできた。

「珍しいな。普通は私のホウキに乗ると、速すぎて怖がるんだけど」

 ミライアが、ちらりと後ろを振り返りながら言った。
 モチコはもともと無表情と言ってもいいくらい、表情がほとんど変わらない。

 心の中では喜怒哀楽を感じているし、なんなら動きのリアクションは大きい方だと思うのだが、なぜか表情だけが連動していなかった。
 魔法学校時代の唯一の友人からは『能面をつけたリアクション芸人』とか『表情筋だけが死んでる女』などと言われたものだ。
 初めて空を飛んで、怖さも多少は感じていたが、顔には全く出ていなかった。

「君は全く怖がらないね。もしかして楽しんでる?」
「あ、はい。……楽しいというか、生きてるって感じがします」
「お、良いこと言うね」

 ミライアが赤い瞳を輝かせながら続ける。

「私も同感だ。誰よりも速く空を飛ぶのは、まさに生きていることの証!」

 ミライアがそう言うと、ホウキのスピードはさらに速くなった。
 モチコはミライアの背中にぴったりと身体をつけ、しがみついている腕にぎゅっと力を込める。
 ミライアの身体から、体温が伝わってくるのを感じた。


「――なんだか、さっきからかわいい女子の声が聞こえるんですけど、どういうことかな?」

 先ほどと同じ透き通った声が、ミライアのイヤリングから聞こえてきた。

「すまん、リサ。報告を忘れていた。市民をひとり救助して、後ろに乗せているんだ」
「救助1名ね。りょーかい」

 リサと呼ばれた声の主は、少しからかうような声色で続ける。

「またかわいい子を釣り上げて、いつもみたいにお持ち帰りするつもり?」
「お、お持ちかえ……!? げほっ!」

 予想外の話の展開に、モチコは思わず咳き込んだ。

「……えっと、私はこのあと、どこかにお持ち帰られる感じなんですか?」

 ミライアが深くため息をついている間に、リサが答える。

「お嬢さん、心の準備をしておいたほうがいいわ。なにしろミライアは“疾風迅雷の魔女”という二つ名の通り、飛ぶのも速ければ、手を出すのも速……」
「リサ! あることないこと言わないでくれ。それ、ほとんど間違いだから!」

 ミライアがリサの言葉を遮るようにして訂正する。
 でも間違いってことは、少しは本当のこともあるってことだよな……。
 と、モチコは心の中で思ったりしていた。

「ミライアがスピード狂なのは間違いないけどね。あ、そろそろ暴風域に入るわ」

 リサがそう告げると、ミライアの声に少し緊張感が増す。

「そろそろだね。ここからはスピードを上げて、台風にギリギリまで近づく。撃ったら、全速力で離脱する」
「了解。暴風域に入ったら通信は届かないから。今日は後ろにお嬢さんもいるから、無茶しないようにね」
「オーケー、分かってるよ。……じゃあ行ってくる」
「では、良きフライトを」
「良きフライトを」
 
 任務の無事を祈る短い挨拶が終わると、ミライアのイヤリングに灯っていた光が消えた。
 通信が途切れたらしい。


 台風に近づき、風が段違いに強くなる。
 強さだけでなく、風の吹く方向も不規則になってきたようだ。
 ミライアが、何かを思い出したようにつぶやく。

「おっと、忘れるところだった」

(後編へ続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...