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第1章
ホウキの上の柔らかな衝突(後編)
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「おっと、忘れるところだった」
ミライアが、何かを思い出したようにつぶやく。
左手はホウキを握ったまま、右手を左胸にあるポケットに入れてゴソゴソやっている。
何かを探しているようだ。
「あった、これだ」
ポケットから取り出したのは、細長い長方形のカードというか、御札のようなものだった。
モチコはそれが何か知っていた。
「スクロールですね」
「そう。よく知ってるね」
スクロールとは、魔法が封じ込められたカードのようなものだ。
一定量の魔力を流すと、そこに封じられた魔法が発動するようになっている。
ただし使用できるのは1回のみの使い捨てだ。
「今のスクロールは小型だから、こうしてホウキに乗りながらでも簡単に使える」
「もともとは、巻物の形だったんですよね?」
「そう。だから今でも巻物って呼んでる。今は小型化されてカードみたいだけど」
「技術の進歩はすごいですね」
スクロールは大変便利だが、熟練した職人がごく少量ずつしか製作できないため、非常に貴重な品だ。
買うとなったら最も安価なものでも、モチコが数ヶ月暮らせるくらいのお金がかかるだろう。
と、モチコは魔法学校で学んだ知識を思い出していた。
ミライアが右手でスクロールを掲げると、そこに刻まれた文字のような模様が、緑色の光を放ち始める。
「ちょっと顔を見せてもらえるかな?」
ミライアはそう言いながら、上半身を左にひねって後ろを振り返り、モチコの方を見た。
モチコはしがみついていた手を緩めて、言われたとおりに顔をミライアの方へ近づける。
スクロールの緑色の光が見え、その光に照らされたミライアの顔が見えた。
とても美しい顔だ。
その顔が近づいてきて、きれいな顔だなぁと思いながらぼんやり眺めていると――。
その顔がモチコと衝突した。
「……ふえっ!?」
思わず変な声が出た。
モチコは、何が起きたのか確かめようとする。
おでこに、ミライアの唇のやわらかな感触が残っていた。
「い、いまっ……!?」
緑色の光が辺りに弾けて、スクロールは灰になるように砕けて消えていった。
が、モチコの頭は混乱していて、それを見る余裕など無い。
「雨避けの魔法をかけたよ」
ミライアが続ける。
「ちょっとしたバリアみたいな魔法さ。ある程度の雨や風は避けられるし、小石や砂が飛んできても弾いてくれる」
「なんで、きっ、キス……」
「ん? 魔法をかけるのに両手が塞がっていたから。あ、おでこじゃなくて唇がよかった?」
「う……。だい、じょうぶ、です……」
急激に速くなった心臓の鼓動は全然大丈夫ではなかったが、モチコはとりあえずそう答えた。
お待ち帰りの話は本当なのではないか、という疑念が浮かんでくる。
「よし、これで準備万端だ」
ミライアは特に気にした様子もなく、再び前を向きなおして言った。
耳の下あたりでふたつに結んだ黒髪が、風になびいて艷やかに踊っている。
「ここからは乱気流に捕まらないように、高速で台風に近づく。しっかりつかまっていてくれ。――いくぞ!」
ミライアが前傾姿勢を取ったので、モチコは返事をする間もなく慌てて背中にしがみついた。
ミライアが身体にまとっている黄金色のオーラが、ひとまわり大きい光になる。
その光がふたたびミライアの身体にギュッと集まって、黄金色が濃くなったように見えた、その直後。
ホウキがものすごい勢いで夜空を切り裂いた。
それまでも十分速かったが、今度のは比べものにならないほど速い。
乱気流のためか、もしくは雲を避けて飛んでいるためか、ホウキは大きく左右に揺れ始めた。
次々と後ろに流れていく雲をみながら、モチコはミライアの腰に回した手にぐっと力を込める。
このドキドキと大きくなった心臓の鼓動は、速さのせいなのか、揺れのせいなのか。
それとも、もっと別の理由のせいなのか。
「うぅぅ……」
モチコは小さく呻きながら、頭の中でぐるぐると考える。
そのあいだに、ホウキは猛スピードで台風へと近づいていった。
ミライアが、何かを思い出したようにつぶやく。
左手はホウキを握ったまま、右手を左胸にあるポケットに入れてゴソゴソやっている。
何かを探しているようだ。
「あった、これだ」
ポケットから取り出したのは、細長い長方形のカードというか、御札のようなものだった。
モチコはそれが何か知っていた。
「スクロールですね」
「そう。よく知ってるね」
スクロールとは、魔法が封じ込められたカードのようなものだ。
一定量の魔力を流すと、そこに封じられた魔法が発動するようになっている。
ただし使用できるのは1回のみの使い捨てだ。
「今のスクロールは小型だから、こうしてホウキに乗りながらでも簡単に使える」
「もともとは、巻物の形だったんですよね?」
「そう。だから今でも巻物って呼んでる。今は小型化されてカードみたいだけど」
「技術の進歩はすごいですね」
スクロールは大変便利だが、熟練した職人がごく少量ずつしか製作できないため、非常に貴重な品だ。
買うとなったら最も安価なものでも、モチコが数ヶ月暮らせるくらいのお金がかかるだろう。
と、モチコは魔法学校で学んだ知識を思い出していた。
ミライアが右手でスクロールを掲げると、そこに刻まれた文字のような模様が、緑色の光を放ち始める。
「ちょっと顔を見せてもらえるかな?」
ミライアはそう言いながら、上半身を左にひねって後ろを振り返り、モチコの方を見た。
モチコはしがみついていた手を緩めて、言われたとおりに顔をミライアの方へ近づける。
スクロールの緑色の光が見え、その光に照らされたミライアの顔が見えた。
とても美しい顔だ。
その顔が近づいてきて、きれいな顔だなぁと思いながらぼんやり眺めていると――。
その顔がモチコと衝突した。
「……ふえっ!?」
思わず変な声が出た。
モチコは、何が起きたのか確かめようとする。
おでこに、ミライアの唇のやわらかな感触が残っていた。
「い、いまっ……!?」
緑色の光が辺りに弾けて、スクロールは灰になるように砕けて消えていった。
が、モチコの頭は混乱していて、それを見る余裕など無い。
「雨避けの魔法をかけたよ」
ミライアが続ける。
「ちょっとしたバリアみたいな魔法さ。ある程度の雨や風は避けられるし、小石や砂が飛んできても弾いてくれる」
「なんで、きっ、キス……」
「ん? 魔法をかけるのに両手が塞がっていたから。あ、おでこじゃなくて唇がよかった?」
「う……。だい、じょうぶ、です……」
急激に速くなった心臓の鼓動は全然大丈夫ではなかったが、モチコはとりあえずそう答えた。
お待ち帰りの話は本当なのではないか、という疑念が浮かんでくる。
「よし、これで準備万端だ」
ミライアは特に気にした様子もなく、再び前を向きなおして言った。
耳の下あたりでふたつに結んだ黒髪が、風になびいて艷やかに踊っている。
「ここからは乱気流に捕まらないように、高速で台風に近づく。しっかりつかまっていてくれ。――いくぞ!」
ミライアが前傾姿勢を取ったので、モチコは返事をする間もなく慌てて背中にしがみついた。
ミライアが身体にまとっている黄金色のオーラが、ひとまわり大きい光になる。
その光がふたたびミライアの身体にギュッと集まって、黄金色が濃くなったように見えた、その直後。
ホウキがものすごい勢いで夜空を切り裂いた。
それまでも十分速かったが、今度のは比べものにならないほど速い。
乱気流のためか、もしくは雲を避けて飛んでいるためか、ホウキは大きく左右に揺れ始めた。
次々と後ろに流れていく雲をみながら、モチコはミライアの腰に回した手にぐっと力を込める。
このドキドキと大きくなった心臓の鼓動は、速さのせいなのか、揺れのせいなのか。
それとも、もっと別の理由のせいなのか。
「うぅぅ……」
モチコは小さく呻きながら、頭の中でぐるぐると考える。
そのあいだに、ホウキは猛スピードで台風へと近づいていった。
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