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第1章
台風のよる、魔女高らかに。(後編)
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「わっ!? まぶしい!」
夜空にピカリと白い閃光が走り、モチコは思わず目をつぶった。
光の矢が貫いていった海面のあたりで、何かが激しく光ったようだ。
その光に続いて、ズーンという地響きのような音が聞こえた。
「よし、全速力で離脱する!」
ミライアはそう言うと、ホウキを大きく旋回させて180度の方向転換をする。
パチパチと何かが弾ける音が聞こえて、モチコが目を開くと、そこらじゅうにキラキラと光る塵のようなものが見えた。
そのあと、肌にひやりとした冷気を感じて、これらが何なのかを理解する。
「凍結魔法のスクロール……!」
ミライアが撃ったのは、周囲一帯を海ごと凍らせてしまうほど強力な、凍結魔法のスクロール。
これで台風を弱体化させるのだろう。
こんなに強力な魔法のスクロール、1枚で一体いくらするんだ……?
モチコは頭の中で計算してみたが、モチコが1年間働いた分のお金を集めても、足りるか分からない。
間違えてムダ撃ちなんかした日には、土下座したうえに、モチコ自身を丸ごと質にいれても足りないんじゃないだろうか。
冷たくなった周りの空気よりも、その途方もない値段のほうに、身体がぶるりと震えた。
「台風へのフライトは、行きよりも帰りの方が大変なんだ」
ミライアは続けて言う。
「台風自体は弱体化するけど、さっき撃った魔法の影響で、大気が急激に不安定になる」
「急な温度変化によって、乱気流が発生する訳ですね」
「ご名答。君みたいな賢い子、好きだよ」
「ほえっ!?」
好き、なんて突然言われて、モチコの心はドキリと跳ねた。
が、すぐに思い直す。
お持ち帰り疑惑があるこの変な魔女に、これ以上油断してはいけない。
「では行こうか。ここからは乱気流を振り切って、全速力で翔け抜ける!」
ミライアはそう言うと、一度大きく息を吸った。
黄金色のオーラが濃くなったあと、一拍おいてホウキが――。
吹っ飛んだ。
「おぉぉあぁあぁー!!」
モチコの口から声にならない声が出た。
声以外は出さずに済んだのをむしろ褒めて欲しい。
ホウキが飛ぶというよりは、文字通り『吹っ飛ぶ』というのが正確な表現だろう。
例えるなら巨大な弓を構えた筋肉ムキムキの戦士が、力の限り弓を引き絞ったら、弦があまりの張力に耐え切れず暴発して放たれた矢のようだった。
さすが“疾風迅雷の魔女”の全速力だ。はやすぎ。
猛烈なスピードで飛ぶホウキは、もはや雨雲を避けることもせず、夜空をただまっすぐに突き進んでいた。
いくつもの雲に突入しては突き破り、雨も風も追いつくことのできない速さで飛んでいく。
押し寄せているはずの乱気流も、ホウキの描く美しい軌跡を乱すことはできなかった。
世界のすべてを置き去りにして、いま夜空には、ただふたりだけだ。
ふいにホウキが右に傾き、身体も右へ倒れる。
ミライアの姿勢はぶれずにまっすぐのままだったが、モチコは大きく右によろけた。
そのとき。
目に飛び込んできたミライアの姿――。
モチコはこのとき見た光景を、一生忘れない。
黄金色の光をまとって夜空を翔ける姿は、まるで不死鳥のようだった。
尽きることのない情熱が、大きな翼となり。
遠く彼方で輝く理想が、止まない風となる。
強い意思を宿した赤い瞳が、進むべき道を一直線に見つめている。
口元には自信に満ちた笑み。
この夜空の中心は、自分であると疑わない顔だった。
――この魔女はいま、高らかに歌うように空を飛んでいる!
まるで生きていることを世界に証明しようとするように。
その深遠な美しさから目が離せない。
しばらくのあいだ、モチコはうまく息を吸うことも出来なかった。
――この気持ちは、何だろう?
憧れでも尊敬でもなく、嫉妬とも違う。
名前の分からないこの気持ち。
モチコはその気持ちに今は名前をつけず、ただひそやかに、心にしまっておくことにした。
その瞳に、高らかに飛ぶ魔女の姿だけを焼き付けて。
夜空にピカリと白い閃光が走り、モチコは思わず目をつぶった。
光の矢が貫いていった海面のあたりで、何かが激しく光ったようだ。
その光に続いて、ズーンという地響きのような音が聞こえた。
「よし、全速力で離脱する!」
ミライアはそう言うと、ホウキを大きく旋回させて180度の方向転換をする。
パチパチと何かが弾ける音が聞こえて、モチコが目を開くと、そこらじゅうにキラキラと光る塵のようなものが見えた。
そのあと、肌にひやりとした冷気を感じて、これらが何なのかを理解する。
「凍結魔法のスクロール……!」
ミライアが撃ったのは、周囲一帯を海ごと凍らせてしまうほど強力な、凍結魔法のスクロール。
これで台風を弱体化させるのだろう。
こんなに強力な魔法のスクロール、1枚で一体いくらするんだ……?
モチコは頭の中で計算してみたが、モチコが1年間働いた分のお金を集めても、足りるか分からない。
間違えてムダ撃ちなんかした日には、土下座したうえに、モチコ自身を丸ごと質にいれても足りないんじゃないだろうか。
冷たくなった周りの空気よりも、その途方もない値段のほうに、身体がぶるりと震えた。
「台風へのフライトは、行きよりも帰りの方が大変なんだ」
ミライアは続けて言う。
「台風自体は弱体化するけど、さっき撃った魔法の影響で、大気が急激に不安定になる」
「急な温度変化によって、乱気流が発生する訳ですね」
「ご名答。君みたいな賢い子、好きだよ」
「ほえっ!?」
好き、なんて突然言われて、モチコの心はドキリと跳ねた。
が、すぐに思い直す。
お持ち帰り疑惑があるこの変な魔女に、これ以上油断してはいけない。
「では行こうか。ここからは乱気流を振り切って、全速力で翔け抜ける!」
ミライアはそう言うと、一度大きく息を吸った。
黄金色のオーラが濃くなったあと、一拍おいてホウキが――。
吹っ飛んだ。
「おぉぉあぁあぁー!!」
モチコの口から声にならない声が出た。
声以外は出さずに済んだのをむしろ褒めて欲しい。
ホウキが飛ぶというよりは、文字通り『吹っ飛ぶ』というのが正確な表現だろう。
例えるなら巨大な弓を構えた筋肉ムキムキの戦士が、力の限り弓を引き絞ったら、弦があまりの張力に耐え切れず暴発して放たれた矢のようだった。
さすが“疾風迅雷の魔女”の全速力だ。はやすぎ。
猛烈なスピードで飛ぶホウキは、もはや雨雲を避けることもせず、夜空をただまっすぐに突き進んでいた。
いくつもの雲に突入しては突き破り、雨も風も追いつくことのできない速さで飛んでいく。
押し寄せているはずの乱気流も、ホウキの描く美しい軌跡を乱すことはできなかった。
世界のすべてを置き去りにして、いま夜空には、ただふたりだけだ。
ふいにホウキが右に傾き、身体も右へ倒れる。
ミライアの姿勢はぶれずにまっすぐのままだったが、モチコは大きく右によろけた。
そのとき。
目に飛び込んできたミライアの姿――。
モチコはこのとき見た光景を、一生忘れない。
黄金色の光をまとって夜空を翔ける姿は、まるで不死鳥のようだった。
尽きることのない情熱が、大きな翼となり。
遠く彼方で輝く理想が、止まない風となる。
強い意思を宿した赤い瞳が、進むべき道を一直線に見つめている。
口元には自信に満ちた笑み。
この夜空の中心は、自分であると疑わない顔だった。
――この魔女はいま、高らかに歌うように空を飛んでいる!
まるで生きていることを世界に証明しようとするように。
その深遠な美しさから目が離せない。
しばらくのあいだ、モチコはうまく息を吸うことも出来なかった。
――この気持ちは、何だろう?
憧れでも尊敬でもなく、嫉妬とも違う。
名前の分からないこの気持ち。
モチコはその気持ちに今は名前をつけず、ただひそやかに、心にしまっておくことにした。
その瞳に、高らかに飛ぶ魔女の姿だけを焼き付けて。
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