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第1章
拾った少女の口に銀河を詰め込め〜(前編)
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ホウキは台風による乱気流をものともせず、次々と雲を突破していった。
まもなく暴風域を抜けるだろう。
暴風域を抜けるまでは、このまま全速力で翔け抜けるようだ。
もう何個目か分からないほど、たくさんの雨雲を突き抜けた。
今また、次の大きい雲へと突入する。
今度の雲はかなり大きくて、なかなか出口が見えない。
ふいに、雲の中を白い光が走ったのが見えた。
――バゴォォン!
「うわぁっ!」
モチコが叫ぶ。
光からほんの少し遅れて、強烈な爆発音が聞こえた。
まるで何かが、ホウキのすぐ近くで爆発したようだ。
モチコは一瞬、頭がクラクラとしたが、急いで持ち直す。
「大丈夫か!?」
ミライアが続けて叫ぶ。
「カミナリだ! 振り切るよ!」
また別な方向から光が走る。
今度の光はホウキの尾をかすめて、モチコは思わず目をつぶった。
頭が揺れるような、ものすごい雷鳴が轟く。
まるで台風がふたりを逃すまいと、最後の力を振り絞って手を伸ばしているみたいだった。
追手のカミナリは、段々とホウキに近づいている。
次に光ったら、追いつかれるかもしれない……!
恐怖がモチコの頭をかすめた時、ついに3度目の光が見えた。
モチコの後頭部に、光がチリリと触れる感覚がする。
ダメだ、追いつかれる――!
衝撃を覚悟して、モチコは全身にギュッと力を込める。
そのとき、不思議なことが起きた。
突然、モチコの身体から、緑色の泡のようなオーラが立ちのぼる。
そして、すぐに消えた。
――バゴォォンッ!!
猛烈な爆発音が、モチコの耳元で炸裂し、鼓膜を震わせた。
頭と身体が、ビリビリと痺れるように振動する。
だが、ギリギリのところで、カミナリの直撃は免れたようだ。
一瞬、身体のまわりが熱く感じたが、すぐにその熱は遠ざかっていく。
しだいに音と振動も消えていき、耳鳴りだけが残った。
気がつくと、雨雲を抜けている。
一瞬の出来事で、モチコはまだ、何が起きたのか理解できていなかった。
暴風域を抜け、ホウキはすでにスピードを落としている。
「……いま一瞬、ホウキがものすごく加速した。カミナリを振り切るくらいに」
ミライアの驚いた声が夜空に響いた。
「君は……魔法が使えるの?」
問いかけられたモチコは、少し低い声で答える。
「……いえ、魔法は使えません」
胸の奥に、思い出したくない鈍い痛みを感じる。
目を伏せながら続けた。
「少しオーラを練ることは出来るんですが、魔法は発動しないんです」
それこそが、モチコが魔女の夢を諦めた理由だった。
「魔法が発動しない?」
「はい。そういう体質なんだそうです」
「……なるほど。だけど、君がオーラを練った瞬間、明らかにホウキが速くなった」
「カミナリに当たりそうになった時に、思わず身体に力が入ってオーラを練ってしまっただけなので……。私が魔法を使った訳ではないと思います」
「そうか……。何にせよ無事で良かった」
ミライアは少し考える様子を見せたあと、振り返ってモチコと目を合わせた。
「君、名前は?」
「モチコ、です」
「モチコ……いい響きだね」
そのあともなぜかミライアは何か考え込む仕草をしながら、小声でモチコ、モチコ……とぶつぶつ呟いているようだった。
そんなに名前の響きが気に入ったのだろうか。
やっぱり変な魔女だ。
「――こちらタワー、ミライア? 聞こえる?」
ミライアの左耳のイヤリングに光が灯り、リサの声が聞こえてきた。
「ああ、聞こえる。任務は無事に完了した」
「こちらでも確認できているわ。台風はシグナル2まで弱体化に成功。さすがミライアね」
「これくらい楽勝さ」
「お嬢さんは無事かしら?」
問いかけられてモチコが答える。
「あ、はい。大丈夫です」
「良かったわ。今日はミライアの暴走フライトに付き合ってもらったお詫びをしたいから、帰りはタワーに寄っていってね」
「速いだけで、暴走はしてない。もう着くよ」
ミライアはそう言うと、ホウキを前方に見える小さな光の方へ向けた。灯台の光だ。
灯台は、正式にはキャンドルタワーと呼ばれる。
ロウソクのようなその形から名付けられたそうだ。
島の頂上に立つタワーは、たしかにお誕生日ケーキの上に刺さったロウソクに見えた。
ほどなくしてホウキはタワーに到着する。
最上階にはホウキが着地できる屋上展望台があり、モチコはそこで降ろされた。
「よし、到着。じゃあ着いてきて」
タワー中央には、ちょうどロウソクの芯にあたる部分に沿って、螺旋階段が作られている。
ミライアのあとに続いて螺旋階段を降りていくと、下の階は全面ガラス張りの展望室になっていた。
そこにいた2人の女性に、ミライアが近づいて声をかける。
「ただいま。こっちがさっき拾ってきたモチコ」
ミライアが2人の女性にモチコを紹介する。
捨て猫を拾ってきたみたいな言い方に少し引っかかりつつも、モチコは続けて挨拶をしようと口を開いた。
そのとき――。
「ふごっ?」
モチコの口に何かが詰めこまれ、挨拶はうまく発音されず失敗に終わった。
(後編へ続く)
まもなく暴風域を抜けるだろう。
暴風域を抜けるまでは、このまま全速力で翔け抜けるようだ。
もう何個目か分からないほど、たくさんの雨雲を突き抜けた。
今また、次の大きい雲へと突入する。
今度の雲はかなり大きくて、なかなか出口が見えない。
ふいに、雲の中を白い光が走ったのが見えた。
――バゴォォン!
「うわぁっ!」
モチコが叫ぶ。
光からほんの少し遅れて、強烈な爆発音が聞こえた。
まるで何かが、ホウキのすぐ近くで爆発したようだ。
モチコは一瞬、頭がクラクラとしたが、急いで持ち直す。
「大丈夫か!?」
ミライアが続けて叫ぶ。
「カミナリだ! 振り切るよ!」
また別な方向から光が走る。
今度の光はホウキの尾をかすめて、モチコは思わず目をつぶった。
頭が揺れるような、ものすごい雷鳴が轟く。
まるで台風がふたりを逃すまいと、最後の力を振り絞って手を伸ばしているみたいだった。
追手のカミナリは、段々とホウキに近づいている。
次に光ったら、追いつかれるかもしれない……!
恐怖がモチコの頭をかすめた時、ついに3度目の光が見えた。
モチコの後頭部に、光がチリリと触れる感覚がする。
ダメだ、追いつかれる――!
衝撃を覚悟して、モチコは全身にギュッと力を込める。
そのとき、不思議なことが起きた。
突然、モチコの身体から、緑色の泡のようなオーラが立ちのぼる。
そして、すぐに消えた。
――バゴォォンッ!!
猛烈な爆発音が、モチコの耳元で炸裂し、鼓膜を震わせた。
頭と身体が、ビリビリと痺れるように振動する。
だが、ギリギリのところで、カミナリの直撃は免れたようだ。
一瞬、身体のまわりが熱く感じたが、すぐにその熱は遠ざかっていく。
しだいに音と振動も消えていき、耳鳴りだけが残った。
気がつくと、雨雲を抜けている。
一瞬の出来事で、モチコはまだ、何が起きたのか理解できていなかった。
暴風域を抜け、ホウキはすでにスピードを落としている。
「……いま一瞬、ホウキがものすごく加速した。カミナリを振り切るくらいに」
ミライアの驚いた声が夜空に響いた。
「君は……魔法が使えるの?」
問いかけられたモチコは、少し低い声で答える。
「……いえ、魔法は使えません」
胸の奥に、思い出したくない鈍い痛みを感じる。
目を伏せながら続けた。
「少しオーラを練ることは出来るんですが、魔法は発動しないんです」
それこそが、モチコが魔女の夢を諦めた理由だった。
「魔法が発動しない?」
「はい。そういう体質なんだそうです」
「……なるほど。だけど、君がオーラを練った瞬間、明らかにホウキが速くなった」
「カミナリに当たりそうになった時に、思わず身体に力が入ってオーラを練ってしまっただけなので……。私が魔法を使った訳ではないと思います」
「そうか……。何にせよ無事で良かった」
ミライアは少し考える様子を見せたあと、振り返ってモチコと目を合わせた。
「君、名前は?」
「モチコ、です」
「モチコ……いい響きだね」
そのあともなぜかミライアは何か考え込む仕草をしながら、小声でモチコ、モチコ……とぶつぶつ呟いているようだった。
そんなに名前の響きが気に入ったのだろうか。
やっぱり変な魔女だ。
「――こちらタワー、ミライア? 聞こえる?」
ミライアの左耳のイヤリングに光が灯り、リサの声が聞こえてきた。
「ああ、聞こえる。任務は無事に完了した」
「こちらでも確認できているわ。台風はシグナル2まで弱体化に成功。さすがミライアね」
「これくらい楽勝さ」
「お嬢さんは無事かしら?」
問いかけられてモチコが答える。
「あ、はい。大丈夫です」
「良かったわ。今日はミライアの暴走フライトに付き合ってもらったお詫びをしたいから、帰りはタワーに寄っていってね」
「速いだけで、暴走はしてない。もう着くよ」
ミライアはそう言うと、ホウキを前方に見える小さな光の方へ向けた。灯台の光だ。
灯台は、正式にはキャンドルタワーと呼ばれる。
ロウソクのようなその形から名付けられたそうだ。
島の頂上に立つタワーは、たしかにお誕生日ケーキの上に刺さったロウソクに見えた。
ほどなくしてホウキはタワーに到着する。
最上階にはホウキが着地できる屋上展望台があり、モチコはそこで降ろされた。
「よし、到着。じゃあ着いてきて」
タワー中央には、ちょうどロウソクの芯にあたる部分に沿って、螺旋階段が作られている。
ミライアのあとに続いて螺旋階段を降りていくと、下の階は全面ガラス張りの展望室になっていた。
そこにいた2人の女性に、ミライアが近づいて声をかける。
「ただいま。こっちがさっき拾ってきたモチコ」
ミライアが2人の女性にモチコを紹介する。
捨て猫を拾ってきたみたいな言い方に少し引っかかりつつも、モチコは続けて挨拶をしようと口を開いた。
そのとき――。
「ふごっ?」
モチコの口に何かが詰めこまれ、挨拶はうまく発音されず失敗に終わった。
(後編へ続く)
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