台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第1章

お持ち帰りはポテトもセットで!(前編)

 モチコとミライアが灯台タワーに着いてからしばらくして、台風が上陸した。

 ミライアの活躍により、台風はだいぶ弱まったようだ。
 タワーのガラス窓に当たる雨と風は、少しだけ強めに感じる程度だった。
 これなら台風警告信号タイフーンシグナルに従って避難している街の人々に、大きな被害が出ることは無さそうだ。

 弱まったとはいえ、台風が過ぎ去るまでは、外に出るのは危ない。
 天気が落ち着くまで、モチコはタワーで待機させてもらうことになった。
 
「台風がいなくなるまで、モッチーはのんびりしててね~」
「私たちは仕事があるけど、モチコちゃんは下の仮眠室で休んでいてもいいわよ」
「はい。おシズさん、リサさん、ありがとうございます」

 台風が上陸してから、リサとシズゥは忙しそうにしている。
 街の被害状況を確認したりしているようだ。
 今夜は色んな事がありすぎて、モチコの心には今もドキドキが残っている。
 眠くはなかったので、仮眠室へは行かずに、みんなの仕事風景を眺めて過ごすことにした。

「この部屋は、中央展望室コントロールルームって呼ばれてるんだよ~」

 シズゥの説明によると、ここで台風を観測し、各所に指示を出しているそうだ。
 円形の部屋をぐるりとガラス窓が囲んでいて、南側に海、北側に街が見える。
 夜の中央展望室コントロールルームは、照明はあるものの、基本的には薄暗い。
 海側のガラス窓の前には大きな机があり、リサがその前に座っていた。

「リサの机に、大きな地図があるでしょ~。あれで台風を観測してる~」
「地図で観測できるんですか?」
「魔法で光を操って、地図に情報を映してるんだよ~」

 リサの机を見ると、地図は灯台を中心にして、周りの海と街が描かれていた。
 地図の上には小さな水晶がいくつも転がっていて、それぞれ色々な加減で光ったり、点滅したりしている。
 あの光が、台風の位置や、風や雨の強さを示しているようだ。

「台風は現在、中央街の真上を進行中。川の水位に注意してください――」

 ときどき、リサは透き通った声で、この部屋ではないどこかへ指示を出している。
 リサの両耳には、ミライアがしていたのと同じ、三日月のイヤリングが光っていた。
 薄暗い展望室のなかで、リサの身体は白いオーラをまとっている。
 もともと清楚な雰囲気のリサがオーラをまとうと、まるで絵画に描かれた女神のように美しかった。

「ちょっと出かけるから、モッチーはいい子にしててね~」

 シズゥはそう言うと、下の階へと降りていった。
 その後、荷物や書類を手にして戻ってきたかと思うと、何度も中央展望室コントロールルームと下の階を、行ったり来たりしている。
 リサが観測した内容を誰かに伝えに行ったり、下から持ってきた書類をリサに渡したりしているようだ。
 本人の性格だと思うが、何となく行動のひとつひとつがのんびりとしていて、慌ただしい様子には見えない。

「あ~。冒険者街にできた新しいお店ね~。でもやっぱりコロッケは銀河屋一択かな~」

 ときどき、下の階から他のスタッフが上ってきて、シズゥに書類を手渡しに来る。
 その際に雑談をするのだが、シズゥの仕事の半分くらいは、この雑談に費やされている気がした。
 仕事に関する雑談から始まって、お店で新商品が出たとか、冒険者ギルドに可愛い新人が来たとか、貴族街の火事は裏でマフィアが動いてるらしいとか。

 シズゥはのんびりした相づちで、どんな話でも楽しそうに聞く。
 そのため、他のスタッフもみんな、思わず話し過ぎてしまうようだ。
 糸目と言ってもいいくらい細いシズゥの目は、何を考えているのかは読めないが、のんびりしていることだけは分かる。


「私もすこし、のんびりしようかな」

 モチコは展望室の隅にあるイスに座りながらつぶやいた。
 話し相手もいないので、テーブルにほおづえをつき、ぼんやりとしながら外の嵐の音を聴く。
 風が中央展望室コントロールルームの窓を断続的に叩き、雨の音がタワー全体を大きな幕のように包んでいた。

 抑揚は無いが、ほどよく不規則なその音は、不思議と心地よいノイズのようだ。
 しばらく聞いているうちにモチコは眠くなってきた。
 ミライアはまだ戻ってこないな、と思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。



 ――モチコは短い夢を見た。

 いつもの夢。何度も見るこの夢は、内容も毎回ほとんど同じだ。
 夢というよりは、記憶に近い。

 魔法学校の学生時代。
 定期試験が始まり、クラスメイトが1人ずつ先生の前に呼ばれる。
 そこで指定された魔法を正しく披露できれば、試験は合格。
 クラスメイトがみな合格していくなか、モチコの順番が来る。

 深呼吸をして、何度もトライするが、魔法は発動しない。
 呼吸が浅くなり、手のひらに嫌な汗がにじむ。

 最初は応援していたクラスメイトや先生が、ひとり、またひとりと失望した様子で離れていく。

「君には才能が無い」

 誰かが言った言葉が、妙に反響して聞こえる。
 いつもの夢。もうすぐ目が覚めるはずだ。

 だが、いつもはここで終わる夢に、今回は少しだけ続きがあった。

「――手を出せ!」

 どこからか凛とした声が聞こえる。どこかで聞いたことのある声だが、今はなぜか思い出せない。
 思わず伸ばした右手が宙をさまよった、次の瞬間――。

(後編に続く)
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