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第1章
死んでてよかった表情筋(前編)
台風一過の、雲ひとつない夜空だ。
灯台を飛び立ったホウキは、ミライアとモチコを乗せて順調に飛行していた。
すでに日付も変わり、真夜中だ。
街の灯りはほとんど消えている。
ホウキから見下ろす地上は真っ暗で、月明かりでわずかに濃淡が分かる程度だった。
「暗くて見えないですね……。私の家はどこだろ?」
モチコは暗い地上に目を凝らす。
おそらくこのあたりに、モチコの住んでいる集落があるはずだった。
モチコが必死で自宅探しをしていると、夜中なのに明るい一帯が見えてきた。
冒険者ギルドの目立つ屋根が見えて、モチコは違和感に気づく。
「あれ? ここ、冒険者街ですか?」
「うん。そう」
当然の事のようにミライアが答える。
冒険者街はこの街と外をつなぐ玄関口で、その名のとおり、旅をする冒険者達で賑わっている。
そこには冒険者ギルドがあり、冒険者向けの宿や飲食店がひしめく宿場町になっていた。
「……えっと、私の家はもっと手前ですけど……」
モチコの言葉に、ミライアは驚くべき答えを口にした。
「うん。私の家に行くから」
「へっ!?」
モチコの頭の中で、お持ち帰り警報のスイッチが一斉にオンになる。
爆音で鳴り響く警報。
これはまずい!
「いや、私、自分の家に帰りますから!」
慌てて主張するが、ミライアは気にする様子もない。
「うちで歓迎会しよう。モチコが相方になる記念」
「か、歓迎会……ですか?」
「そう。今まで相方がいなくて、ずっとひとりだったから。嬉しくてさ」
「う、うーん……」
なんとも断りにくい誘い文句だ。
モチコの頭の中にいるお持ち帰り警報大臣が、警報を鳴らしたり止めたり、判断に迷っている。
うまい誘い文句でお持ち帰りするための、単なるテクニックという可能性もある。
でもミライアの話し方は、特に裏があるようにも感じない……。
「はい、着いたよ」
モチコ大臣の結論が出ないうちに、ホウキは下降して地面にたどり着く。
ホウキから降りると、そこは3階建てのアパートだった。
冒険者街の隅にあるそのアパートは、小さい部屋をたくさん集めてとりあえず固めたような感じの、お世辞にも立派とは言えない簡素な造りだ。
ミライアがアパートの階段を上り始めたので、モチコも置いていかれないよう後に続く。
暗い階段を上り、3階の端にある部屋の前にたどり着くと、ミライアがドアを開いた。
先にミライアが部屋の中へ入り、後ろにいたモチコを招き入れる。
「さあ入って。ようこそ我が家へ」
モチコが部屋のなかへ足を踏み入れると、背後でドアが閉まる音が聞こえた。
小さい部屋のなかは、とても静かだった。
自分の心臓の鼓動がまわりにも聞こえそうなほど大きくなっていて、思わず胸の前に抱えた布袋をギュッと抱きしめる。
ついにお持ち帰りされてしまった――!?
いや、これは相方との歓迎会なのであって、そういうのではないのだ。
お持ち帰りとしてはノーカウントだ。
そう、歓迎会のはず……なのだ。
「おーいモチコ、こっちおいでよ」
呼ばれたモチコは布袋を抱えたまま、泥棒が忍び足で歩くようなぎこちない動きで、部屋の奥へと進む。
部屋の奥の壁には大きな窓があって、そこから月明かりが部屋に差し込んでいた。
窓の近くに立っていたミライアが、モチコの方に振り返る。
月の光に照らされたミライアの身体が、室内の暗闇でシルエットとなって浮かびあがった。
逆光で顔の表情は分からない。
それでも頭のてっぺんから曲線を描いて流れる長い髪や、すこやかな質量に満ちた身体のライン、しなやかに伸びた長い足のかたちから、とても美しい女性であることが分かる。
その美しいシルエットが近づいてきて、モチコの目の前で止まった。
「荷物ありがと。こっちに頂戴」
「は、はい……」
抱えていた布袋を手渡したモチコは、ミライアの顔の方を見上げた。
近くに並んで立つと、結構な身長差があるのが分かる。
モチコが特別に小さいというのもあるが、ミライアの背も高い。
モチコの頭のてっぺんが、ミライアのちょうど顎のあたりになりそうだ。
いまだ鳴り止まない心臓の鼓動が、目の前にいるミライアに聞こえそうな気がして、身体に変な力が入る。
「あれ? モチコ、何か緊張してる?」
「え、えっと……」
ミライアが少しかがんでモチコの顔を覗き込み、ふたりの顔が近づく。
これ以上は心臓が持たないと思い、モチコは白旗をあげた。
もう、単刀直入にいく。
「あ、あの……!」
「どうした?」
「ミライアさん……は、いつも色々な女の子を、この部屋にお持ち帰りしてるんですよね?」
「え?」
モチコは小さく深呼吸をした後、意を決して口を開いた。
「わ……私も、お持ち帰りされたんでしょうかっ!?」
灯台を飛び立ったホウキは、ミライアとモチコを乗せて順調に飛行していた。
すでに日付も変わり、真夜中だ。
街の灯りはほとんど消えている。
ホウキから見下ろす地上は真っ暗で、月明かりでわずかに濃淡が分かる程度だった。
「暗くて見えないですね……。私の家はどこだろ?」
モチコは暗い地上に目を凝らす。
おそらくこのあたりに、モチコの住んでいる集落があるはずだった。
モチコが必死で自宅探しをしていると、夜中なのに明るい一帯が見えてきた。
冒険者ギルドの目立つ屋根が見えて、モチコは違和感に気づく。
「あれ? ここ、冒険者街ですか?」
「うん。そう」
当然の事のようにミライアが答える。
冒険者街はこの街と外をつなぐ玄関口で、その名のとおり、旅をする冒険者達で賑わっている。
そこには冒険者ギルドがあり、冒険者向けの宿や飲食店がひしめく宿場町になっていた。
「……えっと、私の家はもっと手前ですけど……」
モチコの言葉に、ミライアは驚くべき答えを口にした。
「うん。私の家に行くから」
「へっ!?」
モチコの頭の中で、お持ち帰り警報のスイッチが一斉にオンになる。
爆音で鳴り響く警報。
これはまずい!
「いや、私、自分の家に帰りますから!」
慌てて主張するが、ミライアは気にする様子もない。
「うちで歓迎会しよう。モチコが相方になる記念」
「か、歓迎会……ですか?」
「そう。今まで相方がいなくて、ずっとひとりだったから。嬉しくてさ」
「う、うーん……」
なんとも断りにくい誘い文句だ。
モチコの頭の中にいるお持ち帰り警報大臣が、警報を鳴らしたり止めたり、判断に迷っている。
うまい誘い文句でお持ち帰りするための、単なるテクニックという可能性もある。
でもミライアの話し方は、特に裏があるようにも感じない……。
「はい、着いたよ」
モチコ大臣の結論が出ないうちに、ホウキは下降して地面にたどり着く。
ホウキから降りると、そこは3階建てのアパートだった。
冒険者街の隅にあるそのアパートは、小さい部屋をたくさん集めてとりあえず固めたような感じの、お世辞にも立派とは言えない簡素な造りだ。
ミライアがアパートの階段を上り始めたので、モチコも置いていかれないよう後に続く。
暗い階段を上り、3階の端にある部屋の前にたどり着くと、ミライアがドアを開いた。
先にミライアが部屋の中へ入り、後ろにいたモチコを招き入れる。
「さあ入って。ようこそ我が家へ」
モチコが部屋のなかへ足を踏み入れると、背後でドアが閉まる音が聞こえた。
小さい部屋のなかは、とても静かだった。
自分の心臓の鼓動がまわりにも聞こえそうなほど大きくなっていて、思わず胸の前に抱えた布袋をギュッと抱きしめる。
ついにお持ち帰りされてしまった――!?
いや、これは相方との歓迎会なのであって、そういうのではないのだ。
お持ち帰りとしてはノーカウントだ。
そう、歓迎会のはず……なのだ。
「おーいモチコ、こっちおいでよ」
呼ばれたモチコは布袋を抱えたまま、泥棒が忍び足で歩くようなぎこちない動きで、部屋の奥へと進む。
部屋の奥の壁には大きな窓があって、そこから月明かりが部屋に差し込んでいた。
窓の近くに立っていたミライアが、モチコの方に振り返る。
月の光に照らされたミライアの身体が、室内の暗闇でシルエットとなって浮かびあがった。
逆光で顔の表情は分からない。
それでも頭のてっぺんから曲線を描いて流れる長い髪や、すこやかな質量に満ちた身体のライン、しなやかに伸びた長い足のかたちから、とても美しい女性であることが分かる。
その美しいシルエットが近づいてきて、モチコの目の前で止まった。
「荷物ありがと。こっちに頂戴」
「は、はい……」
抱えていた布袋を手渡したモチコは、ミライアの顔の方を見上げた。
近くに並んで立つと、結構な身長差があるのが分かる。
モチコが特別に小さいというのもあるが、ミライアの背も高い。
モチコの頭のてっぺんが、ミライアのちょうど顎のあたりになりそうだ。
いまだ鳴り止まない心臓の鼓動が、目の前にいるミライアに聞こえそうな気がして、身体に変な力が入る。
「あれ? モチコ、何か緊張してる?」
「え、えっと……」
ミライアが少しかがんでモチコの顔を覗き込み、ふたりの顔が近づく。
これ以上は心臓が持たないと思い、モチコは白旗をあげた。
もう、単刀直入にいく。
「あ、あの……!」
「どうした?」
「ミライアさん……は、いつも色々な女の子を、この部屋にお持ち帰りしてるんですよね?」
「え?」
モチコは小さく深呼吸をした後、意を決して口を開いた。
「わ……私も、お持ち帰りされたんでしょうかっ!?」
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