台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
14 / 83
第1章

夜明けの誓い、宙を舞うスカート(後編)

「さて、お腹もいっぱいになったところで、ちょっと聞いてもいいかな?」

 ミライアが少し真面目な声で言った。

「モチコの魔法のことなんだけど」
「はい」

 そのうち聞かれると思っていたので、モチコは特に驚かなかった。

「魔法が発動しない体質って言ってたけど、どういうこと?」
「ええと……順を追って、説明しますね」

 夜空に雲が出てきて月が隠れたのか、部屋の中が暗くなる。
 いつの間にか、ランプの明かりも消えていた。
 モチコは少しずつ話し始める。

「まず、私は『マナを魔力に変換すること』は出来るんです」

 この世界には、魔法の素となる魔素マナという物質が空気中を漂っている。
 魔法使いは、空気中のマナを自分の身体の中に取り込んで、『魔力』に変換することができる。

 変換された魔力は、身体をまとうオーラとなって目に見えるので、魔力=オーラと言い換えてもいい。
 マナを身体の中で魔力に変換することを、一般的には『魔力を練る』とか『オーラを練る』と表現することが多かった。

「オーラを練ることは出来るのですが、練ったオーラが、すぐに蒸発してしまいます」

 通常であれば、練ったオーラは、魔法使いの身体にしばらく留まる。
 そのままオーラを練り続けて一定量を溜めることで、魔法を発動することが出来るのだ。
 だが、モチコは魔法の発動に必要な量のオーラを溜めることが、どうしてもできなかった。
 
 モチコは実際に、ミライアの前でオーラを練ってみせる。
 モチコの身体から緑色のオーラが立ちのぼり、暗い部屋が少し明るくなった。
 だが、よく見るとオーラに炭酸水の泡のようなものが混ざっていて、生まれてはすぐに消えていく。

「泡のようなオーラ……。こんなの初めて見た」
「はい。魔法学校の先生方にも、これが何なのか分かる人はいませんでした」

 モチコはそう言うと、両手の手のひらを上に向けて、身体の前にかざした。

「私が出来るのは、これが精いっぱいです」

 モチコの手のひらの上でオーラが揺らめいてキラリと光った。
 オーラが丸い玉のような形をつくり始め、モチコの頭くらいの大きさの半透明の玉になって、ぽよんと宙に浮かぶ。
 その玉はゆっくり、ふわふわと上昇していき、部屋の天井近くで弾けるように消えた。

「これは……シャボン玉……?」
「はい。オーラをなんとか形にしようと必死で練習して、3年かけてようやく出来たのが、このシャボン玉です」
「3年……」
「一応、シャボン玉をもう少し大きい玉にしたり、小さい玉をたくさん作ることもできます」

 モチコの身体からオーラが消えた。
 部屋が再び暗くなる。

「でも、それだけです。何の役にも立ちません」

 モチコは感情を込めずに淡々とそう説明した。
 顔はいつも通りの無表情だ。
 ミライアが少し険しい顔をして尋ねる。

「……何か解決する方法はないのか? 詳しい人に相談するとか」
「魔法学校の先生方はお手上げだったので、街の有名な魔法使いや、お医者さんを紹介してもらったりもしました。でも結局詳しいことは分からず……。体質だから仕方がないだろう、と」
「そうか……」
「本当は私、空を飛ぶ魔女になりたかったんです。ずっと憧れで、学費を貯めて魔法学校にも通って。……結局は魔法も使えない落ちこぼれのまま卒業して、魔法と関係ないメイドの仕事につきましたけど」
「あぁ……」
「だから今回、先輩と空が飛べることになって、実は嬉しかったんですよ。あ、私が海岸にいたのも、先輩が空を飛ぶところを、一目見たかったからなんです」
「……」

 ミライアは、少し険しい顔をしたまま黙ってしまった。
 まあ、いつもの事だ。
 モチコがこの話を誰かにすると、みんな何と反応したらよいか分からず、困った顔になる。
 学生時代も、クラスメイトがみんな困った顔をしてモチコから離れていき、友達と呼べる人間はほとんどいなかった。

 モチコは、小さく深呼吸をする。
 そして、暗くなった雰囲気を変えようと、わざと大げさにおどけて言った。

「まあ、よくある話ですよ。結局のところ……」

 自分が最も嫌いな言葉を、敢えて口にする。

「私にはってことで、諦め――」
「私が叶えてみせる」

 突然、ミライアがモチコの言葉を遮った。

「え……?」

 ミライアは繰り返した。
 雲の切れ間から、月明かりが部屋に差し込む。

「私が、モチコの夢を、叶えてみせる」
「と、突然どうしたんですか」
「モチコを必ず、空を飛べる魔女にする」
「いや、それは無理ですって……」
「才能なんて関係ない。モチコは空を飛ぶ魔女になれるよ。信じて」

 そう言うミライアの赤い瞳があまりにも真剣で、モチコは息を飲んだ。
 今までこんなことを言う人間は、ひとりもいなかった。
 モチコに才能が無いと分かると、ひとり、またひとりと知らぬ間に離れていく。

 真正面から向き合ってくれる人に出会ったのは初めてで、どうしたら良いかわからない。
 胸の奥から熱が込み上げてきた。
 両手を握って、胸にぎゅっと押しつける。

「……し、信じても、いいんですか……?」

 思わず声が震えた。
 ミライアが、凛とした声で答える。

「私がモチコの夢を叶えてみせる。――この魔女の名において、約束する」

 それは魔女が、最も大切な誓いを立てるときに使う言葉だった。
 誓いの儀式に則り、お互いに差し出した右手を固く握り合う。
 繋いだ手を、月明かりが照らしていた。

「よし、オッケー」

 ミライアはそう言って手を離すと、両手を上げて伸びをした。
 モチコも胸に溜まった熱を冷まそうと、深呼吸をする。
 気がつくと、もう夜明けが近かった。


 ミライアがぼんやりと窓の外を眺めている。

「先輩、そろそろ眠くなってきましたか?」
「そうだね。お腹もいっぱいだし、約束もできたし、そろそろ寝ようかな」

 それを聞いたモチコは、ジャガイモの入っていた鍋を片付けようと立ち上がる。
 すると、突然ミライアが服を脱ぎ始めた。

「えっ、ちょっと!」

 上に着ていた魔女の制服がそのへんにポイっと投げられ、床に脱ぎ捨てられた。
 続けて、下に履いているスカートも脱ぎ始める。

「せ、先輩っ!?」

 モチコが止める間もなくスカートもまた宙を舞い、違う方向の床に飛んでいった。
 あっという間に下着姿になったミライアを、直視してもよいのか分からず、モチコは挙動不審になる。
 当たり前のように、美しい下着姿だった。

「じゃあ、寝る」

 こちらが慌てていることなど全く気にしていない様子で、ミライアは毛布をかぶって寝ようとしている。

「ちょ、ちょっと先輩!」
「ん? 一緒に寝る? いいよ、おいで」

 ミライアはよく分からないことを言いながら、かぶっていた毛布をバサっと開いて、モチコの入る場所を作ろうとしている。
 ……だからそこを開いてしまうと、美しい下着姿が丸見えなんですけど!

「一緒に寝ませんっ! おやすみなさい!」
「おやすみ。朝日が昇ったら起こして。家まで送るから」

 そう言うとミライアは、モチコが返事をする間もなく寝息を立て始めた。
 モチコは思わずため息をつく。
 でも決して嫌な気持ちでは無かった。
 本当に変な魔女。そして困った先輩だ。

 夜明けの近づく小さな部屋のなかで、モチコはミライアが起きないように小声でつぶやいた。

「……よろしくお願いします、先輩」


















 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 <作者コメント>
 お読みいただきありがとうございます。
 ここまでが、第1章となります。

 お話の執筆はすでに最後まで終わっていて、
 全5章、60~70話くらいの構成になる予定です。

 1章はモチコとミライアが出会う話でした。
 2章からは、モチコがメイドとして働くお屋敷へも舞台を広げながら、
 魔女の仲間がたくさん登場してきて、にぎやかに話が展開していきます。

 途中、モチコは山あり谷ありの展開を迎えますが、
 作者はハッピーエンドが好きです。

 少しでも気に入っていただける部分がありましたら、
 コメントや、ポチッと応援して頂けたらうれしいです!
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。