台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第2章

巻けば尊し白百合の花(前編)

 タワーへの初出勤の日。
 仕事が始まるのは日没からだが、モチコは余裕を持って、まだ日が高いうちに向かうことにした。
 
 魔動トロッコをタワーの最寄り駅で降りて、海のほうへ歩いていく。
 海岸線まで着くと、海に浮かぶ島が見えた。

「いつ見ても、亀みたいでかわいいな」

 島のシルエットは、海に浮かんだ大きな亀のようだ。
 ちょうど甲羅のてっぺんに灯台タワーが乗っかっていた。
 
 島へ渡るための、大きな橋がある。
 空を飛べる魔女以外は、この橋を渡ってタワーへ向かうのだ。
 タワーのある島の頂上までは、たくさんの階段を上る必要があるが、仕事の準備運動だと思えばちょうどいい感じだった。

「ふう、やっと着いた」

 頂上に着くと、2階建ての大きな建物が見えた。
 その建物から、にょきっとタワーが生えているような設計になっている。
 建物の入口にあるプレートには、白鳥のエンブレムとともに『シグナス』と刻まれていた。

 シグナスとは、夏の星座のひとつである、白鳥座を表す言葉だ。
 そして、この街で台風と戦う組織の名称でもある。
 白鳥座シグナスの名のとおり、台風シーズンの初夏から晩秋にかけて空に輝き、この街を守るのだ。

「こんにちは! シグナスへようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」
 
 建物に入ると、すぐに受付のお姉さんがさわやかな声で尋ねてきた。
 モチコはちょっと緊張しながら言葉を返す。
 
「あ、あの。今日からこちらで働くことになった、モチコ・カザミモリという者なのですが……」
「はい、伺っております。あちらへどうぞ!」
 
 さわやかに手で示された方に目を向けると、知っている顔があった。
 
「やほ~。モッチー、こっちだよお~」
 
 モチコは、そこで待っていたシズゥに駆け寄る。
 
「おシズさん、よろしくお願いします」
「はいよろしく~。じゃ、とりあえず待機室ラウンジにいこか~」

 シズゥはそう言うと、シグナスの建物の中を歩きだした。
 モチコもあとについて歩く。
 中は広いオフィスになっていて、たくさんの人が色々な仕事をしているようだった。

「このへんが気象データをまとめてるチーム。あっちは設備とか備品を管理するチーム。あの奥は予算管理してる人たちね~」

 シズゥの説明を聞きながら、モチコも右へ左へと首を動かす。

「ちょっとずつ覚えていけばいいから~。んで、ここが私たちの待機室ラウンジだよ~」

 建物のいちばん奥、ちょうどタワーの真下にあたる部分が、待機室ラウンジになっていた。
 ドアを開けて中に入ると、いくつかのテーブルとイスが並んでいる。
 そのひとつに、リサが座って書類に目を通していた。

「モッチーが来たよ~」

 シズゥの声かけに、リサが顔を上げる。
 
「モチコちゃん、いらっしゃい」
「リサさん、よろしくお願いします」

 リサに促されて、モチコはリサの向かいの席に座る。

 待機室ラウンジはそこそこの広さがあった。
 並んでいるテーブルとイスは固定席ではなく、そのとき空いている席を使うスタイルのようだ。
 部屋の中央にはタワーへと登っていく螺旋階段がある。
 奥の方にはシャワーや仮眠室もあるようだった。

 待機室ラウンジの中を見回したあと、モチコは尋ねる。
 
「先輩……えっと、ミライア先輩は、まだ来てないですか?」
「そのうち来ると思うわ。いつも時間ギリギリに入って来るから」
 
 リサはそう答えると、手に持っていた書類をテーブルに置いて、モチコの方を見た。

「仕事まで時間もあるし、今のうちに、モチコちゃんに色々と説明しておきましょうか」
「はい。ぜひお願いします」
「私は必要なものを取ってくるねえ~」
 
 シズゥはそう言うと部屋の奥へと消えていった。

 
「あらためて。モチコちゃん、シグナスへようこそ」
「はい、今日からがんばります」
「知っていると思うけれど、シグナスは、台風からこの街を守るために作られた組織なの」
「はい」
「普段は天気を観測したり、街の防災活動を行っているわ。台風が接近したときには、台風警告信号タイフーンシグナルの発令と、台風への攻撃アタックを行うの」

 モチコは、先日ミライアのホウキに乗った時のことを思い出した。
 あれがまさに台風への攻撃アタックだ。
 
 その後のリサの説明によると、シグナスは営利目的ではなく街の防災に関わる組織のため、運営資金は主に税金と、街の貴族からの寄付金、それに北の王都からの交付金だという。

「北の王都からも資金が出ているんですね」
「もし台風が強いままこの街を通り過ぎて、王都まで行ってしまったら、確実に甚大な被害が出るわ。王都を守るのも、私たちのミッションなの」

 確かに、人口が桁違いに多い王都に台風が直撃すれば、大変なことになる。
 この街はちょうど台風の通り道になっているので、この街と北の王都を守るためには、シグナスの存在が必要不可欠だろう。

「私たちは4人1組のチームになっていて、各チームが交代で任務にあたっているわ」
「リサさんと、おシズさんと、ミライア先輩と、私……の4人チームですか?」
「そう。今は全部で6つのチームがあるの。そのうち5つが日勤で、私たちが唯一の夜勤チームよ」
「それだと、うちのチームが休みの日の夜勤はどうしてるんですか?」
「日勤チームのどれかが、交代で夜勤に入ることになっているわ」
「なるほど。夜勤専門は、私たちだけなんですね」

 リサと話しているところに、のんびりした声が飛び込んできた。

「そうだよ~。貴重な夜勤メンバーに加わってくれたモッチーは、我らの救世主だね~」
 
 シズゥはそう言いながら、何かを手に持って戻ってきた。
 
「救世主モッチーに、我らのメンバーである証を授けよう~」

 シズゥが持ってきたのは、シグナスの制服だった。
 たたまれた制服がモチコに手渡される。

「服のサイズはバッチリ合わせておいたから~」
「え? 私のサイズなんて教えましたっけ?」
「モッチーのことなら何でも知ってるよお~。髪の色、目の色、メガネの度数、身長、体重、足の大きさ、あとスリーサイズとか~」
「な、何で知ってるんですか……?」
「ん~? 私はいろいろ知ってるお姉さんだからだよ~。ちなみにモッチーの下着の色は、み――」
「そ、それ以上言わなくていいです! 着替えてきます!」
「ほい~。更衣室はあっちだよお~」

 モチコは話を強引に切り上げて更衣室へ向かう。
 もらった制服に袖を通してみると、確かにぴったりのサイズだった。
 おシズさんは、いったいどこから情報を仕入れているのだろう……。

 シグナスの制服は紺色のセーラー服だ。
 風が強い海の上を飛ぶので、船乗りと同じデザインにしたと聞いた。
 セーラーカラーには白い線が1本入っていて、胸のスカーフ留めの部分に、白鳥のエンブレムが刺繍されている。
 セーラーカラーの下には、二の腕が隠れるくらいの長さのケープも羽織る。
 モチコは制服に着替えると、鏡の前でくるりと回転してみた。

「おおぅ。ばっちりグー」
 
 プリーツが多めのスカートは、回転に合わせて控えめに揺れてかわいい。
 気に入りました。

 着替えを終えてリサとシズゥのところへ戻ると、2人は歓声を上げて迎えてくれた。
 
「わぁ、モチコちゃん。とっても似合うわ!」
「制服のモッチーもかわいいねえ~」
「あ……ありがとうございます……」

 2人に拍手までされてちょっと恥ずかしくなり、モチコは制服のスカートをつまみながらもじもじする。

「あ、そういえば、スカーフが無かったです」

 シグナスのスタッフはみんな、制服の胸の部分にスカーフを留めている。
 だが、渡された制服のなかに、スカーフは入っていなかった。

「あ~。スカーフはねえ~。後で来るから~」
「ふふふ。モチコちゃん、楽しみにしておいてね」
「え……? は、はい……?」

 2人の言っている意味がよく分からなかったが、まあいいか。
 後で来るみたいだし。

「さて、次はうちのチームの役割分担について、説明しておくわね」

 リサが説明を始めたので、モチコはイスに座って続きを聞く。

「私は『ナビゲーター』といって、台風を観測しながら指示を出す係よ。台風警戒信号タイフーンシグナルのアナウンスも私が担当するわ」
「私は『ディスパッチャー』だよ~。飛行スケジュールを調整したり、必要な人や物を手配する係だね~」
「ふむふむ。ナビゲーターと、ディスパッチャーですね」

 モチコはうなずきながらメモを取った。
 リサが説明を続ける。
 
「そして、ミライアとモチコちゃんは――」

 ――バッコォーン!!
 リサが話している途中で、いきなり待機室ラウンジのドアが激しい音を立てて開いた。

「ミライア様に相方ができたって本当ですかぁぁぁぁーっ!!」

(中編へ続く)
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