台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第2章

突撃!先輩の晩ごはん?(前編)

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 初仕事を無事に終えたモチコは、タワーへと帰還する。
 中央展望室コントロールルームでは、シズゥとリサが待っていてくれた。

「おかえり~」
「モチコちゃん、初任務おつかれさま。さあ、ふたりともこっちに座って」

 リサに手招きされてテーブルの方へ行くと、お茶とお菓子が用意されていた。

「わっ、すごい!」

 モチコは思わず歓声を漏らした。
 テーブルの上には、ティーカップとソーサーがきちんと人数分用意され、小さいクッキーも添えられている。
 モチコが促されるままにテーブルの前にあるイスに座ると、ミライアも隣のイスに腰かけた。

「ほい~。お茶だよお~」

 シズゥがティーポットを手に取って、モチコの前にあるカップにお茶を注いでいく。
 白磁はくじのティーポットは、白鳥の絵付けがされていた。
 琥珀色こはくいろの液体がカップを満たすと、そこから湯気が立ちのぼる。

「この紅茶、すごくいい香りですね」
「この香りは、アールグレイだね」

 ミライアがカップを口元に近づけながら答える。
 シズゥが続けて説明してくれた。

「紅茶の葉に、ベルガモットっていう果物の香りをつけたお茶だよ~」
「なるほど。だからこういう香りなんですね」

 説明を聞いて味わってみると、たしかに柑橘かんきつの爽やかさが、ふっと鼻に抜けた。
 それからみんなでテーブルを囲み、アールグレイを飲みながら雑談をする。
 話題は仕事に関する話から始まり、新入りであるモチコへの質問が中心になった。
 どのあたりに住んでるとか、どこの学校に通っていたとか。

 最初はシズゥが一番おしゃべりだろうと想像していたが、どうやら違うようだ。
 いざ話し始めてみると、意外にも清楚で大人しそうなイメージのリサが、一番よくしゃべる。
 シズゥは相づちでうまく繋いだり、補足で説明したりする役割のようだ。
 こういう人を聞き上手っていうんだろう。

 ミライアは口数が少なく、話を振られた時だけ答えるという感じ。
 ほかの3人が、わいのわいの盛り上がっているのを、ミライアはただ楽しそうに眺めていた。

「さて、そろそろ朝番と交代の時間ね」

 とりとめのない話があれこれと盛り上がり、紅茶のおかわりも飲み干したところで、リサが言った。
 ガラス窓の外を見ると、空が明るくなり始めている。

「テーブルの食器は私が片付けておくから~。ふたりは先にあがっていいよ~」
「ありがとうございます。では、お先に失礼します」

 モチコはお礼と挨拶をすると、イスから立ち上がって螺旋階段を下へと降りた。
 下の更衣室でシグナスの制服を脱ぎ、私服に着替える。
 脱いだ制服は指定の場所に置いておけば、クリーニングしておいてもらえるそうだ。

 更衣室を出ると、ミライアが待機室ラウンジのイスに座って待っていた。

「先輩、お待たせしました。更衣室、空きましたよ」
「私はいいから、もう帰ろう。送っていくよ」

 ミライアはそう言うと、待機室の出口へ向かって歩き出す。

「先輩は着替えないんですか?」
「服、これしかないから」
「えっ?」

 服が1着しかない、それも職場の制服だけ。
 そんなことがあるのだろうか。
 まあ街中でシグナスの制服を着ていても、特におかしくはないけれど……。

「寝るときとか、運動するときとか、どうするんですか? 汗をかいたら困りそうですけど」
「モチコって、変に細かいこと気にするよね」

 先輩が気にしなさすぎなんじゃいっ!
 と、叫びそうになったが、いったん飲み込んだ。
 この程度で突っ込んではいけない。先輩のペースに飲まれたら負けなのだ。
 そういえばこの先輩、この前は下着だけで寝ていたしな……。

「モチコが気になるなら、私は裸で帰ってもいいけど」
「ふぇっ?」
「夜明け前の薄暗い空を飛ぶだけなら、誰にも見られないし」
「いやいや、ダメです!」

 これにはさすがに突っ込んでしまった。
 この勝負はモチコの負けだ。
 これ以上やりあっても無駄だと悟ったモチコは、咳ばらいをひとつして話を進める。

「……ごほん。もう制服のままでいいですから、帰りましょう」


 モチコとミライアは待機室ラウンジを出て、シグナスの正面口から外へ出た。
 他のスタッフが出勤してくる時間には少し早いので、人はおらず閑散としている。
 ふたりはホウキにまたがると、すぐに空へ飛び立った。

 夏の早朝に吹いてくる風は生ぬるく、海からの水分と塩気を含んでいる。
 もわり、とした空気が身体にまとわり付いて、まるで柔らかい布に包まれるみたいで気持ちがいい。
 東の方を見ると、空はだいぶ明るくなっていた。

「先輩、あの……」
「ん? なに?」

 モチコは言いかけたところで、いったん小さく深呼吸した。
 今日は、先輩に言わなくてはならないことがある。

「今日は、私を先輩の家にお持ち帰りしてください!」
「え?」

 モチコの意外な提案に、ミライアは少し驚いた声を出す。
 ふふふ、先輩を少しだけ動揺させられたようだ。
 いつもやられてばかりじゃないぜ。

「モチコが自分から言うなんて、どういう心境の変化?」

 先輩が尋ねてきた。
 気になっているみたいだ。いいぞいいぞ。
 モチコは少し得意になって答える。

「先輩は、帰ってもどうせ適当なものしか食べないでしょう」
「まあ……そうかな」
「これから私が先輩の家に行って、きちんと食べさせます」
「おお」
「たくさん食べてもらいますから」

 さらに驚いた様子のミライアを見て、モチコは満足した。
 たまにはモチコが攻めに転じることだってあるのだ。

 ……しかしそれは束の間の、儚く短い天下だった。
 ミライアが振り返って、口元でにやりと笑いながら言う。

「つまり、今日はモチコを持ち帰って、食べていいってこと?」
「ふへっ?」
「たくさん食べていいんだ」

 モチコは慌てて訂正しようとする。

「……いや、なんかちがいます!」
「うーん、どこから食べようか迷うなあ」
「なに言ってんですか! ほんとにちがいますから!」

 楽しそうに冗談を言うミライアの背中を、モチコはグーでぽこぽこ叩いておいた。

 そうこうしているうちに、ホウキはモチコの家の上空を通り過ぎ、ミライアの家へとたどり着く。
 ふたりはホウキを降りて、ミライアの部屋があるアパートの3階へと上っていった。

(後編へ続く)
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