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第3章
メガネ・オン・メガネっ娘(前編)
タワーでの仕事を終えたモチコは、ミライアの家にやってきた。
肩にかけていたトートバッグをおろして、食事の準備に取りかかる。
「モチコ、今日の荷物もずいぶん大きいね」
「はい。これを持ってきたので」
そう言って取り出したのは、やや大きめの鍋。
モチコがミライアの家に来るたびに、少しづつ調理器具が増えていく。
殺風景だったキッチンは、いまやだいぶ賑やかだ。
「今日はこの鍋で、パスタを茹でます」
「お、いいね。楽しみ」
今日のメニューはクリームパスタだ。
まずはベーコン、ほうれん草、しめじを刻んで炒める。
そこに小麦粉と牛乳を足す。
すると、とろみが出て、いい感じのクリームソースになる。
さらにチーズと、ニンニクをすりおろしたものを入れ、味をととのえる。
濃厚なクリームとニンニクのいい香りが広がった。
これでソースは完成だ。
「よし、次は麺だね」
持ってきた大きめの鍋にたっぷりお湯を沸かし、スパゲッティを茹でる。
沸騰したお湯の中でわっちゃわっちゃと揉みあっている麺たち。
その様子を眺めていると、後ろから視線を感じた。
振り返ると、あぐらをかいて床に座ったミライアが、こちらを見ている。
「私が料理をしていると、先輩はいつも見てますよね」
「ああ。モチコが料理するところを見るのが好きなんだよね」
「そ、そうですか」
見られること自体は、別に嫌では無い。
でも、ミライアの言葉がなんとなく恥ずかしいような、嬉しいような、変な感じだ。
「……まあ、別にいいですけど」
ごにょごにょと呟きながら鍋の方へ向き直す。
茹であがったパスタをクリームソースの入ったフライパンに投入して、再び火にかけた。
良い感じのとろみが出るまで煮詰まったところで完成だ。
出来上がったパスタの皿をミライアへ手渡し、モチコも床に座る。
ミライアと向かい合って顔を合わせると、いただきます、と声を揃えた。
ミライアはフォークでパスタをからめ取ると、お皿の端で器用にくるくると巻いていく。
きれいに巻かれると、それをすっと口に運んだ。
少し味わったあと、視線をモチコに向けて言う。
「おいしい。クリームパスタ、おいしい」
おいしい、2回いただきました。
気に入ってもらえたみたいだ。
そのあとも丁寧にひとくち分ずつパスタを巻き取っては、おいしそうに食べていた。
ミライアが3口目を食べるところまで見届けてから、モチコも自分のパスタを食べ始めることにする。
うん、おいしく出来てる。
ベーコンの旨味がクリームソースに溶け出していて、コクがある。
ほどよくニンニクも効いていい感じ。
味を確かめ終えてパスタの皿から顔を上げると、ミライアはもう半分以上食べ進めていた。
そこで、ミライアと目が合う。
「モチコは、私が食べてるのを、いつも見るよね」
「えっ?」
そう言われて思い返すと、確かに見ているかもしれない。
作った料理の反応が気になるのもあるが、それよりも思い当たる理由がある。
自分が作ったものを先輩が食べるのを見ていると、謎に心が満たされるのだ。
そう気づいたものの「先輩が食べてるところを見るのが好きです」とは、なんだか恥ずかしくて言えなかった。
なんて返事をしたらよいか悩んで、モジモジするだけだ。
そんなモチコを見てミライアは満足したようで、それ以上は聞いてこなかった。
「モチコのつくる食事はいつもおいしい。ごちそうさま」
「あ、はい。おそまつさまでした」
食べ終わってモチコが洗い物を始めると、ミライアはいつものように本を読み始めた。
食器を洗う水の音に、ときおり本のページをめくる音が重なる。
いつも通りの穏やかな時間だ。
だが、モチコが洗い物を終えてミライアの方を見ると、ひとつだけ、いつもと違うところがあった。
「先輩、メガネ持ってたんですね」
ミライアがメガネをかけて本を読んでいた。
べっ甲柄のメガネは、形は大きめだがフレームは細くてスマート。
ミライアによく似合っていた。
「ああ、メガネが必要な本を読む時だけね」
「メガネが必要な本……?」
その言葉に、モチコはひとつ心当たりがあった。
思わず身体を後ろにのけ反らせる。
「うっ!? もしかして、魔導書ですか……?」
「そう。でも大丈夫。危険なやつじゃないから」
「そ、それならいいですけど……」
魔導書というのは、魔法が込められた本のことだ。
よくあるのは、本を勝手に開かれないように、カギのような魔法が施されているもの。
なかには、スクロールを何枚も束にしたような、超強力な魔法を発動させるものもある。
「先輩、魔導書なんて持ってたんですね。一体いくらで買ったんですか……?」
「モチコって、いつもお金を気にするよね」
「いやいやいや! それじゃあ私がケチみたいじゃないですか。先輩の周りにやたらと高級品が多いだけです!」
「ははは。この本が高級品かは分からないけど、危険なものではないよ。モチコも読んでみる?」
「私のメガネじゃ読めないですよ」
魔導書は、文字自体が魔力で書かれていて、専用の魔導メガネがないと読むことが出来ない。
お屋敷の魔窟でも魔導書らしきものは見かけた。
でも、専用のメガネを持っていないし、どんな危険な魔法が込められているか分からないので、未だに触れられずにいたのだ。
「モチコは魔導書を読んだことないの?」
「ないですよ。魔導具店の厳重なケースに飾られているのを見たことがあるくらいです」
大金持ちになったら買ってやるぜ、と思ったりしたものだ。
ミライアは持っていた魔導書を閉じると、モチコに差し出した。
受け取ってみると、見た目よりもずしりと重く感じる。
質感から明らかに高価なものだと分かり、それがいっそう重く感じさせているのかもしれない。
いや、別にお金ばっかり気にしている訳じゃないけど。
「はい、モチコ。このメガネ使っていいよ」
(後編へ続く)
肩にかけていたトートバッグをおろして、食事の準備に取りかかる。
「モチコ、今日の荷物もずいぶん大きいね」
「はい。これを持ってきたので」
そう言って取り出したのは、やや大きめの鍋。
モチコがミライアの家に来るたびに、少しづつ調理器具が増えていく。
殺風景だったキッチンは、いまやだいぶ賑やかだ。
「今日はこの鍋で、パスタを茹でます」
「お、いいね。楽しみ」
今日のメニューはクリームパスタだ。
まずはベーコン、ほうれん草、しめじを刻んで炒める。
そこに小麦粉と牛乳を足す。
すると、とろみが出て、いい感じのクリームソースになる。
さらにチーズと、ニンニクをすりおろしたものを入れ、味をととのえる。
濃厚なクリームとニンニクのいい香りが広がった。
これでソースは完成だ。
「よし、次は麺だね」
持ってきた大きめの鍋にたっぷりお湯を沸かし、スパゲッティを茹でる。
沸騰したお湯の中でわっちゃわっちゃと揉みあっている麺たち。
その様子を眺めていると、後ろから視線を感じた。
振り返ると、あぐらをかいて床に座ったミライアが、こちらを見ている。
「私が料理をしていると、先輩はいつも見てますよね」
「ああ。モチコが料理するところを見るのが好きなんだよね」
「そ、そうですか」
見られること自体は、別に嫌では無い。
でも、ミライアの言葉がなんとなく恥ずかしいような、嬉しいような、変な感じだ。
「……まあ、別にいいですけど」
ごにょごにょと呟きながら鍋の方へ向き直す。
茹であがったパスタをクリームソースの入ったフライパンに投入して、再び火にかけた。
良い感じのとろみが出るまで煮詰まったところで完成だ。
出来上がったパスタの皿をミライアへ手渡し、モチコも床に座る。
ミライアと向かい合って顔を合わせると、いただきます、と声を揃えた。
ミライアはフォークでパスタをからめ取ると、お皿の端で器用にくるくると巻いていく。
きれいに巻かれると、それをすっと口に運んだ。
少し味わったあと、視線をモチコに向けて言う。
「おいしい。クリームパスタ、おいしい」
おいしい、2回いただきました。
気に入ってもらえたみたいだ。
そのあとも丁寧にひとくち分ずつパスタを巻き取っては、おいしそうに食べていた。
ミライアが3口目を食べるところまで見届けてから、モチコも自分のパスタを食べ始めることにする。
うん、おいしく出来てる。
ベーコンの旨味がクリームソースに溶け出していて、コクがある。
ほどよくニンニクも効いていい感じ。
味を確かめ終えてパスタの皿から顔を上げると、ミライアはもう半分以上食べ進めていた。
そこで、ミライアと目が合う。
「モチコは、私が食べてるのを、いつも見るよね」
「えっ?」
そう言われて思い返すと、確かに見ているかもしれない。
作った料理の反応が気になるのもあるが、それよりも思い当たる理由がある。
自分が作ったものを先輩が食べるのを見ていると、謎に心が満たされるのだ。
そう気づいたものの「先輩が食べてるところを見るのが好きです」とは、なんだか恥ずかしくて言えなかった。
なんて返事をしたらよいか悩んで、モジモジするだけだ。
そんなモチコを見てミライアは満足したようで、それ以上は聞いてこなかった。
「モチコのつくる食事はいつもおいしい。ごちそうさま」
「あ、はい。おそまつさまでした」
食べ終わってモチコが洗い物を始めると、ミライアはいつものように本を読み始めた。
食器を洗う水の音に、ときおり本のページをめくる音が重なる。
いつも通りの穏やかな時間だ。
だが、モチコが洗い物を終えてミライアの方を見ると、ひとつだけ、いつもと違うところがあった。
「先輩、メガネ持ってたんですね」
ミライアがメガネをかけて本を読んでいた。
べっ甲柄のメガネは、形は大きめだがフレームは細くてスマート。
ミライアによく似合っていた。
「ああ、メガネが必要な本を読む時だけね」
「メガネが必要な本……?」
その言葉に、モチコはひとつ心当たりがあった。
思わず身体を後ろにのけ反らせる。
「うっ!? もしかして、魔導書ですか……?」
「そう。でも大丈夫。危険なやつじゃないから」
「そ、それならいいですけど……」
魔導書というのは、魔法が込められた本のことだ。
よくあるのは、本を勝手に開かれないように、カギのような魔法が施されているもの。
なかには、スクロールを何枚も束にしたような、超強力な魔法を発動させるものもある。
「先輩、魔導書なんて持ってたんですね。一体いくらで買ったんですか……?」
「モチコって、いつもお金を気にするよね」
「いやいやいや! それじゃあ私がケチみたいじゃないですか。先輩の周りにやたらと高級品が多いだけです!」
「ははは。この本が高級品かは分からないけど、危険なものではないよ。モチコも読んでみる?」
「私のメガネじゃ読めないですよ」
魔導書は、文字自体が魔力で書かれていて、専用の魔導メガネがないと読むことが出来ない。
お屋敷の魔窟でも魔導書らしきものは見かけた。
でも、専用のメガネを持っていないし、どんな危険な魔法が込められているか分からないので、未だに触れられずにいたのだ。
「モチコは魔導書を読んだことないの?」
「ないですよ。魔導具店の厳重なケースに飾られているのを見たことがあるくらいです」
大金持ちになったら買ってやるぜ、と思ったりしたものだ。
ミライアは持っていた魔導書を閉じると、モチコに差し出した。
受け取ってみると、見た目よりもずしりと重く感じる。
質感から明らかに高価なものだと分かり、それがいっそう重く感じさせているのかもしれない。
いや、別にお金ばっかり気にしている訳じゃないけど。
「はい、モチコ。このメガネ使っていいよ」
(後編へ続く)
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※イラストはAIイラストを使用しています