台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
45 / 50
第3章

メガネ・オン・メガネっ娘(前編)

しおりを挟む
 タワーでの仕事を終えたモチコは、ミライアの家にやってきた。
 肩にかけていたトートバッグをおろして、食事の準備に取りかかる。

「モチコ、今日の荷物もずいぶん大きいね」
「はい。これを持ってきたので」

 そう言って取り出したのは、やや大きめの鍋。
 モチコがミライアの家に来るたびに、少しづつ調理器具が増えていく。
 殺風景だったキッチンは、いまやだいぶ賑やかだ。

「今日はこの鍋で、パスタを茹でます」
「お、いいね。楽しみ」

 今日のメニューはクリームパスタだ。

 まずはベーコン、ほうれん草、しめじを刻んで炒める。
 そこに小麦粉と牛乳を足す。
 すると、とろみが出て、いい感じのクリームソースになる。

 さらにチーズと、ニンニクをすりおろしたものを入れ、味をととのえる。
 濃厚なクリームとニンニクのいい香りが広がった。
 これでソースは完成だ。

「よし、次は麺だね」

 持ってきた大きめの鍋にたっぷりお湯を沸かし、スパゲッティを茹でる。
 沸騰したお湯の中でわっちゃわっちゃと揉みあっている麺たち。
 その様子を眺めていると、後ろから視線を感じた。

 振り返ると、あぐらをかいて床に座ったミライアが、こちらを見ている。

「私が料理をしていると、先輩はいつも見てますよね」
「ああ。モチコが料理するところを見るのが好きなんだよね」
「そ、そうですか」

 見られること自体は、別に嫌では無い。
 でも、ミライアの言葉がなんとなく恥ずかしいような、嬉しいような、変な感じだ。

「……まあ、別にいいですけど」

 ごにょごにょと呟きながら鍋の方へ向き直す。

 茹であがったパスタをクリームソースの入ったフライパンに投入して、再び火にかけた。
 良い感じのとろみが出るまで煮詰まったところで完成だ。

 出来上がったパスタの皿をミライアへ手渡し、モチコも床に座る。
 ミライアと向かい合って顔を合わせると、いただきます、と声を揃えた。

 ミライアはフォークでパスタをからめ取ると、お皿の端で器用にくるくると巻いていく。
 きれいに巻かれると、それをすっと口に運んだ。
 少し味わったあと、視線をモチコに向けて言う。

「おいしい。クリームパスタ、おいしい」

 おいしい、2回いただきました。
 気に入ってもらえたみたいだ。

 そのあとも丁寧にひとくち分ずつパスタを巻き取っては、おいしそうに食べていた。
 ミライアが3口目を食べるところまで見届けてから、モチコも自分のパスタを食べ始めることにする。

 うん、おいしく出来てる。
 ベーコンの旨味がクリームソースに溶け出していて、コクがある。
 ほどよくニンニクも効いていい感じ。

 味を確かめ終えてパスタの皿から顔を上げると、ミライアはもう半分以上食べ進めていた。
 そこで、ミライアと目が合う。

「モチコは、私が食べてるのを、いつも見るよね」
「えっ?」

 そう言われて思い返すと、確かに見ているかもしれない。
 作った料理の反応が気になるのもあるが、それよりも思い当たる理由がある。

 自分が作ったものを先輩が食べるのを見ていると、謎に心が満たされるのだ。

 そう気づいたものの「先輩が食べてるところを見るのが好きです」とは、なんだか恥ずかしくて言えなかった。
 なんて返事をしたらよいか悩んで、モジモジするだけだ。

 そんなモチコを見てミライアは満足したようで、それ以上は聞いてこなかった。

「モチコのつくる食事はいつもおいしい。ごちそうさま」
「あ、はい。おそまつさまでした」


 食べ終わってモチコが洗い物を始めると、ミライアはいつものように本を読み始めた。

 食器を洗う水の音に、ときおり本のページをめくる音が重なる。
 いつも通りの穏やかな時間だ。

 だが、モチコが洗い物を終えてミライアの方を見ると、ひとつだけ、いつもと違うところがあった。

「先輩、メガネ持ってたんですね」

 ミライアがメガネをかけて本を読んでいた。

 べっ甲柄のメガネは、形は大きめだがフレームは細くてスマート。
 ミライアによく似合っていた。

「ああ、メガネが必要な本を読む時だけね」
「メガネが必要な本……?」

 その言葉に、モチコはひとつ心当たりがあった。
 思わず身体を後ろにのけ反らせる。

「うっ!? もしかして、魔導書ですか……?」
「そう。でも大丈夫。危険なやつじゃないから」
「そ、それならいいですけど……」

 魔導書というのは、魔法が込められた本のことだ。

 よくあるのは、本を勝手に開かれないように、カギのような魔法が施されているもの。
 なかには、スクロールを何枚も束にしたような、超強力な魔法を発動させるものもある。

「先輩、魔導書なんて持ってたんですね。一体いくらで買ったんですか……?」
「モチコって、いつもお金を気にするよね」
「いやいやいや! それじゃあ私がケチみたいじゃないですか。先輩の周りにやたらと高級品が多いだけです!」
「ははは。この本が高級品かは分からないけど、危険なものではないよ。モチコも読んでみる?」
「私のメガネじゃ読めないですよ」

 魔導書は、文字自体が魔力で書かれていて、専用の魔導メガネがないと読むことが出来ない。

 お屋敷の魔窟でも魔導書らしきものは見かけた。
 でも、専用のメガネを持っていないし、どんな危険な魔法が込められているか分からないので、未だに触れられずにいたのだ。

「モチコは魔導書を読んだことないの?」
「ないですよ。魔導具店の厳重なケースに飾られているのを見たことがあるくらいです」

 大金持ちになったら買ってやるぜ、と思ったりしたものだ。

 ミライアは持っていた魔導書を閉じると、モチコに差し出した。
 受け取ってみると、見た目よりもずしりと重く感じる。

 質感から明らかに高価なものだと分かり、それがいっそう重く感じさせているのかもしれない。
 いや、別にお金ばっかり気にしている訳じゃないけど。

「はい、モチコ。このメガネ使っていいよ」

(後編へ続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...