台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
46 / 83
第3章

メガネ・オン・メガネっ娘(後編)

「はい、モチコ。このメガネ使っていいよ」

 ミライアはべっ甲柄のメガネを外すと、モチコの顔に近づけた。
 モチコの黒ぶちメガネの上に、重ねてかけようとする。

 これじゃあメガネ・オン・メガネだ。
 変だけど、ミライアのメガネには度が入っていないので、こうするしかない。

「では先輩のメガネをお借りします。……あ、名前が刻まれてますね」

 魔導メガネを通して魔導書の表紙を見ると、マナで書かれた文字が浮かび上がってきた。
 魔導書にマナで所有者の名前を刻むのは、よくあることらしい。

 そこには薄く発光する文字で『M・アシュフォード』と記されていた。

「アシュフォード……。先輩の名前ですか?」
「ん? ああ、それは私の父親の本なんだ」
「お父様の……。っていうか、先輩の名字を初めて知りました」

 そう言いながら、本を開いてみる。
 表紙にはタイトルらしきものは書かれていなかった。
 いったいこの魔導書には何が書かれているのだろう。

 どきどきしながら最初のページの1行目を確認する。
 薄い光を放つ文字が、目に飛び込んできた。

 そこには、

『牛ふんいい匂い』と記されていた。


「……はぇ?」

 思わず変な声が出た。なんだこれ。
 とりあえず続きを読んでみよう。

 2行目は『八百山やおやま連峰にいる牛。身体は翠色。ふんは虹色。なぜか良い匂い』とあった。
 さらに『分かっていても嗅ぎたい。何度も』と続く。

 意味が分からない。
 何のメッセージだろうか。実は暗号とか?

 混乱しながらも、他のページを見てみることにした。
 適当に真ん中あたりのページを開く。

 きらきらと光るマナ文字で、
『漆黒の大森林にある石碑に落書きを発見。リンゴの絵』
『だが、すぐ下に『みかん』と刻まれている。レア度、星1つ』と綴られていた。

 これもわけわからん。
 パラパラとページをめくってみたが、どこを見ても同じような謎文章だった。

 無表情ながらも、困惑して本を開いたまま固まるモチコを見て、ミライアが笑い出す。

「ふふっ。やっぱりそうなるよね」
「先輩……これは何の本なんですか……?」
「これは、なんというか……。私の父親が書いたメモをまとめた本、かな」
「メモ?」

 よく分からないことばかり書いてある変な魔導書。
 この文章を書いたのは先輩のお父様だという。

 お父様って、変な人なのでは……?
 と思ったが、流石に失礼なので口には出せずにいると、ミライアが先に口を開いた。

「父親はすこし、変な人でね」

 やっぱり変な人だったッ!
 ミライアは続ける。

「ものすごいメモマなんだ」
「メモマ?」
「日々気になったこと全てをメモに記録する。見たもの、聞いたもの、思いついたもの、とにかく記録せずにはいられないらしい」
「なるほど、メモ魔ですか」
「まるでメモに取りつかれているみたいだよ」

 その話を聞いたモチコは、まだ見ぬお父様の姿が簡単に想像できた。
 なにしろ、最速で飛ぶことに取りつかれている先輩をいつも見ているのだ。
 さすが親子、と思ったけど言わないでおく。

 そう聞いてふたたび魔導書を流し読みしてみると、確かにメモの寄せ集めのようだった。

「父親は、何か変わったものを見かけると、必ずここに記録するんだ」
「まるで、世界の変なものコレクションですね」
「そう。だから、どこかで変わったオーラを見ていれば、必ず何か書いているはず」

 ミライアのその言葉に、はっと息を呑んだ。

 先輩がこの変な魔導書を読んでいたのは、私のため。
 モチコの泡のようなオーラの謎を解明するきっかけを探しているのだ。

 あらためて部屋の隅に積まれている本の山を眺めてみた。
 空を飛ぶことに関する本、気象についての本、エムスポーツの雑誌などがたくさんある。

 しかしよく見ると、そこにオーラに関する研究書や、魔法の発動についての学術本も多く混じっていた。

 以前ミライアは、モチコが魔法を使えるようにする、と魔女の誓いを立てた。
 先輩はあの誓いを守るため、日々努力していたのだ。


「先輩……」

 モチコは何かを言おうとしたが、何と言えばいいのか思い浮かばなかった。
 ありがとうなのか、頑張ってくださいなのか、お願いしますなのか。

 強いて言うなら、うれしいです、に近いような気もする。
 魔法が使えないこの厄介な体質に、ずっとひとりで戦ってきた。

 でも今は、ひとりじゃない。
 じんわりとした温かさがモチコの心に広がっていった。

「……先輩、私もいろいろ探してみますね」

 しばらく悩んだのち、モチコが口にしたのはそれだけだった。
 ミライアは特に気にした様子もなく、また違う本を読み始める。

 モチコは言葉に出来ないこの心の温かさを大切に感じながら、ミライアが本のページをめくる音を心地よく聞いていた。
 揺れるカーテンの隙間から、台風が去った朝の強い光が差し込んでくる。

 先輩が信じてくれているのなら、私もまだあきらめない。
 いつか魔法が使える日を目指して。

 魔窟になら、何か参考になる本があるかもしれない。
 次に行ったときに探してみようと考えながら、モチコは朝日のまぶしさに目を細めていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。