台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
46 / 50
第3章

メガネ・オン・メガネっ娘(後編)

しおりを挟む
「はい、モチコ。このメガネ使っていいよ」

 ミライアはべっ甲柄のメガネを外すと、モチコの顔に近づけた。
 モチコの黒ぶちメガネの上に、重ねてかけようとする。

 これじゃあメガネ・オン・メガネだ。
 変だけど、ミライアのメガネには度が入っていないので、こうするしかない。

「では先輩のメガネをお借りします。……あ、名前が刻まれてますね」

 魔導メガネを通して魔導書の表紙を見ると、マナで書かれた文字が浮かび上がってきた。
 魔導書にマナで所有者の名前を刻むのは、よくあることらしい。

 そこには薄く発光する文字で『M・アシュフォード』と記されていた。

「アシュフォード……。先輩の名前ですか?」
「ん? ああ、それは私の父親の本なんだ」
「お父様の……。っていうか、先輩の名字を初めて知りました」

 そう言いながら、本を開いてみる。
 表紙にはタイトルらしきものは書かれていなかった。
 いったいこの魔導書には何が書かれているのだろう。

 どきどきしながら最初のページの1行目を確認する。
 薄い光を放つ文字が、目に飛び込んできた。

 そこには、

『牛ふんいい匂い』と記されていた。


「……はぇ?」

 思わず変な声が出た。なんだこれ。
 とりあえず続きを読んでみよう。

 2行目は『八百山やおやま連峰にいる牛。身体は翠色。ふんは虹色。なぜか良い匂い』とあった。
 さらに『分かっていても嗅ぎたい。何度も』と続く。

 意味が分からない。
 何のメッセージだろうか。実は暗号とか?

 混乱しながらも、他のページを見てみることにした。
 適当に真ん中あたりのページを開く。

 きらきらと光るマナ文字で、
『漆黒の大森林にある石碑に落書きを発見。リンゴの絵』
『だが、すぐ下に『みかん』と刻まれている。レア度、星1つ』と綴られていた。

 これもわけわからん。
 パラパラとページをめくってみたが、どこを見ても同じような謎文章だった。

 無表情ながらも、困惑して本を開いたまま固まるモチコを見て、ミライアが笑い出す。

「ふふっ。やっぱりそうなるよね」
「先輩……これは何の本なんですか……?」
「これは、なんというか……。私の父親が書いたメモをまとめた本、かな」
「メモ?」

 よく分からないことばかり書いてある変な魔導書。
 この文章を書いたのは先輩のお父様だという。

 お父様って、変な人なのでは……?
 と思ったが、流石に失礼なので口には出せずにいると、ミライアが先に口を開いた。

「父親はすこし、変な人でね」

 やっぱり変な人だったッ!
 ミライアは続ける。

「ものすごいメモマなんだ」
「メモマ?」
「日々気になったこと全てをメモに記録する。見たもの、聞いたもの、思いついたもの、とにかく記録せずにはいられないらしい」
「なるほど、メモ魔ですか」
「まるでメモに取りつかれているみたいだよ」

 その話を聞いたモチコは、まだ見ぬお父様の姿が簡単に想像できた。
 なにしろ、最速で飛ぶことに取りつかれている先輩をいつも見ているのだ。
 さすが親子、と思ったけど言わないでおく。

 そう聞いてふたたび魔導書を流し読みしてみると、確かにメモの寄せ集めのようだった。

「父親は、何か変わったものを見かけると、必ずここに記録するんだ」
「まるで、世界の変なものコレクションですね」
「そう。だから、どこかで変わったオーラを見ていれば、必ず何か書いているはず」

 ミライアのその言葉に、はっと息を呑んだ。

 先輩がこの変な魔導書を読んでいたのは、私のため。
 モチコの泡のようなオーラの謎を解明するきっかけを探しているのだ。

 あらためて部屋の隅に積まれている本の山を眺めてみた。
 空を飛ぶことに関する本、気象についての本、エムスポーツの雑誌などがたくさんある。

 しかしよく見ると、そこにオーラに関する研究書や、魔法の発動についての学術本も多く混じっていた。

 以前ミライアは、モチコが魔法を使えるようにする、と魔女の誓いを立てた。
 先輩はあの誓いを守るため、日々努力していたのだ。


「先輩……」

 モチコは何かを言おうとしたが、何と言えばいいのか思い浮かばなかった。
 ありがとうなのか、頑張ってくださいなのか、お願いしますなのか。

 強いて言うなら、うれしいです、に近いような気もする。
 魔法が使えないこの厄介な体質に、ずっとひとりで戦ってきた。

 でも今は、ひとりじゃない。
 じんわりとした温かさがモチコの心に広がっていった。

「……先輩、私もいろいろ探してみますね」

 しばらく悩んだのち、モチコが口にしたのはそれだけだった。
 ミライアは特に気にした様子もなく、また違う本を読み始める。

 モチコは言葉に出来ないこの心の温かさを大切に感じながら、ミライアが本のページをめくる音を心地よく聞いていた。
 揺れるカーテンの隙間から、台風が去った朝の強い光が差し込んでくる。

 先輩が信じてくれているのなら、私もまだあきらめない。
 いつか魔法が使える日を目指して。

 魔窟になら、何か参考になる本があるかもしれない。
 次に行ったときに探してみようと考えながら、モチコは朝日のまぶしさに目を細めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...