49 / 50
第3章
私のスペシャル(前編)
しおりを挟む
4人のアルビレオたちが、フライトを開始した。
それぞれの配置へと分かれて飛んでいく。
朝番の任務は4人体制だ。
2人が台風の見回りで、残り2人が船の誘導を担当する。
船はほとんどが小型の漁船で、大きい船は滅多に通らない。
沿岸で漁をする船を、空からうまく誘導するのがミッションだった。
ピコットとチャンチャルが、ホウキの上から船の位置を確認し始める。
「船同士がぶつからないように、空から誘導するんですね」
モチコがつぶやくと、ピコットが補足で説明してくれる。
「ぶつからない事も大事だねっ。でも、もっと重要なのは、魔物を避けることなんだよっ」
「魔物を?」
ピコットと話していると、少し離れて飛んでいたチャンチャルが近づいてきて言う。
「そう、魔物! 大きい海の魔物は、空からじゃないと見えないんだ! クラーケンとか!」
「そっか……。確かに大きい魔物は避けないと危険だね」
漁船がクラーケンに狙われたら、ひとたまりも無いだろう。
小型の魔物なら、釣り上げて食用に出来るものもある。
だが、海中にいる大型の魔物は、出会わないように避けて進むしかない。
そのために、空から魔物の位置を確認できる魔女が活躍するのだという。
「ほら! モチコちゃん、あそこにクラーケンがいるよ!」
チャンチャルが指をさしたあたりの海面を見てみる。
と、そこだけ海の色が違っていた。
大きくて濃い染みのようだ。
あの海面の下にクラーケンがいるのだろう。
「あ! やば!」
チャンチャルはふいにそう言うと、ホウキの上で立ち上がった。
それを見たモチコは、ギョッとして言葉を失う。
……ちーちゃんっ! ここ空の上!!
しかも下にはクラーケンが!!
当然ながら、飛んでいる最中にホウキの上に立つ魔女など普通はいない。
そんなことをすれば落ちるからだ。
あまりに恐ろしい光景に、モチコは思わず目をつぶりそうになる。
驚きと焦りで心臓がバクバク鳴る。
しかしチャンチャルは、そんなモチコの心配を気にする様子もない。
ホウキの上で両手を広げて、やじろべえみたいな恰好になった。
さらに身体をそのまま前へ傾けて、ホウキごと前傾する。
「ああっ! 落ちる!!」
慌てたモチコが叫ぶのと同時に、チャンチャルのホウキが急激に落下していった。
すごいスピードで海面へ一直線に向かっていく。
「ピコニャーさん! 大変です! 助けないと!!」
「んにゃ? 大丈夫だよっ。モチコちゃん、よく見てみてっ」
大慌てのモチコとは対照的に、ピコットは落ち着いてそう答えた。
あらためてチャンチャルを見る。
と、海面すれすれまで落下したところで、ホウキが急にⅤの字を描いて上昇した。
そのあとも繰り返し、落下と上昇を繰り返す。
まるで波の上をサーフィンしているかのようだった。
「ちーちゃんはね、あの飛び方が一番速く飛べるんだよっ」
「えっ!? あれ、飛んでるんですか!?」
しばらく見守ってみると、確かにホウキをコントロールして飛んでいるようだった。
チャンチャルは最短距離で漁船の前にたどり着くと、大きなオレンジ色の旗を取り出して広げる。
ホウキの上に立ったまま、片手で旗を掲げ、もう片方の手で何かジェスチャーをしていた。
「あれは、船に手信号でメッセージを送ってるところだねっ」
「手信号?」
「あの漁船がクラーケンのいる方向へ進んでいたから、別の方向へ誘導してるんだよっ」
「おお。なるほど」
その鮮やかな動きに感心していると、漁船はポポッと汽笛を鳴らしてから、左に旋回していった。
船が安全な方向へ舵を切ったのを見届けると、チャンチャルはふたたびホウキを傾けて、ピコットたちがいる高さまで上昇してきた。
ぴょん、ぴょん、ぴょんと、まるで空中にある透明な波に乗っているかのように、大小の弧を描きながら登ってくる。
「ただいま!」
「ちーちゃん、すごいね! 鮮やかな飛び方で感動しちゃった」
モチコは率直な感想を伝える。
チャンチャルは、にしし、と無邪気に笑って喜んでいた。
そのあとも、しばらく同じように漁船を誘導するところを見学した。
途中に暇な時間もあったので、3人で色々とおしゃべりしたりもする。
ほとんどの漁船は朝から漁に出て、お昼前には帰ってくる。
そのため、船の誘導は午前中が最も忙しいそうだ。
午後は台風がなければ結構のんびりしているとか。
ちなみに、夜は暗いため、上空からでも海中の大きな魔物を見つけることができない。
だから、どんな船でもよほどの理由がない限り、夜のあいだは海へ出ないそうだ。
みんなでそんな話をしているうちに、あっという間に夕方になった。
(中編へ続く)
それぞれの配置へと分かれて飛んでいく。
朝番の任務は4人体制だ。
2人が台風の見回りで、残り2人が船の誘導を担当する。
船はほとんどが小型の漁船で、大きい船は滅多に通らない。
沿岸で漁をする船を、空からうまく誘導するのがミッションだった。
ピコットとチャンチャルが、ホウキの上から船の位置を確認し始める。
「船同士がぶつからないように、空から誘導するんですね」
モチコがつぶやくと、ピコットが補足で説明してくれる。
「ぶつからない事も大事だねっ。でも、もっと重要なのは、魔物を避けることなんだよっ」
「魔物を?」
ピコットと話していると、少し離れて飛んでいたチャンチャルが近づいてきて言う。
「そう、魔物! 大きい海の魔物は、空からじゃないと見えないんだ! クラーケンとか!」
「そっか……。確かに大きい魔物は避けないと危険だね」
漁船がクラーケンに狙われたら、ひとたまりも無いだろう。
小型の魔物なら、釣り上げて食用に出来るものもある。
だが、海中にいる大型の魔物は、出会わないように避けて進むしかない。
そのために、空から魔物の位置を確認できる魔女が活躍するのだという。
「ほら! モチコちゃん、あそこにクラーケンがいるよ!」
チャンチャルが指をさしたあたりの海面を見てみる。
と、そこだけ海の色が違っていた。
大きくて濃い染みのようだ。
あの海面の下にクラーケンがいるのだろう。
「あ! やば!」
チャンチャルはふいにそう言うと、ホウキの上で立ち上がった。
それを見たモチコは、ギョッとして言葉を失う。
……ちーちゃんっ! ここ空の上!!
しかも下にはクラーケンが!!
当然ながら、飛んでいる最中にホウキの上に立つ魔女など普通はいない。
そんなことをすれば落ちるからだ。
あまりに恐ろしい光景に、モチコは思わず目をつぶりそうになる。
驚きと焦りで心臓がバクバク鳴る。
しかしチャンチャルは、そんなモチコの心配を気にする様子もない。
ホウキの上で両手を広げて、やじろべえみたいな恰好になった。
さらに身体をそのまま前へ傾けて、ホウキごと前傾する。
「ああっ! 落ちる!!」
慌てたモチコが叫ぶのと同時に、チャンチャルのホウキが急激に落下していった。
すごいスピードで海面へ一直線に向かっていく。
「ピコニャーさん! 大変です! 助けないと!!」
「んにゃ? 大丈夫だよっ。モチコちゃん、よく見てみてっ」
大慌てのモチコとは対照的に、ピコットは落ち着いてそう答えた。
あらためてチャンチャルを見る。
と、海面すれすれまで落下したところで、ホウキが急にⅤの字を描いて上昇した。
そのあとも繰り返し、落下と上昇を繰り返す。
まるで波の上をサーフィンしているかのようだった。
「ちーちゃんはね、あの飛び方が一番速く飛べるんだよっ」
「えっ!? あれ、飛んでるんですか!?」
しばらく見守ってみると、確かにホウキをコントロールして飛んでいるようだった。
チャンチャルは最短距離で漁船の前にたどり着くと、大きなオレンジ色の旗を取り出して広げる。
ホウキの上に立ったまま、片手で旗を掲げ、もう片方の手で何かジェスチャーをしていた。
「あれは、船に手信号でメッセージを送ってるところだねっ」
「手信号?」
「あの漁船がクラーケンのいる方向へ進んでいたから、別の方向へ誘導してるんだよっ」
「おお。なるほど」
その鮮やかな動きに感心していると、漁船はポポッと汽笛を鳴らしてから、左に旋回していった。
船が安全な方向へ舵を切ったのを見届けると、チャンチャルはふたたびホウキを傾けて、ピコットたちがいる高さまで上昇してきた。
ぴょん、ぴょん、ぴょんと、まるで空中にある透明な波に乗っているかのように、大小の弧を描きながら登ってくる。
「ただいま!」
「ちーちゃん、すごいね! 鮮やかな飛び方で感動しちゃった」
モチコは率直な感想を伝える。
チャンチャルは、にしし、と無邪気に笑って喜んでいた。
そのあとも、しばらく同じように漁船を誘導するところを見学した。
途中に暇な時間もあったので、3人で色々とおしゃべりしたりもする。
ほとんどの漁船は朝から漁に出て、お昼前には帰ってくる。
そのため、船の誘導は午前中が最も忙しいそうだ。
午後は台風がなければ結構のんびりしているとか。
ちなみに、夜は暗いため、上空からでも海中の大きな魔物を見つけることができない。
だから、どんな船でもよほどの理由がない限り、夜のあいだは海へ出ないそうだ。
みんなでそんな話をしているうちに、あっという間に夕方になった。
(中編へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】
里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届くはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前にいる。
奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。
近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。
憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる