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第3章
ひざひざひざひざひざひざひざひざひざひざ(後編)
――ランランは、闇属性の魔女だ。
闇魔法士はいわゆる激レアで、かなり少ない光魔法士よりも、さらにわずかしかいない。
モチコが通っていた頃の魔法学校には、ランランひとりしかいなかった。
魔法というのは属性ごとに得意な分野が異なる。
風属性は飛行や運搬、土属性は農業や建設、光属性は通信や浄化といったぐあいに。
闇属性は、催眠や拷問に使われると言われている。
ただ、世間にほとんど闇魔法士が存在しないので、あまり情報がない。
それこそ真実は闇に包まれていた。
伯爵家の貴族が住む、街の政治の中心とも言える領主のお屋敷。
そこで闇魔法士として雇われているランラン。
彼女がここで具体的にどんな仕事をしているのかは知らない。
もし聞いたとしても、また変なことを言ってはぐらかされるだろうし、モチコは聞かないと決めていた。
ふいに、膝の上のランランがもぞりと動いた。
「あ、ごめん。おでこ撫でるの、くすぐったかった?」
「ぃんや。ぃぃ感じですよ。モチコぉ、最近の調子はどぅ?」
尋ねられたモチコは、最近あった出来事を思い出しながら話す。
魔窟に入ったことや奥様とお会いした話をしつつ、大半はシグナスでのエピソードが中心だった。
先輩の話、リサさんやおシズさんの話、マルシャやチャンチャルの話。
今度みんなでおでかけする予定のこととか。
話していると、ランランは膝の上で身体を回転させ、ぐるりとモチコの反対側を向いた。
「うぃうぃ。モチコが楽しそうでよきよき」
「そうかな。まあ確かに楽しくやれてはいるかも」
「でもぉ……」
「ん? どした?」
珍しく歯切れの悪い言い方をしたあと、一息おいてランランは続けた。
「ランラン氏もかわぃがってくれなぃと、死にます」
「いや死ぬなよ」
「えぇぇ……。じゃぁ……ころします?」
「なにその疑問形!? 怖すぎだろ!」
モチコは手でぱしぱしとランランのこめかみのあたりを叩いておいた。
もちろん体調に影響しない程度に、軽くだけど。
と、その直後。
突然ぞわりとした感覚が身体を襲う。
「ひぁっ!?」
モチコは驚いて声をあげた。
ランランが横になったまま、モチコの膝を手で撫でているのだ。
「モチコのひざは、もっちもち?」
「いや、ひざは弾力ないやろ」
「ひざって10回言ってみてくださぃ」
ひざを撫でながらランランが言う。
ずいぶん古典的なネタだな。仕方ない、つきあってやるか。
モチコはひざひざひざ……と、10回繰り返し口に出した。
木々に囲まれたベンチの上でつぶやいた言葉は、夕暮れのセミの声に溶けて消えていく。
きっちり10回、言い終えたぞ。
さあ、問題はなんだっ!?
「ご協力ぁりがとうござぃました」
「うおぉぉぉぉい! なんだそりゃあ!」
10回クイズじゃ無いのかよ!
思わずマルシャみたいなツッコミをしてしまった。
ランランが再びもぞもぞと回転し、今度は膝の上でモチコの方を向く。
桃色の大きな瞳と目が合った。
顔色も良くなってきている。たいぶ回復したみたいだ。
「モチコぉ。ランラン氏と初めて会った時のこと、覚えてぃます?」
「初めて会った時?」
モチコはしばし考えてみた。
魔法学校時代、同じ教室にいたのは覚えている。
なにがきっかけで話すようになったんだっけ?
うーん、よく覚えてないな。
覚えてないって答えたら、ランランはがっかりするだろうか。
「ランラン氏は、ぃっさぃ覚えておりません」
「覚えてないのかよ!」
思わずずっこけた。
何か出会いのエピソードがありそうな流れだっただろ!
「でもぉ、今日モチコにおでこを撫でられたことは、ずっと覚えてぃますよ」
「おぉ、いいこと言うじゃん」
「ひぐらしのなく頃に、ランラン氏はぃつも思ぃ出すでぁろぅ」
元気になってきたとは言え、いつもよりは口数の少ないランランは、大きな桃色の瞳もどこかぼんやりとしていた。
おとなしくしてればかわいいやつじゃないか。うりうり。
夕暮れのひぐらしの声に包まれながら、モチコはもう少しだけ、ランランのおでこを撫でてあげることにしたのだった。
そのあと、暗くなってきたので、甘えるランランを連れて魔導トロッコで帰る。
ランランは、モチコよりも手前の駅で降りて行った。
そういえばランランの家には行ったことないな。
そう思ってどこに住んでるのか聞いたら「ほら穴」と返ってきた。
ランランはいつも、本気なのか冗談なのか分からない。
いや、ほら穴はさすがに嘘だと思うけど。
闇魔法士はいわゆる激レアで、かなり少ない光魔法士よりも、さらにわずかしかいない。
モチコが通っていた頃の魔法学校には、ランランひとりしかいなかった。
魔法というのは属性ごとに得意な分野が異なる。
風属性は飛行や運搬、土属性は農業や建設、光属性は通信や浄化といったぐあいに。
闇属性は、催眠や拷問に使われると言われている。
ただ、世間にほとんど闇魔法士が存在しないので、あまり情報がない。
それこそ真実は闇に包まれていた。
伯爵家の貴族が住む、街の政治の中心とも言える領主のお屋敷。
そこで闇魔法士として雇われているランラン。
彼女がここで具体的にどんな仕事をしているのかは知らない。
もし聞いたとしても、また変なことを言ってはぐらかされるだろうし、モチコは聞かないと決めていた。
ふいに、膝の上のランランがもぞりと動いた。
「あ、ごめん。おでこ撫でるの、くすぐったかった?」
「ぃんや。ぃぃ感じですよ。モチコぉ、最近の調子はどぅ?」
尋ねられたモチコは、最近あった出来事を思い出しながら話す。
魔窟に入ったことや奥様とお会いした話をしつつ、大半はシグナスでのエピソードが中心だった。
先輩の話、リサさんやおシズさんの話、マルシャやチャンチャルの話。
今度みんなでおでかけする予定のこととか。
話していると、ランランは膝の上で身体を回転させ、ぐるりとモチコの反対側を向いた。
「うぃうぃ。モチコが楽しそうでよきよき」
「そうかな。まあ確かに楽しくやれてはいるかも」
「でもぉ……」
「ん? どした?」
珍しく歯切れの悪い言い方をしたあと、一息おいてランランは続けた。
「ランラン氏もかわぃがってくれなぃと、死にます」
「いや死ぬなよ」
「えぇぇ……。じゃぁ……ころします?」
「なにその疑問形!? 怖すぎだろ!」
モチコは手でぱしぱしとランランのこめかみのあたりを叩いておいた。
もちろん体調に影響しない程度に、軽くだけど。
と、その直後。
突然ぞわりとした感覚が身体を襲う。
「ひぁっ!?」
モチコは驚いて声をあげた。
ランランが横になったまま、モチコの膝を手で撫でているのだ。
「モチコのひざは、もっちもち?」
「いや、ひざは弾力ないやろ」
「ひざって10回言ってみてくださぃ」
ひざを撫でながらランランが言う。
ずいぶん古典的なネタだな。仕方ない、つきあってやるか。
モチコはひざひざひざ……と、10回繰り返し口に出した。
木々に囲まれたベンチの上でつぶやいた言葉は、夕暮れのセミの声に溶けて消えていく。
きっちり10回、言い終えたぞ。
さあ、問題はなんだっ!?
「ご協力ぁりがとうござぃました」
「うおぉぉぉぉい! なんだそりゃあ!」
10回クイズじゃ無いのかよ!
思わずマルシャみたいなツッコミをしてしまった。
ランランが再びもぞもぞと回転し、今度は膝の上でモチコの方を向く。
桃色の大きな瞳と目が合った。
顔色も良くなってきている。たいぶ回復したみたいだ。
「モチコぉ。ランラン氏と初めて会った時のこと、覚えてぃます?」
「初めて会った時?」
モチコはしばし考えてみた。
魔法学校時代、同じ教室にいたのは覚えている。
なにがきっかけで話すようになったんだっけ?
うーん、よく覚えてないな。
覚えてないって答えたら、ランランはがっかりするだろうか。
「ランラン氏は、ぃっさぃ覚えておりません」
「覚えてないのかよ!」
思わずずっこけた。
何か出会いのエピソードがありそうな流れだっただろ!
「でもぉ、今日モチコにおでこを撫でられたことは、ずっと覚えてぃますよ」
「おぉ、いいこと言うじゃん」
「ひぐらしのなく頃に、ランラン氏はぃつも思ぃ出すでぁろぅ」
元気になってきたとは言え、いつもよりは口数の少ないランランは、大きな桃色の瞳もどこかぼんやりとしていた。
おとなしくしてればかわいいやつじゃないか。うりうり。
夕暮れのひぐらしの声に包まれながら、モチコはもう少しだけ、ランランのおでこを撫でてあげることにしたのだった。
そのあと、暗くなってきたので、甘えるランランを連れて魔導トロッコで帰る。
ランランは、モチコよりも手前の駅で降りて行った。
そういえばランランの家には行ったことないな。
そう思ってどこに住んでるのか聞いたら「ほら穴」と返ってきた。
ランランはいつも、本気なのか冗談なのか分からない。
いや、ほら穴はさすがに嘘だと思うけど。
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