55 / 83
第3章
かしましガールズ買い出し紀行(前編)
「お、タワーが見えた。そろそろだね」
魔導トロッコに揺られながら、モチコはつぶやく。
今日はマルシャ、チャンチャルと3人でお出かけする日だ。
灯台《タワー》の最寄り駅のあたりの地域は、中心街と呼ばれている。
そこは、この街でいちばん大きい商業地区になっていた。
中心街でトロッコを降り、駅の出口へと向かう。
駅前で待ち合わせの予定だった。
「わ、ふたりとも、早い」
待ち合わせの時間より少し早めに着いたのだが、すでにチャンチャルとマルシャがいた。
「おはよ! モチコちゃん! 楽しみすぎて早く来ちゃった!」
「白おかっぱが遅れた訳じゃないんだから、気にしなくていいわよ」
今日はみんなシグナスの制服を来ていないので、私服だった。
モチコは白いブラウスに水色のロングスカート。
日避けに、水色のリボンが付いた小ぶりのストローハットをかぶってきた。
「モチコちゃんの私服、かわいいね!」
「ちーちゃんの服も、すごく似合っていてかわいいよ」
チャンチャルは淡いグリーンの半袖Tシャツに、グレーのドルフィンパンツ。
足には緑色のリボンがついた、かわいいサンダルを履いていた。
「マルシャの服は、おしゃれ。カッコいい」
「ありがと」
マルシャは黒のブーツに、黒い網タイツ、黒いショート丈のプリーツスカートに、形が良い黒の長袖シャツ。
さらに黒いネクタイに、ダークグレーのサングラスと、全身黒ずくめだった。
そして、いつものタマネギの芽みたいな短いツインテールが……無い。
今日は髪を結んでいないのだ。
全身黒のコーディネイトに、赤い瞳と髪がよく映える。
背が小さいマルシャはいつも可愛く見られがちだが、今日はお洒落でカッコ良かった。
わいのわいのとお互いに褒め合ったあと、さっそく3人でお店めぐりを始める。
午前中は適当にお店を見て、ランチを食べたあとで、午後からお目当ての本屋に行く計画だ。
雑貨屋の前を眺めたりしながら商店街を歩く。
まずは、ボタンとレースを売っているお店に入ることにした。
店の中には、ところ狭しと小箱が積まれている。
それは小さいお弁当箱くらいの大きさで、中にはボタンが入っているようだ。
それぞれの箱のおもてには、サンプル用のボタンが貼り付けてあり、きらきらと光っていた。
店中に積まれた小箱のうえで、色とりどりのボタンが輝いている。
さながら、宝石を散りばめたようだ。
「わー! このボタン、かわいい! マルシャちゃんは、こっちのまっ黒のやつにするといいよ!」
「黒しか着ない訳じゃないわよぉぉぉぉ!」
ふたりがきゃっきゃと盛り上がっている横で、モチコはレースの入った引き出しを開けてみる。
中から、手で触れたら溶けてしまいそうなほど、繊細なレースがあらわれた。
「おぉぉ……。もうこれは芸術作品だ……」
重ねるほど華やかになるのに、ひとつひとつを見れば静かに透けている。
優雅でありながら、どこか儚げなその佇まい。
繊細で美しい網目をじっと見ていると、なぜか生き物の細胞のいちばん奥をのぞき見ているような、深遠な気持ちになる。
ほお、と感嘆のため息が漏れた。
そんなレースの棚が、天井まで続く。
めくるめく世界に、思わずうっとりしてしまう。
仕事として魔法を使う職業の人は、魔法士と呼ばれる。
魔法士は、黒に近い色の服を着なくてはならないと、王国魔導法で決まっていた。
黒い服だと、オーラを練ったときに、色が見えやすいからだ。
オーラの色が見えれば、魔法を発動しようとしていることが周囲に分かる。
オーラを隠して魔法を使おうとする人間は、犯罪者か暗殺者くらいしかいない。
黒い服はどうしても地味になりがちだ。
だから、おしゃれは服の内側にあるボタンやレースで楽しむのが、魔女たちのあいだでの定番だった。
ボタンとレースで盛り上がった3人は、わりと長い時間をそのお店で過ごした。
そのあと、各自が気に入ったものを購入してから、店を出る。
お昼まではまだ時間があるので、もう少し見てまわることにした。
「この店、見てもいいかしら?」
マルシャがそう言って入っていったのは、女性用の下着のお店だった。
「うおう……。なんか、すごいね……」
モチコはマルシャの後ろにくっついて、ドキドキしながら店に入っていく。
下着の店だからという訳ではなく、明らかにちょっとお高い店だったからだ。
レースをふんだんに使った豪華な装飾が施されたものや、セクシーなランジェリーとかもある。
「うわー! これかわいい! こっちも! モチコちゃん、見て見て!」
ちーちゃんはノリノリだ。
あっちこっちでかわいい下着を見つけては、Tシャツの上から身体に当ててみたりしている。
なんか結構攻めてるやつもあるけど。
一般的には、瞳と同じ色の下着をつけるのがおしゃれだとされている。
そういえば先輩の下着はどうなんだろ。
前に先輩の家でちらっと見たときは、先輩の瞳とは違う色だったけど。
モチコは近くにあった、高そうな下着を手に取ってみた。
華やかな装飾が施された赤い下着は、可愛いというよりは品があって美しい感じ。
先輩なら似合いそうだ。
「モチコちゃん! そんなにジッと下着を見ながら、なに考えてるのかなー?」
にしし、と笑いながらチャンチャルが言う。
一瞬、先輩のことを考えていたのがバレたかと思ってドキッとした。
無表情だからたぶん分からないはず。
でも、ちーちゃんの野生の勘はするどいからな……。
モチコの答えを特に聞くこともせず、チャンチャルはマルシャの方へぴょんぴょんと楽しそうに跳ねていった。
そちらを見ると、マルシャがやたら真剣な表情で下着を吟味している。
「色はこっちか? ……うーん、でも形はこっちか?」
マルシャの手には、左右に赤と黒の下着がそれぞれ握られていた。
どちらも可愛いデザインだ。
「マルシャちゃん真剣だね! 誰か可愛い下着を見せたい人でもいたりして!」
(後編へ続く)
魔導トロッコに揺られながら、モチコはつぶやく。
今日はマルシャ、チャンチャルと3人でお出かけする日だ。
灯台《タワー》の最寄り駅のあたりの地域は、中心街と呼ばれている。
そこは、この街でいちばん大きい商業地区になっていた。
中心街でトロッコを降り、駅の出口へと向かう。
駅前で待ち合わせの予定だった。
「わ、ふたりとも、早い」
待ち合わせの時間より少し早めに着いたのだが、すでにチャンチャルとマルシャがいた。
「おはよ! モチコちゃん! 楽しみすぎて早く来ちゃった!」
「白おかっぱが遅れた訳じゃないんだから、気にしなくていいわよ」
今日はみんなシグナスの制服を来ていないので、私服だった。
モチコは白いブラウスに水色のロングスカート。
日避けに、水色のリボンが付いた小ぶりのストローハットをかぶってきた。
「モチコちゃんの私服、かわいいね!」
「ちーちゃんの服も、すごく似合っていてかわいいよ」
チャンチャルは淡いグリーンの半袖Tシャツに、グレーのドルフィンパンツ。
足には緑色のリボンがついた、かわいいサンダルを履いていた。
「マルシャの服は、おしゃれ。カッコいい」
「ありがと」
マルシャは黒のブーツに、黒い網タイツ、黒いショート丈のプリーツスカートに、形が良い黒の長袖シャツ。
さらに黒いネクタイに、ダークグレーのサングラスと、全身黒ずくめだった。
そして、いつものタマネギの芽みたいな短いツインテールが……無い。
今日は髪を結んでいないのだ。
全身黒のコーディネイトに、赤い瞳と髪がよく映える。
背が小さいマルシャはいつも可愛く見られがちだが、今日はお洒落でカッコ良かった。
わいのわいのとお互いに褒め合ったあと、さっそく3人でお店めぐりを始める。
午前中は適当にお店を見て、ランチを食べたあとで、午後からお目当ての本屋に行く計画だ。
雑貨屋の前を眺めたりしながら商店街を歩く。
まずは、ボタンとレースを売っているお店に入ることにした。
店の中には、ところ狭しと小箱が積まれている。
それは小さいお弁当箱くらいの大きさで、中にはボタンが入っているようだ。
それぞれの箱のおもてには、サンプル用のボタンが貼り付けてあり、きらきらと光っていた。
店中に積まれた小箱のうえで、色とりどりのボタンが輝いている。
さながら、宝石を散りばめたようだ。
「わー! このボタン、かわいい! マルシャちゃんは、こっちのまっ黒のやつにするといいよ!」
「黒しか着ない訳じゃないわよぉぉぉぉ!」
ふたりがきゃっきゃと盛り上がっている横で、モチコはレースの入った引き出しを開けてみる。
中から、手で触れたら溶けてしまいそうなほど、繊細なレースがあらわれた。
「おぉぉ……。もうこれは芸術作品だ……」
重ねるほど華やかになるのに、ひとつひとつを見れば静かに透けている。
優雅でありながら、どこか儚げなその佇まい。
繊細で美しい網目をじっと見ていると、なぜか生き物の細胞のいちばん奥をのぞき見ているような、深遠な気持ちになる。
ほお、と感嘆のため息が漏れた。
そんなレースの棚が、天井まで続く。
めくるめく世界に、思わずうっとりしてしまう。
仕事として魔法を使う職業の人は、魔法士と呼ばれる。
魔法士は、黒に近い色の服を着なくてはならないと、王国魔導法で決まっていた。
黒い服だと、オーラを練ったときに、色が見えやすいからだ。
オーラの色が見えれば、魔法を発動しようとしていることが周囲に分かる。
オーラを隠して魔法を使おうとする人間は、犯罪者か暗殺者くらいしかいない。
黒い服はどうしても地味になりがちだ。
だから、おしゃれは服の内側にあるボタンやレースで楽しむのが、魔女たちのあいだでの定番だった。
ボタンとレースで盛り上がった3人は、わりと長い時間をそのお店で過ごした。
そのあと、各自が気に入ったものを購入してから、店を出る。
お昼まではまだ時間があるので、もう少し見てまわることにした。
「この店、見てもいいかしら?」
マルシャがそう言って入っていったのは、女性用の下着のお店だった。
「うおう……。なんか、すごいね……」
モチコはマルシャの後ろにくっついて、ドキドキしながら店に入っていく。
下着の店だからという訳ではなく、明らかにちょっとお高い店だったからだ。
レースをふんだんに使った豪華な装飾が施されたものや、セクシーなランジェリーとかもある。
「うわー! これかわいい! こっちも! モチコちゃん、見て見て!」
ちーちゃんはノリノリだ。
あっちこっちでかわいい下着を見つけては、Tシャツの上から身体に当ててみたりしている。
なんか結構攻めてるやつもあるけど。
一般的には、瞳と同じ色の下着をつけるのがおしゃれだとされている。
そういえば先輩の下着はどうなんだろ。
前に先輩の家でちらっと見たときは、先輩の瞳とは違う色だったけど。
モチコは近くにあった、高そうな下着を手に取ってみた。
華やかな装飾が施された赤い下着は、可愛いというよりは品があって美しい感じ。
先輩なら似合いそうだ。
「モチコちゃん! そんなにジッと下着を見ながら、なに考えてるのかなー?」
にしし、と笑いながらチャンチャルが言う。
一瞬、先輩のことを考えていたのがバレたかと思ってドキッとした。
無表情だからたぶん分からないはず。
でも、ちーちゃんの野生の勘はするどいからな……。
モチコの答えを特に聞くこともせず、チャンチャルはマルシャの方へぴょんぴょんと楽しそうに跳ねていった。
そちらを見ると、マルシャがやたら真剣な表情で下着を吟味している。
「色はこっちか? ……うーん、でも形はこっちか?」
マルシャの手には、左右に赤と黒の下着がそれぞれ握られていた。
どちらも可愛いデザインだ。
「マルシャちゃん真剣だね! 誰か可愛い下着を見せたい人でもいたりして!」
(後編へ続く)
あなたにおすすめの小説
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。