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第3章
秘密の宝石は親愛の証(中編)
本屋を出ると、魔法学校の制服を着た女学生たちが街を歩いていた。
ちょうど学校の帰りだろうか。
モチコは学生だった頃を思い出す。
あのときは、一緒におでかけする友達なんていなかったな。
ランランは友達だけど、やつは全然ショッピングなんていかないし。
今日こうして、ともに過ごせる仲間がいることが、なんてありがたいことか。
これも元をたどれば、先輩が相方に選んでくれたおかげだ。
「先輩には、感謝してもしきれないな……」
モチコはつぶやく。
と、どこからか呼びかける声が聞こえた。
どうやら、街を歩いていた女学生たちから声をかけられたらしい。
女学生たちは、マルシャとチャンチャルに話があるようだった。
この街にある魔法学校の生徒たちにとって、シグナスは憧れの就職先のひとつだ。
まして、アルビレオとなれば花形。
現役のアルビレオとして活躍するマルシャやチャンチャルの顔は、学生たちにも知られていた。
女学生たちは憧れのアルビレオを見つけて、思わず声をかけたようだ。
お仕事は大変ですか、とか。
応援してます、とか。話が盛り上がっている。
新入りのモチコはまだ認知されていないようで、会話に参加できず端の方でぼんやりとしていた。
特に悲しいわけでは無いが、手持ち無沙汰だ。
仕方なくまわりを眺めていると、別の女学生たちが近くのお店から出てきたのに気づく。
「お、何のお店だろ?」
女学生たちが、とても楽しそうにきゃあきゃあ言いながら出てきたので、ちょっと気になった。
外に看板がないうえに、中が暗くて見えないので、何のお店か分からない。
試しに入ってみよう。
足を踏み入れると、薄暗い店内に、ちらちらと輝く光のつぶつぶが見えた。
「わっ、すごい!」
それは、たくさんの鉱石たちの輝きだった。
さまざまな石がところ狭しと並べられている。
あえて店内を暗くして、魔導ランプの光を当てることで、鉱石をまるで宝石のように輝かせているのだ。
「鉱石のアクセサリーのお店だ」
ガラスケースの中には高価な魔導鉱石も売られていたが、テーブルには安価なガラス玉なんかもあった。
女学生たちでも買える値段のものもあるようだ。
「……な、な、なにかお探し、でしょうか……?」
奥の暗がりから、自信なさげに震える声が聞こえてきた。
丸メガネをかけた店員さんが、オドオドとした様子で立っている。
「あ、えっと――」
たまたま立ち寄っただけ、と言おうとした。
が、新たに店に入って来た女学生たちの大きな笑い声でかき消された。
女学生たちは手頃な石のコーナーを見て、どれにしようかと盛り上がっている。
その手には『ひみしん』が携えられていた。
そういえば、ちーちゃんが言っていたな。
ひみしんの影響で、相手の瞳とおなじ色の石でペンダントを作るのが流行ってるって。
女学生たちが盛り上がっているのは、これか。
「ぺ、ぺ、ペンダント用の石でしたら、こ、こちらがお勧めです」
丸メガネの店員さんは、モチコが女学生の方を見ていたので同じ目的だと思ったようだ。
どもりながらも懸命に説明をし始めた。
予算別にお勧めの石とか、ペンダントに適した石の大きさとか、石の形が輝きに及ぼす影響とか。
なぜか店員さんは終始テンパっていて、丸メガネの奥の瞳はぐるぐる回っているような状態だったけれど、親身にサポートしようとする気持ちが伝わってくる。
最初は買うつもりの無かったモチコも、せっかくだからひとつ買っていこうかな、という気持ちになっていた。
「じゃあ……、赤い石はどのあたりにありますか?」
モチコはそう尋ねた。
感謝の気持ちを示すのであれば、やっぱり先輩だろう。
店員さんが案内してくれたテーブルには、いろんな種類の赤い石が並んでいた。
「赤だけでも、こんなにいっぱいあるんですね」
「は、は、はい……。ひとくちに赤色といっても、ひ、百種類以上はありますから」
赤色だけで多くのバリエーションがあり、見る角度や、光の加減でさらに色が変化するそうだ。
細かいことまで考えるよりも、見たときの直感で選ぶのが良いとアドバイスをくれた。
ミライアの瞳を思い出しながら、並べられた赤い石たちを眺めていく。
どれも赤色なので、だんだん違いが分からなくなりかけたとき、ぴたりとひとつの石に目が留まった。
「この石……」
尽きない情熱と強い意志を感じさせるような赤。
ミライアの瞳の色だった。
「……い、い、いい色ですね。り、凛々しさを湛えた赤です」
「はい。これにします」
モチコはその石を購入することにした。
わりと高価な石だったそうだが、サイズが小さいものを選んだので、それほど高くつかずに済んだ。
「さ、さ、サービスで、ペンダントをつくる材料も差し上げますね」
そう言って店員さんが差し出したのは、ネックレスのチェーンと、いくつかの小さい金具だった。
「う、う、うちの店で加工もできますけど、こ、このペンダントはご自身でつくることに意味がありますので」
「こんなにサービスしてもらって、いいんですか?」
「ふ、ふ、ふふ。また来てください。ふ、普段使いのアクセサリーにぴったりの石もたくさんありますから」
モチコは丸メガネの店員さんにお礼を言い、赤い石とペンダントの材料をトートバックに入れて店を出た。
店員さんは最後までテンパって目もぐるぐるしていたけど、不思議と心に響く接客だった。
また来たいな。
(後編へ続く)
ちょうど学校の帰りだろうか。
モチコは学生だった頃を思い出す。
あのときは、一緒におでかけする友達なんていなかったな。
ランランは友達だけど、やつは全然ショッピングなんていかないし。
今日こうして、ともに過ごせる仲間がいることが、なんてありがたいことか。
これも元をたどれば、先輩が相方に選んでくれたおかげだ。
「先輩には、感謝してもしきれないな……」
モチコはつぶやく。
と、どこからか呼びかける声が聞こえた。
どうやら、街を歩いていた女学生たちから声をかけられたらしい。
女学生たちは、マルシャとチャンチャルに話があるようだった。
この街にある魔法学校の生徒たちにとって、シグナスは憧れの就職先のひとつだ。
まして、アルビレオとなれば花形。
現役のアルビレオとして活躍するマルシャやチャンチャルの顔は、学生たちにも知られていた。
女学生たちは憧れのアルビレオを見つけて、思わず声をかけたようだ。
お仕事は大変ですか、とか。
応援してます、とか。話が盛り上がっている。
新入りのモチコはまだ認知されていないようで、会話に参加できず端の方でぼんやりとしていた。
特に悲しいわけでは無いが、手持ち無沙汰だ。
仕方なくまわりを眺めていると、別の女学生たちが近くのお店から出てきたのに気づく。
「お、何のお店だろ?」
女学生たちが、とても楽しそうにきゃあきゃあ言いながら出てきたので、ちょっと気になった。
外に看板がないうえに、中が暗くて見えないので、何のお店か分からない。
試しに入ってみよう。
足を踏み入れると、薄暗い店内に、ちらちらと輝く光のつぶつぶが見えた。
「わっ、すごい!」
それは、たくさんの鉱石たちの輝きだった。
さまざまな石がところ狭しと並べられている。
あえて店内を暗くして、魔導ランプの光を当てることで、鉱石をまるで宝石のように輝かせているのだ。
「鉱石のアクセサリーのお店だ」
ガラスケースの中には高価な魔導鉱石も売られていたが、テーブルには安価なガラス玉なんかもあった。
女学生たちでも買える値段のものもあるようだ。
「……な、な、なにかお探し、でしょうか……?」
奥の暗がりから、自信なさげに震える声が聞こえてきた。
丸メガネをかけた店員さんが、オドオドとした様子で立っている。
「あ、えっと――」
たまたま立ち寄っただけ、と言おうとした。
が、新たに店に入って来た女学生たちの大きな笑い声でかき消された。
女学生たちは手頃な石のコーナーを見て、どれにしようかと盛り上がっている。
その手には『ひみしん』が携えられていた。
そういえば、ちーちゃんが言っていたな。
ひみしんの影響で、相手の瞳とおなじ色の石でペンダントを作るのが流行ってるって。
女学生たちが盛り上がっているのは、これか。
「ぺ、ぺ、ペンダント用の石でしたら、こ、こちらがお勧めです」
丸メガネの店員さんは、モチコが女学生の方を見ていたので同じ目的だと思ったようだ。
どもりながらも懸命に説明をし始めた。
予算別にお勧めの石とか、ペンダントに適した石の大きさとか、石の形が輝きに及ぼす影響とか。
なぜか店員さんは終始テンパっていて、丸メガネの奥の瞳はぐるぐる回っているような状態だったけれど、親身にサポートしようとする気持ちが伝わってくる。
最初は買うつもりの無かったモチコも、せっかくだからひとつ買っていこうかな、という気持ちになっていた。
「じゃあ……、赤い石はどのあたりにありますか?」
モチコはそう尋ねた。
感謝の気持ちを示すのであれば、やっぱり先輩だろう。
店員さんが案内してくれたテーブルには、いろんな種類の赤い石が並んでいた。
「赤だけでも、こんなにいっぱいあるんですね」
「は、は、はい……。ひとくちに赤色といっても、ひ、百種類以上はありますから」
赤色だけで多くのバリエーションがあり、見る角度や、光の加減でさらに色が変化するそうだ。
細かいことまで考えるよりも、見たときの直感で選ぶのが良いとアドバイスをくれた。
ミライアの瞳を思い出しながら、並べられた赤い石たちを眺めていく。
どれも赤色なので、だんだん違いが分からなくなりかけたとき、ぴたりとひとつの石に目が留まった。
「この石……」
尽きない情熱と強い意志を感じさせるような赤。
ミライアの瞳の色だった。
「……い、い、いい色ですね。り、凛々しさを湛えた赤です」
「はい。これにします」
モチコはその石を購入することにした。
わりと高価な石だったそうだが、サイズが小さいものを選んだので、それほど高くつかずに済んだ。
「さ、さ、サービスで、ペンダントをつくる材料も差し上げますね」
そう言って店員さんが差し出したのは、ネックレスのチェーンと、いくつかの小さい金具だった。
「う、う、うちの店で加工もできますけど、こ、このペンダントはご自身でつくることに意味がありますので」
「こんなにサービスしてもらって、いいんですか?」
「ふ、ふ、ふふ。また来てください。ふ、普段使いのアクセサリーにぴったりの石もたくさんありますから」
モチコは丸メガネの店員さんにお礼を言い、赤い石とペンダントの材料をトートバックに入れて店を出た。
店員さんは最後までテンパって目もぐるぐるしていたけど、不思議と心に響く接客だった。
また来たいな。
(後編へ続く)
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