台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第3章

秘密の宝石は親愛の証(後編)

 鉱石のお店を出ると、もう夕方だった。
 モチコはそこで、予想外の事態に気づく。

「あれ? マルシャとちーちゃんが、居ない……?」

 ふたりの姿が消えていた。
 モチコが店に入る前までは、ここにいたはずだ。

 どこへ行ったのだろうか。
 あたりを見まわすと、遠くの方で、誰かが叫んでいるような声が聞こえる。

 その声に耳を澄ませてみると――。

「白おかっぱぁぁぁぁぁ!」「モチコちゃーん!」

 やば! 私を探してるじゃん!

 モチコは慌てて声のする方へ向かう。
 ふたりは遠くまで探しに行ってしまったようだ。

 なかなか見つけられないでいると、また声が聞こえた。

「うぉぉぉぉい! どこ行ったのよ、白ぁぁぁ!」

 やば! マルシャが私の呼び名を連呼しすぎて「お」がどっかいっちゃってる!?
 それじゃ白い妖怪じゃん!

 小走りで声のする方へ向かうと、ようやく遠くにマルシャが見えた。

 モチコが声をかけようとすると、それより先に、別の人物がマルシャに近づく。
 知らない若い男性だった。

 誰かお探しですか?
 と、尋ねられたマルシャが「ちょっと友達を……」と返している。

 すると男性は、手伝います、と急に言い出した。
 マルシャもすこし戸惑っている。

 最初は親切な人かと思ったが、どうも様子がおかしい。
 手伝うと言いつつも特に行動はせず、マルシャに話し続けている。

 髪の色が可愛いね、とか。
 服がお洒落だね、だとか。

 これは……ナンパというやつでは?

 ついにその男性が「クラブの会員証があるから遊びに行こう」などと言い出した。
 会員証らしきものを見せながら、遅くなったら送るよ、と。

「家が超遠くにあるから無理」

 断るマルシャ。
 だが男性はしつこく食い下がる。

 クラブのなかにあるカジノにも入れるよ、とか言いつつ。
 会員証を持っているのとは反対の手で、マルシャの腕を掴んだ。

「きゃっ」

 マルシャが小さく悲鳴をあげる。
 助けなきゃ、とモチコが大声で叫ぼうとしたとき――。

 ばしゅん。

 風を切るような音がした。

 何が起きたのか、そこにいた誰にも分からず、一瞬の静寂。
 ふと気づくと、男性が手に持っていた会員証が消えていた。
 正確には、なぜか地面に落ちている。

「お兄さん! なにしてるのかな!」

 片足の膝を高く上げ、両手を格闘家のポーズみたいに構えたチャンチャルが、笑顔で立っていた。

 男性はあわてて地面に落ちた会員証を拾う。
 すると、今度はチャンチャルにも、クラブに行こう、とおなじ誘い文句を繰り返した。

 その直後、モチコは見た。

 すう、と息を吸ったチャンチャルの脚が、空中をものすごい速さで舞う。
 それが男性の手先をかすめ、持っていた会員証がはるか遠くへ弾け飛んだ。

 回し蹴りが鮮やかに決まったのだ。
 ドルフィンパンツから生えた太ももが、夕陽にすらりと映えて印象的だった。

「次は、頭に当てるね!」

 そう、チャンチャルは笑顔で言った。
 さっきと同じ、片足を上げた格闘ポーズのまま。

 それを見た男性は、ひぃっ、と悲鳴を上げながら、一目散に逃げていった。
 やっと現場にたどり着いたモチコは、息を切らせながら言う。

「マルシャ、大丈夫だった!?」
「はぁぁ、大丈夫。ちーありがと。まったく、白かっぱが勝手にほっつき歩いてるせいよぉぉぉぉ!」

 たいへんよく響く声で文句を言うマルシャに、モチコは平謝りする。
 もう「お」が無くなったことに文句を言えなくなってしまった。


 そのあと邪気払いに、喫茶店で軽くお茶をしてから帰ることにする。
 お詫びとしてマルシャにエッグコーヒーを奢ってあげたところ、大変気に入ったようで、許してもらえた。
 最終的に、ちーちゃんは絶対に怒らせてはいけない、という結論で今日はお開きになった。

 魔導トロッコの駅へつくと、ここで解散となる。
 モチコ以外の2人は徒歩で帰るそうだ。

「あれ? マルシャ、家が超遠いんじゃないの?」
「あれは嘘。実家は王都だけど、シグナスに来てからは中央街に住んでるわ」

 こうして、色々あったおでかけも終了。
 みんなと別れて自宅に帰り、夕食前にちょっとだけ『ひみしん』を読んでみようとページを開いた。

 すると、気づけばご飯を食べるのも忘れて読み切ってしまった。
 面白い。これだけ流行るのも頷ける。

 そしてちーちゃんの言う通り、ペンダントを作ってみたくなった。

 夕食を食べたあと、ペンダント制作に取りかかる。
 ちーちゃんから借りた、作りかたの本を読みながら。
 丸メガネの店員さんがくれたパーツを使って、赤い石をペンダントに仕上げていく。

「よし、できた。ばっちりグー」

 完成したペンダントは、小さい石だけれど、はっきりと輝く凛々しい赤色だった。
 先輩の瞳とおなじ色。

 モチコは満足げにペンダントを眺める。
 今夜は、それを胸につけたまま眠りにつくことにしたのだった。
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