台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第3章

タイフーン・シグナル(後編)

 いよいよフライトの時間だ。
 と、その前に、最後の準備をととのえよう。

 シズゥに雨避けのスクロールをかけてもらい、凍結スクロールを2枚受け取る。モチコとミライアで各2枚ずつ。
 これで合計4回、台風への攻撃アタックが可能だ。

「モチコ、行くよ」
「はい」

 ミライアの後に続いて螺旋階段を上り、屋上展望台フライトデッキへ。
 まだ台風の位置は遠いはずだったが、外はすでにかなりの強風だった。

 モチコは念のため靴紐を結びなおし、黒ぶちメガネをきちんと掛けなおして、ホウキの後ろにまたがる。
 すぐにホウキが上昇し、飛び始めた。

「ほあっ!?」

 ホウキの速さに驚いて、姿勢が一瞬ぐらつく。
 いや、いつも通りの先輩の飛び方なんだけど。

 この前、ピコニャーさんの穏やかで安定したホウキに乗ってたから、油断した。
 初速から全然違う。先輩マジ速い。
 もうこれ、違う乗り物なんじゃないだろうか。
 
「――こちらタワー。聞こえる?」
「オーケー」「聞こえます」

 沖に向けて少し飛んだところで、リサから通信が入った。

「台風は現在シグナル5。タワーから南南西、安全飛行限界フライトラインから10%侵入した位置。進路は真北だけれど、かなり進行が遅いわ」
「遅いか。やっかいだね」
「出来ればシグナル3まで落としたいけれど、ひとまず目標は4以下。攻撃アタックの許可は出ているわ」
「了解。モチコが一緒なら、3も狙えると思う」

 モチコが一緒なら。
 ミライアの言葉に、うれしさがこみ上げると同時に、ぎゅっと気が引き締まる。

「赤組が4発撃ち込んだあとだから、まだ台風の進路が定まっていないわ。しばらく様子を見たいの」
「オーケー。通信圏内ギリギリで待ち伏せて叩く、って作戦でいいかな?」
「いいわ。じゃあふたりとも、無理しないでね。――良きフライトを」
「良きフライトを」「良きフライトを」

 そこからホウキは台風へ向かってしばらく飛んだ。
 通信圏内ギリギリまで来たところで、ストップする。

 止まっていても、びゅうびゅうと強い風が吹きつけてきた。
 制服のセーラーカラーがバタバタとなびく。

「リサから連絡があるまでここで待機する。モチコ、風が強いけど大丈夫?」
「はい。これくらいの風、もう余裕です」
「ふふ、頼もしいね」

 実際に、それは強がりではなかった。強い風や雨にもだいぶ慣れたと思う。
 これくらい、なんて事はない。特に、先輩と一緒なら。

「今回は、待ち伏せする作戦なんですね」
「そう。大きな台風を、連続で叩きすぎると危ないんだ」
「危ない?」
「以前、シグナル7の台風にみんなで8連射したら、台風が崩れて暴れ出して、進路が予測不可能になったことがある」
「それは怖いですね……」
「進路が変わると街に予期せぬ被害が出るからね。少し時間をおいて、進路を見極めてから攻撃したほうがいい」
「なるほど」

 そのまま空中で待機する。
 今回の台風はかなり遅いようだ。しばらくして、ようやく遠くに大きな雲が見え始めた。
 雨も降って来たが、雨避けの魔法のおかげで身体が濡れることはない。

「先輩、シグナル6でこんなに大きいとなると、8とか9ってどんな感じなんですか?」
「8は数年に1度くらい来るね。スクロールが撃てる距離まで近づくだけでも難しい。基本的に街への被害は避けられない」
「シグナル9は?」
「9は、一度も見たことがない」
「私も聞いたことないです」
「9と判断されたら、魔女では対処不可能と言われているね。なるべく安全な場所に避難して耐えるしかない。龍災レベルだよ」
「あぁ、龍災……」

 すこし沈んだ声でつぶやくモチコを見て、励まそうと思ったのか、ミライアが声をかける。

「今回のシグナル6くらいなら、毎年何回かは来るから。慣れてるから心配ないよ」
「あ、はい。ありがとうございま……っと!」

 モチコが言い終わる前に、激しい突風が吹いた。
 びゅおお、という音とともに、ホウキが大きく揺れる。
 そのとき、リサから通信が入った。

「ふたりとも、お待たせ。台風はシグナル5を維持。安全飛行限界フライトラインから30%の位置で、進路は北北東にずれたわ」
「了解。じゃあ、今から出て叩くよ。いいかな?」
「問題ないわ。よろしくね」

 リサの通信が終わり、ミライアがホウキの上で姿勢を整えた。
 いよいよ、この大きな台風へ攻撃アタックする。

 モチコは、視界の先に広がる巨大な雲を見ながら、大きく深呼吸をした。
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